デマにだまされないために!ニュースパーク企画展ツアー+下村健一さん講演会レポート
認定NPO法人森ノオトでは、情報と賢く付き合っていくために“メディアリテラシー”に着目して親子向けの活動を行ってきました。2024年の夏休みは、ニュースパーク(横浜市中区)にジャーナリストの下村健一さんを招き、「子どもがスマホを持つ前に 親子で語ろう!メディアリテラシー」を開催。コロナ禍の情報発信に関する企画展の解説と合わせて、講演会でデマにだまされないためのコツを学びました。

2024年7月21日(日)、横浜市中区・日本大通りにあるニュースパーク(日本新聞博物館)に親子10組、計21人が集まりました。子どもは小学5年生を中心に、低学年や中学生もチラホラ。スマホをすでに持っている子も数人いました。

 

テレビニュースのアナウンサーを経て政府広報を務めたのち、現在はメディアリテラシー・情報教育の専門家として活躍する下村さん。森ノオトでは2021年にもニュースパークにお招きし、講演会を行っていただきました。

 

今回は「子どもがスマホを持つ前に」ということで、参加者には森ノオトが作成したスマホを持つときの「親子の契約書」ひな形をお配りしました。この中に書いてある約束の一つが、

 

ネットに流れる情報には、有益なものと、嘘や悪意のあるものもあります。流れる情報をむやみに信じず、誰が何のために出しているのかを自分の頭で考え、迷った時には親に相談します。

 

というもの。下村さんの、「何がむやみなの?自分の頭で考えるってどうやればいいの?ってすごく難しいですよね。そのやり方を、今日は『デマにだまされない4つのコツ』という形で皆さんにお伝えします」との導入でスタートしました。

小学5年生の国語の教科書(光村図書)でメディアリテラシーについてのエッセイを執筆している下村さん。参加者で既に学校で教わった子はいなかったので、「一足先に詳しく教えちゃいます!」と軽快に始まりました

非常時は特にSNSの情報に注意

今回は、ニュースパークでの企画展「新型コロナと情報とわたしたちⅡ――コロナがわたしたちに残したもの」のツアーからスタート。コロナ禍でどんな報道がなされどんな情報発信・受信の課題が浮かび上がったのか、まず参加者の記憶を呼び起こすことから始めました。

 

前半はニュースパークの阿部圭介さんの解説で、デマや意見の対立、感染者への差別など、SNS時代の感染症について振り返りました。

「詳しいねえ、調べたの?」と阿部さんに聞かれ、「コロナは経験したから!」と子どもが答える場面も。身近な事例で学ぶことで、より自分ごととして捉えられたのではと思います

「トイレットペーパーが品薄」というデマが流れたときは、「その情報はデマです」と報道機関が伝えたにもかかわらず、「他の人に買い占められてしまったらどうしよう」との不安から多くの人がトイレットペーパーを買いに走りました。参加者の皆さんに聞いてみると、「自分も買いに行った」という人がチラホラ。「確かな情報が伝われば混乱は起きないと思っていたのに起きてしまい、ニュースパークの職員たちもびっくりした出来事でした」と阿部さん。これがこの企画展の第1弾を2020年に開催するきっかけになったそうです。

 

コロナ対策についても、お湯や納豆、うがい薬など「こんなものが効果があるよ」というデマや、「ワクチンを打つと体にマイクロチップを埋め込まれる」といったデマが拡散されました。非常時には、心配しすぎて普段ならだまされないような情報にも引っかかってしまうもの。このような状況でどんなことに気をつけたら良いのか、展示ではさまざまな情報の専門家の言葉も紹介されました。

