子どもたちだけの舞台で、どうしてこんなに感動するの?6月16日上演「あおば子どもミュージカル」
コンサートや演劇など、以前はよく見に行っていたけれど、子どもが産まれてからはほとんど行けていない。子どもも少し大きくなってきたし、そろそろ一緒に見に行ってみたいな……。
そんな方におすすめの舞台が「あおば子どもミュージカル」のミュージカルです。6月16日に、青葉公会堂で第14回公演「ロビンソン*ロビンソン」を開催します。

私はもともと、地域を拠点に活動するジャズビッグバンドに所属していて、地域での音楽・芸術活動に興味があります。そのことを知っている森ノオトライターの方が、あおば子どもミュージカルのことを教えてくれました。

 

これまでの公演の動画を見始めて、しばらくして気付きました。ステージには子どもたちしかいません。何の違和感もなく見ていたけれど、子どもだけでこれほど質の高い、自分のことで精一杯ではなく観客を楽しませる、プロかと思うような舞台をつくり上げているのは、実はものすごいことだ、と驚きました。

一体どうしたら、これほど素晴らしい舞台をつくることができるのでしょうか。練習の様子を取材しました。

 

 

年長者がリードし、生き生きと個性を発揮

取材した日は青葉公会堂の会議室で、衣裳をつけた通し稽古が行われていました。

今回の公演に出演するのは、年中から高校2年生まで、23人の劇団員と一般参加の3人です。公演当日は昼の部と夕の部で配役が変わりますが、まずは昼の部の通し稽古が始まります。練習会場である青葉公会堂の会議室に、子どもたちが集まってきました。

 

通し稽古がスタート。第一声は、14歳のリリーです。演者は情感たっぷりに歌い上げ、稽古場の空気が一気に変わります。

14歳のリリーの歌。主任講師の鈴木智美先生が鋭い視線を送ります

続いて、幼児のリリーと、主役のロボット・ロビンソンが中央へ。

「空を見るんだよ」「もっと近づいて」

正面で見ている演出の鈴木智美先生から、ときおり短く的確な指示が飛びます。

ロビンソン(左・荒井結宇さん)と幼児のリリー

そして、多くの子どもたちがステージに登場する場面へ。息を合わせて踊り、歌うステージは、すごい迫力です。

全員が力いっぱい、いきいきと動いているのが伝わってきて、それだけでも感動してしまいました。

公園で遊ぶ子どもたちとロボットの場面

生で見ていると、一人ひとりの個性が伝わってきます。立ち姿がきれいだったり、悪ガキっぽい表情が真に迫っていたり、ひときわ大きい声で歌っていたり。

 

そんな中でもやはり年長の子どもたちは、歌も演技もとりわけ素晴らしく、舞台を引っ張っているのがわかりました。

 

舞台袖のスペースでも、年長の子が小さい子を誘導したり、衣裳を整えたり、コーラスの指揮をしたりしていました。

 

物語は進み、クライマックスへ。感動のストーリーと熱い演技、素敵な歌に、思わず涙がこぼれました。

 

「まだまだ、細かいところを積み重ねることが必要です。取りこぼしのないようにしたいですね」と鈴木先生。通し稽古が終わると、役ごとに細かいところまで子どもたちにフィードバックをしていました。

 

 

質の高い舞台をつくる3つの理由

「あおば子どもミュージカル」は、児童劇団「大きな夢」に属する、全国26カ所の「子どもミュージカル」の一つです。

児童劇団「大きな夢」は、プロの養成や、営利を目的とするものではなく、ミュージカルを通して子どもたちに内在する可能性を引き出すことを目指しています。

 

入団時にオーディションはありません。希望する子どもは誰でも入団でき、劇団員全員が何らかの役でステージに立ちます。

公演前を除けば、レッスンは週1回。子どもたちの多くは青葉区や都筑区、川崎市宮前区など近くに住む子たちで、地域の学校に通いながら無理なく参加している子ばかりです。

 

週1回のレッスンで、どうやってここまでの力をつけられるのでしょう。取材の中で少しずつ見えてきたその理由を、3つの視点からご紹介します。

 

