大規模な宅地開発と聞くと、どこか前時代的なにおいを感じ、エコロジーという概念からは遠く離れた印象を受けます。
しかし、こうした不動産開発をおこなう会社として、「エコ」「コミュニティ」「まちづくり」のトップランナーとして奮闘してきた横浜市のデベロッパー・リストが、たくさんの「日本初」の要素を詰め込んだ新築分譲住宅が横浜市に誕生します。
その名も「リストガーデン nococo-town(ノココタウン)」。「農」「此処」「エコ」を掛け合わせた言葉で、農と人の縁(ゆかり)がまちの中心にある、そんなコンセプトを持っています。
かつて自動車工場だったというその土地は、2002年に閉園した横浜ドリームランドの跡地をリノベーションした横浜薬科大学、俣野公園に隣接しています。160棟の住宅がこれから立ち並ぶとあり、区画が細やかに整備されていて、まちが立ち上がる前の息吹を感じました。
森ノオトの「エコDIYまちづくり」プロジェクトにこの2年来関わってくださっているリストの相澤毅さんに「リストガーデン nococo-town」の構想を聞いたのは、昨年9月。160棟の規模でこれまでにないエコタウンをつくるという意気込みと、竣工後新しくnococo-townの住人になる人たちが「自然とつながることができる」ような、まちづくりの仕掛けをあちこちに埋め込んでいくんだという話を、相澤さんは熱く語ってくれました。
そのうちの一つ、「ハーブシェア」のプロジェクトについて、森ノオトに協力してほしいと依頼を受けました。ハーブシェア? 一体、どういうことでしょう。
「今は核家族が多く、隣近所との付き合いにもあまり慣れていない世帯が多いなかで、“スープの冷めない距離”で、気軽にモノの貸し借りができるようなコミュニティをつくっていきたい」と、相澤さん。その仕掛けとしての「ハーブ」なんだと言います。
「nococo-townでは、家の周りを塀で覆わず、フットパス(歩道)植栽でゆるやかに区切るパッシブランドスケープ(住宅と住宅の間に緑を配置して、風の通り道をつくりながら温熱環境を整えていく考え方)にしています。各戸の道路側に小さな菜園を設けて、そこにハーブを植えて、たくさん生えたら近所の方同士でおすそ分けできるような、そんな文化をここでつくっていきたい」(相澤さん)
確かに、今では料理をしていて調味料が足りないような場合、隣近所に味噌や醤油を借りに行くといったことは、あまり聞きません。森ノオトでは日頃から近所の仲間とつながろうと呼びかけていて、特に事務所「森ノオウチ」のある青葉区鴨志田町界隈では住民同士が近しく助け合っている様子がよく見受けられますし、私自身も森ノオトのメンバーでとは気軽に「ナンプラーない?」「オリーブオイルを貸してくれない?」なんてやりとりをしています。そうした森ノオトのコミュニティづくりを相澤さんはずっと注視してくれていました。
また、ハーブそのものの交換だけではなく、住民同士のスキルを交換するきっかけもつくりたい、と相澤さん。森ノオトも、ハイスキルなライターたちが集っていて、日頃、メディアのなかでその特技を発揮しながら情報発信しています。そんなわけで、ハーブシェアのコミュニケーションツールとしての冊子づくりを、森ノオトメンバーで請け負うことになったのです。住宅の設計やリノベーションを手がけるショセット建築設計室の山川紋さん、ワインやチーズ、ハーブのプロフェッショナルでもある清水朋子さん、そしてフォトグラファーとして活躍するおおかわらあさこさん、そして編集者でライターのわたし・北原まどかのチームに、デザイナーの末永えりかさんが加わって、ハーブシェアツールづくりが始まったのです(ちなみに、印刷は活版印刷の工場・町田市の新星舎印刷さんにお願いしました)。
本書の監修は、横浜薬科大学の榊原厳先生が担当してくださいました。日本では珍しい漢方薬学科のある横浜薬科大学とリストグループは地域連携協定を締結し、nococo-townでの無料出張講座が今後展開されることに。榊原先生のハーブについての知識と情熱は、語りだしたら止まらなないほどで、ハーブの歴史や使われ方など、グイグイ引き込まれる魅力的なものばかりでした。
