年間延べ2000人訪問。「人の集まる農場」にみた都市農業の素敵なカタチ
東京都町田市という都市部にあり、総面積15,000平方メートル、年間延べ2000人もの人が訪れる、バンブービレッジファーム。多くの人の集まる農場では、人々が共に野菜を育て食べ、実に多様な活動やコミュニティが生まれていました。そこには、都市農業だからこそできる、素敵な農業のカタチがありました。(2021年ライター養成講座修了レポート:濱田明日美)

町田のお店で出会った、美しい紫紅色の日野菜カブ  (*1)。お店の方に、「この野菜はどこでつくられているのですか?」と聞いたところ「小山田のバンブービレッジファームというところで、若い子が自然栽培で作っているのよ」といいます。
後日、自宅でその一部をぬか漬けにしたとき、他の野菜とは一際違うシャキッとした食感を維持していました。この野菜を、どんな方がどんな風に育てているのかが気になり、農場を訪問しました。

(*1)日野菜(ひのな)カブ 滋賀県の特産で、桜漬として親しまれる、茎や根の一部が紫紅色をした美しい色のカブ。

 

延べ2000人と共に耕し学ぶ農場

農場主は竹村庄平さん。2014年9月から農場経営をはじめ、現在6年半を迎えます。現在、1名の社員を雇用し、竹村さんと二人で運営しています。気さくで優しい人柄の竹村さん。美しい里山の風景が広がる畑で、バンブービレッジファームにまつわるお話を聞きました。

町田市小山田で、東京ドームのグラウンドよりも広い、総面積15,000平方メートルに及ぶ複数の農地を耕作。年間50品目程度栽培している野菜は、固定種(*2)であり、自然栽培(*3)によって生育されている。
(*2)固定種 昔から続く在来種、伝来種。世代間で同じ形質が受け継がれ、種の自家採種が可能。一般にF1種より環境適応能力が高い。対して、現在の主流は品種改良が行われているF1種であり、世代間で同じ形質は受け継がれないため、一般的に自家採種されない。
(*3) 自然農法 農薬、化学肥料、動物性肥料を使わず、マルチという作物の株元を覆うフィルム、プラスチック資材なども極力抑えた農業の手法

里山の景観、農地や自然が、東京の中で比較的残っている町田市にあっても、農家数の減少や農業人口の高齢化、耕地面積の減少は課題となっています。竹村さんは、そんな町田市で、耕作面積を拡大し続け、現在では15,000平方メートルもの畑で作物を栽培しています。驚くことに、それが全て自然農法で栽培されています。農業にとって、雑草などの管理は手がかかることの一つですが、除草剤の使用や資材で雑草を抑える農法もあります。しかし、バンブービレッジファームではそれらをしていないのです。広い面積の畑を、手間のかかる方法で、どうやったら二人で管理することができるのでしょうか。

力強く、生き生きとした姿の人参。その場でかじると、果物のように甘く、みずみずしかった

その答えは、年間延べ2,000人はやってくるという、「人の集まる農場」だからできる、という解でした。農場を訪問する人々が、共に畑を耕しているのです。では、なぜバンブービレッジファームは、多くの人が集まる農場になったのでしょうか。

竹村さんは、「食育、農育をしたいと思ってやってきた。農業をすることや自然栽培はその手段でしかない。自分の考える食育/農育とは、生産者と消費者の溝をなくすこと、そして農家がちゃんと職業として認められる世の中をつくりたいんだよね。そのためには多くの人に農場に来てもらい、農業という仕事を知ってもらいたい」と言います。つまり、竹村さんは、多くの人のやってくる農場を目指して、バンブービレッジファームをつくり上げてきたのです。

農場に行くことは、食べ物をつくることや、農家の仕事とはどういうものなのかを知り、その価値を改めて感じる機会となる。そして、農場を訪れた人が、例えば、農業やフードロス(食料廃棄)、環境の問題など、さまざまな点について考えを巡らせるきっかけになる。そして、自分の考えた良い行動を選択できる生活者が増えれば、それが社会をより良く変えていくうねりになるのかもしれないと、わたしは思いました。

なぜ人は農場に集まるのか

竹村さんは、農場に来たいという人をまずは受け入れます。受け入れは、畑の案内から作業手順を教える、考え方を伝えるまで、手間がかかります。日々の農業の膨大な業務がある中で、丁寧に対応するため、時間も取られます。しかし、竹村さんはこれをずっと続けています。

