“⽇本国内の家庭⽣活で、⾷事を作る時に使った油の廃棄量が年間10万
t”という数字を聞き、廃棄の仕⽅を⼯夫したところで、環境に良いはずないなぁ……と思うのは私だけではないと思います。(全国油脂事業協同組合連合会令和3年分公表資料)
揚げ物に使った後の⾷⽤油、私はろ過して数回は炒め物に使いますが、処分する時は排⽔⼝には流さず布で吸い取ったり、固めたりして捨てています。そんな中、⽬にしたのが、横浜市も参加する「国内資源循環による脱炭素社会実現に向けたプロジェクト 『Fryto Fly Project』」です。
「Fry to Fly Project」は、個⼈や⾃治体、企業が持続可能な航空燃料(SAF=Sustainable Aviation Fuel)の原料となる廃⾷油(※)を、家庭や飲⾷店などから提供してもらえる回収スポットを設け、脱炭素化に向けた資源循環促進の社会的な動きに市⺠参加の機会をつくろうという全国的なプロジェクトです。
2023年4⽉に28者でプロジェクトを発⾜してから1年を経過した2024年6⽉15⽇現在、国内で参画する企業や⾃治体、団体は95に増加。家庭から排出される廃⾷油を回収して再利⽤する仕組みづくりや機運の醸成に取り組んでおり、JALと横浜市も加わっています。
(※)廃⾷(⽤)油=てんぷらや揚げ物などの調理に⽤いられた使⽤後の油や賞味期限切れ等で不要になった⾷⽤油を指す⾔葉です。(全国油脂事業協同組合連合会より)
2024 年5⽉、イオンフードスタイル鴨居店で実証実験中の回収スポットの現場でお話を伺ったのは、横浜市脱炭素・GREEN×EXPO推進局カーボンニュートラル事業推進課⻑ 松下功さんと、⽇本航空株式会社(以降JAL)調達本部国産SAF推進タスクフォースマネージャーの安部やよいさんです。
市⺠・企業・⾏政が⼒を合わせて進むプロジェクト
松下さんのお話では、この廃⾷油回収の取り組みは、“横浜市とJALの連携による持続可能な航空燃料の製造推進” の試みとのこと。航空機の燃料は原油を精製して作られているので、使えば使うほど⼤気中の⼆酸化炭素が増え続けます。CO2削減のために、ここで注⽬されているのが前述した“SAF”(サフ)という航空燃料です。従来のジェット燃料が原油から精製されるのに対して廃⾷油などを⽤いて⽣産され、従来の燃料に⽐べ60〜80%のCO2削減の効果があると⾔われているそう。
80%も削減効果があるとはすごいと思いませんか?今まで、環境に悪いと思って廃棄の仕⽅に悩んでいた油がCO2削減に役に⽴つということを知りとてもうれしくなり、ますます興味が湧いてきました。
横浜市の資料に掲載されていた全国油脂事業協同組合連合会(令和3年度)のデータによると、事業系の廃⾷油は年間40万t。このうちの38万tは⼯業原料などに再利⽤されています。それに対して家庭から出る廃⾷油は年間10万tもあるそうですが、再利⽤のための回収プロセスが確⽴していません。普段の私達の⽣活の中から出る廃⾷油が⽇本全体で10万tもあり、それがムダに捨てられているなんて……!私⾃⾝ちょっとモヤモヤしながら⽇々処分していた使⽤済み油だけに、驚きを隠せませんでした。
松下さんによれば、「2025年以降、⽇本に廃⾷油を原料とした大規模な国産SAF製造施設が初めて稼働する⾒込みがあるため、今からの仕組みづくりが⼤切です」とのこと。市内では、今までも環境団体が鶴⾒区の区役所で廃⾷油を回収してバイオディーゼル燃料等に再⽣したり、森ノオトでも紹介した株式会社TOKYO油電⼒による回収スポットが⻑津⽥に設置されるなどの活動はあったそうですが、横浜市が脱炭素への関わりとしてSAFへの廃⾷油再利⽤に取り組むのは初めてのことだといいます。
安部さんに、なぜJALがこの取り組みに参加したのかを伺いました。
「JALは燃料を使っている当事者だからこそ、未利用となって捨ててしまう家庭系の廃食油を回収し、資源循環できる仕組みをつくりたい」とのこと。市⺠を巻き込んで資源を集めたり活⽤することは⼀企業では難しいため、横浜市による市⺠への発信と、回収場所としてのスーパーの協⼒が必要だと説明してくれました。