「対話の大切さ」を伝える元新型コロナウイルス感染症対策分科会会長・尾身茂さんのインタビュー

情報の重みを知り、うまくバランスをとろう

ツアー後半は、下村さんの解説にバトンタッチ。コロナ報道を初期からたどると、最初はほんの小さな記事で「中国で原因不明の肺炎」と伝えただけで、まだ人々の危機感もほとんどありませんでした。「大事件も1面トップで始まるとは限らないということを覚えておいてね」と下村さん。そこからコロナ報道の紙面での扱いはどんどん大きくなっていく一方で、当初は1人亡くなっても大ニュースだったのが、死者数が大きくなるほど、「1」の重みが小さくなっていきました。

展示の後半セクションでは、コロナに関する新聞報道が時系列に並べられていました

「海外の新聞がコロナで亡くなった人の名前をズラッと並べたのは、数字じゃなくて、それぞれ名前のある人たちなんだということを忘れないため。一人ひとりに大きな出来事が起きているんだということをぜひ覚えておいてください」。下村さんの言葉に、大人も子どもも聞き入っていました。

 

ほかにも、同じ東京五輪の報道でも新聞社によってトーンがまったく違ったこと、皆でだれかを悪者にして責めはじめる「正義の味方スイッチ」が入ったら危ないよということ、過度に不安がったり情報を無視したりせず、その中間でいましょうということなどを学びました。

ツアーの最後は、折りたたみ傘を手のひらに載せてバランスをとることを、情報への対応になぞらえて説明。「前と言ってることが違うじゃないか」などと言わずに、柔軟に対応していくという訓練をしていきましょうと締めくくりました

今日から実践!「デマにだまされない4つのコツ」

企画展ツアーから帰ってきたあとは、いよいよ下村さんの授業です。

 

コロナ禍で起きたような情報の混乱は、「残念ながらまた起きます」と下村さん。「絶対にデマにだまされない人間にはなれないけれど、だまされにくい人になることはできます」ということで、そのために覚えたい「デマにだまされない4つのコツ」に進みます。

 

❶まだわからないよね?

 

たとえば、うわさ話を学校で聞いたら。その時の反応として「どんな失敗があると思う?」との問いかけに、参加者の一人が実際に学校で起きたことを話してくれました。学校で倒れ搬送された同級生の病名についてうわさが流れ、皆信じていたけれど、退院して戻ってきた本人に聞いてみると間違っていたとのこと。こんなうわさを聞いたときにまずつぶやいてほしいのが、「まだわからないよね?」です。

「初めて聞いたら“一”旦“止”める、それが“正”しい情報の受け止め方です」。「一」と「止」の文字を組み合わせると、なんと「正」に!会場からは拍手が沸き起こりました

正しい情報を確かめる方法として、「反対の内容で検索してみる」「その情報+『デマ』で検索してみる」「本人やより本人に近い人、詳しい人に聞いてみる」ということも教わりました。

 

❷意見・印象じゃないかな?

 

多くの情報は、伝えてくれた人の意見や印象が混じっています。その中で、何が事実で何が印象か、取り分けてみましょう。

 

たとえば「Aくんは何か隠してるような感じだったよ」というのは、その発言をしている人の印象です。「怪しい」「嘘ついてるんだ!」と決めつけるには、まだ早いですね。

 

❸他の見方もないかな?

 

情報から印象っぽいところを取り除き事実らしくなっても、念のために思い出してほしいのが「他の見方もないかな?」。真実は一つかもしれないけれど、見え方は一つではありません。

 

「世の中はそんなに単純にはできていないので、正直者と嘘つきどちらかしかいないなんてことはありません。全然違うことを言っている人たちがいたら、『この二人は違う立場から同じものを見ているのかもしれないな』と考えてみてください」

 

ニュースリポートを見たら、リポーターと逆の立場に立ってリポートしてみる「逆リポートごっこ」をしてみるとよいということも学びました。

 

❹何が隠れているかな?

