本に遊びにおやつに宿題。 そして音楽会も?「ぬくぬく文庫」
「ペタペタ」「ポコポコ」「カリカリ」「ぱくぱく」……。たまプラーザの住宅街にある「ぬくぬく文庫」からは、なんだか楽しい音が色々聞こえてきます。面白いことがいっぱい詰まったおもちゃ箱のようなぬくぬく文庫。「今日はぬくぬくで何しようかな」と、子どもたちが集まってきます。 

東急田園都市線たまプラーザ駅から徒歩5分。住宅街にある芝匠子(しばしょうこ)さんのお宅では、自宅の一部を開放して、毎週火曜日の午後3時から「ぬくぬく文庫」が開かれています。

 

芝さんは地域の読み聞かせや語り(※)のグループに属し、青葉区内の山内図書館や藤が丘地区センター、そして小学校などで子どもから大人までお話や物語を届けています。また、青葉区在住の6人で作ったという「かたりすと」のメンバーでもあります。「かたりすと」とは、大人向けに『〜ものがたりを声で楽しむ「語りライブ」〜』を開催しているグループなのだそうです。

(※)語り……(いろいろな解釈があるが、ここでは)文字を通さずお話を伝えること。

 

語り手として20年前ほどから活動を続けている芝さんですが、家庭文庫の「ぬくぬく文庫」を始めたのは今から12年前のことです。

 

ぬくぬく文庫は「ポレポレ文庫」の存在無しでは語れないと芝さんは言います。ポレポレ文庫とは芝さんの友人である武本節子さんがたまプラーザで主宰していた家庭文庫です。そのポレポレ文庫が武本さんの引越しのため閉じることになり、本やお話など同じ世界を楽しむ仲間としておつきあいを続けていた芝さんが、引き継ぐことになったそうです。

 

正式にぬくぬく文庫として始める前に、一年間、ポレポレ文庫を仮に引き受けていた時期があります。これから先、本当に文庫が続けられるかどうかと悩んでいたとき背中を押してくれたのは、当時中学3年生と1年生だった息子さんたちでした。「やったらいいじゃん」という二人の言葉で芝さんは文庫を引き継ぐ決心ができたと言います。

 

実はぬくぬく文庫という名前は、芝さんのひらめきによるもの。「ポレポレツー(2)文庫」として始めようと思っていたのが、家庭文庫を開くための書類を出しに行く途中で突然、ぬくぬく文庫という名前が思いついたのだといいます。

 

くつろげる雰囲気で名前がぴったりのぬくぬく文庫ですが、子どもたちがゆっくりできるようにと、自宅のリビングと和室を合わせて開放しています。広々としたその空間には、児童書や絵本約1700冊、一般向けの本約1450冊、図書館の団体貸し出しを利用した本約450冊が本棚に並んでいます。

 

また、リビングにおかれたグランドピアノの上には様々な民族楽器が並び、壁にはマリオネットや魔女の人形などがかけられています。部屋全体が昔話や童話の世界を連想させ、好奇心を刺激してくれます。

 

魔女や妖精がお話の世界へ誘っているよう

 

さて、部屋全体がおもちゃ箱のようなぬくぬく文庫で、子どもたちはどのように過ごしているのでしょうか。

 

15時 文庫を開きます

15時になると芝さんが門柱に看板をかけ文庫がスタートします。

15時20分を過ぎたころ、「こんにちは!」と元気に小学3年生の女の子が入ってきました。

 

そして「これ作りたい!」といって自分の手提げから紙皿を取り出し工作を始めました。前の週のおはなし会で、芝さんが使った紙皿シアターを自分でも途中まで作ってきたそうです。芝さんのアドバイスを受けながら、動物の切り絵を使ってチョキチョキ、ペタペタ……。ハサミと糊で仕上げていきます。

 

15時半を回ると、子どもたちは次々にやってきました。太鼓をポコポコたたいたり、マラカスのような楽器を振ってシャカシャカシャという音を出している子もいます。そうかと思えば、和室からはカリカリカリと鉛筆を走らせ宿題をする子も。ぬくぬく文庫では、本を読む子はもちろんいますが、楽器で遊ぶ子、宿題をすませる子、お友だちと遊ぶ予定を立てている子など、みんなが自由に過ごしているのです。

 

音やリズムを体で楽しんでほしい、また、知らない国の文化や雰囲気を感じるきっかけになればと民族楽器を揃えていったそう

 

芝さんは、本に興味のない子でも、ぬくぬく文庫に来て遊んでいってほしいといいます。「遊んでいる近くに本がたくさんあったらそのうち本にも興味を持ってくれるかもしれないじゃない」と笑います。タイミングを見て、さりげなく本をすすめたりすることもあるそうです。

人生で経験できることは限られているけれど、本を通していろいろな体験をしてほしいと芝さんは言います。

 

しばらくすると、芝さんは「今日のゲストさん」(ぬくぬく文庫ではおはなし会で絵本を読む人をそう呼んでいる)の小学生と一緒に絵本を読む練習をはじめました。

 

芝さんは未来の語り手を育てようと、子どもたちに絵本の読み聞かせや語りの担い手になることを勧めている。練習は真剣に。ピリっと気を引き締めて

 

