年の瀬も押し迫った2014年12月26日、世間はトヨタの燃料電池自動車(FCV)・MIRAIの話題で持ち切りのころ、今まさに旬の燃料電池をつくっちゃおう! という実験を、森ノオトとたまプラーザぶんぶん電力の共催でおこないました(ヨコハマ・エコ・スクール事業)。場所はおなじみ、アートフォーラムあざみ野です。
この日の先生は、東芝未来科学館の佐藤奈央子さん。身振り手振りとわかりやすい例えで、燃料電池の仕組みを教えてくれました。
「電池には、使い切りの一次電池、充電可能な二次電池、燃料電池の三種類があります」と佐藤さん。燃料電池は燃料ガスを供給すればいつでも発電可能で、今は石油などから水素を取り出し空気中の酸素と化学反応させて発電する技術が主流です。
さっそく、燃料電池をつくってみます。実験はとても簡単。次の6ステップです。
(1) 食塩を水に溶かす
(2) 備長炭にアルミホイルを巻いて、ねじる
(3) 備長炭を割り箸ではさみ、食塩水に入れる
(4) 備長炭と乾電池を動線でつなげる
(5) 水の電気分解をおこなう
(6) 備長炭にたくわえられた水素と酸素で電子オルゴールを鳴らす
上の写真は、水の電気分解の真っ最中。水だけでも電気分解できますが、食塩を入れることによって水が電子を帯びてイオン化傾向を示し、電気が通りやすい「電解質」になります。この電解質に電圧をかけることで、水素イオン(陽イオン)と水酸化物イオン(陰イオン)にわかれるのですね。
水を化学記号で表すとH2O(2は小さい文字です)で、水の化学分解の式、覚えていますか?
H20→H++OH-
2H2O→ 2H2+O2
おお……、なんだか懐かしい!
そう、水に電気を通すことで、陰イオンと陽イオンがそれぞれの水素と酸素の原子にくっついて、水素と酸素にわかれるんですね。
備長炭でつくった電池のプラス極には酸素が、マイナス極には水素がくっついて、多孔質(穴がたくさん空いている状態)の備長炭に水泡の形でたくわえられています。
続いて、乾電池を外して、導線にオルゴールをつなげます。すると……
誰もが知るかの名曲『エリーゼのために』が会場のあちらこちらで鳴ります。3分が経つころ、気持ちよく流れていたメロディーがだんだんスローテンポになり、元気がなくなってきます。水槽を見てみると、なるほど、気泡が減っているような気がします。いわゆる電池切れですね。
「水から電気が生まれるんだ! 今年、いちばん感動したかもしれない」
「ほかにも電池になる液体ってあるんですか?」
わずか30分ほどの実験でしたが、参加者の皆さんの感動と興奮はさめやらず、予定時間を超過しての質問の嵐でした。子ども向けの化学実験で有名なのが「レモン電池」。レモンを電解液と見立て、10円玉(銅)をプラス極に、1円玉(亜鉛)をマイナス極に見立てて導線をつなぐと、同じようにオルゴールが鳴るそうです。
「レモンやみかんのほかに電解液になる食べ物はあるんですか?」
との問いに、佐藤さんは
「実は、お肉でも実験したことがあります。お肉も電解液になるんです!」
この答えには、一同「おおー!」
「じゃあ、人間電池なんてできるんじゃないかしら?」
……「できますよ! だけど、少ししか発電しませんが」
今、注目されている水素エネルギー。今は石油やガスを改質して水素を取り出し、空気中の酸素と反応させて発電し、その廃熱を給湯のための熱源にする「家庭用燃料電池」が普及しています。いずれ、太陽の光でつくった電気から水を電気分解して水素を取り出し、空気中の酸素と反応させることで、化石燃料を全く使わない究極のゼロエミッション(廃棄物を出さない)発電も可能になると期待されている技術です。燃料電池自動車は、排気ガスやCO2を排出しない究極のエコカーとの呼び声も高く、今後の普及が期待されます。
こうした最先端の技術も、元をたどれば実は、身の回りにある素材から生まれている。エレキ女史の連載「琥珀の子 電気のおはなし」でも、テクノロジーの元を発見した人たちの人生物語にせまっています。
地球温暖化の進行や、原発事故の影響から、身の回りに必要不可欠なエネルギーについて、改めて考える機会を得た私たち。太陽の光や風をエネルギーに変える技術はすでに生まれているけれども、もしかしたら今後、誰も気づかなかったような素材や自然から、新たな発明が生まれるかもしれませんね。
エレキラボに参加してくれた子どもたちの中から、新しい発見、そして発明の芽が吹いてくることを願って、今後も楽しい企画をお届けしてまいります。
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