 

1 .プロの先生たちの指導

あおば子どもミュージカルでは3人のプロの先生たちが、毎週交代で指導しています。

あおば子どもミュージカル父母会会長の北原まどかさんは、お子さんの入団の決め手になったのが、歌唱指導者で劇団の演目の作曲も手がける薮内智子先生の指導を見たことだったといいます。

「とても温かいご指導で、技術だけでなく、人に歌を届けることの本質を教えてくださっていると感じました」。

 

また、取材の日に指導されていた演出・振り付けの鈴木智美先生は「舞台のすみずみにまで気を配って、一人ひとりが輝くようにしてくださる」と北原さん。

たくさんの子どもたちが登場する場面でも、それぞれに違う振り付けをしたり、立ち位置を工夫したりして、一人ひとりがよく見えるようにしています。

よく見ると、一人ひとり少しずつポーズが違います。衣裳の色なども鈴木先生が全体のバランスを見て調整しています

さらに、演技指導の上原咲季先生はあおば子どもミュージカルの1期生で、7年前の同じ演目の上演時に14歳のリリーを演じました。子どもたちにとって身近なあこがれの対象でもあります。

 

それぞれ少しずつ違う視点を持つ、3人のプロの本質を突いた指導が、子どもたちの可能性を引き出し、上達を促しているようです。

 

 

2 .日常生活の中での努力

昼の部で主役のロビンソンを演じる荒井結宇さんは「家でずっと歌っています。そして、ロビンソンの役づくりもしています。作品の場面以外でも、『こんなときロビンソンならどうするかな』と考えているんです」と話していました。

2023年公演「桃太郎!」でも主役の桃太郎を務め、堂々と演じきった荒井結宇さん(上段左)(写真=提供)

他の子どもたちも、家でも歌ったり、他のミュージカルを見に行ったり。ある保護者の方は「ハモリがうまくいかなかったときは、家で私が相手役のパートを歌って練習しました」と明かします。

保護者が見守る中、子どもたちは普段からミュージカルのことを考えるのを楽しんでいるようです。

 

 

3. お姉さん、お兄さんへのあこがれ

現在あおば子どもミュージカルには、年中から高校2年生まで、幅広い年齢の子どもたちが在籍しています。

夕の部で主役のロビンソンを演じる米澤杏実さんは「7年前に同じ演目をやったときには、幼児のリリー役をやっていました。今回は、当時からあこがれていたロビンソン役。以前は自分の役で精一杯だったけれど、今は周りを見られるようになりました」と話します。

2017年の第8回公演「ロビンソン*ロビンソン」で幼児のリリー役を演じた米澤杏実さん(右)。経験を積んだ今公演での姿も注目です(写真=提供)

小さい子たちにとっては、あこがれのロールモデルが身近にいて、それに近づきたいという思いが芽生えます。そして米澤さんが「小さい子に『あんな風になりたい』と思ってもらえるようになりたい」と話すように、経験を積み自分が年長者となると、新たなモチベーションが生まれるようです。

 

こうした中で、子どもたちは徐々に成長していきます。

北原さんのお子さんは年長のとき、自分から「やりたい」と言って入団しましたが、最初は「恥ずかしがり屋」だったといいます。「なかなか成長が目に見えず、苦しい時期もありました。でも本人が『続けたい』と言うので続けるうちに、この1年で何か気付くことがあったようで、徐々にうまくなってきました。長い目で見て成長を感じられるのは、参加してよかったことです」。

 

成長が見えるのはミュージカルの場面に限りません。ロビンソン役の荒井結宇さんは「人前でのスピーチもできるようになりますよ」と話します。

またある保護者の方は、異年齢での活動によって「年上も年下も、いろいろな年齢の子と仲良く、分け隔てなく接することができるようになりました。小さい子に優しいところもありますね」と話します。

 

 

父母自らが運営

全国の「子どもミュージカル」では、児童劇団「大きな夢」のオリジナル演目を上演します。作品の提供、講師の派遣、公演当日の舞台や音響、照明や大道具、主要な衣裳や道具の貸し出しなど、ステージ自体をつくり上げることは児童劇団「大きな夢」が担います。