「そして何より⼤事なのは地域の皆さまの⼒です。地球環境のためにも、利益ということではなく“今の世の中に必要なことをやっていかなければいけない“と考えています」という安部さんのお話を聞き、航空機を⾶ばすことが仕事であるJALがCO2削減へ向けて取り組むことは、素晴らしいと思いました。
専⽤ボトルはエコの姿勢を貫く⼯夫
回収ボトルはJALが製造して提供しています。ボトルの販売価格は、採算度外視で200円に設定したそうですが、そこには、「地域貢献・社会貢献に参加した証として200円を使ってもいいと考える⼈に買ってもらいたい。⼩さなことからでも何かしていきたいという思いを持った⽅に、このプロジェクトにぜひ参加してほしい」という気持ちが込められているそうです。
回収ボトルは年度の途中から販売を開始しました。実証実験当初は、家庭からの廃⾷油を持ってきてもらうために、ペットボトル等を使ってもらっていましたが、油を⼊れたボトルは洗浄すると逆に⽔や洗剤がムダになり、捨ててしまえばそれ⾃体がゴミになってしまう。その解消のためにと知恵を働かせてこの専⽤ボトルが⽣み出されました。ボトルを貸し出すスタイルではなく、購⼊してもらうことで、⾃分の物として⼤事に使う気持ちにもなります。
徐々に広がる取り組み。プロジェクトの今とこれから
廃⾷油の回収の仕組みづくりを⽬指し始まった令和6年度の実証実験では、3⽉にビラを配って告知、3・4⽉の回収トライアル期間には50名が廃⾷油を提供し、100L以上の回収がありました。5⽉の1週間では持ってきた廃⾷油を直接回収BOX に⼊れてもらっています。
私がお話を聞いている間にも、数⼈の⽅が回収BOXに廃⾷油を流し込みに訪れました。お話を伺うと、「4⽉にこの回収を知りました。今までは固めて捨てていたので、回収できるならと持って来た」とのこと。安部さんによれば、⾼齢者の⽅が、賞味期限切れの油を持って来てくれたり回収を知ったお⼦さんがここでの廃⾷油の流し込みをやってみたくなり、お⺟さんに唐揚げを作ってもらい、⾃分で流し込みに来たこともあるそうです。
廃⾷油を流し込むお客さんたちの姿を⾒ていると、これは特別なことではなく、お店でプラスティックトレーなどの回収をしているように、廃⾷油が回収されるようになると思えます。
回収対象は以下の通りです。
・サラダ油・オリーブオイル・ごま油・ひまわり油・なたね油・⼤⾖油・コーン油・⽶
油・紅花油
⼀⽅、回収できないものはこちら。
・マーガリンやバターラード・ショートニング等の固形物・ドレッシング、パーム油・
ヤシ油・ラー油・ネギ油・エンジンオイル・灯油・飲⾷店など事業から出る油
取材したイオンフードスタイル鴨居店では、6⽉5⽇から廃⾷油回収スポットの常設が開始され、 今後イオンフードスタイル三ツ境店とイオンフードスタイル港南台店でも廃⾷油回収が始まるそうです。これからの地球にとってどんなに素晴らしいことかと思います。
今回の取り組みを取材して感じたことは、SAFを作るためにということだけではなく、いろんな垣根をこえてみんなでサイクルを作っていくのが環境問題の解決に必要なのではないかという実感です。⾏政や企業に加え、⼤事なのは私たち⼀⼈ひとりが参加する意識と⾏動。“個”ではなく多くの⽅々の協⼒が、これからの地球や環境問題の解決の⽷⼝になるのではないでしょうか?
私は⾶⾏機が好きです。⾶⾏機に乗ると毎回ワクワクします、地上からは決してみられない景⾊は胸が躍るし、旅⾏やビジネス、今や私たちの⽣活に⽋かせないものになっているのではないでしょうか。
近い将来、私たちが提供した廃⾷油で空を⾶ぶ⽇が楽しみになりました。
横浜市、JAL、ダイエーが連携し、家庭から出る廃⾷油の本格回収を開始 2024年6⽉5⽇より(横浜市記者発表)
https://www.city.yokohama.lg.jp/city-info/koho-kocho/press/green/2024/0531_SAF.html
Fry to Fly Project
https://www.jgc.com/jp/esg-hsse/initiative/fry-to-fly/
イオンフードスタイル鴨居店
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