リュックに本をつめて、冒険の旅に出よう  ~旅の支度は「ブックスTangerina」でどうぞ~
東急田園都市線・たまプラーザ駅から徒歩4分。東急百貨店、イトーヨーカドー、コナミスポーツなどの並ぶ「駅前通り商店街」を通り、「美しが丘橋」を渡ると、オレンジの看板が見えます。1年ほど前にオープンした本屋さん「ブックスTangerina」を営むのは、𠮷沢朗さん。他の書店にはない、このお店ならではの魅力をご紹介します。

しとしと降る雨の日でも、風が吹き荒れる寒い日でも、お気に入りの本とコーヒーがあればもう気分は最高。

そして、その前の、本屋さんで本に囲まれながら読みたい本を選ぶ、わくわくどきどきする時間も、わたしは大好きです。みなさんは、どうやって本を選んでいますか?

 

たまプラーザ駅のイトーヨーカドーの裏に「美しが丘橋」という橋があります。その橋を渡り切ったところに、個人経営の本屋さんがあるのをご存じですか?

白いレンガにオレンジ色が映える、スタイリッシュなロゴに心惹かれて入ってみると、優しい笑顔の店長さん、𠮷沢朗さんが迎えてくれます

こだわりの専門書などを集めたお店かしら……?と思うとそうではなく、時事問題、料理や旅などの趣味関係の本、小説、詩集、児童書、絵本など幅広い分野の本がそろっています。あ、この本昔読んだな。あ、この作家さんも好き。なんて思いながら店内を見て回ると、えっ何それ、と気になるタイトルの本が目に飛び込んできます。

 

『まちかど給水塔図鑑』『橋旅のススメ!』『ボイコットする身体』『カエルの見つけ方図鑑』……。思わず手に取って読んでみたくなります。そう、ここは分野こそ多岐にわたっているものの、なかなか他の書店では見られないような、ちょっとマニアックで個性的な、何だか意思の強そうな本たちも、たくさん並んでいるのです。その並び方も面白く、出版社ごとではなく、北欧、旅、生き物などテーマごとに本が置いてあります。

 

店内には、座って飲み物と読書を楽しめるスペースもあります。気になる本を見つけたら、飲み物片手に、窓からたまプラーザの街並みを眺め、読書の時間、という楽しみ方もできます。

看板の下には𠮷沢さんのその日のメッセージ。お飲み物メニューはアールグレイ、ダージリン、ジャスミンティー、アイスティー、オレンジジュースにアップルジュース。ジュースもあるので、お子さんと一緒でも大丈夫

テレビと本はつながっている

子どもの頃から本好きだったというブックスTangerinaの店主、𠮷沢朗さんの前職はNHKの番組プロデューサーです。「地球ドラマチック」「クローズアップ現代」などの番組を手掛け、第一線で活躍されてきました。海外出張にもよく行き、その際にも、必ずその国の本屋には立ち寄ったそう。

 

学生時代には、本屋さんでのアルバイト経験もあり、とても読書経験の豊かな方です。テレビと、本。一見すると、違う媒体かと思いますが、𠮷沢さんは「テレビと本はつながっている」と言います。

どちらも、何かを伝えようとするもの。ただ、その伝わり方には違いがあります。

 

「テレビは、インパクトも大きいし広がっていく力はすごい。けれど、分かりやすくしなくてはいけないから、繊細なことは伝わらない。

一方で本というのは、一つひとつのインパクトは小さいのだけど、テレビでは削ぎ落してしまうような、世の中のもっと細かいことや複雑なことにも焦点を当てられるでしょう。本屋だったら、もっと自分が、こういうのを届けたい、と思う本を選んで届けられます。

大型書店には、大型書店の役割があると思いますが、うちは小さな本屋だからこそできることがある、と思っています」

 

そのような思いから、定年よりやや早く退職されたあと、たまプラーザの街にオープンしたのが、ブックスTangerinaです。

 

では、ブックスTangerinaにしかできないこと、とは何でしょうか?