16時  おはなし会開始

芝さんは「おはなし会はじまるよ〜」と会場であるサンルームに子どもたちを呼びます。子どもたちはひざをくっつけあって座ります。この日はまず芝さんによる「おばけに出会わないおまじない」のレクチャーをうけることからはじまりました。これは次週読む予定の『おばけの森』(藤田浩子、小林恭子=著、一声社)という紙芝居を楽しむ事前準備だそうです。「覚えたら今度みんなでおばけの森に行かれるよ」と芝さんが声をかけると、「本物の森?」と質問する子どももいて、微笑ましい会話が続きます。そして、読み聞かせは「今日のゲストさん」にバトンタッチ。この日は芝さんと練習をした女の子と三人のお母さんたちが絵本を順番に読んでくれました。

 

おはなし会に参加するとシールを貼る。シールが貯まるとおもちゃ箱から好きなおもちゃをもらえる

 16時45分ごろ  子どもたちのおやつタイム

おはなし会が終わると子どものおやつの時間になります。リビングのテーブルにおやつを並べると子どもたちが集まってきてテーブルを囲みます。小さい子はお菓子を取りやすいように椅子に座らせてあげる、「いただきます」とみんなで挨拶してから食べる、スナック菓子を食べたら手を洗ってから本を読むなど、当たり前だけれど小さなルールをみんなで守っておやつを食べます。

 

 17時ごろ  お母さんたちのカフェタイム

子どもたちのおやつがひと段落すると、今度はコーヒーの良い香りがしてきて、大人のカフェタイムが始まりました。トレイにコーヒーとお菓子が並べられ、お母さんたちは和室の座卓でくつろぎながら、悩み相談や情報交換など、おしゃべりに花を咲かせます。

 

17時30分ごろ

子どもだけで来ている子は帰っていきますが、お母さんと来ている子どもたちはまだまだおにごっこや追いかけっこなどをして遊んでいます。サンルームでは女子トークが始まったのか、何人かの女の子が集まっていました。

 

18〜19時ごろ 文庫終了

おしゃべりや遊びもおしまいにしてお母さんと一緒に子どもたちもみんな帰って行きます。

 

この日は子どもが15、6人、大人が7、8人がぬくぬく文庫で過ごしていきました。私もおはなし会や大人のカフェタイムに参加させてもらいましたが、とても居心地がよく心が「ぬくぬく」と温まったように感じました。

 

ぬくぬく文庫について、芝さんはこう言います。

「特に決まりごともないし、うるさいことは言いたくないの。自由に過ごしてもらいたいのよね」。

 

おおらかに話す芝さんの雰囲気がぬくぬく文庫のほんわかとしたやわらかい空気をつくり出しているのでしょう。お子さんと毎週参加しているお母さんは芝さんの言葉にこんなことを付け足してくれました。

「自由だけれど、大切なきまりはきちんとありますよ。おやつの時間は小さい子を優先すること、自由に触っていい楽器と、芝さんと一緒に使う楽器があることなど、大切なことはしっかり子どもたちは学んでいて。寺子屋みたいですよ」

 

学年が違っても自然に仲良くなり、学校で挨拶を交わすこともあるのだとか

 

参加しているお母さんたちの芝さんに対する信頼感と、ぬくぬく文庫に積極的に協力していこうという姿勢が、安定感のあるぬくぬく文庫を作り出していると感じます。

ぬくぬく文庫ではイベントも開催している。アイルランドの様々な楽器を使って美しい音楽を聞かせてくれた守安雅子(もりやすまさこ)さん(左)、守安功(もりやすいさお)さん。芝さんと一緒に語りを担当したのは、芝さんの親友で、語り手仲間の伊藤裕子(いとうゆうこ)さん

 

私が家庭文庫を取材するのは「おはなしのへや ぽっぽ」に次いでぬくぬく文庫が2回目です。タイプは違いますが、どちらにも共通しているのは、子どもと本が出会える場所である、そして子どもの居場所なのだということです。塾や習い事に忙しく、以前に比べると通える子どもの数は少なくなってはいるのでしょうが、やはり子どもたちにとって必要な場所だと感じます。

 

友だちとケンカした時、お母さんに怒られた時、なんだかつまんないなあという時。本があって、信頼できる大人がいる。そして、なんとなく過ごせる場所がある。こんな居場所があるのは親にとっても安心だし、子どもにとってうれしいものです。

 

一人ずつに寄り添ってくれる家庭文庫のような場所がどの子にも家から歩いていかれる距離にもっと増えていってほしいなあと感じました。

Information

ぬくぬく文庫

お問い合わせはメールでお願いします。

shoko.erzahler@hotmail.co.jp

山田 麻子
この記事を書いた人
山田麻子ライター
横浜市青葉区在住。中学生女子、小学生男子の母。料理の仕事歴25年以上。管理栄養士。森ノオトでの初めての取材をきっかけに、絵本、詩、素話に出会い、その世界の虜に。以来、絵本と飲み物やお菓子の相性を考えるのが楽しみに。図書ボランティア活動、おはなし会のお菓子作りなどに心ときめく。現在の夢は「語り手」になること。 ブログ:スマイル*ごはんを始めよう
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