Vol.18 男子二人のフードユニット「つむぎや」の金子健一さん・マツーラユタカさんです!
いまや空前の男子弁当ブーム。その火付け役とも言えるのがこのお二人、注目の男子フードユニット「つむぎや」の金子健一さん、マツーラユタカさんです。初の著書『つむぎやの男子弁当部』から4年、この6月に発売を控えている『のっけめん100』で、著書や料理監修を手がけた本を数えていくと、ちょうど10冊目。その他にも雑誌、ウェブメディア、ラジオなどで大活躍。たまプラーザ団地にあるつむぎやのアトリエを訪ね、お二人の「食」に対す思いをうかがってきました。

食で人と人、心、笑顔をつむいでいく。

ーー 書店の料理本コーナーに立ち寄ったり、雑誌を眺めていると、あちこちで目にする「つむぎや」の名前。たまプラーザを拠点に活動されていると聞き、ご縁を感じています。お二人がユニットを組むようになったきっかけについて教えていただけますか。

 

金子さんにお気に入りの著作をうかがったら、『つむぎやのコンロ1口、絶品ごはん』とのこと。表紙は、丼からはみ出たキャベツが食欲をそそる焼き肉丼のビジュアル。バンッ!と料理を器に盛りつけた時の湯気やシズル感が本全体からダイナミックに伝わってくる。

 

金子健一さん(以下敬称略): 元々僕は、大学時代に丸4年間、日本料理店でバイトをしていたんです。ホールのつもりで面接を受けたら、すぐにコック服を手渡されて「えらいところにきた」と(笑)。最初は皿洗いから始めて、2年目にはまかないをつくるようになりました。厳しい親方に叱られたり箸をつけてもらえなかったりと、悔しい思いもしましたが、だんだん認められて調理を担当するようになり、在学中に調理師免許もとりました。ただそのころはコピーライターになりたかったので、料理の道に進むとは思っていなかったんです。

大学4年のときに宣伝会議のコピーライター養成講座に通っていたのですが、就職浪人が決まって、宣伝会議でバイトをしながらひとつ上のクラスの上級コースに通うことになったんです。そこで出会ったのがマツーラでした。

結局、僕はコピーライターとして3年ほど勤めたあと、パン職人として千駄ヶ谷のベーカリーで修行をスタートし、中目黒のお店では店長を務めるなど、食の世界に入り、マツーラはコピーライターとしてライフスタイルブランドの仕事を手がけていました。時々、仲間内でホームパーティーをする時に二人で料理をつくって振る舞ううちに、それが少しずつ評判になり、ケータリングなどの仕事が入るようになりました。

フードユニット「つむぎや」を結成して7年が経ちますが、僕は和食や揚げ物、粉もの系が得意で、マツーラは海の幸が豊かな山形の庄内地方の出身とあって魚料理が上手ですね。

 

ーー 「つむぎや」のユニット名の由来は?

 

マツーラさんは、102個のおにぎりのレシピを提案した『あっぱれ!おにぎり』。マツーラさんの奥さま・ミスミノリコさんがスタイリングを担当した。「おにぎりは手で結びます。アクションとしてのおもしろさと、手のひらに氣がこもるから、日本人のソウルフードとも言えますよね」

 

マツーラユタカさん(以下敬称略): ホームページにも書いているのですが、「食を通して、人と人とを、そして満ち足りたココロを紡いでいく」という思いを込めています。

ホームパーティーでは、よく「つむぎや流手巻き寿司パーティー」を提案します。ごま油と塩を加えて少し濃いめの味のすし飯を用意して、手巻き寿司の具は「お気に入りのごはんのお供やおかずを持ってきて!」と参加者に呼びかけるんです。そうすると、炒め物や、チーズ、きんぴらなど、その人の個性が表れたおもしろい具材が集まってきます。具材をネタに話が弾み、「この炒め物はお母さんがよくつくってくれた……」など、一人ひとりのストーリーが浮かび上がってきますし、新しい美味しさとの出会いもあるんです。

パーティーもそうですし、大好きな人たちと食卓を囲む時間って、美味しい食べ物を触媒にしていろんな物語や、楽しい時間、そして美味しくてうれしい気持ちが広がっていく。そんな場を生み出していきたいと思っています。

 

 

ーー 料理家としてのお二人が使っている、おすすめの道具を教えてください。

 

金子: 「クックワン」というブランドのフライパンです。柄に溝があってそこに菜箸が置けて、とても使い勝手がよいですね。『つむぎやの男子弁当部』の副題は「フライパン1つあればいい!」ですが、道具は家庭で使いやすいものがいちばんです。

あと、パンケーキなど粉物を焼く時には、岩手県の「釜定」の南部鉄器を愛用しています。

 

マツーラ: 私はすり鉢です。ごまや小エビなどをフライパンで炒って、炒りたてをすり鉢であたると、とても香ばしく、ちょっとした料理もとても美味しくなります。大は小を兼ねるので、大きめの陶器のすり鉢を愛用しています。ごはんを炊くときには「平和」の圧力鍋を使っています。

 

ーー 器のセンスも素敵! 盛りつけなどで気をつけていることはありますか?

