大学で、学生や園児と地域の森づくりに挑む。園庭デザイナー・仙田考さん
2025年10月24日、田園調布学園大学の子ども教育学部子ども教育学科、仙田ゼミの学生たちが、どんぐりから育てた苗木を子どもたちと一緒に植樹すると聞きつけて、私は川崎市麻生区にある王禅寺四ツ田緑地に向かいました。

地域の自然を教材に

王禅寺四ツ田緑地は、元々は、企業の保養施設として利用されてきた緑地です。ほぼ自然のままの樹林地が残されており、川崎市の特別緑地保全地区に指定されています。田園調布学園大学から四ツ田緑地までは徒歩で25分ほど。ライター梅原の住まいからは徒歩で10分ちょっとの距離にあります。

 

普段は門がしまっていますが、月に何度かの開放日には、スタッフがいて、一般の人も自由に入って遊べます。この日は貸切で、入り口から入って山道を歩いていると、先に到着していた、田園調布学園大学みらいこども園(中原区)の子どもたちのかわいらしい声が響いてきました。

起伏や傾斜の多い四ツ田緑地の中に、広くて平らな広場があります

しばらくすると仙田考(せんだ・こう)先生たち一行が到着。

 

仙田先生は、田園調布学園大学では、保育内容環境、子どもと自然等の授業を担当しています。今回、植樹を行うのは仙田ゼミの4年生3名です。大学2年のときに四ツ田緑地で拾ったどんぐりを大学に持ち帰って植えて、3年になってからも世話をし続けて、4年の今、ふるさとの森である四ツ田緑地に還すという、王禅寺どんぐりプロジェクトのしめくくりです。

 

「実は、東北から送られてきたどんぐりを全国で育てて被災地を緑化するというプロジェクトがあって、東北の苗は、9月に現地の子どもたちと植えてきました。それと並行して地元の緑化にも貢献したいという思いがあり、念願が叶いました!」

 

園庭デザイナーから転身して大学教員になり、4年前に田園調布学園大学に来た仙田先生にとっても、初めての、特別な日だったようです。

広場から一段高い、植樹エリアに向かう一行。子どもたちの中からは4名が参加

 

コナラとともに、学内で育てたケヤキの苗木も植えていきます

 

コナラの苗。この地に無事に根づいて育ちますように!

拾ったどんぐりを発芽させるのは難しく、育苗する場合の発芽率は3割ほどと言われています。学生たちに、どんぐりプロジェクトの感想を聞いてみると、「週2回ゼミ生で水やりを分担して、夏休みは一人1ポット持ち帰って育てました。この2年間で、もとは60株ほどあったものが3株になってしまいました」と、どんぐりと向き合った日々を振り返ります。

植樹を終えて。左から、4年生の武脇結莉(たけわき・ゆいり)さん、若狭秋花(わかさ・しゅうか)さん、福富皓平(ふくとみ・こうへい)さんと、仙田先生

「実家もマンション住まいだから、植物を1から育てることは初めてで、コツコツ水やりをしました。生命の偉大さみたいなものを感じられました」と福富さん。

 

「自分で育ててみて、植物に触れるきっかけになった。育っていく過程も楽しめる。子どもたちにもそれが伝わればいいなと思いました」と武脇さん。

 

若狭さんは、「全然育たないな。もっとすくすくと育つと思っていたけど、2年でこれだけ?と正直思いました。枯れるとやらかした!と、うちでは母も悔しがっていました。毎日水やりしたけど、何が育つための要因だったのだろう?と考えました」と、それぞれに体験を通じた感想を語ってくれました。

植樹後は、一緒に来ていた2年生が、子どもたちと、今年のどんぐりを拾います

 

「こっちの方がたくさん落ちているよ」「どんぐりって食べられるの?」自然遊び大好きな子どもたちに混じって、大学生たちもだんだん感性が開いていくように見えました

仙田先生は、大学卒業後に、イギリスの園庭や校庭の環境が素晴らしいと聞いて留学し、約6年に渡り、イギリスをはじめ、世界のさまざまな国の園庭を見てまわったそうです。在学中から、日本で校庭をつくる研究プロジェクトに取り組み、日本に帰国後、全国80園もの園庭をデザインをした園庭環境の専門家です。

 

仙田先生の父親は建築家の仙田満さんといって、建築界では、「子どもの遊び環境」の大家として有名です。ご家族で「環境デザイン研究所」という会社を営み、数々の幼稚園や学校のデザインを手掛けています。そんな家庭環境と高校時代の部活動を通じて、まちづくりに興味が湧いたと仙田先生は話します。

