
料理で人を喜ばせられる、それが原点
青葉区大場町で育った白井さんが料理に目覚めたきっかけは、小学校の高学年の頃。お父さまが釣りの帰りに友人を自宅に招いてお酒を飲んでいたとき、家庭科で習ったばかりの簡単なサラダを作って出すと、その方が帰る時に「おいしかった」と笑顔で言ってくれたことが子ども心に強く残ったそうです。
塩胡椒とサラダ油とレモン汁を合わせただけの手作りドレッシングで和えた、なんでもない普通のサラダを「おいしい!」と言って食べてくれたことに「料理って喜ばれるんだ」という感動が忘れられず、それから自分の道は調理師になることだと、心に決めました。

市ヶ尾の商店街にある「白木屋とん平」。のれんをかけていざ開店という瞬間の店主・白井康之さん

店内はカウンター11席、テーブル12席、小上がり席は掘座席で24席、計47席。小さいお子さん連れのご家族も、大人たちの集まりも、落ち着いて食事を楽しむことができます
開業から今年で46年目というとん平は、白井さんのお父さまが始めたお店です。車のエンジニアを目指していたお父さまは、オイルショックという時代の流れのなかで脱サラを決意。その頃の市ヶ尾エリアは、開発時期で畑ばかり。周辺に飲食店がなかったということで、とんかつ屋を開くこととなったそう。
店名の「白木(しろき)屋とん平」は、曽祖父が大場町で「白木屋」という和菓子店を営んでいたことから、その屋号を引き継ぎ誕生しました。
若い頃の白井さんは調理人になる夢を果たすべく、高校卒業後、寿司屋や鰻屋などで修業を重ねました。先代がとん平店主だった時代には、休みの日に手伝う程度でしたが。25年前にお父様がお亡くなりになった後とん平を引き継ぎ、メニューも新しく開発していったのだそうです。
とん平では食材の産地や味にこだわっています。
お肉は白井さんの目に適った赤城ポーク、味噌は信州味噌。24種類ものスパイスを調合して熟成させた自慢の自家製ソース、とんかつは100%植物性の油を使い軽く食べやすく仕上げています。
さらに白井さんは「メニューに幅を持たせたい、和食の修業を積んでいるので魚も提供したい」という思いで、アジフライに着目!神奈川でアジならば「三崎に間違いない」と、現地の市場まで足を運び、自分で魚の仕入れ先を探し回ったそうです。三崎に通ううちに、馴染みになった魚屋さんからアジを買えるようになりました。
アジフライだけでなく、肉をはじめとしたあらゆる食材のセレクトは白井さん自らの足と舌で確かめた「間違いない」ものばかり。とん平は白井さんの料理に対する情熱と努力のおかげでどのメニューも料理人魂を感じるおいしさなのです。

三崎の松輪港で獲れた新鮮な松輪鯵のアジフライ。「とんかつ屋でアジフライ?」とメニューを見てびっくりしましたが、白井さんのイチオシなんです
地産地消のジェラート開発秘話
とん平は和食のお店なのに、なぜ “イタリアンジェラート”を開発することになったのでしょうか?
白井さんの若い頃は、地元の若者は消防団に入るのは当たり前の時代でした。消防団歴40年という白井さんは、消防団をはじめ地元で顔見知りだった農家の白井浩弥さんが、ご自身の手がける枝豆を「恋豆」というブランドで一生懸命に売り出している姿を見て、「何か協力ができないか?」と考えていたそうです。
そんな時、店を手伝っていたご自身の娘さんが「枝豆のシェイクを食べたい」と言ったことで、コンビニでアイスを買ってきて、即興で手作りの枝豆シェイクを作ったそう。その枝豆シェイクが娘さんから好評だったことから、恋豆で保存の効くアイスを作ろうと思い立ちました。すぐにアイスメーカーを購入し、試行錯誤のうえ、作ったアイスを枝豆の生産者の集まりに出したところ「恋豆と同じ味がする」「おいしい」と高評価。生産者の白井浩弥さんが「地元のJA横浜中里店の直売所で売り出したい」と言ったことから商品化に着手することとなりました。

