ふだんの暮らしに、作家ものの器を。 町田市「うつわ ももふく」
JR線・小田急線町田駅から少し歩いた所に、「器」と大きく書かれた看板あり。今年で13年目を迎えるうつわ屋さん「うつわ ももふく」。建築と器、器選びのポイントなどについて、店主の田辺玲子さんにお話を伺いました。
(2017年取材の記事です。店舗は2021年に南青山に移転しました)

日常生活のなかで、「器」に意識を向けることはどのくらいあるでしょうか。ハレの日の器と普段使いの器、量産品のものと作家もの、洋食器に和食器など、器とひとくちにいってもさまざまなものがあります。

ご紹介する「うつわ ももふく」は、なかでも作家・職人によってつくられた和食器のみを扱ううつわ屋さんです。はじめて、私がももふくと出会ったのは、10年ほど前。和食器についての知識はほぼなく、ただなんとなく惹かれるその器の魅力に引き込まれていきました。

町田駅からは少し離れてはいるが、ゆっくりと器を選ぶには最適なロケーション(写真:山川紋)

「器」と書かれた看板に吸い込まれるように中へ進むと……、ギャラリーのように美しい空間が出迎えてくれる(写真:山川紋)

「うつわ ももふく」の店主・田辺玲子さんは、もともとは店舗デザインや設計の建築分野の仕事をしていました。30 歳を過ぎた頃、フリーで設計の仕事をするようになりましたが、時間に追われる不規則な生活に疑問をもちはじめ、その後、2004年に自宅店舗として「うつわ ももふく」が誕生します。そして、2008年に町田市原町田にある現在の場所へと移転しました。

それにしても、なぜ建築からうつわ屋さんへ? との問いかけに対し、とても納得のいく答えを話してくれました。

「建築の現場では、設計者は図面を描きますが、実際に建物をつくるのは現場の職人さんです。その職人さんが真摯にいい仕事をすると、現場はとても気持ちがよく、いい気が宿るのです。素材の良し悪しとはまた別で、仕事の質がとてもいい。こうした住まいでの暮らしが、いかに人にいい影響をもたらすのか、身をもって感じていました」

「もともとの器好きもありますが、住まいと同じで、私たちが普段の生活で接することの多い器で、こうした質のいいもの、つくり手の想いが感じられるものに囲まれながら生活をしてほしいと願っています。それは知らず知らずのうちに、住む人に豊かさをもたらすと思います」

お話を伺い、なぜ、作家や職人がつくった器にこだわっているのかとてもよく分かりました。建築と器、異なるようで実はとても近く、人がつくりだすもの、暮らしの質を左右するものという点では同じ性質をもつものなのかもしれません。器においては、量産品が悪いというわけではなく、例えば、量産品のものには多くの人の手(又は機械)が加わり、それぞれの関わった人の想いがそこにあります。一方で、作家ものはたったひとりの人間の想いだけでつくられている。だからこそ、その思いが作品に顕著に表れる。ものづくりに真摯に向き合っている作家であれば、きっとそこに確かなものが宿るのだろう、と思います。

器に関するさまざまな疑問に、一つひとつ丁寧に応えてくれる店主の田辺玲子さん。敷居の高い「うつわ屋さん」であっても、田辺さんと会話をすると柔らかな空気が流れる(写真:山川紋)

器の良さについては、少しずつ理解はしてきているものの、価格面でいうと、やはり量産品に比べると値がはる作家もの。少しずつでも、ゆっくりと暮らしに取り入れていければと思います。そこで、田辺さんに作家ものの器を買うにあたりポイントを伺いました。

<器選びのポイント>

■最初の一歩は、「属人器(ぞくじんき)」から

属人器とは、食器そのものが特定の人が常に使うものとして認識されている食器のことをさし、和食では茶碗や箸などがそれにあたります。自分で毎日使うものであり、そこには社会性はなくとても個人的なものと言えます。だからこそ、好みのものをひとつ選ぶと、日々の生活に潤いが生まれます。手に取りやすいマグカップからはじめるのもおすすめとのこと。

■器の大きさを揃える

洋食器のように、一度に数枚のお皿を揃える必要がなければ、一枚ずつ表情のことなる器を買い足していくのも楽しさのひとつ。器のサイズが揃っていれば、食卓でも違和感なく馴染みます。特に、おすすめのサイズは、和食器では4寸(約12cm)といわれるサイズで、取皿としてもとても使いやすいサイズです。

色や質感が異なっていても、サイズが揃うことでしっくりと納まる(写真:山川紋)

■引き算と足し算で考える

染付が好きな人は、染付の器ばかりになりがちですが、ここに焼締めなどの黒い器をひとつ足すだけで雰囲気が締まります。逆に、陶器(土もの)ばかりの器の場合には、染付の小皿をひとつ足すだけで、食卓に華やかさや遊び心が生まれます。好みのお皿をより引きたてるのは、引き算と足し算!

これまで、何となくその時の好みや感覚で買い揃えてきた器ですが、こうして改めてお話を伺うとなるほどと思うことばかりです。お話のなかで、とても興味深かったことがもう一つあります。それは、ももふくでも多数扱っている“そば猪口(ちょこ)”の使い方。そば猪口としての使用はもちろんですが、珈琲やアイスクリーム、デザートなどを入れて出されると、とても素敵だなぁとずっと思っていました。

「『猪口』というのは、小さな器という意味で、昔から何にでもよく使っていた器なんです。その形がそばを食べる時に使いやすいため、江戸時代頃からそば猪口というものが出てきました。だから、本当に便利で、揃えておくととても重宝します」と、田辺さん。

ショーケース中にずらりと並ぶ、そば猪口。一つひとつ絵柄が異なり、眺めているだけでもうっとりとする(写真:山川紋)

早速、そば猪口を一脚、我が家へ持ち帰りました(アイキャッチ画像の猪口)。まずは珈琲を入れてみました。正面から眺めひと口、横から、斜めから、上から眺めてさらにひと口。千鳥が飛ぶ絵柄や波のような模様にひとりウキウキしながらも、ここに宿る確かなものを感じました。佇まいの美しさ、温もりのある手触り、ここからはじまるそば猪口生活に今からわくわくがとまりません。

田辺さんは、SNSでも日々の朝ごはんを載せている。ハレではない日常の器使いを提案できれば、とのことから。上手な器使いのヒントが盛りだくさん(写真提供:田辺玲子さん)

和食器・作家もの=扱いにくいと考える前に、まずは一つ手に取って眺めて、感じてみてほしいと思います。ももふくではネット販売もしていますが、ぜひお店にも足を運び、その手触りや人の手によってつくり出された器の魅力を味わっていただけたらと思います。

Information

「うつわ ももふく」 

HP http://www.momofuku.jp/

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この記事を書いた人
清水朋子ライター卒業生
食べること、つくること、ワインとチーズ、焼酎を愛する食いしん坊。雑木林のような豊かな庭、愛するアンティークに囲まれた自宅の一角で、集会所+ときどき、喫茶として「Glänta(グレンタ)」を主宰している。小さな家の隅々まで愛おしみ使い尽くす、センスのよい暮らしぶりが注目を集める。
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