
このところ、たまプラーザ周辺のマルシェでよく見かける、かぎ針編みのブランド「gecco」。
ポップな色合いと、キッチュなデザインで、眺めているだけでもなんだか元気が出てきます。森ノオトスタッフやライターの間でも、帽子やポシェット、イヤリングなどなど、geccoブランド愛用者が急増中!

マルシェに並べられたgeccoの作品。イヤリングにネックレス、ポシェットにチャームと種類豊富です(写真提供:林月子さん)
このかわいいかぎ針編みグッズを一人で生み出しているのが、林月子さんです。月子さんといえば、地域のイベントごとでは必ずと言っていいほど姿をお見かけする「たまプラーザの顔」の一人。
どうして月子さんはいま、編み物のブランドを始めたの?
森ノオトきっての編み物好きの私、佐藤美加が、編み物トークをしてきましたよ〜!
キーワードは「アップサイクル」
「ブランド名の“gecco”というのはね、私の名前から来ているの」と月子さん。満月の日に生まれたから、と付けられた名前なのだそう。
「geccoでは、使われないまま忘れられている毛糸、眠っている毛糸をなるべく使って編みものをする、アップサイクルな編み物を心掛けてるんです」と、いつものとびきりの笑顔で話します。
「リユース」「次の使い手につなぐ」。そんなgeccoのキーワードは、森ノオトの運営するリユース手芸店「めぐる布市」の活動にも通じるものがあり、先日は、めぐる布市でワークショップもしていただきました。

めぐる布市に寄付された毛糸で編み編み。楽しくおしゃべりしながら、リップクリームケースやシュシュができあがっていました。ほんのわずかな量の毛糸でも無駄にせず使うことができるのは爽快!(写真提供:めぐる布市)
「寄付していただいた糸で作った作品が売れた場合は、また売上の一部をどこか必要としてるところに寄付する、という循環も、していきたいと思っています」
月子さんって、なにものですか!?
あるときは、パフォーマンスを通じて地域と人をつなぐ「たまプラー座まちなかパフォーマンスプロジェクト」の代表。
あるときは、「なないろ畑」で無農薬、無化学肥料の有機野菜を育てて直売する看板娘。最近では、みんなのやりたいことをカタチにするコミュニティビジネス「合同会社たまカン」を立ち上げたり。
普段から、「まちの活動」を軸に、多彩な活動をしている月子さん。あらためて、どうしてこの街の活動をするようになったのか、いまの月子さんができるまで(!)のお話を伺いました。
ターニングポイントはPTA活動
「出身は岐阜。もともとは、音楽教室でエレクトーンの講師をしていました。結婚して、たまプラーザに来て。何度か引っ越しもしたけれど、それもたまプラの中で三回。三人の子ども達の子育てはぜーんぶ、たまプラーザで、です!」
「ごくごく普通の主婦だった」という月子さん。
「仕事をやめて子育てに専念していたんだけれど、そうねぇ、ターニングポイントは、PTA会長になったこと、だったかな。
子どもが三人もいてお世話になったのだから、せめて小学校への恩返しになれば、と、ずっと断っていたPTAを引き受けてみたんです。結局ね、PTA会長は、小学校で1年、中学校で2年、青葉区PTA連合会の副会長までやったのよ(笑)。
そしたらね、PTAをやることでいろんな仕事がついてきたんですよ。 公園の運営委員会とか、民生委員を選ぶ選考委員とか、防災関連のこととか、それから自治会の仕事とかも。
私はずーっとこの街で暮らしながら、『安心安全な街になるといいな』と漠然と思っていたんだけど。でも、そういう街の活動を手伝うようになって気づいたんです。これまでも、私の知らないところで、この街をより良くしようと活動してくれていた人たちがいたんだって。
その人たちに任せきりにするのではなく、この街のため自分にできることがあるなら、ちゃんと自分で動いてやろう。そう考えるようになったんです」
ともすると敬遠しがちなPTA活動ですが、こんなふうに、街への眼差しを育むきっかけになることもあるのだと、感慨深く思います。
「もともと私は、人前で話すのが本当に苦手だったんですよ。今は誰も信じてくれないんですけど(笑)」と月子さんは振り返ります。
「最初はね、歴代のPTA会長さんのように立派に話して、立派に振る舞わなきゃってすごいプレッシャーだった。
でも、私はその人たちとは違うのだから、同じようにできなくて当たり前って思えたら、少し気持ちが楽になったんです。それからは、無理に“立派な挨拶”をするのではなくて、一人の母親として感じていることを、自分の言葉で素直に伝えるようになりました」
入学式や卒業式でのそんな挨拶は意外にも好評で「気持ちがとても伝わってきた」と聞いていた人から声をかけられることもあったといいます。そうした経験が、少しずつ、いまのポジティブでオープンマインドな月子さんを形作ってきたのだろうな、と感じました。
ポスティングで偶然知った”まちづくり講座”
2012年。「子育て」から「街」へと、目が向き始めたそのタイミングで、運命的なチラシが、月子さんの家のポストに投函されました。
それは、横浜市と東急電鉄が立ち上げ、産・学・官・民が連携して展開している郊外の再生をめざす、青葉区を舞台にした「次世代郊外まちづくり 住民創発プロジェクト」のチラシ。
「住民たちが『この街をどうしていきたいか』『どんな街になったらいいと願っているか』を引き出して、その思いを形にするための支援を行うプロジェクトでした。
1年をかけたワークショップが開かれて、最後にはたまプラーザのプラザホールで発表も行われる、大掛かりなものだったの。面白そう!って、思い切ってやってみることにしちゃったんです」
「たまプラーザは、東急電鉄が開発した典型的な郊外住宅地です。
実際には、この街にはさまざまな場所から移り住んできた人がいて、考え方も暮らし方も本当はさまざまなはず。
でも、そうした違いをなんだか覆い隠して、みんな“たまプラーザらしさ”に合わせて暮らしているように思えて。そのことに、ずっと違和感があった。このワークショップに参加することで、『私(たち)はこの街がどんな街になったらいいって、ほんとうは思っているんだろう』ということを、住民主体になって深く考えられたんじゃないかな、って思います」