子どもの本コーナーには、なんとも面白そうなタイトルの生き物に関する本も並んでいます。一緒に連れて行った生き物好きの息子は、ここからなかなか動きませんでした

本との出会いをプロデュース

「考える」ことの出発地点に

ブックスTangerinaの、他にはない特徴の一つが、ブックトーク企画です。

2カ月に一度くらいのペースで開催されていて、過去に開催されたもののテーマを挙げると、「ミャンマーはいま」「アガサ・クリスティーとその時代」「AIと暮らす未来」「メディアは戦争をつくる?とめる?」など、時事問題と絡めて考える興味深いテーマが盛りだくさん。この面白そうなテーマは、ご自身で決めているのでしょうか。

 

「基本的には自分の興味があることです。でも、お客様と話していて、こういう企画があったら面白いよね、やってほしいなという声を拾って、そこから広げることもあります。どんな形だったらうちの店でやれるかなって考えて」。

まさに、プロデューサーとして世界を見てきた視点が、ここでも生きているようです。

 

実はこの記事を書いている私も、10月のブックトーク企画に参加してみました。

10月のテーマは「ままならないからだと向き合う」。ブックトークには、このお店の常連さんだという書評家の東えりかさんも登壇し、𠮷沢さんと二人で、たくさんの面白そうな本を紹介しました。

本の紹介の後は参加者の皆さんからの感想や質問を交えて、さらに話は深まっていきました。本をきっかけに、人々が出会い、思いをキャッチボールしたりつながったりする、とても素敵な場でした。

お話の内容はここには書ききれませんが、ご興味のある方は、ぜひ一度、参加してみてください!

 

そしてこのブックトーク企画、もう一つ興味深いことが。HPには、こんな一言。

「ご参加の方は、本一冊とワンドリンクをお求めください。本は、体に関するものでなくても構いません!」とあります。

本屋さんのトークイベントというと、新刊の刊行を記念して、など特定の本を売るために開催されるものが多いイメージですが、ここではどんな本を買ってもいいのですね。

「本に興味をもって手に取ってみて」という𠮷沢さんの思いがうかがえます。ただ、ブックトークは本当に面白くて、その日に紹介されていた本を読んでみたくなるのも事実。

10月のブックトークの様子です。ブックトークの日は、テーマと関連のある本が、大きなテーブルにズラリと並びます

この本屋さんをよく利用する、という方にお店の魅力を聞くと、いわゆる実用書を置いていないことをその一つに挙げていました。

小説、詩集、エッセイ、世界のさまざまな社会問題を扱ったルポルタージュなどが並び自分と向き合ったり、何かを考えるきっかけとなったりしそうな本が確かに多いのです。これは𠮷沢さんのこだわりでもあるそう。

 

「今って、世の中いろいろなことが起きているでしょう。ちょっとおかしいなと思うようなことも。だけど、過ぎて行ってしまう前に本を読んで、何が起きているのか知ろうとしてほしい。本を読んで、一緒に考えましょうよ、って思うんですよ。本に答えを求めるのではなくて、考える出発点にしてほしい」

 

確かに、今世の中で起こっているさまざまな問題は、一冊の本を読めば即解決、というわけにはいきません。それでも本を読めば、そこには考えるきっかけや、問題の向き合い方のヒント、何か行動を起こすために背中を押してくれる言葉があったりします。

 

この、𠮷沢さんの思いは、店名にも潜んでいます。Tangerinaとは、「エルマーのぼうけん」に出てくる「みかん島」のこと。英語で書かれた原作からとったのだそうです。

物語の中で、冒険の旅に出た主人公エルマーはみかん島にたどりつき、リュックにみかんをたくさんつめて、次なる目的地であるどうぶつ島へ向かいます。どうぶつ島に着いてからも、みかんを食べて栄養を補給します。

「本はみかんの代わりなんです。皆さんも、本という栄養をたくさんとって、冒険の旅に出てほしい」。

絵本コーナーには本と一緒にさりげなく、「エルマーのぼうけん」に出てくるりゅうが

本を選ぶ、ということはとても能動的なこと

さて、多様なデジタル機器が発展している昨今、「読書」の分野にも、電子図書館や電子書籍サービスなどが出てきています。小学校でも、児童が使うデジタル端末の中に、読書アプリが入っている時代。そんな中、「紙」でできた本ならではの良さについて、𠮷沢さんにお聞きしました。

