第8回・市民力の象徴・風車が横浜の環境行動のシンボルに

横浜市風力発電施設「ハマウィング」。神奈川区の瑞穂埠頭に立地し、みなとみらい21地区からの眺望もよい(写真提供:横浜市環境創造局)

 

ヒュン、ヒュン、ヒュン。

雨空の中、かすかに、しかし力強く空を切る音がする。ゆっくりと回転する翼。横浜市神奈川区の瑞穂埠頭にある横浜市風力発電施設「ハマウィング」の下で、40名超の見学者が風車を見上げている。「思ったより音がしない」「大きくて見上げていると首が疲れるね」など、口々に感想を述べている。

「今吹いている風は風速5.5メートルです。発電電力は刻々と変化して、今は1200kWくらい。これは、一般家庭約3000世帯分の電力に相当します」

雨の中、懸命に声を張り上げて見学者に風車の説明をしているのは横浜市戸塚区在住の大場真弥さん。横浜市内で環境活動を行う任意団体「横浜市地球温暖化対策推進協議会(通称「チームCO-DO 30(コードサンジュウ)」)のボランティアスタッフで、この日、見学会のガイドデビューを飾った。手に持った資料にはたくさんの線が引かれていて、懸命に勉強を重ねてきたことがわかる。

 

横浜市地球温暖化対策事業本部の岩間隆男係長。「ハマウィングは横浜市の環境行動野シンボル。PRを強化していきたい」と意気込みを語る

 

ハマウィングが立地している瑞穂埠頭は、横浜市の港湾施設内に位置し在日米軍の輸送施設に隣接しているため、一般市民が立ち入ることができない。ほぼ毎月1回のペースで開催している見学ツアーでのみ、風車を間近に見ることができる。

見学会は「チームCO-DO30」のボランティアと、NPO法人ソフトエネルギープロジェクトのスタッフが開催している。市民自らが風力発電や自然エネルギー、横浜市の環境政策について勉強し、参加者と同じ目線に立って環境について伝えていく。見学会は市の広報で募集するだけだが、常に定員の5〜6倍の応募がある。

「風車見たさ」がいちばんの動機だが、もう一つ、ハマウィングの協賛企業の工場見学も参加者にとっては大きな魅力。この日はJX日鉱日石エネルギー(旧新日本石油)の根岸製油所の見学バスツアーが併催されたが、普段なかなか入ることのできない工場内部を見学できるとあって、それ目当てで参加する人も多い。

 

デンマークのヴェスタス社製風車で、年間発電予想量は約300万kWh。風速4m/s以上でローターが回転、25m/sの強風で羽根が水平になり回転が止まる

 

ハマウィングが完成したのは2007年3月のことだ。「横浜市の環境行動のシンボルとして、地球温暖化対策と自然エネルギー利用促進、市民の啓発に役立てようと、風況調査を行って瑞穂埠頭に設置した」。

こう話すのは、横浜市環境創造局地球温暖化対策事業本部地球温暖化対策課担当係長の岩間隆男さん。年間4000万人以上が訪れる首都圏有数の観光スポット・みなとみらい21地区の臨港パーク正面に大きく翼を広げるハマウィングの姿は、横浜の新しいランドマークとして市民に親しまれている。

ハマウィングは最高到達点が118メートル、直径80メートルで、風力発電設備としては国内最大級。定格出力は1980kW(風速15m/秒)。年間の発電電力量は約300万kWhで、一般家庭約860世帯分の電力を賄う。これによるCO2削減量は100万トンで、高さ4〜5メートルの落葉広葉樹4500本が吸収するCO2量に相当する。

 

風車のタワーの下でガイドが発電電力量や設備について説明。タワー内部に入ることもできる

 

ハマウィングの大きな特徴は、市民と企業、行政の共同事業で成り立っていること。建設費総額約5億円のうち、約45%はNEDO(独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の補助金、約55%に相当する住民参加型市民公募債「ハマ債風車(かざぐるま)」を発行し2億8000万円分を市民が出資した。

驚くべきは、ハマ債風車がたったの3日で完売したこと。1口1万円からの買いやすい公募債であり、「子どもの進学の記念に購入した」「環境貢献したい」などの動機から、350名が即座に反応して購入に動いたことは、特筆に値する。

「ハマ債風車の即時完売は横浜市民の環境意識の高さを象徴する出来事と言える」と岩間さんは驚きを隠さない。

こうした、市民との恊働の実績が評価されたこともあり、ハマウィングは地域における新エネルギー導入の好事例として、2008年度には「新エネ百選」に選ばれた。

 

風車見学後、JX日鉱日石エネルギーの根岸製油所を訪れた。原油からガソリンやナフサ、重油などを精製する工程、製油所の環境対策などをスライドで紹介

 

