この日も、突然でした。
「『山形食べる通信』のまつのりちゃんがやってくるから、対談したいんだ。よろしくっ」
そんな風に、『神奈川食べる通信』の赤木徳顕編集長は、思い立ったらすぐ、行動する巻き込み型。でも、彼がどうしてそんな風に動くのか、熱い気持ちを理解できるから、ついつい、私も「しょうがないなー」と言って、一肌脱いでしまうんです。
「この人のためなら」といつも思わせてくれる人、それが『山形食べる通信』の編集長・「まつのり」こと松本典子さん。彼女も、熱い。埼玉育ちの彼女が2012年の9月、生まれ故郷の山形・庄内と出会い直し、恋に落ちてしまい、わずか半年で移住を決意。庄内の食、風土、文化を伝えたい、残したいという気持ちで、ペン1本と情熱を武器に庄内のあちこちを巡り、取材して歩いているライターです。映画『よみがえりのレシピ』のプロモーションを一緒にしたのがきっかけで、それ以来、家族ぐるみの友情が続いており、私にとっては妹のような存在です。
赤木さんとまつのりちゃんが『食べる通信』をキーワードに、語り合う。これは応援しないわけにはいかないじゃないですか。
片や、地産地消カフェの先駆けとして、神奈川県で農業ベンチャーを興して首都圏の農業を10年来見つめてきた赤木さん。片や、都会から地方に移り住み、山形の人が見落としている地方の宝に光を当て続けるライター、松本さん。大胆で豪快な赤木さんと、可憐なまつのりちゃん、二人の対比でどんな対談になるのか、楽しみでなりません。
わたしがやるのならば、青葉区で。地産地消で、地域の生産者を応援しているオーガニックなお店がよくて、対談する二人と参加者の距離が近いお店がいいな……そんなことを考えた時に、ぱっと思いついたのが江田にある「maaru」さん。14席で、編集長を囲みながら、食と、対話を楽しめて、できたら双方の『食べる通信』に登場する食材を味わえるといいなあ、そんなワガママを言ってみたら、オーナーの安良城慎也さん、「いいですよ」と即答。それから、Facebookでイベントを立てたら、わずか1日で満席になってしまいました……。
対談当日、4月26日(日)は、お天気もよく、清楚な出で立ちのまつのりちゃんと、いつも通りラフな赤木さんと、江田駅改札で待ち合わせ。早々に参加者の方々も集まり、maaruのカウンターの椅子にお二人が座り、私は次女を抱っこしながら対談のコーディネートをしました。
赤木さんは、10年前に農業ベンチャーを立ち上げ、横浜は関内で「半径80kmの距離の食材を80%使う」をコンセプトにした地産地消カフェ「80*80」を運営し、「神奈川のおせち」なども仕掛けています。昨年の夏に『東北食べる通信』を知り、即、今や時の人となった編集長の高橋博之さんに会いに行って「神奈川版を創刊したい!」と説得、何と、11月には創刊にこぎつけたのです。
彼はずっと「新しいCSA(Community Supported Agriculture=地域コミュニティが支える農業のあり方)」とは何かを模索し続けてきました。神奈川の農家は、実は土地の転売などで食べるに困っているわけではないので、新しいことにも挑戦しやすい土壌があると言います。
一方、運命の赤い糸で庄内にたぐり寄せられた松本さんは、高齢化先進県の山形県で、農業の後継者不足の深刻さに胸を痛めていました。「自分は年金をもらっているから、何とか農業を続けられるけれど、農業はお金にならないから、子や孫には継がせられない」という農家さんの言葉を聞き、「山形には多数の在来作物や、農があるからこそ残る素晴らしい文化があるのに、地元の人はその価値に気づいていない。その根っこは“情報不足”なのではないか」と気づいたといいます。2014年の5月に『東北食べる通信』の存在を知り、そこから約1年かけてじっくりじっくり企画を温め、『山形食べる通信』を創刊したのは今年の3月のことです。
『神奈川食べる通信』はタブロイド版。「食材をどーんと大迫力で見せられる。3月号は漁師さんと一緒に船に乗り若布を収穫したんですが、その時の感動を読者の方にそのままお伝えできるのは、タブロイドならでは」と赤木さん。ただ待っているだけでは読者はついてこないので、通信を持って神奈川県のあちこちのカフェやレストランを練り歩き、読者との交流を持っていきたいと赤木さんは言います。
一方、『山形食べる通信』はB5判とコンパクト。「映画のパンフレットをイメージして、あえて小さなサイズにしました。何度も読み返したり、友達に見せたりしやすいのが特徴です」と松本さん。神奈川は食材を徹底解剖しているのに対し、山形は生産者のストーリー、レシピ、器の作家さん情報や湧水の話、山形県の歴史や文化についてのコラムなど、食を切り口にした総合的な情報誌ともいえる出で立ちです。
「『山形食べる通信』を、山形を楽しむためのパスポートにしてほしい。山形に何回も訪れてくれる、山形のファンをつくりたい。そのための装置が『山形食べる通信』なんです。また、食材を食べつないでいくための技術を伝えるために、6月から料理教室を東京で開催し、都内の飲食店でのイベントも予定しています」(松本さん)
同じ『食べる通信』でも、つくる人、土地、風土、切り口も異なり、展開も自由自在。これぞまさに「オープンソース」だなあ、と感じました。
さて、編集長の対談の後は、お待ちかねのランチタイムです。山形と神奈川からそれぞれ持ち込んだ食材を、maaruさんが見頃に料理してくれました。
・鰆の香味揚げ&うるいのスライス
・ジャンボキクラゲとカブ、厚揚げのトマト煮
・ペンネの高菜漬け炒め
・じゃがいもの新玉じょうゆがけ
・白成きゅうりと手亡豆のマリネ
・水菜の塩麹和え
・うるいと春大根の桜和え
・わかめと新玉ねぎの梅酢和え
・小松菜と庄内麩のナムル
・カブの葉と芋がらのナッツ和え
・里芋のクミン煮
・発芽酵素玄米×うこぎ
・青葉区産野菜と白成きゅうりの甘夏サラダ
・ネギと春大根のスープ
編集長たちも食卓につき、参加者の方々との交流も盛り上がり、あっという間に時間が経ちました。
毎日の「食」を整えること、「食」の環境や社会背景に思いを寄せること、「食」のつくり手に関心を持つこと……人は食べて生きるわけですから、「食」を切り口にしたメディアの可能性は無限大と言えます。
食べて、会って、話して、つながる、こうした機会を通して人と人、人と土地をつなげていく。編集者はまさに「媒介者」ということを、赤木さん、まつのりちゃんとの対談コーディネートから感じた、春の一日でした。
maaru
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