質の高い緑を未来につなぐために。 「ガーデンキュレーター協会」のHPができました!
森ノオトでは、公園愛護会などの、花と緑に関わる市民の活動を取材する中で、造園の世界の可能性や魅力と課題を知るようになりました。この度、その課題を突破していこうとする「ガーデンキュレーター協会」のHP制作に関わることができたので、ご紹介します。記事を通して、私たちも共感するその活動に、理解と参加、応援の和が広がることを願っています。

「ガーデンキュレーター協会のホームページを作るので、記事の作成を森ノオトさんにお願いしたい」と相談を受けたのは、昨年(2023年)の夏頃でした。依頼主は、取材をきっかけにつながり、青葉区との花と緑の協働事業でも何度かお世話になっている、株式会社Q-GARDENの小島理恵さんです。

 

「キュレーター」とは、日本でいう博物館や美術館の「学芸員」のこと。資料収集、保管、展示、調査研究から、地域資源として生かしていく教育活動までを担う専門職です。では「ガーデンキュレーター」とは?どんな場所で、どんなお仕事をするのでしょうか?

森ノオト事務所でインタビューをした時の小島さん(写真:北原まどか)

小島さんは、大学で学んだ林業をベースに造園業に関わる中で、日本初の「ガーデンキュレーター」を名乗り、その役割や職能の認知を広げてきた方です。その背景には、愛植物設計事務所の山本紀久さんとの出会いがあります。山本さんの著書『造園植栽術』(彰国社)の中には、欧米では著名な園地にはキュレーターがいるという記載があります。その役割をご自身の仕事の中で実践してみて、非常に有効で大切であるということも書かれていて、小島さんは「これだ!」と思ったのだそうです。

造園業に関わり50年、今年84歳になるという山本さん。まだまだお元気、現役で現場を飛び回りながら、ガーデンキュレーター協会の塾長として、協会の骨子をまとめるべく、小島さんらと共に準備を進めています

「造園の設計から施工、管理運営までをトータルで見越して調整していく存在=ガーデンキュレーターがいることで、コミュニケーションが円滑になります。また、植栽管理の予算を効果的に使うことができて、結果的に緑の質が上がります」と小島さん。設計者や施工者がその役割を意識的、または無意識的に担っている場合もありますが、現場によっては、それが叶わないことの方が多く、そんな現実を変えていきたいという思いが協会設立につながっています。

 

小島さんには、「地域の特異な生態系を知り、その土地に合った植物を植え、元の生態系と調和しながら美しい環境をつくっていき、日本の景観自体が世界のお手本になること、そして、全国各地にガーデンキュレーターがいて、地域特性に合わせた美しい景観をつくって、海外の人がそれを見て交流する」そんな夢があると伺い、そんな未来をみてみたいと私もワクワクしています。

小島さんは、仙台の都市緑化フェアの大花壇のデザインを担当するなど大型イベントにも参画し、活動の幅を広げています(写真:Q-GARDEN)

協会が行うキュレーター育成の現場の一つに、「ガーデンキュレーター即戦力キャンプ」があります。

今年(2024年)の1月には千葉県で、7月には横浜で行われ、私はそのレポートを担当しました。特に、横浜の「追分市民の森」での実習は、日常的な管理に関わる住民の高齢化による次世代の担い手不足と緑の質の低下という、青葉区でも直面している公園愛護会や里山管理の課題と重なり非常に興味深いものでした。

 

市民の森とは、減少する緑を守るために、1971年から横浜市が全国に先駆けて創設したものです。「追分市民の森」は、横浜市旭区にあり、山林を所有する地元の方による「追分市民の森愛護会」が熱心に活動を行っています。しかし、面積30ヘクタール以上と非常に広いため、手が回らないエリアがたくさんあるのが実情です。

 

ガーデンキュレーター協会では、人の手が入ってこそ守られてきた「里地里山」もガーデンと捉えています。ガーデンキュレーターと地元の方が協力して、環境にあった順応型の管理をしていけたら、今後の市民の森の管理運営の一つのモデルになるのではないか?という課題意識が、今回、追分市民の森での現場実習につながりました。これが実現したのは、市民の森の愛護会の活動をサポートし、Q-GARDENの顧問でもある、上原健さんがいたからでした。

上原さんは、追分市民の森の近くに住み、週に2、3度は訪れているとのこと。「追分の森は多摩丘陵の端に位置し、その自然は、近隣の相模原台地の自然とは違う」と語り、原風景である湿地環境に戻していきたいという思いを持っているそうです

 