もう一つ、市民力とともになくてはならないのが企業との恊働だ。ハマウィングの事業運営費は協賛企業「Y(ヨコハマ)-グリーンパートナー」が担っている。

キリンビールを筆頭に、日産自動車、新日本石油、ファンケルグループ、日本郵船、三菱地所、セガなど横浜とゆかりの深い企業など15社・グループが、年間4500万円の運営費を協賛。年間の売電額(2009年度は約900万円)と協賛金を合わせて、メンテナンスなどの運営費、市債の償還を特別会計で賄っている。

協賛企業が得られるメリットは、第三者認証機関である「グリーン電力認証機構」が発行する「グリーン電力証書」を得てカーボンオフセットに利用できること。また、Y-グリーンパートナーでの実績を、企業の社会貢献としてCSR報告書に記載する、あるいは見学会で市民に直接環境活動をアピールするなどして活用できる。

この日、見学会を担当したJX日鉱日石エネルギー根岸製油所総務グループアシスタントマネージャーの北村武晴さんは、「普段なかなか伝えきれない製油所の仕事を、こうして市民の方々に直接お話しできるのは貴重な機会。事業所がゼロエミッションのためにいかに努力を積み重ねているのかを伝えられたのではないか」と話す。

 

 

このように、環境への関心が高いとされる横浜市民だが、いかにして環境意識を醸成していったのだろうか。

横浜市民の誰もが知る合言葉に、「G30(ジーサンジュウ)」というものがある。これは、横浜市が提唱したゴミ削減運動で、2010年度における横浜市全体のゴミ排出量を2001年度比で30%以上削減するというものだ。合言葉の先には「循環型社会の形成」という壮大な目標がある。

それまでの横浜では、大都市ならではの特徴でもあるが、ゴミの分別意識が低く、燃えるゴミもプラスチックも一緒くたに出すような状態だった。ところが「G30」以降家庭に細かい分別ルールを課し、ゴミ収集車によるアナウンスなども奏功して、2005年には5年も前倒しでゴミを30%削減するという目標を達成することができた。今や横浜市では、ゴミの分別・リサイクルは当たり前、という意識が根づいている。

 

 

環境は、ただ学ぶだけではなく、「行動」しなければ変えられない。横浜市では「G30」の実績をもとに2008年、「環境行動都市」を標榜し、新たなキーワードをつくり上げた。

それが「CO-DO30」である。「横浜市民1人あたりの温室効果ガス排出量を、2004年度比で2025年度までに30%以上削減する」という目標を掲げ、市民行動を盛り上げ、脱温暖化のビジネススタイルや、再生可能エネルギーの飛躍的拡大、徒歩や公共交通で移動できるまちづくりなどを先導していくというものである。

さらに横浜市は同年「環境モデル都市」として国から選定され、今年度には横浜市と市内企業共同で、日本型スマートグリッドの構築を進める「横浜スマートシティプロジェクト」をスタート。今年11月に開催されるAPEC首脳会議の開催地であるみなとみらい21地区で、次世代のスマートハウスや電気自動車を展示し、世界に発信する予定だ。

「G30、ハマウィング、CO-DO30などが環境モデル都市やスマートシティプロジェクトにつながり、環境行動都市・横浜を世界に発信できる。市民力なくしてはできないことだ」と岩間さんは語る。

 

 

ハマウィング見学会は半日の行程を終え、17時前に解散した。横浜市保土ヶ谷区から参加した女性は、「あれだけ大きな設備をつくってもそれほど多くの電力を賄えるわけではないことがわかった。デンマークのように自然エネルギーを増やすにはどうしたらいいのだろうか」と感想をもらした。神奈川区から来た男性は「事業採算性が合わないなあ。もっと効率的に発電できるような方法を考える必要がある」と手厳しい。それぞれが自然エネルギーの現状と普及拡大策について考えを巡らせる機会になったようだ。

ボランティアスタッフの錦織順子さんは、「家庭で細かな節電をするだけでは意味がないと思っていたけれども、それでは環境は変わらない。今日からさっそく行動する、という参加者の声を聞くことができた。ボランティア冥利に尽きる」と相好を崩す。

横浜市の新しいシンボルマーク「Y」の字には、ハマウィングのイメージも組み込まれているという。大都市で広く環境行動を進めていくための牽引役として、ハマウィングが果たすべき役割は大きい。

 

北原 まどか
この記事を書いた人
北原まどか理事長/ローカルメディアデザイン事業部マネージャー/ライター
幼少期より取材や人をつなげるのが好きという根っからの編集者。ローカルニュース記者、環境ライターを経て2009年11月に森ノオトを創刊、3.11を機に持続可能なエネルギー社会をつくることに目覚め、エコで社会を変えるために2013年、NPO法人森ノオトを設立、理事長に。山形出身、2女の母。
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