PTAで培った「自分の言葉で、人前でも臆することなく話せるようになった」力を存分に発揮してプレゼンテーションをする月子さん(写真提供:林月子さん)
たまプラー座まちなかパフォーマンスプロジェクト、始動!
月子さんが、理想として掲げたのは「人が育つまち」。「育ちあい」が地域コミュニティづくり、新しいまちづくりのカギになる、と考えました。
「育ちあい」を叶えるために、月子さんが提案したのは、なんと地域住民約150人が参加したフラッシュモブ !しかも、たまプラーザの駅前でそれを行う、という斬新なものでした。
ちょうどその頃、家族で夢中になっていたダブルダッチ(2本の縄を使って跳ぶアクロバティックな縄跳び)と、ダンスや歌を組み合わせた住民たちによるパフォーマンスを行えないかと思いついたのです。

当日のパフォーマンスの様子。赤ちゃんから高齢者まで、幅広い世代が参加した(写真提供:林月子さん)
たまプラー座(いちざ)と名付けられた150人のメンバーたちは、世代や価値観、立場を越えて交流を重ねながら、練習や準備の日々を積み重ねていきました。互いに影響を受け合い、ともに育っていく「育ちあい」を体現しながら、本番の日を迎えたのです。
——2013年11月、東急田園都市線たまプラーザ駅直結のたまプラーザテラス。雨上がりの空の下、ベビーカーを押した女性が突然歌を口ずさみ、瞬く間に周囲の人たちに歌と踊りの輪が広がりました。
『Oh, Happy Day』の大合唱と踊り、ダブルダッチ、パントマイムなど、たまプラーザに住む住民約150人が参加した「フラッシュモブ」は、伝説的な盛り上がりを見せ大成功に終わりました。
森ノオトで、まどかさんがこのように書いた記事からも、その熱気が伝わってきます。
Ubuntaiと、毛糸の飾り「ウブまる」と
最初のパフォーマンスから、5度の公演を重ね、10年を経た2024年の11月。たまプラー座はふたたび始まりの場所、たまプラーザ駅前で10年周年企画のパフォーマンス「Ubuntai」を行いました。

4つのシーンで構成されたUbuntaiのパフォーマンス。フィナーレは、オリジナルソング「ゴキゲンな街〜たまプラーザ〜」を合唱しました。「Ubuntai」とは、南アフリカの伝統思想である「Ubuntu(ウブントゥ)」、“人と比べず、競わず、つながり、助け合って生きる”と、「育ちあい」の「ai」をかけあわせた造語。あとになって、スワヒリ語で「創造性」という意味があることが分かり鳥肌が立つほど感動したそう
「ウブン隊と呼ばれるキャストには、一体感を出すために、同じ飾りを胸につけよう、ということになったんです。”ウブまる”っていう名前をつけた丸いモチーフを、みんなでたくさんで作ったの」

