共に歩み共に暮らすGrASPの場〜“認知症になっても自分らしく生きる”チャレンジ〜
「若年性認知症」という病気をご存知ですか。65歳未満で発症した認知症のことで、現役世代での発症であることから経済的・精神的に本人や家族への負担が極めて大きいと言われます。株式会社GrASPが運営する若年性認知症専門の介護サービス事業所「トポス和果」(横浜市青葉区鉄町)がキッチンカーでカフェを開くと伺い、取材してきました。(2022年ライター養成講座修了レポート:横尾佳子)

私は、認知症や心の病で生き辛さを抱えた方と関わる仕事をしています。

医療や介護の専門家ではありません。代理の手続きや金銭管理などを行いますが、ご本人が「望むように生きていく」ことを一緒に考えていきたいと、いつも思っています。その人の人生を丸抱えすることは、ちっぽけな私だけではとてもできないけれど、せめて今、共にいる時間が少しでも豊かなものであってほしいと。

世の中には、そんな私と同じように思う人が少なからずいて、しかも私の何百倍もの行動力で実現させています。その事実をもっともっと知っていただきたくて、このたび私は、ライター修行の旅を始めることにしました。

 

この記事は、その記念すべき1本目であります。お付き合いいただければ幸いです。

カフェでいただいた竹の皮で包んだおこわ。たこ糸で括る…。この作業実は大変苦労されているそうです

2022年5月のある日。取材当日は、朝から暴風を伴う大雨でした。事前にホームページで「雨天中止」と予告があり落胆していたのですが、なんと!午後からは開催できることになったとのこと。喜び勇んで現地に到着したら、丁度テーブルと椅子を出し終わり「さぁopen!」というタイミングでした。ふふふ、幸先いいぞ。持ってるな私。

 

あらためて紹介しましょう。

GrASP株式会社が運営する「トポス和果」は、横浜市で唯一の「若年性認知症」に特化した介護サービス事業所です。青葉区鉄町の、環状4号線沿いにあります。

 

みなさんは「介護」と聞くと、日常の動作を助けたり身の回りのお世話をすることを、まず思い浮かべるのではないでしょうか。介護保険法で言うところの「介護の定義」には、「自立した社会生活が送れるよう支援する」いわゆる「自立支援」が、大きな柱としてあります。

一人ひとりの個性を大切に、その時必要なサポートを見極めて、自立に向けた援助を、そして自立が難しい状態になった時も、できる限りその状態を維持できるようにすること…それが介護。ただ身の回りのお世話をすることだけではないんですね。

カフェ当日、わらわらと人が集まって来ます

さて、この日開催の「グラスプカフェ」は、同じく青葉区でキッチンカーを展開されている「萬駄屋(よろずだや)」さんとのコラボ。「萬駄屋」さんと一緒に作ったおこわや味噌汁、コーヒーなどを、若年性認知症の当事者さん自らが販売する、青空カフェです。事業所の前でのカフェは今回が初!とのことで、みなさん張り切って準備をされていたそうなんですが、その思いが通じたのか、午後にはすっかり雨も止みました。さぁ注文するぞ〜!

ここはおこわに合わせて味噌汁セット(500円)を頼むべきなのでしょう。しかし私はコーヒー党。和食でもコーヒー、中華でもコーヒー、なのでおこわでも当然コーヒー。しめて650円也。おこわは素朴で筍の風味と歯ざわりが生きる、ホッとするお味でした。こりゃ何個でもイケますな

「お待たせしました〜!」

もぐもぐしながら、初対面の他のお客さんと話していると、職員の小川三佳子さんが忙しい合間を縫って、にこにことテーブルに対応に来てくれました。

小川さん、飾らない笑顔が可愛いらしい方です

横尾(以下 よ):GrASPさんがこの事業をはじめたきっかけと、今の形になった経緯を教えて下さい。

 

小川さん(以下 お):代表の山崎が精神科病院で作業療法士をしていた時、患者さんに若年性認知症の方がいたそうです。本人やご家族の「行くところがない、働きたい」という思いを受け止めた山崎は、「ないのなら自分が作る!」と奮い立ち、GrASPを設立。若年性認知症当事者が社会で働き続けることを支えるための取り組みに力を注いできました。当初は就労継続支援B型(福祉サービス)とデイサービス(介護保険サービス)を一緒に行なっていましたが、仕事の納期や完成度、職員配置などの壁があり、昨年11月からはデイサービス「トポス和果」に一本化しています。ご本人の症状の進行はやはりあるのですが、仕事だけでなく日常生活のサポートが必要になって来た時も、そのまま切れ目なく支援し続けることができるのが特徴です」

