年間60以上の講演やイベントをこなし、多数のテレビ・ラジオ出演、新聞や雑誌でも引っ張りだこの「パパ料理研究家」・滝村雅晴さん。元はマスコミ志望の滝村さんは、PR会社で新卒時代を過ごし、その後IT業界のデザイナーやクリエイターを輩出するデジタルハリウッド株式会社へ転職。会社の上昇を支えたバリバリのビジネスマンが、1冊のレシピ本との出会いがきっかけで料理に目覚め、生活が一変しました。週末に豪華な食材とお酒を買い揃えては腕をふるってホームパーティーを楽しみ、家族も、仲間も喜ぶ。一流の調理器具や珍しい調味料が増えていく。「つくるのは僕、片付けるのは妻」……ここまでは、よくある「男の料理」の話。
「パパ料理と男の料理の違いは、“自分軸”か“他人軸”かの違いです。自分が好きなように腕をふるい、つくりたい料理をつくって自己満足に浸るのか、家族の健康やコンディションを見て相手の必要としている料理をつくるのか。パパ料理は、誰かがお腹をすいているのに気づいた時に、家族のためにつくる料理なんです」
と、滝村さんはパパ料理を説明します。滝村さん自身も、元はといえば“男の料理”をつくって楽しんでいた一人でした。手料理の上手なパパがいて、家族も幸せで満足しているはず……そう思っていたのが、ホームパーティーの後片付けをしている奥さんの疲れた表情に、自分の料理が「趣味の料理」であったことに気付いたと言います。以降、「家族のための料理をつくろう」と決意し、ブログのタイトルを「ビストロパパ 〜パパ料理のススメ〜」と題し、2006年3月からは毎日欠かさずブログを更新して9年以上。「パパ料理を通した、幸せな家庭の普及」を目指し活動しています。
デジタルハリウッドの執行役員として会社を支えた滝村さんが独立を決意したのは、2009年のこと。「パパ料理、親子料理支援事業を通じて、家庭の幸せを創造する」ことを社是とし、株式会社ビストロパパを設立しました。「イクメン」「ワークライフバランス」という言葉の流行とともに、パパ料理も浸透し、今では家族のために腕をふるうパパの姿も、決して珍しくはなくなりました。
「お父さんのワーククライフバランスのための一つの方法が、パパ料理と言えます。今年で会社を設立して7年目ですが、確実に時代の変化を感じています」と滝村さん。今のパパたちは、子どもが生まれる前にすでに「パパ料理」に出会っていて、自己満足的な趣味料理から抜け出し家族のために腕をふるう人が増えていると言います。そんな志を共有するパパたちを集めて情報発信をしていこうと滝村さんが2014年に立ち上げたのが「日本パパ料理協会」です。
パパが料理をする、しない以前に、食卓が乱れている現代を「卓末の時代(たくまつのじだい)」とし、家族が共に食卓を囲む「共食維新」を起こすための八つの方針「男厨八策(だんちゅうはっさく)」を掲げた滝村さん。幕末好きならピンとくるでしょう、「脱飯(だっぱん)」「新洗組(しんせんぐみ)」など、ユーモアにあふれたキーワードからは、食とワークライフバランスに関わる社会課題を明るく楽しく解決していこうという姿勢にあふれています。
「最近では、家庭を大切にしながら利益を出す“イクボス”がいる企業も増えてきています。そうした企業では、優秀な女性が産休・育休から復帰して活躍する土壌もあります。そして、料理力は仕事力そのものとも言えるのです」
滝村さんのパパ料理教室では、徹底的にレシピ通りにつくることから始めています。材料をそろえ、計量スプーンやはかりできっちりと分量を確かめ、調理プロセス、火加減などもマニュアル通り。「プラモデルと一緒ですよ。レシピ通りにやれば、写真に出てくるその料理がそのままできてきます。誰かのレシピをその通りつくると、食べた瞬間に、自分でつくったのに誰かの味。感動しますよ。料理の場合は1〜2時間で完成するプロジェクトで、小さな成功モデルを積み上げることで達成感を味わえます。仕事も同じ。限られた予算とスケジュールでクライアントに対して最適なソリューションを提供して、顧客満足度を高めていく。料理を仕事に例えるとわかりやすいですよね」
