森ノオトを奏でる人たち(5):南部聡子さん「取材はこの地域の魅力や文化をだれかとシェアする喜びに」
この11月で『森ノオト』は創刊10周年を迎えます。森ノオトにかかわる、さまざまな人たちを通して、森ノオトの歩みを振り返るインタビュー集。 第5回は、森ノオトライターの南部聡子さんです。約40名が活動する森ノオト編集部の中でも屈指の書き手として、豊かな感性と確かな筆致で、この地域の魅力を耕してきた一人です。

森ノオウチのある青葉区鴨志田町は、豊かな田園風景が広がる寺家ふるさと村にほど近く、その自然との距離感を好んで住まう人も多い地域です。南部聡子さんもその一人。「子どもたちにふるさとをつくりたい」と鴨志田町で子育てをすることを選択しました。その暮らしが体現しているかのように、四季の移ろいを繊細に表す表現力や、嘘のない真っ直ぐな言葉で紡がれる南部さんの文章は、森ノオト読者にもとても人気があります。

 

私宇都宮が事業を担当している「Welcomeあおば子育てツアー」の初年度は、さとちゃん(左)と羽田麻美ちゃんの3人でガイドを務めた。3人とも森ノオトライターのいわゆる同期

 

宇都宮: 南部さん(以下、さとちゃん)と私は2016年の森ノオトライター養成講座を受けた同期でしたね。さとちゃんがあの年のライター講座を受けるまでのエピソードを教えてください。

 

南部: 私はここ青葉台で育って、地元なのに、若い頃はずっと目が東京に向いていて、地域のことを全く知らなかった。でも子どもを生んでからは、目線が変わって、近くで子どもと遊べる公園とかカフェとかないかなって調べると、必ず森ノオトの記事が出てきた。同じように子育てしている人たちが書いてるんだよなぁ。すごいなぁって思って、森ノオトの情報に触れるたびに勝手に励まされていたんだよね。子育ての彩りとか希望のように感じてた。大げさじゃなく、森ノオトに出会っていなかったら、自分の子育ては違ったものになっていたと思う。でもその頃は自分もライターになるとは想像もしていなかったの。

 

宇都宮: そう思っていたさとちゃんがライターをやってみようと思ったきっかけは何だったのかな?

 

南部: 息子が幼稚園の年中の頃、父母会の役員で書記を担当したの。久しぶりにパソコンを開いて作業していると、「ああ、私書くことが好きだったなぁ」って思い出して。下の子も小学校にあがったら、教員の仕事に戻ろうと思っていたから、リハビリの意味も込めて社会とつながりたいと思っていたの。ちょうどその時、森ノオトライター養成講座の募集記事を見たんだよね。これだ!と思って、なんだかドキドキしてしまって、眠れなかったよ(笑)。たしか申し込み締切の日に、「エイッ!」ってメールを送信したのを覚えているよ。

 

さとちゃん企画で寺家ふるさと村の春のおさんぽツアーをしたことも。子どもたちが小さい頃に「きのこ会」というグループをつくってママと子どもたちと一緒によく寺家の森へ出かけていたそう

 

宇都宮: 晴れてライターになったさとちゃんのデビュー作は、友人でもある革作家の「undöse(ウントエーゼ)」さん。その後も、桂台のパン屋「こんがりや」寺家ふるさと村の食事処「青山亭」ママ友でもある画家の韓美華さんなど、とにかく精力的に取材を重ねていったよね。さとちゃんの記事を通して、その存在が地域に広まったという人も多いと思う。

 

