あきやま幾代さんは服飾を学んだ後、当時の日本のファッション界をひっぱていた株式会社鈴屋にデザイナーとして入社。パリ支店設立の際に立ち上げメンバーとして渡仏し、パリでのファッションショーにもディレクターとして関わったという、輝かしい経歴の持ち主です。
ファッションの世界でバリバリと才能を発揮してきた秋山さんですが、実は“もったいない”精神にあふれたお方でもあります。
例えば、トマトの種を植えて苗を育てたり、夏みかんの皮でオレンジピールをつくったり……「捨てちゃえばゴミなのよ。もったいなくて捨てられない!!」と、とびきりの笑顔で、とても楽しそうに言います。多くの人が捨ててしまうようなものに少しだけ手を加え、自分のセンスを加えることで、見違えるほど新鮮なものに生まれ変わらせることのできるあきやまさんは、魔法使いのようです。モードなファッション雑誌から飛び出してきそうな「平成のもったいないおばさま」と呼びたくなるほどのキャラクター!
あきやまさんが制作するのは、古布を使ったリメイク服です。
“箪笥の肥やしと化し、邪魔者扱いされた着物”を生まれ変わらせます。
古くなった着物をほどき、直線縫いで洋服を仕立てるのですが、例えば一枚のブラウス用に何種類かの着物の生地を用いて、斜めに切り替えるなど、着物の生地の柔らかさ、柄の個性をいかした作品が並びます。
洋服の世界にいたあきやまさんが着物のリメイク服を作り始めたきっかけは、和裁をしていたお母様の着物をたくさん譲ってもらったこと。
試しに着物をほどき、洋服にしてみたら面白いもができたのだそうです。
最初のうちは洋服の型紙で制作していましたが、型紙に合わせて着物にハサミを入れることが「次第に辛くなってきた」といいます。そこで、曲線的な布の使い方をする洋服仕様ではなく、和服の真髄とも言える直線断ちでリメイクしようと思い立ったそうです。
もともと着物は直線断ちで、生地を無駄なく利用してできた衣服。一度仕立てた着物を、仕立て直しや縫い替えを繰り返し、最後はおむつや雑巾などにして使い尽くしていたという、美しさだけでない日本の伝統を今に伝えたいという思いも芽生えました。
「ほころびを繕ったあとなんかを見つけると、持ち主の慈しみの気持ちが伝わってきて、もう震えがくるほど心に響くときがあるのよ」と、あきやまさんは語ってくださいました。私はその言葉を聞き、あきやまさんご自身の衣服や布への愛情と、ご自分のフィルターを通してオシャレに再利用する才能に感動しました。
他にもあきやまさんならではの面白いエピソードがあります。
なんと、あきやまさんは制作時にメジャーが使わないというのです。講師を務める講座でも同様で、「個人によって体型は違っても、着物の寸法にそれほど差は生じていないのが不思議ね」とおっしゃいます。
たとえば、寸法を伝える時には、「袖2枚分、襟の布地で」といった感覚。
そんなあきやまさんは、「新品の反物にハサミをいれるのは苦手」だと言います。むしろ、着古された着物を使うという制約の中で、コラージュのように布合わせを楽しむように生まれたアイデアが、ブランド名の「布袷(きぬあわせ)」の由来になっているのだろう、と思われます。
ご自分のブランドで表現している「もったいない!」精神は、秋山さんのライフスタイルそのもの。衣・食・住に妥協なく、しかもオシャレさを忘れずにいる所が本当に素敵です。
取材の日、あきやまさんは北原編集長と私にこんな素敵なウェルカムプレートを出してくださいました。
「衣・食・住のうち、衣・食は個人の趣向を取り入れやすい」と秋山さんは言います。思うままにとことんこだわれる。でも、住まいとなると、家族の都合も考えないといけないから、なかなか難しい問題もある。
子育てを終えた今だからこそ、住まいにもあきやまさんらしい信念が隅々にいき渡っています。
実はこのイマドキなお宅はリノベーションされたと聞き、一緒にうかがった北原編集長とともに驚きの叫び声をあげてしまいました。
もともとは外観も古めかしく、家の中は小さな部屋で区切られ、典型的な日本風の間取りだったといいます。取り壊して新築すれば、3階建てにできるという選択肢もあるなかで、あえて2階建てで小さくつくりこみ、空間を最大限に利用し尽くした住まいです。
10年ほど「断捨離」をし続け、本当に必要なものを大切に生かしていく生活を実践されています。
もったいない!精神をもって生活することが、こんなにもファッショナブルで創造性に満ちていたなんて、発見だらけの取材となり大変刺激的な時間でした。
ものを買って消費するだけの生活ではなく、どこかにひと手間自分の手を加え、作り出す楽しみを感じる暮らし。あきやまさんに、たくさんのことを学びました。
取材から帰宅後、おもむろにミシンを出し、古くなったタオルでぞうきんを作りました。普段ならそれで終わるのですが、引き出しから余っていた花柄の端切れ生地を出し、ハート形にジグザグに縫い付けました。出来上がりは思っていた以上に可愛らしく、手伝いをする娘もうれしそう。ほんのひと手間なのです。ぼろぞうきんが、取り出すたびにちょっとうれしくなるものに変わりました。
エコ×センスで世の中はもっと楽しめる! そう実感しました!
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