本がある、ジブン実験研究所・つるかわ図書コミュニティ施設つるぼん
団地の中の商店街の一角にあった図書館。そこに新しく開かれたのが、つるかわ図書コミュニティ施設つるぼんです。つるぼんの紹介文には「ジブン実験研究所」の言葉。図書コミュニティ施設ってなんだろう?ジブン実験研究所って何をしているの?謎を解くべく、開設して一年ちょっとのつるぼんに、取材に伺いました。

図書館から、図書コミュニティ施設へ

気温がぐんと上がり、子どもたちもいよいよ夏休み。7月中旬に、私は図書コミュニティ施設つるぼんを訪れました。小田急線・鶴川駅から車で10分ほどの鶴川団地の中に、二つの商店街、公園、小中学校が並びます。

商店街の一つ、広場をぐるりと囲む形の鶴川団地センター名店街。郵便局、パン屋さん、酒屋さん、お食事処……さまざまなお店が軒を連ねる一角に、つるぼんはあります。

鶴川団地センター名店街のアーケードは、屋根ありベンチあり、広々していて歩きやすい! つるぼんに入ると明るい空間に書棚、広々としたテーブル、大きな黒板、貸出カウンターが目に飛び込んできます

つるぼんの前身は、町田市立鶴川図書館。

1972年、団地とともにオープンした、地域で唯一の図書館でした。それから40年。2012年に鶴川駅前に中規模の図書館ができたこと、少子高齢化などの影響を受け、小規模の鶴川図書館は閉館の方向に進みます。

 

しかし、近隣の住民の方々から「やめないでほしい」との声が。話し合いが重ねられる中で、出てきた案は、図書館をそのまま続けるのではなく「市民と行政で図書のあるコミュニティ施設を運営する」ことでした。

本を読む、借りるに留まらない、「本を橋渡しとして、誰もが地域、社会、世界とつながることができる場所(つるぼんHPより)」が新たなコンセプトです。

 

2025年3月、図書館は閉館しましたが5月から同じ場で、つるぼんが始まりました。蔵書は、鶴川図書館から譲り受けた本と、新たに購入した1000冊を合わせて13000冊。

町田市と地域の方が一緒に運営し、つるぼんの蔵書はもちろん、町田市立図書館の本も予約や返却ができます。図書館の運営が民間企業などに指定管理や業務委託されるケースは少なくない中、立ち上げから運営まで、行政と地域の団体が一緒に行なっている形は全国的にも珍しいのだそうです。

新たに購入した本は、緩やかなテーマ分けで並んでいて、気になる本がいくつもありました。返却予定日のカードには本の感想を書き込むこともできます。どんな言葉が挟まれているかも楽しみ!貸出冊数を3冊にしているのは、何度も通ってきてほしいから

 

「だれでもソファ」とともに、大きな「みんなの黒板」が出迎えてくれます。毎月のイベントのお知らせ、自由に描けるスペース、よく見ると秘密の扉も……!つるぼんは、お喋りもどうぞという場所。読書スペースでも、気軽に話すことができます

やってみたいことを、実験してみよう

図書コミュニティ施設とは一体何なのでしょうか。

 

つるぼんは、交流・学び・発見・実験の場所・出会いを、5つの柱として掲げています。

そして、紹介文には「失敗も栄養に、やりたいことを自由に試せるジブン実験研究所」……図書館というか研究所?つるぼんは図書館として本を貸し出す機能だけでなく、「誰でも挑戦し、交流できる場」という「コミュニティスペース」としての機能もあります。

 

2026年6月から新たに始まったのが「コミュニティ・ラボ」。交流・学ぶ・出会い・発見・やってみたいことを誰でも企画して実験できます。

これまで開催されたテーマは、お子さんに勉強を教えるコツ、読書会、映画上映会、カブトムシの産卵セットを作る会……と、気になるものばかり!