南部: 月に1本は書こう、と自分に課して、修業させてもらうような気持ちで取材に行っていたかな。自分があの人のことがもっと知りたいなって思う人や場所をつくっている人を取材させてもらったんだけど、記事になることで、「この地域にこんな人がいるんだ、こんな信念持ってやっているんだ」ってことを、誰かと分かち合うことができた気がして嬉しかったんだよね。こんなに魅力的な人たちが同じ地域にいるって、その地域の文化でもあるから、森ノオトで記事にすることで、それをシェアする楽しさとか喜びを知ることができた。最初は書いた記事が森ノオトの読者にはもちろん、取材させてもらった方にどう読まれるのか不安になっていたけど、周りの友だちからも「読んだよ」「あのお店行ったよ」ってダイレクトに反応が返ってくるのが嬉しかったり、取材させてもらった方からあたたかい言葉をもらったりすることで、書くことに対して、だんだん自由な気持ちになれた気がする。

 

『小さな村の物語イタリア』(BS日テレ)っていう番組が好きでよく観ているの。そのまちで暮らしを営む普通の人々に密着して、日常を映し出しているんだけど、どんな仕事をしている人にもその仕事に対する心意気があったり、このまちに対する愛情があふれていたりして。それぞれの命の系譜というか生きるっていうことそのものがありのままに映し出されていることに、魅力を感じるの。その番組と森ノオトが私の中でリンクしたんだよね。どんな人にもドラマがあって、話を聞かせてもらえることって、とてもありがたいなぁと。

 

青葉区と森ノオトの協働イベント「フラワーバスケット」では、花と緑をテーマにマイ屋台を出店。さとちゃんは、日本文学をモチーフに、栞づくりをする「ことの葉の森」というブースを出した。万葉集から現代文学まで、花にまつわるたくさんの文学フレーズを花ごとに分けて、それぞれ好きな花から心惹かれる言葉を選ぶという、さとちゃんらしいアイデアで会場を盛り上げた

宇都宮: それからさとちゃんは2年前に仕事復帰して、再び教壇に立つようになったよね。教師っていう仕事をしていくうえで、森ノオトでの活動が生きていることってあるかな?

南部: 仕事復帰する時に、きっともう記事は書けないだろうなって思っていたの。私は、二つのことを同時にこなすのは難しいタイプだから。でも、梅原昭子さん(森ノオト事務局長)に「夏休みの時期に取材してみない?」と声をかけてもらって、鴨志田西団地の花壇づくりをしている齋藤世二さんを取材することができた。あのタイミングはとても大きくて、やっぱり書くってすごく楽しい!って思ったの。つい最近も、鴨志田町の美容室「シェルブルー」を取材させてもらって、いつも前を通っていたお店にこんなドラマがあったんだ!と店長さんの人柄に触れられて、目から鱗が落ちた!という感じだった。自分の書けるタイミングでゆるやかに続けられていることが嬉しい。

今、中学生や高校生に国語を教えているんだけど、この子たちがいずれ出ていく社会に、どんな生き方があるのか、どんな道があるのか、それを取材を通して知ることのできる機会があること、それはありがたいことだと思う。取材でさまざまな方々から私がいただいたことを、子どもたちに還元することができたら本望です。

 

宇都宮: 今もさとちゃんは自分のペースで関わりながら、でも着実に地域を耕していっている感じがするよ。これからはどんなところを取材したい?

 

南部: 暮らしや子育て、仕事の中で人生を丁寧につくっている人たちに話を聞いてみたいと思っている。取材したい人たち、たくさんいます!

 

――この地域で育ち、子育てがきっかけで目線が変わり、そして、森ノオトでの取材活動や仕事を通して、未来につながる子どもたちの視点を広げているさとちゃん。これからも、何気ない豊かな日常をさとちゃんらしい言葉で紡いでいくことでしょう。

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この記事を書いた人
宇都宮南海子事務局長/ライター
元地域新聞記者。エコツーリズムの先進地域である沖縄本島のやんばるエリア出身で、総勢14人の大家族の中で育つ。田園風景が残る横浜市青葉区寺家町へ都会移住し、森ノオトの事務局スタッフとして主に編集部と子育て事業を担当。ワークショップデザイナー、2児の母。
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