 

そして、工学的ではなく、「環境の時代」に合った、まちづくりができないかと思っていた時に、造園という分野があると知って、足を踏み入れたのだそうです。

 

「私の“センスオブワンダー”の感覚が目覚めたのも、実は大学に入ってからだったんです。千葉大の造園学科に入ったのに、最初はクスノキさえ分からなかったんですよ。中高生の頃は自然への興味なんて全くなかったです。今は、植物のことに詳しいですねと言われますが、大学で山に入って植物の調査なんかをするようになってようやく、山っていいなと思うようになりました。だから、自然体験をするのは、今からでも遅くないと思って授業に取り入れているんです」

 

 

未来の保育者に伝えたいこと

仙田先生が大学の教員に転身したきっかけは、子どもの育ちにとって、「自然との触れ合いが大切」だと、志や思想を同じくする人ばかりではないことに、改めて気がついたためでした。

 

「環境デザイン研究所」での建築や造園の仕事が評価され、知名度があがってくると、お客さんの裾野が広がる一方で、子どものためというより、大人が管理しやすい環境を重視するような仕事が増えてきたことに悩みはじめます。いち会社員のままでは、その状況をなんともし難いと感じたことから、幼稚園や保育園を運営する人、保育者として子どもたちに接する人を育てなければと、思い切って教育に方向転換したそうです。

 

「庭のない環境で育つ子が珍しくなくなって、自然との触れ合い方を知らない大人も多い中で、子ども達にとって一番身近な環境教育ができる場所がどこなんだろう?と考えた時に、園庭、校庭だろうと思ったのが、私の原点ですから。子どもたちに園庭で自然に親しんでほしい、そのためにも園庭環境を自然豊かにしていきたい。学生たちと地域で森づくりをするのも、同じ気持ちです。学生時代から、ずっと変わらず、同じことをやり続けていると思っています」

語り口は、やさしく、おだやかながらも、強い信念と熱いパッションにあふれる仙田先生

四ツ田緑地をはじめ、王禅寺ふるさと公園、早野、寺家、鉄町、こどもの国と続く、のどかな田園風景や、豊かな緑の環境を身近に感じられるのが、良いと感じて暮らしている私。今回のインタビューを通じて、「子どもの保育環境」といった時の「環境」とは、自然環境のことを指すわけではないことを初めて知りました。保育者の養成課程でも、自然に関する知識や体験は、それほど重視されておらず、そのことに、自然派の方々は危機感を覚えているのだそうです。

 

そんな中、大学の附属園や、大学内、地域でも、育苗や植樹を通じて、現状を変えようとコツコツ取り組んでいる仙田先生の取り組みに、敬意と希望を感じます。

学内で育てられている一年もののどんぐりの苗。たくましく育て!

仙田先生は、「私のアイデンティティは園庭デザイナーです」と語り、「国際校庭園庭連合日本支部」の運営もされています。園庭環境の専門家、コーディネーターとして、校庭園庭の環境づくりの支援や、研修に精力的に取り組まれています。

 

今回の取材は、大学の学食めぐりの取材シリーズでご挨拶したことをきっかけに、実現しました。造園業を未来の子どもたちの憧れの職業にしたいと考えている地域住民の一人として、このつながりを、より良い方向へ生かしていきたいなと思いました。

Information

田園調布学園大学内での植樹のレポート

2023年度:https://www.dcu.ac.jp/school/child/future/news_detail.html?CN=269658

2024年度:https://www.dcu.ac.jp/school/child/future/news_detail.html?CN=270174

 

国際校庭園庭連合日本支部

https://www.isga-japan.com/

Avatar photo
この記事を書いた人
梅原昭子スタッフ/ライター
引き算の編集が好きです。できないこと、やりたくないことが多過ぎて消去法で生きています。徒歩半径2キロ圏内くらいでほぼ満ち足りる暮らしへの憧れと、地球上の面白い所どこでもぶらりと行ける軽さとに憧れます。人間よりも植物や動物など異種から好かれる方が格上と思っている節があります。
未来をはぐくむ人の
生活マガジン
「森ノオト」

月額500円の寄付で、
あなたのローカルライフが豊かになる

森のなかま募集中!

寄付についてもっと知る

カテゴリー

森ノオトのつくり方

森ノオトは寄付で運営する
メディアを目指しています。
発信を続けていくために、
応援よろしくお願いします。

もっと詳しく