この辺りの原風景だった谷戸地形の湿地帯には、クサレダマ、チダケサシ、ワレモコウ、セリなど、湿地を好む植物が自生していました

上の写真の湿地帯をさらに奥へと進んだ先、通称「トンボ池」と呼ばれるエリアの管理方針を、ガーデンキュレーターの視点で決めて現場で実習するというのが、キャンプのプログラムでした。2日目には朝から作業着で集まり、追分市民の森愛護会メンバーの方も参加して、講師・スタッフを含めて20名ほどで作業が行われました。

キャンプ参加者はガーデナーや造園職人など普段から緑に関わる仕事をしている方々。地元の方も、もともとは農家だったり造園に関わっている方で、サクサクと作業が進みます

 

作業終了後の景色。3時間ほどで、景色が変わり、元の地形がよく見えるように。遮るものがなくなったせいか、さわやかな風が吹き抜ける心地よい空間になりました

 

鳥の巣のように枝を組みあげたバイオネストも2カ所作られました。バイオネストは自然素材でつくる、いわゆるコンポストです。刈った草を中に入れ込んでおくと、分解されて土に還っていきます。その場の風景や作業の動線に合わせて、大きさや位置を決めてつくるので景観的にも美しいです

追分市民の森愛護会の会長の、関水金作さんによると「愛護会の活動メンバーは全部で15、6人いて、毎週土曜日の10時から15時くらいまで、来れる人がやっているよ」とのこと。活動場所は、主に、かつて田んぼだった谷戸のエリアです。季節ごとにお花を植えて花畑にしたり、近隣の笹野台小学校の4年生と、ゴミ拾いや枝拾い、テーブルの清掃活動をしたりをするなど、地域との関係づくりも工夫してされているとのことでした。トンボ池での作業の様子を眺めて、「人数がこれだけいると作業が進むね!」と、喜んでいました。

普段手の回らないエリアでの作業に共に汗を流しました。上原健さん(写真左)と、この日参加くださった追分市民の森愛護会のメンバー。左から桜井一成さん、関水金作さん、桜井充さん

ところで、ガーデンキュレーター協会で学べるのは、現場での実習だけではありません。研究者として造園業に関わる、筑波大学芸術系名誉教授鈴木雅和先生による講義で、頭もフル回転。1月のキャンプの際には、地理情報システムを使い、梅園を実際に再生した取り組みについて主に伺いました。今回は、インターネット上の既存のサービスを賢く利用して、現場にいく前に、周辺情報をしっかり掴む基本を教わったり、「もしガーデンキュレーターがAIを使ったら?」というテーマで、最新版の生成AIのChatGPT4.0を使い、実際に動かしながら使い方を学ぶことができました。

生成AIで、ガーデンアシスタントという人格をつくり、追分市民の森の情報を読み込ませ、適切な管理方法やデザインを考えてもらったりしている様子

ガーデンキュレーター協会では、造園や植物に造詣と経験の深い専属のガーデンキュレーターを全国に派遣すること、また、ガーデンキューレーターを育成することを目的としています。

 

「ガーデンキュレーター即戦力キャンプ」のような研修的な学びの場を今後も定期的に行いながら、協会に登録するガーデンキュレーターを増やして仕事をつくり、全国的なネットワーク化を目指しています。キュレーターの仕事に興味のある造園関係者や、この協会の取り組みに賛同する個人や企業の方、キュレーターに仕事を依頼したい方など、まずはHPを覗いてみてください。

Information

ガーデンキュレーター協会

ホームページ:https://g-curator.org/

〒235-0003

横浜市磯子区坂下町9-10-302

tel:045-750-0858(Q-GARDEN内)

e-mai:info@g-curator.org

青葉区での小島理恵さんの活動の関連記事も、ぜひご覧ください

▼青葉区は公園のまち!花と緑の地図づくりワークショップレポート

https://morinooto.jp/2020/03/23/chizuworkshop/

▼公園の「ファンクラブ」で「愛護会」が元気に! 保木公園のモデルプロジェクト

https://morinooto.jp/2021/03/29/hogiproject/

Avatar photo
この記事を書いた人
梅原昭子ライター
引き算の編集が好きです。できないこと、やりたくないことが多過ぎて消去法で生きています。徒歩半径2キロ圏内くらいでほぼ満ち足りる暮らしへの憧れと、地球上の面白い所どこでもぶらりと行ける軽さとに憧れます。人間よりも植物や動物など異種から好かれる方が格上と思っている節があります。
未来をはぐくむ人の
生活マガジン
「森ノオト」

月額500円の寄付で、
あなたのローカルライフが豊かになる

森のなかま募集中!

寄付についてもっと知る

カテゴリー

森ノオトのつくり方

森ノオトは寄付で運営する
メディアを目指しています。
発信を続けていくために、
応援よろしくお願いします。

もっと詳しく