歌や踊りが好きな2才の娘。小さな子どもと一緒に行けるコンサートを探していたとき、たまたま見つけたのがオーケストラpiccoloでした。
私自身、仕事と子育ての傍らアルトサックスを習い始めたところで、これも何かのご縁。piccoloのホームページを見ると、託児スペースあり、練習は来られる日でOKという、子育て中のパパママにとって、ありがたい配慮がなされています。
「弾けるところだけ弾けばいいって言ってるんです」。そう話すのは、piccoloの発起人でバイオリニストの渡邉佳奈子さん。3人のお子さんを育てながら、緑区と青葉区でバイオリン教室を運営する、バイタリティ溢れる方です。
練習は月に2回、緑区内で行われており、取材日は十日市場にあるスタジオにお邪魔しました。練習のほかに、中山にあるコミュニティカフェ、Tama cafeのイベントで演奏したり、緑公会堂で定期演奏会を行うなど、緑区を拠点に活動しています。
団員は小学生から大人まで30名ほど。バイオリン、チェロといった弦楽器をはじめ、フルート、クラリネット、トランペットなど管楽器メンバーも揃っています。渡邉さんの音楽教室の生徒とその親御さんなど、家族で参加している方もいます。
「上手いも下手もない。競争もない。今のあなたのままでOK!というスタンスでやっています」。渡邉さんの言葉の通り、アットホームな雰囲気のなか、みなさんのびのびと演奏しています。
piccoloには、初心者や子どもが参加しやすいよう、様々な工夫がされています。
一つは、練習メニューに「基礎合奏」を取り入れていること。音を長く伸ばす練習のロングトーンにはじまり、他の楽器とのリズム合わせ、ハーモニーをとるトレーニングなど、バンド全体の基礎力を向上させる基本的な練習を毎回全員で行います。
全国的にも珍しい取り組みで、他の団体から見学をしたいとの問い合わせがあるとか。
他にも、弦楽器、管楽器のプロ奏者がトレーナーとして指導してくれるなど、初心者も安心して参加できます。
全体を指導するのは指揮者の井口信之輔さん。コントラバス奏者として活動する一方、中学高校の吹奏楽部やアマチュア楽団の指導にもあたられています。
学生や初心者にもわかりやすい説明を心掛けているとのこと。
もう一つ特徴的なのが、小さいお子さんを見守る保育スタッフが常駐していることです。
数名のお子さんが遊べるスペースがあり、流れてくるオーケストラの音楽をBGMに、おもちゃやお絵描きで楽しく過ごすことができます。
費用は託児を利用しない団員も含め平等に負担しており、それが可能なのは「piccoloが子どもファーストということを団員のみなさんが理解としているから」と渡邉さん。
どうして「初心者と子どものため」のオーケストラを結成したのでしょう。発起人の渡邉さんの学生のときの経験が大きく影響していると言います。
渡邉さんは幼い頃にバイオリンを始め、中学卒業後、音楽の道に進むため福島から上京し、音楽専門の高校に進学しました。トップレベルの奏者になるには厳しい競争が求められる音楽の世界。そこで競い合った同年代のライバルたちの演奏技術の高さに、自信をなくしてしまったそうです。
そんなとき、偶然出会ったのが、初心者向けオーケストラ楽団でした。「学校以外の、自分の居場所を見つけたんです」と、渡邉さん。楽器が好きだから演奏したい、誰かと一緒に合奏してみたいという純粋な気持ちで集まった人たちに囲まれ、上手いも下手も関係ない。音楽は楽しんでいいんだ、という原点に立ち返ったと言います。
渡邉さん自身もバイオリン奏者として参加し、1、2年かけてドヴォルザークの「新世界」を演奏できるまでになりました。このとき、初心者のメンバーでもオーケストラを作り上げられる、と実感したことが、その後のpiccolo結成のベースになりました。
好きなことを純粋に楽しみたい。そんな気持ちは、渡邉さんの音楽教室の方針「子どもたちが持っている感性をまっすぐ、まっすぐ、そのままに伸ばすこと」に込められているように思います。
