劣等母さん、里山へ行く。 「まちやま」塚原宏城さんに聞く「本能を発揮できる時間」って?
【森ノオトライター養成講座2019修了レポート:佐々木茜子】子どもたちには自然とたくさん触れあわせてあげたい!と、美しい子育て方針を掲げながらも、実際にはズボラな子育てに反省する日々の私。子どもたちの最上級の笑顔を見られるのは、きっと里山だ!と思った私は、町田市をフィールドに里山体験を提供している「一般社団法人まちやま」の代表、塚原宏城さんに里山の魅力についてお話を伺ってきました。

小3の息子のサッカーボールは、まわりが擦り切れていて、もうボロボロです。 本当に毎日、私がお米を研ぐのと同じように、サッカーボールを蹴っています。 しかし困ったことに、そのサッカーボールと同じくらい、デジタルも大好きなんです。 「Youtube見たい」「ゲームやりたい」と、よく口を尖らせます。 あまりに尖らせてくるので、仕事に家事に疲れた私は、気力を失い、ついリモコンを手に取ってしまうのです。 ハッと気がつくと時計の針は2周も回っていました。テレビの前にじっと座っている2人の息子の後ろ姿を見て、あーダメな母親だと思うことは、一度や二度ではありません。

 

私が子どもの頃は、兄や近所の子といつも田んぼや農道で遊んでいました。 夕方17時の鐘と同時に、家に走って帰ったのを今でも覚えています。

「アンタは、ほっといても、いつも誰かとその辺で遊んでたよ」 と私の母は言っていました。 しかし息子たちの時代は、私の子どもの頃より習い事などで忙しく、親同士の関わり方や、遊ぶ場所の環境も変わり、 「ほっといても誰かとその辺で」というのが難しくなっているのかもしれません。 忙しさを言い訳に、子どもたちをデジタル任せにしてしまった日があると、週末はその悔いを晴らそうと、自然を感じられる場所へ連れて行って思いっきり遊ばせることもあります。

 

東京都町田市下小山田町にある、大谷里山農園。JR線・小田急線の町田駅からはバスで30分ほど、町田市の中でも自然が多く残っている、のどかなエリアです。

「一般社団法人まちやま」は、この農園を拠点に、子どもたちや、親子向けの里山体験を提供しています。タケノコ掘り、田植え、味噌作り、山の達人キャンプ、放課後の里山塾など、里山をフィールドにした体験イベントの種類は実に豊富です。 デジタル世代の子育てに“絶賛葛藤中”の私は、今回、まちやまが主催している「ヨモギ団子作り」のイベントに息子二人を連れて参加してきました。 それは子どもたちのためでもあるけれど、ダメな母親だなあという気持ちをズルズル引きずらせない、自分のためでもありました。

車が走る国道からたった数十メートル入ったところにある大谷里山農園。小さな看板の向こう側に続く細い道の先には、すでに春の植物の気配が

たくさんの木々に囲まれ、田んぼ、池、カエルの卵、ピザ釡など、非日常的な風景が出迎えてくれる。深呼吸をすると、生き物たちの肉声が聞こえてきそう

今よりもっとむかしの、どこかの田舎の山奥。そんな説明が似合うような不思議な里山に着いた私は、野花と木々の色、澄んだ風のにおい、小鳥の鳴き声に包まれて、静岡県の山奥で育った10歳の頃の自分に戻ったような気持ちなりました。 息子たちは車のドアをバタンッと閉め、走り出します。 ヨモギ団子作りのイベントは、ヨモギを摘むところから始まりました。

ヨモギ摘みスタート。ヨモギの独特の匂いをかぎ分けて、ボールへあつめる

この日の空は水色でした。雲はもちろん白色です。上着はいらないくらい暖かい日でした。寒い冬が終わり、やっと咲き始めた野花たちは、みんな新入生のような顔をしています。 参加者は親子合わせて25名ほど。中には都心から来ているご家族もいて、この里山 の貴重さを改めて感じます。

たくさん集まったヨモギ。白っぽい色のヨモギと、緑っぽい色のヨモギでは匂いが違うのだそう

摘んだヨモギは水洗いし、茹でます。お湯に入れた途端、濃い緑色に 変わりました。とてもきれい

ぼうぼうと燃える火に息子たちは興味津々。代表の塚原さんによると「火を燃やすことができる場所」というのはとても貴重なんだそう。茹でたヨモギをすり鉢ですり、粉と混ぜ合わせ、丸めました。 お団子って、よく見るとなんて可愛い食べ物なんだろう。こんなに小さな丸が連なっていて、平和な食べ物だなあ。と、お団子の魅力をしみじみ感じてしまいました。

串に刺す作業。混雑。大人気です

あんこをつけていただきまーす!

完成したヨモギ団子をお昼ご飯の後にいただきました。 自分たちが作ったお団子。時間をかけて作ったのにも関わらず、一瞬で食べきってしまいました……やっぱり美味しい。

 

「その辺のスーパーでも簡単に買えてしまうヨモギ団子を、わざわざヨモギを摘むところから自分たちの手で行い、人と顔を合わせながら一つひとつ作っていく作業に喜びを感じました」と、参加者の方が感想を話していました。 売っているお団子のようにまんまるではないけれど、その中には、みんなで協力して、一緒に笑ったり、驚いたり、チャレンジした時間、それから青い空に白い雲など、目には見えない素敵なエッセンスが、その味をいっそう美味しくさせている感じがしました。

 

その日感じたのは、里山では、どの子も本当にいい笑顔。 この里山の魔力のようなものは何だろう? どうしてみんな、こんな笑顔になるの? と疑問を持った私は、 今回のイベントの主催者「一般社団法人まちやま」の代表・塚原宏城さんに里山の魅力について改めてお話を伺ってきました。