一方で、あおば子どもミュージカルの運営、つまり公演の主催や、普段の練習場所の手配やサポートなどはすべて、劇団員の子どもたちの保護者からなる「あおば子どもミュージカル父母会」が行っています。

 

父母会では会計、チケット販売、衣裳、広報など、全員が何らかの役を担います。

取材当日も、父母会の皆さんが会場に飾る大きなポスターやパネルを作ったり、会計について打ち合わせたりしていました。

稽古場の外で作業中の父母会のメンバー。奥では大きなポスターを作成中

「忙しくはあるけれど、ステージを見ると、大変さを忘れるほどの感動や達成感があります。子どもと親が力を合わせて一つの舞台をつくり上げることができるのは、誇らしくもありますね」と北原さん。

他の保護者の方も「いろいろな本業を持つ保護者が集まっているので、私は自分の得意なパソコン関係のことを中心に引き受けています。公演の準備で集まるうちに、父母会のメンバーとも仲が深まりました。こんな経験はなかなかできません」と話します。

父母会の仕事の大変さはあっても、この活動ならではの楽しさもあるようです。保護者の皆さん、そして父母会の活動が子どもたちを支えているのは言うまでもありません。

 

 

青葉区で、親子で感動の時間を

主役のロビンソン役の二人に、公演の見どころやポイントを聞きました。

 

「ロビンソンはロボットですが、成長して人間っぽくなっていくのが演じていて難しいところです。人間とかロボットとか関係なく、大切な人を大切にしていこうというメッセージを伝えられればと思います」(荒井さん)

 

「『当たり前の毎日を大切に』というこの作品のテーマは、今の世の中にも通じることだと思います。年中から高2までが一丸となって頑張っているので、みんなが仲良しなところもぜひ見ていただきたいです」(米澤さん)

米澤杏実さん(左)と荒井結宇さん(右)

北原さんは「お子さんが約1時間半の公演の間、座って見ていられる年齢になってきた親子のファーストミュージカルとしてもおすすめです。小さいお子さんがいる場合は、ご相談いただければ親子室へのご案内もできます」と話します。

 

プロの指導や異年齢集団での活動などによって、質の高いステージをつくり上げている「あおば子どもミュージカル」。

遠くまで出かけていかなくても、青葉区で活動するミュージカルを、青葉区で気軽に楽しめます。いつもはお子さんの好きなことに「付き合って」いるママやパパに、生の芸術にふれながら、お子さんと同じものを見て感動する時間を味わっていただきたい、と感じました。

 

もしミュージカルを見たお子さんが「自分もやりたい」と口にしたら、後日開かれる無料体験ワークショップに参加することもできます。公演を見たり、参加してみたりして、親子で新たな世界の扉を開いてみませんか。

 

 

Information

あおば子どもミュージカル第14回公演「ミュージカル ロビンソン*ロビンソン」

2024年6月16日(日) 昼組 13:00開演/夕組 17:00開演

※開場は開演の30分前 ※上演時間 約1時間30分(休憩時間含む)

横浜市青葉公会堂(横浜市青葉区市ケ尾町31-4 東急田園都市線・市が尾駅徒歩10分)

劇場チケット(全席指定) 2,300円

配信チケット 2,500円

チケットお申し込み:

あおば子どもミュージカルホームページ https://aoba-km.net/

電話050-5372-8409(父母会)

無料体験ワークショップ 2024年6月25日(火)、7月2日(火)18:00〜20:00

対象:小学生〜高校2年生(年長児は応相談)

お申し込み:あおば子どもミュージカルホームページ https://aoba-km.net/

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この記事を書いた人
青木遥ライター
川崎市中原区在住。編集、ライターの仕事をしています。息子と遊べる場所を、地域や自然のなかにいつも探し中。以前は市民ジャズビッグバンドのサックス吹き。岐阜県岐阜市出身で、岐阜の伝統漁法・長良川鵜飼の取材をしたり、岐阜愛を勝手に発信したりも。
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