 

取材した日のコミュニティ・ラボでは「誰かへの手紙、自分への手紙」というイベントが開催されていました。案内人は、ライターであり、きんじょの本棚という本の活動にも参加されている谷中絵美さん。やわらかくゆったりとした雰囲気の谷中さんが、広々としたテーブルに便箋やさまざまなペン、インクなどを並べていきます。

谷中さんご夫妻。「これも使えるかな?」とスタッフさんが事務所からかわいい封筒を持ってきたり、ちょうど来館された方に「手紙、書いていきません?」「え、いいの?手紙書くの好きなの!」と、和やかな雰囲気。コミュニティスペースのテーブルは、図書館の本棚を再利用して生まれました

「手紙を書く時間って、なかなか取れない。スマホでのやりとりが多いから、書く機会自体が少ないですよね。そして、手書きの手紙って時間がかかります。書く、折る、封をする、送る、届くまでに5日くらい、そして返事がくるかもわからない。でも、そういう自分のコントロール外の時間って、豊かな時間だと思うんです」と谷中さん。

 

スマホですぐにメッセージを送る、返す。そんなやりとりが日常の今、手書きの手紙には、要件を伝え合うだけでなく、そこに向き合う時間も、書き終えてからの時間もたっぷり流れます。

 

さらに、手紙をテーマにした4冊の小説の紹介がありました。本のあらすじを聞きワクワクし、次は、手紙にまつわる取り組みの紹介も。手紙とコーヒーを誰かに贈るカフェ、手紙を書くと手紙をもらえる文具店……知らなかった景色が見えてきます。

 

書きたい気持ちが高まったところで、いよいよ手紙の時間!

便箋をめくっては「この花、いいなぁ」「私、猫にしよう」「縦書きがいいんだけど」と紙を吟味。さらにペンも「見たことない色!」「つけペンなんて初めて。どう使うんですか?」「この緑がかった黒が好き」など、テーブルはにぎわいました。

 

思い思いに書き始め、いつの間にか全員が書くことに没頭していました。下書きをする人、迷いなくペンを進める人。ふと顔を上げ「……書くっていいですね」「静かだけど、楽しい!」と笑みを隠せない参加者の皆さま。

家族へ、自分へ、友人へ、あるいはつるぼんに来た方へ。投函したい人は谷中さんに記念切手も分けていただき、手紙はそれぞれのもとにしまわれたのでした。

手書きのよさの一つに、万年筆が紙にひっかかる感じ、書いている音が気持ちいい、と谷中さん。文面だけでなく、書き心地、ペンの色、紙の感じ、添えられた絵。書く以外の刺激もいっぱい

つぶやきや出来事が、いつの間にか企画になっている

つるぼんの運営について、運営メンバーの一人である金城美由紀さんに、お話を伺いました。金城さんはもともと、谷中さんも参加されるきんじょの本棚という、個人が町の人に向けて本棚を開く活動を始めた方です。自宅の軒先、お店や施設の一角など、街角に自由に借りられる本棚を置く。

誰でも、どこの本棚で本を借りても返してもいい。本を間に、ゆるやかに人と人がつながる取り組みです。

 

つるぼんの日々の様子を聞いていると「カブトムシとクワガタがいるんです」と驚きの一言。入り口のすぐ横の本棚に、よく見ると虫かごが。

ある雨の日に、びしょ濡れになりながら来館された方が「これ……」と届けてくれたのは、なんとカブトムシの幼虫。空き瓶に入った幼虫を飼うことになりました。「そこから、カブトムシのたまご探しというイベントにもなって。子どもたちが卵を探して、どの卵が何グラムか測定会をするんです」と。卵が成虫になり、今年は2代目だそう!