大谷里山農園は、江戸時代から続く地主さんの私有地。 貴重な里山を、現在は息子さんの代が管理しているそう。まちやまを始め、いくつかの団体が活動場所としている

「子どもが本能を発揮する時間て、実はあんまりないんですよ」と語る塚原さん。“本能を発揮する時間”という 普段聞きなれないワードに、耳がピクッとしました。

「こういう場所に来ると、心が解放されますよね。普段インドアな遊びが好きな子も、 里山に来ると活発になって、その子のお母さんが“こんなに遊ぶとは思わなかった”って言っていたこともありました」(塚原さん)

 

本能を発揮する時間ーーまちやまの活動の中では 細かいルールもなく、周りの大人たちもゆったりと子どもたちを見守っているように見えます。注意書きの看板もない 場所の中で、子どもは好き好きにお花を摘んだり、水辺を覗いてみたり、木の枝を使って戦いごっこをしたり、とにかく走り回ったり……。 誰かが「こう遊んだら?」と教えたわけでもなく、自由に遊んでいる様子に、それはこの子たちがもともと持っている「本能」の部分が引き出されているからなのかなと塚原さんのお話を聞いて思いました。

里山に咲く草花達。のびのびと咲いている姿は子どもたちとよく似ている

幼い頃から「これって何でできているんだろう?」とモノの成り立ちに関心があった少年だったという塚原さん。大学で土木を学び、新卒で務めたのは公務員だったそうです。30歳直前で、思い切って環境教育の分野に足を踏み入れます。野外教育のパイオニア、NPO法人国際自然大学校で、幅広い年齢層に対して自然体験プログラムの企画や運営に携わってきました。その中で、「自分たちでつくることからの体験を提供したい」という思いが募り、独立。2015年に「一般社団法人まちやま」を立ち上げました。基本的には塚原さんお一人で事業をまわし、イベントではたくさんの人に関わってもらって運営しているそうです。また、普段のイベント開催のみならず、町田市の公立小学校での移動教室の指導や大学での環境講座、企業の営業社員向け研修など、幅広く活動されています。

キャンプネームは「サティ」。みんなから「サティさん」と呼ばれる塚原さん。

今の子どもたちについて、「子どもたちが受け身になっているのが怖い」と話す塚原さん。

私も以前に、友人のお家に遊びに行った時に、「ママ、何して遊べばいいの?」と友人の子が発した言葉にドキッとしたことがありました。子どもって想像力や発想力の塊みたいなところが元々あるものだと思っていましたが、そういう場面を見ると子どもが元々持っている力を奪っているものはなんだろう?と考えされられました。

塚原さんは、「子どもたちが、主体的に自分で考え判断できるようになってほしい。その想いが里山体験を提供していることにもつながっている」と話します。

 

 

そして塚原さんが里山体験を提供している理由がもう一つあります。

それは環境教育に関心を持ってもらうこと。

でも、環境教育と里山はどうつながるのでしょうか?

「最初から環境教育の講座を開いたって受け入れてもらえないですからね」 と塚原さんは笑いました。

「自分事にならないと、関心も広がらない。いきなり森の話をしても誰もついてきてくれないですよ。でも、自分で杉の葉を探してきて、自分でそれに火をつけて、それ が燃えてっていう体験をすると、杉の葉に少し興味がわきますよね。自分事になるから。だから体験が大事なんです」

 

「私たちが里山で本能を発揮できる時間を提供することで、普段受け身の子どもたちも主体性をもち、実際の体験から、子どもも、大人も身近な自然な農や食に関心が出てくるのではないか。まちやまはその入口なんです」と話してくれた塚原さん。

まちやまの原点を知れた貴重な時間でした。

 

まちやまの活動目的に謳われている「健全な里山」という言葉は、 「ちゃんと循環している里山」という意味だと塚原さんは話します。 「自然」というと、人の手が全く入っていない状態をイメージする人も多いかもしれませんが、塚原さんによると、「実は自然って、人の手が入らないと荒れてしまうこともあるんですよね。自然の力を残しつつ、人の手も加えて、植物にとっても人にとっても良い環境にすること、そういう風に形成されてきた環境が里山」なんだそう。「なので“健全な里山”というのは、人の暮らしと自然との調和がとれた状態を指しています。きっと、“健全な里山”はこれからの時代に目指すべき暮らしや社会そのもののモデルになるんじゃないかな」(塚原さん)

 

「予定調和ではなく、多様性があり、変化する、コントロールできないところに里山の魅力がある」という塚原さんの話を聞き、私は、こんな風に感じました。 今の子どもたちを取り巻く環境は、“健全な里山”とは真逆 で、テレビやゲーム、スマホの動画などの受動的な遊びが多すぎるのかもしれない。それが良い悪いは置いといて、子どもが本能を発揮できるような自然の中での遊びと調和することで、子どもたちが主体性を失わないようにすること が大事なのかなと思いました。

 

日々の子育てに対する後ろめたさも、いつの間にか里山と同化して笑っている息子たち をみて、少しずつ薄れていくのを感じた春の休日でした。

 

みなさんも里山で本能を発揮する時間をつくってみてはいかがでしょうか。

 

 

Information

一般社団法人まちやま

http://machi-yama.org/

 

〒194-0202 東京都町田市下小山田町1532

TEL:070-6561-3741

(受付:平日 9〜17 時)

E-mail:entry@machi-yama.org

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この記事を書いた人
佐々木茜子ライター卒業生
静岡県南伊豆町の山奥で生まれ育つ。故郷の緑が恋しく、現在は町田市の里山地域(百足たまに発生)に暮らしている。出版社で絵本の編集を担当しながら、ライター活動もちびちびと継続中。2男1女の母。
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