「なかなか上達しない子も、中にはいます。音楽とのかかわり方は多種多様。弾けないことを引け目に感じないよう、参加したくなる仕掛けを作りたいなと」。そう言って教えてくれたのは、渡邉さんの音楽教室でされている、“弾くこと”以外の切り口から音楽に親しむ取り組みです。例えばバイオリンで使う松ヤニ作りやニス塗り体験のワークショップなど、音楽、バイオリンを起点に、色んな角度から音楽に親しむ切り口を投げ掛けてあげる。バイオリンを弾くのは得意ではないけど、バイオリンを修理することが得意な子かもしれない。様々な可能性を秘めた子どもたちに、「今のままでいいんだよ」というメッセージを送っているように思います。
指揮者の井口さんは、音楽をする上で大切なことを、次のように教えてくれました。
「大切なのは音を出す勇気。間違ってもいい。好きで続けていたら上手になってるって最高ですよね。僕は、楽しいと上手は両立できると思うんですよ」
間違ったらいやだ、下手に思われたくない、という気持ちは、子どもの成長過程において、必要な面もあるでしょう。一方で、子どもはいつから萎縮を覚えてしまうんだろうとも思います。
外れた音程で、大好きな「きらきらぼし」を大声で歌う娘。いつかこの子も恥ずかしいと思う時期が来るのだろうけれども、歌が好きな気持ちを持ったまま、大きくなってほしい。親としてそう思います。
最後に、活動をしていて渡邉さん自身がうれしかったことをお聞きしました。
「教室の生徒が、オーケストラpiccoloをやってみたいと言ってくれると、合奏することの面白さが伝わっているんだな、とうれしくなります」
一生懸命やっていることは周りに良い影響を与える。
渡邉さんの音楽教室のSNSにこんな一説がありました。
身近な大人が何かに一生懸命になっている姿、
好きなことに打ち込む姿は、
子供たちにとって何よりの刺激になる。(中略)
ママやパパのかっこいい姿を見て、
大人になるのもいいなって思ってくれたらうれしいな。
実はpiccoloには、大人向けの姉妹楽団「室内楽アンサンブルCOMODO」があります。
COMODO(コモド:音楽用語で心地よく)の言葉の通り、「心地よく程よいペースで大人が本気で楽しむ」をコンセプトに2019年、piccoloより先に結成されました。
そのねらいについて渡邉さんは、「『あんなふうに弾けるようになりたい』と思わせる、子どもたちを導く存在になればと思って」と教えてくれました。
身近な大人の打ち込む姿、楽しそうな姿が、何よりの刺激になる。子どもたちが自発的に「もっと上手になりたい」と思う仕掛けです。
渡邉さんの話を聞いて、子育てがあるから、と諦めていた自分を振り返りました。
自分の時間を持つのが、なんとなく後ろめたい。でも本当は、自分の好きなことや一生懸命している仕事のことを子どもに伝えることが、何よりの子育てなのかもしれません。
一番身近にいる大人が、自分の気持ちに素直でいること。子育てをしていても、好きなことに打ち込んでいいんだ、と言ってくれているようで、心が軽くなりました。
piccoloがこれからチャレンジしたいことは、緑区に住む地域の人たちに、「緑区のオーケストラといえばpiccolo」と思ってもらえるような存在になることです。
「コンサートのお客さんはご高齢の方も多く、お孫さんの成長を見守るような気持ちで足を運んでほしい」と渡邉さん。
音楽を通じて、地域に住む様々な人たちとつながり、「楽しい」の輪がまた広がっていく。
取材日に団員のみなさんが練習していたのは、6月2日の横浜港の開港記念日にイベントで演奏する横浜市歌。横浜市民なら馴染みのある曲ですね。
音楽が好きで純粋に楽しみたい人々が集まるpiccolo。そこには、自分と相手の「好き」を大切にする大人と、その姿を見て、成長していく子どもたちがいました。その先に、多くの子どもが大人になることに希望を持てる社会の姿が見えた気がします。
横浜市緑区 初心者と子どものためのオーケストラpiccolo
【公式ホームページ】
https://infopiccolo.localinfo.jp/
【ブログ更新中!!】
https://ameblo.jp/infopiccolo/
【公式インスタグラム】
https://www.instagram.com/orchestra.piccolo
【お問い合わせ】
生活マガジン
「森ノオト」
月額500円の寄付で、
あなたのローカルライフが豊かになる
森のなかま募集中!