アート&クラフトの寺家を訪ねる旅Vol.2 木工家・湊哲一さん
森ノオトリポーターの湊光代さんの間伐や森のリポートで、「minatofurniture」と言えば、森ノオトではすっかりおなじみの感がありますが、実は主宰の湊哲一(のりかず)さんそのものについては、じっくり伝えたことはなかったような気がします。キタハラと湊さんの付き合いは、もう6年になるでしょうか。時を経るに連れてたくましくなり、独自の道、オリジナリティを切り開いている湊さんです。

「minatofurniture」の工房があるのは、寺家ふるさと村でも奥まったエリア。民家と、田んぼと、工場が点在する道沿いに、1軒の古いアパートがあります。その名も「木工アパートメント」。5人の木工作家で1軒のアパートをシェアして7年前に立ち上げた工房兼アトリエ兼木工教室です。「木工」と彫られた木が入り口で出迎えてくれました。

 

木工アパートメント。1階に大きな道具があり、みんなで共有している。2階はアトリエと木工教室

 

木工アパートメント。1階に大きな道具があり、みんなで共有している。2階はアトリエと木工教室

 

湊哲一さんは、秋田杉で有名な秋田県能代市出身。1977年生まれで、キタハラの同級生です。寺家の作家さんでは、加生亨さん(昨年町田市に移転)?や、前回このシリーズでご紹介した澤岡織里部さんも同じ年齢で、そのパートナーも含めると、同世代がかなりいます。これも一つの時代感、と言えるでしょう。

 

 

湊さんが木工の道に進んだのは、大学卒業後のことでした。店舗デザインをしてみたいと製図の専門学校に進み、念願かなってデザイン会社で腕を振るうことになるのですが、店舗デザインの仕事は「つくっては壊す、の繰り返しで。どこかに割り切れない思いがあった」と、湊さん。

 

湊哲一さん。江戸指物の技術を駆使し、端正なデザインの家具を得意とする

 

元々、自らデザインをしたり、手を動かすことが好きだったこともあり、家具づくりへの憧憬が募っていきます。会社を飛び出して木工教室の門を叩き、そこで運命の出会いが。意気投合した仲間5人と一緒に、寺家ふるさと村に1軒のアパートを丸ごと借り、そこを「木工アパートメント」と名付けて、それぞれ、家具の製作を始めました。1階に大型の機械や道具があり、2階は時にギャラリーになり、アトリエになり、1部屋は木工教室として運営。現在で7年目です。

 

ヤマザクラ材のローテーブル。秋田出身の人と出会い注文を受けたら、秋田県産のヤマザクラが手に入った

 

5人で1つのアパートを借りて家具づくりをしているとなると、「チーム?」と思うのですが、そうではありません。一人ひとりが、別々の工房として独立しており、作風も、運営も、バラバラです。同じ場所で、大きな機械を一緒に使う、という割り切った関係。もちろん公私ともによき仲間ではありますが、それぞれ独自の作家像をつくっています。

 

キタハラが初めて湊さんに出会ったのは、いまから6年前。雑誌『田園都市生活』で寺家ふるさと村を取材した時のことでした。あの時はまだ初々しさの残る湊さんの表情は、光代さんというパートナーを得て、子どもにも恵まれ、どんどん精悍さを増していきました。

 

このご時世、木工だけで食べていくのって、なかなか大変なことです。でも、湊さんは木工1本で妻子を養いつつ、自分の夢をどんどん実現しています

 

道志村の間伐材でつくった一輪挿し(奥)と、横浜の公園の伐採木の箸置き(手前)

 

湊さんの活動の一つに、水源の森をクラフトとデザインのチカラで守っていくことがあります。2008年の横浜港開港150年記念イベントで、横浜市の水源でもある山梨県道志村の間伐材を使ったモノづくりを始め、ワークショップをしながら水源の森を守る大切さを伝える活動を続けています。

 

間伐材のマイアイススプーンづくりや、間伐材を組み合わせたスタイリッシュな一輪挿しなどが、その一例です。

 

