食物アレルギーの子どもたちが生き生きと暮らせる社会へ ピアサポートF.A.cafe
小児食物アレルギーに関する啓発活動を行っているNPO法人ピアサポートF.A.cafe。「命を守りながら、子どもの健全な成長を支えたい、子どものやりたいを応援したい」という気持ちから開発したツールが、多くの当事者、医療や行政機関から支持されています。自分の状況を周囲に伝え、それが当たり前に理解される社会を目指す団体を取材しました。(2022年ライター養成講座修了レポート:上原美和)

NPO法人ピアサポートF.A.cafeは、藤沢市で食物アレルギーの子どもを対象とした啓発活動や情報提供をしています。代表理事の服部佳苗さんに話をお聞きしました。

 

 

活動のはじまりは、服部さんの実体験から

服部さんは2002年に初めてのお子さんを授かり、出産。その赤ちゃんの小さな喉の奥からゴロゴロと言う喘鳴(ぜんめい)の音が聞こえてきました。「生まれてすぐにもう苦しかったんじゃないかな」と服部さん。お子さんは喘息と食物アレルギーがあり、命にかかわる重度の症状がでるほどだったそうです。初めての子育て、子どもの成長のうれしさ、そしてアレルギーへの不安。「なぜ?」「どうして?」……。細かな対応が必要なわが子を前に、一人で悩み、先が見えずにつらい日々だったそうです。

 

食物アレルギーは、喘息、アトピー性皮膚炎と並ぶ3大アレルギーの一つで、日本では、1才未満の乳児で最も多く発症し、厚生労働省の調査によると小児から成人まで幅広く認められています。摂取した食物が原因となり免疫学的機序(体を守る働きを免疫と言います)を介してじん麻疹・湿疹・下痢・咳・喘鳴(ゼーゼー)等の症状が起こることで、近年増加傾向にあるようです。(*)

(*厚生労働省ホームページ)

https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/kenkou/ryumachi/dl/jouhou01-08.pdf

 

現在は、学校、幼稚園、保育園のアレルギーのガイドラインが整備されていますが、当時はまだ社会での食物アレルギーの理解が十分でなく、園や学校側も受け入れ態勢が整っていなかった時代。希望する4つの幼稚園から入園を断れ、ようやく入れた幼稚園では、遠足の日にはお休みしてくださいと言われたそうです。初めは園の対応に驚いた服部さんですが、「よし!遠足の代わりに家族でディズニーランド行って、ホテルに宿泊して、素敵な一日にしよう!」と気持ちを切り替えたそうです。

 

そのディズニーランドでの飲食でお子さんがアナフィラキシーショックを起こし、そのまま入院することになったのです。「家族が付いていたのに…。その時、入園を断った4つの幼稚園、遠足の日は休んでほしいといった園の対応は正しかったと思いました」と振り返ります。家族なら、急変時に何がいけなかったのかをすぐに判断し、医療機関へかかることができます。でも親や専門職のいない集団生活の中で何かあったら、そこまで迅速な対応は難しいと考えるようになりました。

 

その後も子どもの成長に合わせて準備することが増えていきました。乳幼児の時は、家族が十分な配慮ができても、幼稚園、お友だちとの関り、おやつの交換、給食、クラブ活動など、少しずつ家族の管理が届かなくなることも多くなっていったそうです。

 

 

周囲の理解と協力を得るために

「命を守りながらも、子どもの健全な成長を支えたい、子どものやりたいを応援したい」。一人で抱えきれず、そんな思いを周囲に打ち明けたことが周りの力を借りるきっかけになったそうです。

 

「子育てをする仲間や幼稚園の保護者に食物アレルギーのことを伝えると、みんな食べ物について気を付けてくれるようになりました」と服部さん。自分から伝え、説明することで協力が得られることを学びました。そして、幼稚園の親子遠足で、その後の活動につながる原点がありました。お菓子交換の時間の誤食を防止するために、アレルゲンのイラストを書いたカードを息子さんの衣服につけて周囲に注意喚起したのです。これが、2007年には知人の協力を得て「食物アレルギーサインプレート」の原型へとつながり、同じように食物アレルギーで悩む方へ配布。団体の活動が始まりました。

 

「子ども自身が、なぜ自分は食べられないのか。なぜ友だちとは違うのか。それを理解し、自分のアレルギーについて周囲に伝えることが一番の事故防止だと思いました。伝えきれない小さな子や伝えることが難しい状況であっても、このプレートがあれば周囲が気付いてくれます」。自分の命は、自分で守るすべを持ってほしい。服部さんの力強い親心を感じました。

 

その後も服部さんは、病院1軒ごとに手紙を書き、学会に自らエントリーするなどして、アレルギー専門医、エデュケーターなどの専門職と繋がります。そして開発・改良を重ね、2019年に現在の「食物アレルギーサインプレート」ができあがりました。食物アレルギー診断の理解を深める「ワーク」と、自分のアレルゲンの食物を貼ってプレートを作る「クラフト」が1枚のシートでできるよう工夫されています。

 

 

自覚を育てる「ワーク」と周囲につたえる「クラフト」で楽しく学ぶ!