徹底的にマニュアル通りに「型」を習得したら、料理以外の様々な家事・育児での判断能力が高まり、条件反射的に、自然と家族のために動くことができるようになる、と滝村さん。「妻子の具合が悪い時にパパが豪華な手料理をふるまうよりも、たとえ市販品であっても胃腸にやさしいおかゆの方がありがたいこともある。料理は常に全力投球である必要はなく、TPOに合わせられるスキルを身につけることが大切」と言います。
食べることは生きることそのもの。そんなメッセージを携え、今では、地元・麻生区の小学校のPTA会長も務めている滝村さんは、小学校での講演で「今は職業をつくる、創職の時代です。みんなが社会人になる時には、今の世の中にある職業は半分もないかもしれないよ。おじさんは38歳でパパ料理研究家という職業をつくった。世の中のお父さんが家族のために料理をつくる世の中づくりをしたいから。何か自分に合った仕事がないかなあと思ったら、目の前のことを楽しんで好きなことを追求していけば、それが仕事になっていく時代だよと、子どもたちに伝えています。実は大人でも同じです」
滝村さん自身もメンバーとして活動しているNPO法人ファザーリング・ジャパンでは、PTAや地域活動に参加していく人が多いそうです。「家庭、仕事、地域社会の、ワーク・ライフ・ソーシャルバランスが大切なんだと気づいた」と滝村さん。「街並がきれいなのは、地域の人が清掃しているから。子どもが生まれてから、世の中が地域社会で成り立っていることに気づき、それをやっている可視化されたロールモデルの一つがPTAだったんです」と語ります。
実は森ノオトの新人リポーター・平本奈央子さんも滝村さんのイキイキとした姿を見ていて、PTA活動に参加した一人。滝村さんの新鮮でわかりやすいメッセージは、パパたちのみならず、地域のママや子どもたちにもしっかり届いています。
今では「パパ料理」の枠を超えて、新しい働き方の広報プロデュースを手がけている滝村さん。「1つの会社で1つの仕事しかやらないという働き方から、複数の名刺をもって週2日はこのビジネス、3日は別のビジネスという風に、自分で考え自分で仕事を創る、そんな時代に変わっていきます」。自宅でのリモート勤務を推奨している会社、早朝出勤OK、専業禁止、国境を越えたクラウドソーシングなど、ユニークな働き方が増えている時代。滝村さんのこれまでのビジネス経験と、パパ料理の強みを生かした新機軸の準備も進んでいます。
最後に、滝村さんに家庭円満の秘訣をうかがいました。
「毎朝、子どもやパートナーを送り出す時には、元気いっぱい、笑顔で送り出すこと。たとえ疲れていても、悲しいことがあっても、笑顔になれば、お互いを思いやることにつながります」
滝村さんが提唱している「パパ料理」のフェーズが移り変わるに連れ、働き方、家族のあり方、地域のあり方にも確実に変化が起こっていくーー。時代を変えるトレンドの源・滝村さんの発信に、今後も目が離せません。
滝村雅晴(たきむら・まさはる)
パパ料理研究家。(株)デジタルハリウッドの執行役員を経て2009年に独立し(株)ビストロパパを設立。大正大学客員教授、内閣府食育推進会議専門委員など数々の要職を歴任。日本パパ料理協会会長飯士、広報PRコンサルタントなど多数の顔を持つ。著書に『パパ料理のススメ 父親よ大志を抱け』(赤ちゃんとママ社)、『ママと子どもに作ってあげたい パパごはん』(マガジンハウス)など。
株式会社ビストロパパ
滝村雅晴オフィシャルブログ
http://blog.livedoor.jp/tuckeym/
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