1回の見学で終わる人もいる一方で、常連さんになる人も。常連さんは、定期的に農場を訪れ、無償で、農作業を喜んで手伝います。その常連のファンが、広い農場を共に耕し、そうして出来た野菜の購買もしています。
そういった、繰り返し農場にくる人々は、なぜ、わざわざ「無償」で農作業をしにやってくるのでしょうか。

取材当時も常連の2名のボランティアの方が、横浜市と八王子市から来ていました。農業の勉強はもちろん、農場でいろいろな方とお話をすることや、自然の中で体を動かすことが気持ちよくて、毎週のように農場に来るといいます

竹村さんは、農場にくる人々個人の「やりたい」を尊重し、農場という舞台で、惜しみなくその機会を提供します。
農業にまつわる仕事を考えている学生が、農作業を体験し、実際に野菜を販売してみる。食育もできる食堂作りを始めたいと考えている女性が、自然栽培について学び、野菜を調達する。健康を保ちたいと考えている高齢の方が、自然の中で畑作業をし、気持ちのよい汗をかく。子どもたちは広い大地の上で、裸足で思いきり走り、虫を捕まえ、野菜が実際どのように育っているのかを知る。

3月の農場では、白菜、小松菜、青梗菜(チンゲンサイ)、ルッコラなど様々な菜の花が咲き、春を感じます。ルッコラの菜の花はピリリとした辛みと独特の香りがクセに。写真は何とも美しいルッコラの花

つまり、人々は農場に行くことで、お金ではない、別の大きな価値を得ているのです。この農場で行われていることは、純粋な価値の交換。この気持ちよさを知った人々は、農場に繰り返し訪れ、皆で一緒に野菜を作り、協力しあいながら、それ以上の多様な活動を展開していきます。
このような農場を通じた価値の交換、関係性の構築を、竹村さんは大切に、丁寧に6年半続けてきました。それが、現在の「年間延べ2000人が集まる農場」につながっています。

地域の豊かな暮らしを支える農場の今後

竹村さんは、今後の展望をこう話します。
「今後は、さらに人が来ることができる仕組みをつくったり、農場のサブスクリプション(定額購入)とかいろいろと新しいことにチャレンジしていきたい。今のやり方では、やることが多すぎて限界に近づいていて、2年後に、実は農場を閉じる可能性についても考えていたりする。仕組みを変えないとな」。その話を聞いたボランティアの方が、「閉じては困る。私たちもいるから大丈夫よ」と。その会話を聞き、バンブービレッジファームは、まさに、生産者と消費者のつながっている農場になっているのだと、感じました。今後も支えあいながら、農場は続いていくのだと思います。

 

一緒にランチも(1食1,000円)。隣接する福祉施設プラナスで作られた、農場野菜を使用したヘルシーランチ。この日のメニューは新入社員の会田光司さんが考案されたヴィーガン韓国料理。おいしい食事で会話も更に弾みます

地域で食べるものを、地域の人々でつくり、地域の環境や人々の健康、楽しい暮らしを支えていく。そんな農場が、都市の中にあることで、私たちの暮らしはより豊かで心地よいものになっていくのではないでしょうか。
都市の中にある、年間延べ2000人が集まる農場では、今日も素敵な何かが生まれています。

子どもも一緒に人参の収穫。慣れない作業に最初は戸惑っていたものの、だんだん上手になりました。「裸足になっていいよ」と言われ、嬉しそうに、畑をのびのび走り回っていました

バンブービレッジファームでは、畑deコンサート、ヴィーガン食、包丁研ぎなどの各種勉強会といった、様々な活動を今後も展開していきます。Facebookでも告知されますので、皆さんぜひチェックして、農場を訪れてみてくださいね。

Information

バンブーブレッジファーム

住所:〒194-0202 東京都町田市下小山田町付近

ブログ:https://ameblo.jp/keke0323

Facebook: https://www.facebook.com/bamboovillagefarm

E-mail: keke0323@hotmail.com

農場に訪問の際は、事前にFacebookメッセンジャーやメールアドレス宛にメッセージをお送りください。詳細の場所が案内されます。

福祉施設プラナス

https://www.prunus-machida.com/

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この記事を書いた人
濱田明日美ライター
子育てを通じ地域との関わりが増え、地域のヒト、モノ、コトとつながり豊かに暮らす心地よさを実感。ライターとして「食べることは生きること」をモットーに、それを構成する地域の環境、文化、人について中心に書き記しながら、よりよく豊かに生きることについて探究したいと考えている。
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