 

隠しているわけではなくても、情報は常に一部が切り取られて伝わるもの。受け取る時に、スポットライトの周りで見えてないものは何かな、と想像することも大事なポイントです。これまでは「既に見えている情報」の見方を工夫することを学びましたが、視点を外に広げてみることで、意味や見え方が変わる場合もあります。

参加者と頻繁にやり取りしながら、時に小道具も用いて飽きさせない工夫がたっぷりの下村さんの授業

さて、これまで学んだ「デマにだまされない4つのコツ」、

 

❶まだわからないよね?

❷意見・印象じゃないかな?

❸他の見方もないかな?

❹何が隠れているかな?

 

は、

 

❶即断するな

❷鵜呑みにするな

❸偏るな

❹中だけ見るな

 

とも言い換えられます。頭文字をとって「そ・う・か・な」と覚えましょう。

 

すぐにこれを実践するのは難しいかもしれませんが、さらに言い換えると、日常でよく聞くフレーズに!

 

❶飛び出すな

❷よく噛んで

❸好き嫌いするな

❹左右を見よ

 

です。「これが身に付いているんだったら大丈夫!」との下村さんの言葉に、皆さん安心した様子でした。

 

 

親子で語ろう! 知っておきたいメディアリテラシー用語

最後は、メディアリテラシーに関する基礎用語やニュースで出てくる言葉について親子で語るワークショップを実施しました。

 

私たち森ノオトでは、家族や友人同士の会話の種になるように、各A4一枚の「メディアリテラシー新聞」を10種類作成しました。「著作権」「生成AI」「災害とデマ」といったキーワードを各号で一つピックアップし、基礎的な解説や事例、問題点、気をつけることなどを記載しています。この日会場の皆さんにお配りしたのはそのプロトタイプ(お試し版)です。

親子2組ずつのペアになって、新聞を使って話し合ってもらいました

グループに分かれて、10枚の中から気になる号を話し合って選んでもらいました。人気があったのは「寿司テロ」と「なりすまし」。親御さんたちに解説役になってもらい、その場で話し合ったことやさらにスマホで調べてみたことなどを発表してもらいました。

 

 

学んだ“コツ”を使うために、日頃から鍛えよう 

参加者からは次のような感想が寄せられました。

 

「デマが人の命にもつながってしまうことが印象に残りました」

 

「メディアリテラシー新聞が分かりやすく、息子も興味を持って読みそうだと思いました。自分たちで知っていることを話し合い、知りたいことを検索するというやり方が、一方的な説明より“考えよう”という意識が高まって良いと思いました」

 

「最後の食事と交通安全のたとえが印象に残りました。想像力を働かせることをわが子に教えていくのは簡単ではなく時間がかかると思いますが、食事と交通安全のたとえをお聞きして、家庭でも継続して取り組んでいけそうだなぁと思いました」

 

ネットに手軽にアクセスできるようになると、玉石混交の情報が次々と手元に飛び込んできます。デマにだまされず、情報と賢く付き合っていくためには、日頃からニュースやSNSで得た情報について「どう思う?」と話し合い考える訓練をすることが大事です。

 

森ノオトでは、8月末には「メディアリテラシー新聞」の正式版をリリースします(正式版はローカルメディアコンパスからダウンロードできるようになります)。ぜひご活用いただき、親子でSNSの危うさについて検証したり、ニュースについて語り合う習慣をつくることで、簡単にデマにだまされない、情報を主体的に読み解き、自分の行動指針をつくることができるよう、活用してください。

 

また、このレポートを読んで、下村さんから教わった“コツ”を思い出しながら、あるいは「メディアリテラシー新聞」を参照しながら、ぜひご家庭で対話してみてください!

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この記事を書いた人
齊藤真菜ライター
アートやデザイン、まちづくり等に関する記事をフリーライターとして執筆する傍ら、西区・藤棚商店街で間借り本屋「Arcade Books」を営業。食や地域、デザイン、映画、植物等に関する本をセレクト・販売する。将来の目標は泊まれる本屋を開きながら自分のウェブメディアを運営すること。
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