私の友人でもある画家の上野真由さん(青葉台在住・43歳)は、同じ保育園に息子を通わせるママさんで、息子同士の仲もよく、普段からお互いの自宅に行き来する家族ぐるみの付き合いをしています。保育園の発表会や夏祭りなどの行事では必ず美術班を担当し、それはそれは完成度の高い美術道具をこさえてきてくれる真由さん。以前森ノオトでも記事にした保育園オリジナルのレシピ本プロジェクトでも、贅沢にもイラストを担当してもらいました。
普段はどうしても子どもたちの話題を中心に会話することが多いのですが、画家としての真由さんの話を、一度じっくり聞いてみたいと思っていた私。彼女の7年ぶりとなる個展が開催されるということで、町田市成瀬のご実家にあるアトリエにお邪魔してきました。
真由さんのアトリエには、油絵の具と「漆」を使った作品が並んでいます。日本では”漆塗り”といったような工芸品に使われることが多い漆を、真由さんは画材として使っています。わずかにしかとれない漆の樹液。
「高校生の時に読んだ技法書の中に、”油絵の起源は漆ではないか”という記述があって、それからずーっと『漆で絵を描きたい』って思っていて」。東京芸術大学に入学後、油絵を専攻しながら漆で絵を描くことにもこだわってきた真由さん。同大学院卒業後は、文化庁新進芸術家海外留学制度によってベトナムのハノイ美術大学に渡り、漆絵を専門的に学びました。「他のものには変えられないこの黒と、ドロッとした感じ。あと、この接着力が好き」(真由さん)。
「幼い頃から絵が好きだったけど、自信はなかった」と振り返る真由さん。高校では剣道部に入っていたという意外な一面も。「赴任してきた美術の先生に勧められて、初めて油絵の具を持ったときに、これだ! と思ったの」。高校1年生の時に描いた油絵が高校生の美術コンテストで東京都の代表に選出されたことが自信につながり、美術の道を歩むことを決意したと言います。その当時の作品(写真)に描かれた自画像からは、あどけなさの残る少女の表情の中にも、すでに今の真由さんに通じる強い意志が伝わってくるような気がしました。
美大に進学することを決意した後は、今に至るまで、とにかく毎日毎日描き続けてきた日々。「どうやったら描き続けていられるかってことだけ、ずっと考えているんだよね」とサラッと語る真由さん。その姿は、”表現せずにはいられない”芸術家としての宿命を感じます。普段見ているお母さんとしての表情とは違った表情にドキッとする瞬間でした。
2年に一度の個展や毎年のグループ展というペースで作家活動を続けてきた真由さんですが、出産を機に少し変化が出てきたそう。「子育てと絵を描くことって、行動も思考も全然違うものだから、そのバランスが本当に難しいなと思って。子どもを産んでからは、あえてちょっとペースを落としてきた」という、母親として、アーティストとしての悩みも。
その一方で、子どもと一緒にいることで思い起こされた自分の感覚が、作品に影響しているとも言います。「子どもを産んだこと自体でなくて、子どもと一緒にいることで取り戻した目線に影響を受けているのかな。息子の目線で見る虫とか自然とか宇宙とか、自分の幼い頃の感覚を思い出すような感じ」(真由さん)。今回の個展の作品の制作中、息子さんの保育園のある寺家ふるさと村を歩きながら、ふと浮かんだお月様のイメージが絵の中にも登場しています。
「なぜ絵を描くのか」という問いをずっと自分に投げかけてきたという真由さん。「外国の建築物とか考古学的なものを訪ねたり調べたりして、その答えを探してきたの。子どもと一緒に見てきたものも含めて、これまでのすべての経験が巡り巡って”自然の中で私が感じる神様”のようなものが、今出てきた一つの答えの形なのかなぁ、うん」と、静かに自分に納得するように、7年ぶりとなる今回の個展の見どころを語ってくれました。
私は、お母さんたちが見せる普段の母親の顔とは違う、その人ならではのキラリとした表情に出会う瞬間がとても好きです。森ノオトでリポーターとして活動するようになって、私の身近な人のそういった表情を切り取ることができる幸せを、今回の真由さんの取材でも感じました。
青葉台在住の画家、上野真由さんの個展「よい神様たちのすむところ」が10月3日〜8日まで都内の画廊で開催されます。油絵の具と「漆」という珍しい画材を使った作品を描き続ける真由さん。私の友人でもある彼女のアトリエを訪ね、アーティストとして、母としての表情を取材してきました。
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