 

よ:認知症の方以外でも利用できるのでしょうか。

 

お:基本的には認知症の診断を受けた方が対象ですが、他の疾患で認知症のような症状がある方の主治医が、ご本人の希望や意欲を汲み取って、ここを紹介する例もあります。

ここではご本人たちだけでなく、家族同士が他では言えない打ち明け話をしたり、経験を分け合います。介護する側に一番必要なのは、横のつながりなんです。ここは若年性認知症を抱える方々の生活の場であり、家族や地域を巻き込んで[共に支え合い・笑い・泣く]場でもあるんです。

 

横のつながり……。そうか、確かにそれって、病院や個別の介護サービスではなかなか難しいです。

 

よ:日々の業務の中で、うれしいと思うのはどんな時ですか?

 

お:新しい仕事を覚えて「できた!」と喜んでいる顔を見た時ですね。みなさん仕事人の顔に変わる瞬間があるんですよ。長い人生、ずっと社会で働いてきた自分が「まだまだ(いける)!!」と気づいた時の顔は最高です。認知症は感情のコントロールが難しくなりがちなことも多い病気なので、時にはぶつかりあうこともありますが、本音をさらけ出してくれるということは、それだけ安心して弱みを見せられる証拠。ご自身でもそれは自覚されているので、「さっきはごめんね」「いいよ〜大丈夫!」とお互い前向きになれます。誰かが悩みを打ち明けると、みな「あるある!」と励ましますし、誰かが試していることを見て「僕もやってみよう」となることも。一方的に何かをしてあげるだけではなく、自然にお互いが支え合っているんです。毎日一緒に泣いて、笑ってますね。私。

お客さんに囲まれつつメニューを見せて オーダー受付中

聞いていて何だか心がほかほかしてきました。

 

よ:地域との関係作りを積極的に行われています。地域との関わりの未来像を、どのように描いておられますか?

 

お:ここは生活の場です。認知症の有る無しに関わらず、人が人と関わることでそこにつながりが生まれます。認知症というものがよくわからず不安だったり実感の持てない方々と実際に触れ合うことで「あぁそうか、こんなことを思ってるんだ」「自分だったらどうするんだろう、何ができるだろう」と自然に感じていただけるような、我々だからこそできる発信があると思うんです。私たちは「人と歩き続けるのは、楽しいよ、元気をもらえるよ、こんなチャレンジができるんだよ」ということを、あったかさと共に伝えていきたいです

 

 

このグラスプカフェの取り組みを通して私が感じたのは、認知症になったら今までの社会生活を諦めなくてはいけないという思い込みを、GrASPのみなさんがこうして地域との優しい交わりによって伝えていくことにより、自然と溶かしていってくれるのではないか、という予感です。

 

認知症をポジティブに生きる術、それは 、自分一人で壁を乗り越えるのではなく「仲間と共にチャレンジする」ことで生み出されていました。「したいこと」を「できること」にしよう!

 

長い人生には、幾度か“転換期”があります。もしも自分が、家族が、認知症という病を抱えた時、それを前向きに変えていく方法を、GrASPのみなさんは、これからも仲間と共にストックしていくのでしょう。

「撮りまーす!」と言ったらスッと手を繋ぎ顔を近づけてくれました。ここに通う方同士の心の近さの表れ

翌日、ある友人から3年ぶりにメッセージを受け取りました。

「横尾さん!昨日道路脇のお店の前でコーヒー飲んでました?車で走ってたので声をかけられませんでしたが、元気そうでうれしかったでーす!!(すごい動体視力だ)」

ああ〜こちらこそ!誰かに見つけてもらえるって、うれしいものですね。

こうやってゆるやかに存在を確かめ合って声かけあって、共に暮らしていけたら最高です。

Information

GrASP株式会社 認知症対応型通介護「トポス和果」

住所:〒225-0024 横浜市青葉区鉄町15-5

TEL:045-530-5760  http://r-grasp.com

Mail:  contact@r-grasp.com

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この記事を書いた人
横尾佳子ライター
横浜市都筑区在住。行政書士事務所を営みつつ2人の息子を育て、両親義両親を見送りました。人が好き、でもしんどい、やっぱり好き!を繰り返す日々。現在は「誰もが認知症の可能性がある時代、普通に話せて普通に暮らせる社会」を夢見て活動中。no露天風呂no Life
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