届けてくれたのは、カブトムシの森を作る活動をしている会の方。近くの広袴神明社の森でカブトムシの産卵場を作る活動をしているそう。写真の他にも、虫かごがいくつも並んでいました

カブトムシから視線を棚の上の方に向けると、小さな薄い冊子が。「ZINEという小さな冊子です。ふつう図書館には置いてないんだけれど、ぜひ並べたくて」。

 

さらに、色とりどりの小さなちいさな手作り絵本!「これは、近くの保育園の園児さんたちが作った絵本。ちゃんと貸出バーコードがついていて、借りることができるんですよ」と金城さん。どの本にしようか迷ってしまいます。

つるぼんには、認知症の方とサポーターが軽作業をする会、「ゆるぼん」があります。「ゆるぼんに園児さんたちが来て、自分が作った本を読み聞かせしてくれたこともあるんですよ」と金城さん

また、ある日は英語が堪能なスタッフと、お近くに住む海外出身の方が英語で話していたそう。「そうしたら、何やってるの?と人が集まってきて。今では、TSURUKAWA GLOBAL FRIENDSという、英語でお喋りする会を定期的に開いています」と、展開にまたびっくり。

 

そのきっかけが、ここにつながるの?というエピソードの数々。前章のコミュニティ・ラボの企画も、谷中さんが「こんなことやってみたいんだよね」と話したことから始まったもの。

スタッフが企画をいっぱい持っていて、次々カードを繰り出している……わけではなく、「やってみようか」「やっていたらこうなっていた」が、書ききれないほど出てきます。

地域の方が、ご自身の活動とお気に入りの本を紹介するコーナー「とっておき本棚」。つるぼんは棚の表示にも黒板を使用し、自由に書き換えられるようにしています

本のある居場所、本のある入り口

前身の町田市立鶴川図書館再編の話し合いには、高齢者・障がい者支援、学習支援、認知症支援などに携わる方々も加わっていました。金城さんは、本の活動をしている立場として呼ばれたのだそう。

 

図書施設の存続、高齢であっても障がいがあっても生涯学べる場を作りたい、誰もが社会との接点を持てる場を作りたい。それぞれの意見が出る中、「私は、本がある居場所がなくなることが、問題だと思った」と金城さんは話します。

 

「本が好きな人って、放っておいても図書館に行くんですよ。でも、『本を読まない人が来られる本がある場所』、『本があるけれど読んだり借りたりするだけが目的じゃない場所』……『本がある居場所』を、地域コミュニティの入り口として、誰でも来られる場所にしたかった」

 

利用者さんの言葉が、行動が、形になり、それを見て、別の利用者さんがまたつるぼんを訪れます。

そして、出会った人同士が話せる空間を、本を読む以外のこともできる場を、作る。本を読まない人にも来てもらう仕掛けがたくさんあるのが、つるぼんなのだと感じました。

そこに、たまたま本があって、次の世界へとつなげてくれることもあるかもしれません。どんなテーマにも沿う本がある、よければどうぞと差し出せる本がある、それは図書施設だからこそと思います。

 

「利用者さんから、(サービスとして)これできないの?と言われる時も。そうしたら、どうやったらできるか一緒に考えましょう!と対話するんです」と金城さん。

サービスを提供する→受けるの一方向のやりとりではなく、ともに何かを作る関係。人が集まるだけでなく、つるぼんをキーに、人と人がつながるきっかけを作ります。

 

誰もが気軽に立ち寄れるように、種をまいたり、見つけたり、もらったり。何が咲くか咲かないか分からないけれど、育ててみよう!

つるぼん自体が、本がある居場所を作るための実験を繰り広げているのだなと感じます。

いつの間にか、折り紙教室が始まっていました。「つるぼんは、手作り感があってあたたかみがある。図書館は静かにしなければいけないけれど、ここは話せる。広すぎなくてちょうどいいんですよね」(利用者さん)

つるぼんは、失敗していい研究所

ジブン実験研究所を名乗るつるぼん。金城さんはこう話します。

「みんな、失敗したくない人が多い。だから失敗していい場所を作りたかった。大人がうまくいかない姿は、子どもにとって光になるんじゃないかな」と。

 

先々の予想が立ったり、人の目が気になったり、大人は失敗というものを避けがちです。子どもへも、先回りして安全な道を整えてしまう。でも、金城さんと話していると、失敗ってなんだろう?と私は思うのです。