 

「最近よく考えるのですが、つくづく自分は、『物』としての本が好きだなあ。絵があって、きれいな写真があって、その、わくわくした感じを手にとることができる。

手に取ることができるから、『おや?』と思った本をめくってみて、思わぬ分野の本と出会ったりすることもあるでしょう。たまたま巡り合うっていう感じが、いいんですよね」

物としての本一冊、一冊を、大切にするように並べてある店内。表紙から、わくわくさせられます

スマホを眺めていると流れてくる、いかにも「あなたはこれに興味があるでしょ」というような情報たち。

しかしそれらの情報は、閲覧履歴等から、ネットやアプリの裏側にあるアルゴリズムが、勝手に判断して流してくるもの。もちろんその中にも有益な情報はあるけれど、そこから意外性は生まれにくい、と𠮷沢さんはおっしゃいます。

「あ、私、こんな分野にも興味あったんだな」という自分自身への発見。そんな本とのめぐり合いは、確かに「物」である本だからこそ、作ることのできるものかもしれません。

 

本との出会いを作るため、𠮷沢さんはわりと頻繁に、本の配置を並べかえるそうです。そうすると、何度も来店しているお客様が、それまでずっと店内にあっても気づかなかった本を見つけて手に取って、レジに持ってきてくださる、ということがあるそうです。

こちらは、北欧にまつわる本コーナー。表紙の絵やタイトルに惹かれて手に取ると、もうそこから、旅は始まっていたりする

地域と共に

もともと、たまプラーザにはお買い物などで足を運ぶことが多く、この街が好きだったと言う𠮷沢さん。たまプラーザでお店を始めておよそ1年ですが、いかがでしょうか。

 

「ファミリー層の多い街、というイメージでしたが、意外だったのは、アクティブなシニア層がとても多いことです。そういった方々が、さまざまなことに興味をもっていて、いろいろな本を手に取ってくださいます。そういうお客様がいらっしゃる限りは、お客様が満足する本を置きたいな、と思います」

 

仕入れはご自身で行い、ほとんどが、売れなければ返品できる委託販売ではなく、買い取りとしているとのこと。仕入れの際に、あのお客さんにはこの本が喜ばれるかな、なんて常連さんのイメージがよぎることも。

オープンからわずか1年ほどの間に、着実にお店のファンを獲得している様子ですが、今後の展望についても、お聞きしました。

 

「もう少し、ファミリー層のお客様も増やしたいです。子どもたちに、たくさん本を読んでほしい、と思いますね。それから、地域の人々と一緒に歩んでいきたいという思いがあります。この地域に、必要とされるお店にしていきたいなと考えています」

 

そんなブックスTangerinaでは飲み物メニューにコーヒーが加わることもあります。ご近所にお住いの方で、コーヒーショップの屋号をお持ちの方が、コーヒーをふるまう日があるのだそうです。

 

ここまでお話を伺い、自分の暮らす街に、こんな本屋さんがあることが、とても幸運だな、と思いました。

これから来る寒い季節、温かい飲み物と一緒に、ブックスTangerinaでぜひ、「本から栄養」をとってみてください。

 

美しい言葉、自分にはなかった価値観、出会ったことのない人々の日常、経験したことのない人生。

そういう栄養をつけて、周りを見回してみると、世界は少し、違う姿を見せてくれるかもしれません。

Information

ブックスTangerina

住所:神奈川県横浜市青葉区美しが丘1-10-13USビル3階

TEL:090-1090-3905

E-mail : info@books-tangerina.com

Open: 平日 11:30〜19:30

土・日・祝日 10:30〜18:30

定休日 水曜日

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この記事を書いた人
鎌田奈津子ライター
青葉区の鴨志田と、アメリカのシアトルで育つ。子育てをきっかけに、森ノオトと出会い、読者に。3人の子どもたちを育てながら、日々のちょっとした幸せを見つけて暮らしている。好きなものは、本とコーヒー、チョコレート。家族で行くキャンプ。
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