 

金子: 盛りつけについては、「美味しそう!」という声が挙がり、食べる人が喜んでくれるように、適量で、適当に、バランスよく、を心がけています。あと、「男子」らしさを出そうと、最近はガッツリと、ダイナミックさも意識していますね。

 

マツーラ: 料理の彩りが大切なシチュエーションもありますが、それが全てではないと思っています。季節の食材を使っていると、必ずしも色のバリエーションが豊富にならないこともありますから。特に、家庭でつくる日常のごはんの場合は、無理してまで彩りを追求する必要はなく、旬のものを採り入れることで自ずと決まってくる季節の色彩を楽しんでいます。

 

この日いただいたお料理は、車麩の唐揚げ、人参とセロリのオレンジドレッシングサラダ、豚のスペアリブの煮物、干し大根・芋がら・人参・お麩の煮物、蒸しスナップいんげんをオリーブオイルとエジプト塩で

 

レシピはオープンソース。「?」から発見して美味しさを提案する。

 

 

ーー お二人のおすすめの常備菜やお好みの調味料は?

 

たまプラーザ団地の最上階、つむぎやのアトリエ。道具の使い方や手さばきを見ていると、参考になること多々

 

 

金子: おすすめの常備菜は、「高野豆腐のえびゴマ味噌和え」です。まず白ごま、小海老をフライパンでかるく煎ってからすり鉢ですり、白味噌、きび糖、酒、みりん、醤油、水をひと煮立ちさせた特製の味噌をつくるんです。その味噌に、水で戻した高野豆腐(水気をきったもの)を細かくダイス状にカットして和えます。鶏肉や小松菜と合わせても美味しいですよ。

あと調味料ではたまプラーザのオーガニックカフェ・ソワ[礎・波]に売っている「よっちゃん南蛮」! これは、チャーハンや唐揚げのタレなど、ちょっと加えるだけで料理にパンチが出るので、1本常備しておくといいですよ。

 

マツーラ: よっちゃん南蛮は、塩気や辛みを効かせるのに重宝するよね。

 

(オーガニックカフェ・ソワ[礎・波]リンク)

https://morinooto.jp/denennavi/tabearuki/vol5–sowa-.html

 

ーー 旬を意識して料理をしていると、冬だったら大根とか、春先は葉ものとか、食べきれないくらい同じ食材が重なることがありますよね。主婦的には、普段ある食材をどう使い切るかは結構悩みどころですが、何かいいアイデアはありませんか?

 

マツーラ: 旬の時期の旬のもの、そればかりが続くのは、カラダにとっても、決して悪いことじゃないですよね。

 

金子: 「ホームパーティーをして、みんなで食べきろう!」かな。冬だったら鍋。圧倒的に量を食べられます。

 

マツーラ: 僕たちは「レシピはオープンソース」だと思っています。例えばきんぴらなら、ごぼうと人参というのが定番ですが、僕らがよくやっているのがれんこんとミックスナッツのきんぴら。ミックスナッツは食感のアクセントになるし、れんこんも輪切りじゃなくて、拍子木切りにすると食感も変化して印象が変わります。春先ならウドとかたけのことか、何の野菜でやってもいいんです。「この野菜って、この料理に入れていいの?」という固定概念を打ち破っていきたい。「この食材や調味料って組み合わせたらどうなるの?」という「?」を、どんどん試してみて、レシピとして提案して、新たな食の発見を手助けできたら、と。

 

金子: えびゴマ味噌和えはヒットだよね。発見した! と思いましたから。あと先日ラジオでも紹介した「切り干し大根のアラビアータ」は最高。ほかにも甘酒や酒粕をホワイトソースの代わりに使ったり、いまならやっぱり塩麹をいろんなレシピに組み合わせているかな。

 

マツーラさんは日本酒好き。北欧アンティークの家具にぴったりと納まった酒器はどれも渋く美しい

 

ーー 高津区在住の金子さん、たまプラーザ在住のマツーラさん。お二人とも森ノオトエリアの住民ですが、この地域の魅力とは?