つまずいたらやり直したり、他の方法を試したり、別の道を選ぶこともできます。子どもに「失敗したっていいんだよ」と話すより、「失敗しちゃった!どうしよう〜」と言いながら、あれこれ悩んで動いている。

大人が試行錯誤する姿はよほど、力になるのではないでしょうか。

 

そして、失敗することとともに、「お世話になること」についても、金城さんが話してくださいました。それは、開館半年の節目に開催された「RADIOつるぼん」のエピソードです。

本当のラジオではないですが、つるぼん前で、センター名店街の皆さまも参加して本や曲の紹介、それぞれのお店の紹介などを公開生放送しました。

 

このRADIOつるぼんには、地域で関わるたくさんの方が登場します。「ラジオができたことより、作る過程で、地域の人たちと関係性が作れたことに意味があったんです」と金城さん。「お願いをすると、お返しをする機会をもらえるし、次から声がかけやすくなる。だから、お世話になるっていいことなんですよ」と話します。

 

 

できるかな?から始めよう

失敗していい。誰かのお世話になってもいい。何が何につながるかなんて分からない。

つるぼんは、本があるけれど喋っていい場所、やってみたいことを形にしてみる場所、成り行きに任せてみる場所、私のコントロールを手放す場所でした。私は、カチコチのアタマを緩める場所や時間が、もっとあっていいと思うのです。

 

知識と経験は役にも立つけれど、「これがベスト!あっちは失敗するかもよ」とささやいてもきます。私が考えると道は一本だけれど、アタマを緩めてみたら、実は違う道がいっぱいあるのかもしれない。曲がったり、穴に落ちたり、トンネルに入って真っ暗になったり。

そして、気づけば予想と全然違う世界や出来事に遭遇するかもしれない。そして、そんな道は一人だと不安だけれど、「どこにつながるんだろうね!」と隣で面白がってくれる人がいたら、ワクワクする体験になるかもしれないと思うのです。

カウンターにて、左からスタッフの白石さん、大森さん、そしてお話を伺った金城美由紀さん。利用者さんは「つるぼんは、雰囲気もスタッフの人もあたたかい」と話します。つるぼんが大切にする出会いや交流。それは、人が集まれば自然に生まれるのではなく、話したくなる雰囲気や、互いに関わるきっかけなど、土台がちゃんと作られているからだと感じます

「涼みにきた、っていうおじさんがいて。やった!って思ったんです。それって、用がなくても来れる場所になったってことだよね」と笑う金城さん。

減少していた図書館の利用者数。つるぼんとなり1年経たずして来館者数は10万人を超え、想定より多くの方が来てくださったと言います。

 

スタッフも利用者さんも「できるかな?」から始まる場所、それがつるぼん。実験大好き金城さんの口癖は「行き当たりバッチリ!」。やってみたら思いがけない道がひらけていく。そんなつるぼんに、ぜひ足を運んでみてください。

 

合言葉は、「本がある キミがいる つながるつるぼん」です。

 

Information

つるかわ図書コミュニティ施設つるぼん

住所:〒195-0061東京都町田市鶴川6-7-2-1-101鶴川団地内

小田急線鶴川駅より小田急/神奈中バス

鶴川団地(センター前経由)または鶴川団地循環(北回り)でセンター前下車

開館時間:10:00〜17:00

休館日:月曜日・第二木曜日・年末年始

HP:https://www.tsurubon.com/

Instagram:https://www.instagram.com/tsurubon.libco/

 

きんじょの本棚

HP:https://kinjonohondana.studio.site/

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この記事を書いた人
梅田優歌ライター
横浜市緑区生まれ。相模原に住み、地域をもっと面白がりたい!と森ノオトに参加。音楽療法士や生活支援員を経て、次は子どもたちに関わることを考え中。本と本屋さん、キャンプと焚き火が好き。本で人と人がつながる「きんじょの本棚」に参加している。
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