こちらが横浜の生産者が手がけるブランド枝豆の「恋豆」
恋豆アイスクリームを商品化することを決めたものの、やるならば「本格的なジェラートを作りたい」という白井さんのこだわりから、イタリア人のジェラート講師を探し、イタリア製の本格的な機械も購入しました。
ジェラートを作る基準は厳しく、とんかつ店の営業中に簡単に作れるものではありません。加えて、納品予定であるJAの加工品の販売基準はとても厳しいものなのだそう。試行錯誤を繰り返し、J A横浜へ何度も通い、販売許可を得るための製造方法を探求しました。この頃から定休日を1日増やしたのは、実はジェラートの生産日に充てていたからだそうです。白井さんのチャレンジ精神に脱帽です。
※JA横浜=横浜農業協同組合

イタリア人のジェラート講師の方とパチリ(写真提供:白井康之さん)
仲間とのタッグを組んでの商品化
恋豆のジェラートを開発してから、ちょうど一年となった今年、恋豆以外の野菜でのジェラート作りに着手しました。今では、青じそ、かぼちゃ、トマトなどラインナップが広がり、青葉区をはじめとして横浜北部の複数の生産者との連携が始まっています。
「地元の農家さんがおいしいものを作ろうという努力をしている、その熱意を無駄にできない」と白井さん。ジェラート開発のきっかけは娘さんですが、「枝豆は食べなくてもアイスなら食べようと思う人がいるのではないか?」「アイスなら保存が効くので季節を問わず提供できるのでは?」と考えたからなのです。
とん平でジェラートとして使っている野菜は、基本は形が不揃いなどで出荷できず廃棄される野菜で、商品として売れない品です。自然の中でできる農作物はすべてが規格に収まるわけではありません。例えば恋豆の場合、サヤの中に豆が一つしか入ってないものは規格外となり出荷できません。とん平ではそういった選別に漏れたものを買い取ってジェラートにしています。
少しの傷があることや形・サイズが規格外だったりするだけで、味はA級品に劣らない農産物。それは農家さんの熱意の結晶で、そんな素材の良さがあるからおいしいジェラートができるのだと白井さんは言います。
ジェラートの商品化を決めたものの、ジェラート作りのマシンや作る手間に投資しても儲かるかわからないという思いもある中、新しいことにチャレンジしていくという熱意は、初めてサラダを作った時の気持ちを持ち続けているからではないかと感じました。

「地元の農家さんは、素材にも味にもこだわっている方が多い」と白井さん。実は、義理の弟さんは港北区新羽町の大森農園のトマト農家さんだそうです。こちらは食べやすく湯むきをして、ガリと大葉でアクセントをつけた「ガリトマト」。トマトの甘さが引き立ちます
今では、農産物の生産者から「これでジェラートができる?」と聞かれることもあるそうです。「何か手伝いできることがうれしい」と照れたように話す白井さん。お店のポップにはたくさんの産地が書かれたジェラートメニューが並びます。地元の農家さんを大切にし、その方がお店の常連さんとなる好循環が生まれていて、宴会をしたいと言うグループもあるそうです。

ジェラートを開発中の白井さん(写真提供:白井康之さん)

忘れてはいけないのは、とんかつのおいしさです。私のお気に入りはひれかつ!100%植物油で揚げたカツはふわっとジューシー
昔からの馴染みのお客さんや、久しぶりにお店にいらっしゃるお客さんから、「昔から味が変わってない、おいしい」と言われることも多いそうですが、白井さんに伺うと、実際にはソースを辛めから少し甘めにするなど、少しずつ味を変えているそうです。
それでも、「変わらぬ味」と言ってもらえることに対して、「自分自身が進歩し続けていかないと、”変わらない”とお客さまから言ってもらえないと思うんだよ」と語る白井さん。この言葉に、お父様の残したお店の良さを残しつつ、時代に合わせ常に新しいことにチャレンジする白井さんの不断の努力を感じました。
とんかつにアジフライ、一品料理、デザートには地元産の野菜を使ったジェラート!地域への愛をまんなかに進化を続ける、市ヶ尾のとんかつ店白木屋とん平。一度行ったらまた行きたくなりますよ!

JAの仲間や友人との宴会の様子。地域に根付いたこういうお店があるということは地元の宝物だと感じます

白木屋とん平
神奈川県横浜市青葉区市ケ尾町1170
電話 045-973-5632
とん平店主の白井康之さんが発信するインスタグラム
https://www.instagram.com/tonkatsu_tonpei/
店主白井さんの娘さんが発信するインスタグラムも写真が素敵で、お店の雰囲気がよく伝わってきます!

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