 

マツーラ: 伝統や歴史が浅く、古いものが少ないので、よくも悪くも色がない。だからこそ、住んでいる人がその魅力をつくり、いろんな風に変わってゆける、おもしろい街だと思います。

 

金子: たまプラーザはファミリーのイメージがあって、賑やかですよね。たまプラーザテラスとか、すごくオシャレだし。そんな中で、ソワのようなユニークな個人店があって、そこに長時間いると、店主の個性と人と人とのつながりが見えてきて、おもしろいなあと思います。

 

 

ーー お二人は今後、どんな風にお仕事を展開したいと考えていますか?

 

マツーラ: 日本全国の「地方」とつながる仕事を、もっとやっていきたいと思います。例えば今日お出ししたスペアリブのお肉は、福岡県のリバーワイルドハムファクトリーのもの。代表の杉さんは、養豚から食肉の加工まですごくこだわっているのですが、極め付きは秋に出る「柿豚」。出荷2カ月前から柿を食べさせ続けるんです。そうすると肉質が甘くフルーティーになる。これが絶品なんです。しかも柿は、同じ地区で同年代の若者が作っている減農薬の柿。キズ物になって出荷できなくなってしまったものを豚の飼料として役立ているんです。杉さんは、そんな風に同世代の農家や生産者だけでなく、同じ地域に住む陶芸や木工などのモノ作りにかかわる作家たち、そして料理家やデザイナーなどといった人たちと、深いネットワークを形成していて、すごく楽しく刺激を受けました。自分たちも、全国各地を巡り、食と人と、様々な出会いを果たしていきたいです。

 

金子: マツーラと同じく、全国の郷土料理に興味がありますね。その土地のおばあちゃんに料理を教えてもらってつくり、つむぎや流にアレンジした郷土料理。それを全国で展開できたら……と思います。

 

 

ーー つむぎやのお二人が、全国で様々な人と人、人と食の出会いをつむぎ、たくさんの地域で笑顔の種まきをする未来が見えてきます。今日はありがとうございました。

 

金子健一さんとマツーラユタカさん。「金子は天然キャラ。とてもピュアで真っすぐな人」(マツーラ)。「マツーラは気遣いの人。そしてちょっとしたことでもサプライズを用意して、人の喜びをつくってくれる人」(金子)

 

□取材を終えて……

マツーラさんは山形県鶴岡市のご出身で、同じ山形県民としてお会いする前から親近感を覚えていました。私は内陸の出身ですが、地方ごとに様々な在来作物と、それに伴う郷土料理があって、山形県の地図を見ていると食にまつわる歴史と文化の宝地図に見えるんです。

そして、森ノオトエリアでもいま、この地域の宝探し、在来作物や郷土料理を探ろうという人たちがいて、同世代の仲間たちがちょっとずつ活動を始めています。この地域も、以前は武蔵国、都筑郡、橘郡……様々な歴史と食文化があって、いまにつながっているのですよね。

もの静かで知的なマツーラさん、明るくてピュアで真っすぐな金子さん。料理という分野で様々なクリエイティビティを発揮しているお二人にいつも刺激を受けながら、「いまの地元」を食で楽しくつむぐ何かにご一緒できたらな、と思っています。

 

 

Information

つむぎや(金子健一・マツーラユタカ)

10年来の親友の二人が、2005年に男子料理ユニット「つむぎや」としてフードユニットを結成。「食を通して、人と人とを、そして満ち足りたココロを紡いでいく」をテーマに、書籍や雑誌、ラジオやインターネットメディアなどクリエイティビティあふれるレシピを提案している。

二十四節気のレシピを提案する「800ごはん」を連載中。

http://800foreats.com/gohan/

著書に『つむぎやの男子弁当部』『あっぱれ!おにぎり』『がっつり!粉ものごはんの本』など多数。6月には『のっけめん100』が主婦と生活社より発売予定。

 

金子健一

「つむぎや」の看板料理人。学生時代は和食の腕を磨き、その後はパン職人として人気パン屋の店長も務めた。パン、パンケーキ、スコーンなどの粉ものメニューや和食、揚げ物を得意とする。

 

マツーラユタカ

物書き料理家。「つむぎや」の活動とともに、ライター業ほかクリエイティブワークも多々。美味しいものを真ん中に、つむいで、ほどいて、満ち足りた時間を提案する。

 

つむぎやホームページ
http://www.tsumugiya.com/

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この記事を書いた人
北原まどか理事長/ローカルメディアデザイン事業部マネージャー/ライター
幼少期より取材や人をつなげるのが好きという根っからの編集者。ローカルニュース記者、環境ライターを経て2009年11月に森ノオトを創刊、3.11を機に持続可能なエネルギー社会をつくることに目覚め、エコで社会を変えるために2013年、NPO法人森ノオトを設立、理事長に。山形出身、2女の母。
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