それから、横浜の街路樹や公園の木を剪定した時に出る木材。これらは廃棄にコストとエネルギーがかかるのですが、これを有効活用しようと、美しいデザインの箸置きをつくるワークショップも開催しています?。

 

この箸置き、とてもカワイイし、カッコいい。造園業者さんが、「普段捨てていた木がこんな風に生まれ変わるんだ」と、驚いていたというのもうなずけます。

 

間伐材で箱形の打楽器「カホン」をつくるワークショップも好評です。昨年の寺家回廊や、今年は奥多摩で福島の子どもたちのリトリートのためにイベントを開催。音楽と木の幸せな関係づくりに貢献している湊さんです。

 

「いま、本業が回らないくらいに、ワークショップや、木と森の啓発の活動が増えていて」とうれしい悲鳴の毎日です。

 

湊さんが胸につけているのは、秋田杉の美しい木目を生かしたペンダント。光代さんとおそろいでつけることも多い

 

湊さんの取り組んでいる様々なテーマ。それは、すべて、森と木と水と、人の暮らしの営みの循環と関わっています。水をたくわえ清らかにして、川の源になる森。森とのつきあい方を、木工を通じて伝えてくれる湊さん。ワークショップが忙しくなるほどに、本業の家具や、木の小物への依頼も増えて、「いま、異常なくらいに忙しいけれども、毎日が楽しいですね。何かアクションを起こすたびに、人と出会い、つながりが生まれてくる」と、手応えを感じている様子。

 

そんな湊さんの家具や小物は、とても細やかで、端正。デザインをおこして、木を切って、金物や接着剤で組み立てる……それだけでは終わらない仕事です。江戸指物といって、木をほぞ組で組み立て強度をつける職人技を習得し、目には見えないところまで細やかな気配りをほどこしています。この日も、隠し蟻組みという木組みを見せてもらいましたが、モダンでシャープなエッジが際立ち、日本の木工技術を現代に存分に生かしています。

 

キタハラは、木の雑誌をやっていたので、木のクラフト製品にふれる機会も多かったのですが、湊さんの木組みの技術力はすばらしいです。初めてあった6年前から格段に進化し、いまでは「minatofurniture」の看板も、一つのスタイルとして確立できた感が。

 

30種類の国産材を同じ形に象った「つみき」。外国産材バージョンもある。一つひとつ色、木目、重みが違う

 

ワークショップ等での活躍が広がるにつけ、湊さんも、本人がもっている本来の才能が開花し、イキイキと大河に泳ぎ出ています。ワークショップは、湊さんの発信の大きな機会。元々、デザイン事務所で磨いた、CGや図面でプレゼンテーションするノウハウ。それをホームページに生かし、こまめに発信を続けて、いま、リアルの場で様々なクリエイターと互角に渡り合っています。

 

人が人を磨き、育てるとすれば、今度はそのチカラを森や水、そして故郷に返していきたい……。すでに秋田とのネットワークも強固で、秋田杉の曲げわっぱの伝統技術をいまに生かしたフォトフレームなど、秋田杉のオリジナルプロダクトづくりにも着手しています。

 

「秋田杉の産地出身、という誇りをもって、ふるさと・能代を盛り上げたい。寺家での家具づくり、横浜の水源の森を育むプロダクトづくり。いまは、ともかく、全部、全力でやりたいんです。やりきってみたときに、本当に、ゆっくり、じっくり、自分の家具づくりに取り組むことになるのかな」

 

……いまは、ともかく、走るとき。同世代の湊さんの活躍に刺激を受けながら、一緒に、青葉台と、東北を、元気にしていきましょうね!

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この記事を書いた人
北原まどか理事長/ローカルメディアデザイン事業部マネージャー/ライター
幼少期より取材や人をつなげるのが好きという根っからの編集者。ローカルニュース記者、環境ライターを経て2009年11月に森ノオトを創刊、3.11を機に持続可能なエネルギー社会をつくることに目覚め、エコで社会を変えるために2013年、NPO法人森ノオトを設立、理事長に。山形出身、2女の母。
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