「食物アレルギーサインプレート」をご紹介しましょう。まず「ワーク」で、医師からの診断、診療を受けた後、親子でアレルギーについて振り返りをします。自分の食物アレルギーは何か、食べたらどんな症状が出るか、もし症状が出たらどうするか。普段使用する薬、緊急時の薬等を理解します。次に「クラフト」で、アレルゲンがたくさん描かれているイラストの中から、自分のアレルゲンのイラストを選んでハサミで切り、プレートに貼ることで自分だけのサインプレートができあがります。そのサインプレートをカバンや持ち物に付けることで食物アレルギーであることを周囲に伝え、注意や理解を促すことができます。

子ども自身が理解して、自分で気を付ける。そして周りに伝える力を育むように工夫されています。

「サインプレートは二の次のもので、一番重要なことは本人の理解です。親がこれは食べてはだめだよと言ったからではなく、本人が自分の病状について理解して自覚し、納得して行動をすることです。サインプレートに『ワーク』を付けたのは、本人の“感じ教育”(感じて考えて周りに伝える)を促すためです」と服部さん。本人が納得して行動すると、容易に周りの理解も得ることができ、一番の事故防止につながるそうです。

 

また、サインプレートを希望された方に医療機関を受診しているかアンケートを取ったところ、受診しないで食物アレルギーだと自己判断している人が多いことに驚いたそうです。そこで、食物アレルギーが不安な方を医療機関への受診に繋げることを目的とし、サインプレートは診断された医療機関からの配布に限定することにしました。まずは、服部さんの子どもが受診していた神奈川県立こども医療センターから働きかけ、事あるごとにサインプレートの紹介や配布協力依頼を繰り返し、取扱い病院を少しずつ増やしていきました。2021年度は420か所の医療機関を通じて患者さんに無償で配布し、配布枚数は約1万枚にのぼるそうです。

 

 

災害時にどう周囲に伝えるか

さらに、東日本大震災後、患者や小児科医から「サインプレートもいいけどもっと大きく目立つものを」という声が聞こえてきました。災害時、幼稚園や保護者がいないところで、一晩以上子どもが過ごすことになったら…。周りの方から善意でパンや牛乳をもらってしまったら…。実際、避難所での誤食事例が複数報告されたそうです。保護者の目が届かないところでもらったカップ麺を食べてしまったり、ボランティアがくれたナッツ入りクッキーをつい口にしてしまったり。症状が出ても、災害下で周りにうまく伝えられず、その食べ物が原因かもわからないままということも。そこで、もともとスポーツ競技に使われているビブスにメッセージを書き込み、周囲の人が一目でわかるツールを開発しました。この「食物アレルギーキッズビブス」を災害時だけでなく、誤食が心配な林間学校や校外学習でも活用することができ、このツールを使って自らを守ることを目指しています。

子ども向けのワークショップやイベントでは、災害時を想定して、備える工夫を伝えています。参加した子どもたち自身がエピペン(アナフィラキシー補助治療剤)トレーナーを使い、お人形に治療剤を打つ実習を先生とともに行ったそうです

 

その他、学校の友達がアレルギーについて理解してくれることを目的とした学級啓発ツールも医療機関と一緒に考え制作しています

対面とオンライン相談「F.A.cafeへようこそ!」

そして、毎週火曜日に食物アレルギーについての悩みや相談事を一緒にお話しする「F.A.cafeへようこそ!」が対面とオンライン両方で2019年にオープンしました。当事者同士だからこそ、本音で体験を語り合い、支えあうことができる時間です。これまでに、患者だけでなく、その友人、学校の先生、保育士、学生、自治会の役員、行政や企業の方の参加もあったそうです。

家族や専門の支援者には話しづらいことも、同じ立場の人だからこそ不安な気持ちを理解し共感し合えます

服部さんは、現在でも学会や研究会に参加し、飲食店の食物アレルギー対応、災害時の行政の対応など、当事者としての経験から提言し続けています。

 

 

ピアサポートF.A. cafeの望む社会とは

今後のピアサポートF.A. cafeについてお聞きすると、服部さんは「私たちの活動が必要でない社会になってほしい」と社会全体の希望をお話されました。F.A. cafeが開発した各種ツールを見ると、食物アレルギーという出発点がありますが、ハンディキャップがある子どもの成長とそのサポートの手法として、普遍的なものだと感じました。子どもだけでないかもしれません、障がい者、高齢者も。「この活動が必要でない社会」とは、ハンディキャップがある方もない方も、自分の状況を周囲に伝え、周囲はそれを当然とのこととして受け入れる社会なのではないでしょうか。

左から、 NPO法人ピアサポートF.A. cafe 代表理事の服部佳苗さん、事務局長の生熊しのぶさん、理事の山口かおりさん

Information

NPO法人ピアサポートF.A. cafe

 

住所 藤沢市藤沢1049番

連絡先 contact@facafe.org

ホームページ https://www.facafe.org/

「F.A.cafeへようこそ!」の申し込みはサイトから、対面またはオンラインを選べます。

https://www.facafe.org/online

この記事を書いた人
上原美和ライター
福島出身、藤沢市在住。出産を機に福祉業界へ。社会福祉士として、高齢者や障がい者と共に、その人らしく、地域で安心して暮らせる社会を創りたいと活動中。湘南の穏やかな時間の中で、2児と文鳥、小型犬と暮らす。
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