なぜ、駅から遠く不便なこの場所でお店をやっているんですか? かねてから富山ゆかさんにお聞きしたかったこと。今やライフスタイル系の雑誌で引っ張りだこ、器や小物好きの女性にカリスマ的人気を誇る12月ですが、商売をやるうえでは決して有利とは言えないこの立地で、どうしてこれほどの輝きを放っているのか不思議でなりませんでした。
「土地の力、建物の力ですか……ね。窓から見える茅葺き屋根、この借景はお金を出しても買えないでしょう? もちろん、主人の工房に近い、という利点もありますが」
ご主人、とは木の椀や皿で知られる木工作家の富山孝一さんのこと。寺家ふるさと村にある工房で木地をつくり、時には自宅でもあるお店で作業に及ぶこともあるとか。昔ながらの農村の風情が残るここの環境は、富山さんの作品に何らかの影響を与えているだろうことは想像に難くありません。
わずか6畳の畳の間と板の間を開け放ったお店には、富山さんの木の器のほか、ゆかさんの眼鏡にかなった作家ものの器、かご、布や古道具、お茶に時々お菓子などが、12月といううつわのなかで、居心地よさそうに置かれています。ここは生活の場でもあるので、日々片付け、並べ替え、の繰り返し。その日の天気、まとう空気、ゆかさんの感性が相乗して、毎日新しい世界が生まれています。
電子レンジや炊飯器はおろか、つい最近まで冷蔵庫すら持たずに生活していたという富山夫妻。「豆腐は買い置きできないからその都度買いに行く、野菜がたくさん届いたら干したりソースにして保存する、冷凍したご飯をいかに美味しく温め直すか工夫する。やってみるととても楽しいから、特に不便と感じたことはありません」。あえてそういう生活を選んだのではなく、「台所のかわいい窓を大きな家電でつぶしたくなかったから」というところが、何ともゆかさんらしい。結果的に、意図せずして自らの選んだ道具を使い尽くし、日本人が本来もっていた生活の知恵を身につけていったに違いありません。だからこそ、12月が発信する道具の物語には、揺るぎない芯が感じられるのです。
生活文化の発信拠点としては、西荻や吉祥寺などの中央線沿線、鎌倉や逗子葉山などの湘南が注目されていますが、私はこの青葉のまちに大いなる可能性を感じています。だって、ここには12月があるのだから。たぐいまれなる若き才能が集めた道具や雑貨たちが私たちの生活に入りこむ。それによって、日々をよりていねいに、慈しみながら暮らすことができるはず。これはもしかしたら、静かで穏やかで心地いい、生活革命なのかもしれません。
キタハラ’s eye
編集という文字を分解すると、「集めて編む」。12月に集まる器や雑貨たちが醸し出す独特の雰囲気に、ゆかさんの編集能力がいかに卓越しているのかを感じずにはいられません。モノをきっかけにして作家や作品がつくられた背景、素材なりと出会う。お店とは、言葉を使わない情報発信の場であり、作品でもあるのだなあ、と思います。だからわたしにとってのゆかさんは、いつも刺激を与えてくれる賢い同僚、あるいはよきライバルのような存在なのです
12月(12つき)
住所:神奈川県横浜市青葉区鉄町1265
TEL:045-350-6916
OPEN:11:00~17:00
定休:月火水(祝日営業)→不定休あり。HPで確認を
駐車場:1台
アクセス:東急田園都市線あざみ野駅、市が尾駅、小田急線柿生駅からバス。詳細はHPにて。
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