こちらが胸につけた「ウブまる」。不要になった毛糸や裂いた布などを持ち寄って丸い段ボールに放射状に糸を張り、くぐらすように織って作った(写真提供::林月子さん)
「シンボルとして、舞台に大きなウブまるを飾ることになりました。
かぎ針編みで編むことになったんだけど、とても大きかったので、団地のおばあちゃんたちにも手伝ってもらって、みんなで一緒に編んだの。その時間が本当に楽しくて。おしゃべりをしながら手を動かしていると、幸せ物質っていわれる“セロトニン”がたくさん出ているような気がしたんです。
そんな時間を重ねるうちに、編み物っていいな、手を動かす時間っていいな、とあらためて思うようになったのよね」

たまプラーザ駅前に設置されたステージ。巨大なウブまるが縫い付けられている(写真提供::林月子さん)
編み物熱、再燃!
もともと月子さんのお母さんは、編み物を教えることもあるほどの編み物好きだったのだそう。月子さん自身も、小さな頃から編み物が身近にある環境で育ちました。
「私は一人娘だったので、母が編んでいる横で、教えてもらいながらいろんなものを編んでいました。編み物は特別なものではなく、塗り絵をしたり絵を描いたりするのと同じような、日常の遊びの一つだったんです」
その後、子育てに追われる日々の中で、編み物からはしばらく遠ざかっていましたが、それでも冬になると帽子を編むなど、折に触れて手を動かしていたのだとか。
「編み始めるとやっぱり楽しくてね。どんどん帽子を編んじゃって。頭は一つしかないのに!ってよく夫に言われてたな(笑)」
今回のウブまる作りで、編み物の楽しさをあらためて実感し、小さい頃のようにまた編み物を暮らしの中に取り戻していきたいな、と思うようになったとか。
「編み物熱が再燃して、毎日ちょこちょこ編むようになったでしょう。私ね、編むのがすごく早いの。で、どんどんいろんなものが編めちゃって。それを見ていた友人が『そんなに作品ができるんだったら販売してみたら?』って背中を押してくれて。いくつかのマルシェに出てみないかと誘ってもらったのが、geccoの始まりなんです」
街で編む、街を編む
ウブまるづくりをする中で、月子さんの中で芽生えたもう一つのやりたいことが、「みんなで編む」ことでした。
月子さんはこのところ、誰でもウェルカムな「編み物会」も、毎月のように開催しています。
開催場所は、たまプラーザにあるパン屋「BARIETA(バリエタ)」や、二子玉川にある「ふたこビール醸造所」など。わたしも参加させてもらったのですが、夜の時間帯、コーヒーに惣菜パン、ビールにおつまみなどを机に並べて、思い思いに編み棒を動かす時間はまさに至福のひとときでした!

編んだり、飲んだり、食べたり、しゃべったり。手を動かしながら交わすコミュニケーションには、不思議と気持ちをゆるめ、リラックスさせてくれる力がある気がします(写真提供:林月子さん)
「参加者は、編み物はじめてさんから熟練者さんまでスキルはまちまち。年齢も、小学生から70代までいろんな人がいる。
でもそんな中で”編み物の話”を真ん中に、あちこちでコミュニケーションが生まれるってとってもいいでしょう。あぁ、この街にはこんな人がいるんだなぁ、って知るきっかけにもなったりするよね」
そういえばこの編み物会って、月子さんの「人と人をゆるやかにつないで、街をおもしろくする」活動に、通じるものがあるんだなぁと、私は密かに感動したのでした。
PTA活動から芽生え、まちづくりの経験を通して育まれた「自分たちの街を、自分たちの手でつくっていく」という月子さんの思いは、やがてパフォーマンスへ、そして今、編み物へ、とさまざまな形で進化しています。
毛糸を編みつないでいくように、街の時間や人の関係をも編んでいく。
月子さんの編み物を通じた活動は、これからこの街にどんな広がりを見せていくのでしょうか。
はじまったばかりのこの活動の行方を、いち編み物好きとしてこれからもますます注目していきたいと思います。
【gecco】
Instagram:
https://www.instagram.com/gecco2035/
【たまプラ一座まちなかパフォーマンスプロジェクト】
HP:
https://tamapla-ichiza.wixsite.com/ichiza
Facebook:
https://www.facebook.com/tamaplaza
【 Ubuntaiのドキュメンタリームービーはこちらでご覧いただけます】
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