例えば、「バジルの種子は水に濡れるとゼラチン状の粘膜に包まれ、いにしえには目のゴミを取ったと伝わることから目箒(メボウキ)と呼ばれる」とか、「タイムには人々の体を薫らせ、強い殺菌防腐力があるため、人の集まる教会では消毒用のストローイングハーブ(床に置くことで、人が踏みしめるとよい香りが立ち込める)として撒かれた」など、古来よりハーブが私たちの暮らしとどんな関わりがあったのかを、わかりやすく興味深く知らせてくれました。
清水朋子さんのハーブレシピは、タコのジェノバペースト和え、トマトとオレガノのピラフやカモミールマフィンなど、手早くつくれて食卓が華やぐものばかり。ハーブを使った料理をしてみたくなります。
そんなハーブ料理を持ち寄って、ラベンダーのサシェや、ブーケガルニをみんなでつくるホームパーティーをおこなえば、ハーブを介した近隣住民同士のコミュニケーションも盛んになります。
「その家のテーマハーブにちなんで、“バジルさん宅”“オレガノさんち”などというように、ハーブがその方の愛称になってくるくらい、ハーブが住民をつなぐきっかけになれば」と、相澤さんの夢はとどまるところを知りません。
その家で繁殖したハーブを近隣住民が摘んでよければ、門柱に「ハーブシェアプレート」を掛けることができるようになっていて、それこそ、地域で自由にハーブの摘み草ができる共有地をnococo-townの住民は得ることになります。これぞ現代版コモンズ(入会地)とも言えるのではないでしょうか。
リストガーデンnococo-townは、実はかなりハイスペックな新興住宅地です。
・全160棟、省エネ性能指標BELS5つ星を取得(日本初)
・全160棟、スマートホームIoT機器「インテリジェントホーム®」採用(日本初)
・全160棟、BELS5つ星専用の40年住宅ローン導入(城南信用金庫、日本初)
・パッシブランドスケープ
・太陽光発電全棟標準装備
・フットパス(nococoみち)
・建物意匠+街並み監修(街並みデザインガイドラインの策定)
・みんなの農園(nococoファーム)
・子育支援活動(nococoはぐくみ広場)
・横浜薬科大学主張講座
・クラブハウス+土かまど
相澤さんは、「実はnococo-townの性能は、家づくり・まちづくりの会社が本気になれば真似できることです。日本全体の住宅開発を、エコやコミュニティづくりの観点から底上げしていきたいと思っています」と言います。そして、「実はハーブシェアにこそnococo-townの真髄がある。お客様が実際に居住したあとのコミュニティ形成まで考えた機能を、ハード面でもソフト面でも設計し、インストールしていくことが、これからのデベロッパーの役目ではないか」と熱弁します。
ハーブを育てる、ハーブに癒される。家族で楽しんだら、残りはご近所さんにシェア。日本のコミュニティを豊かに潤してきた「おすそわけ文化」を、nococo-town流に編集したのが「ハーブシェア」です。
相澤さんが言うように、こうした先駆的な取り組みは、それこそ追いつけ、追い越せで、周りで切磋琢磨してこそ意味があるように思います。今後、既存のコミュニティでも広がっていくことで、「おすそわけ」を通じた温かな関わり合いが生まれて、それがいつしか助け合いや地域防災につながっていくのではないでしょうか。
しかし、まちづくりは一朝一夕にしてならず。これからのデベロッパーは「建てて終わり」ではなく、つくった「まち」がどのように成熟していくのかまで未来図を描き提案していく力が求められるようになるかもしれません。そうした意味で、まさにフロントランナーであるnococo-townのたどる道を、長く追いかけていきたいものです。
リストガーデン nococo-town
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