「ガーデンキュレーター協会のホームページを作るので、記事の作成を森ノオトさんにお願いしたい」と相談を受けたのは、昨年(2023年)の夏頃でした。依頼主は、取材をきっかけにつながり、青葉区との花と緑の協働事業でも何度かお世話になっている、株式会社Q-GARDENの小島理恵さんです。
「キュレーター」とは、日本でいう博物館や美術館の「学芸員」のこと。資料収集、保管、展示、調査研究から、地域資源として生かしていく教育活動までを担う専門職です。では「ガーデンキュレーター」とは?どんな場所で、どんなお仕事をするのでしょうか?
小島さんは、大学で学んだ林業をベースに造園業に関わる中で、日本初の「ガーデンキュレーター」を名乗り、その役割や職能の認知を広げてきた方です。その背景には、愛植物設計事務所の山本紀久さんとの出会いがあります。山本さんの著書『造園植栽術』(彰国社)の中には、欧米では著名な園地にはキュレーターがいるという記載があります。その役割をご自身の仕事の中で実践してみて、非常に有効で大切であるということも書かれていて、小島さんは「これだ!」と思ったのだそうです。
「造園の設計から施工、管理運営までをトータルで見越して調整していく存在=ガーデンキュレーターがいることで、コミュニケーションが円滑になります。また、植栽管理の予算を効果的に使うことができて、結果的に緑の質が上がります」と小島さん。設計者や施工者がその役割を意識的、または無意識的に担っている場合もありますが、現場によっては、それが叶わないことの方が多く、そんな現実を変えていきたいという思いが協会設立につながっています。
小島さんには、「地域の特異な生態系を知り、その土地に合った植物を植え、元の生態系と調和しながら美しい環境をつくっていき、日本の景観自体が世界のお手本になること、そして、全国各地にガーデンキュレーターがいて、地域特性に合わせた美しい景観をつくって、海外の人がそれを見て交流する」そんな夢があると伺い、そんな未来をみてみたいと私もワクワクしています。
協会が行うキュレーター育成の現場の一つに、「ガーデンキュレーター即戦力キャンプ」があります。
今年(2024年)の1月には千葉県で、7月には横浜で行われ、私はそのレポートを担当しました。特に、横浜の「追分市民の森」での実習は、日常的な管理に関わる住民の高齢化による次世代の担い手不足と緑の質の低下という、青葉区でも直面している公園愛護会や里山管理の課題と重なり非常に興味深いものでした。
市民の森とは、減少する緑を守るために、1971年から横浜市が全国に先駆けて創設したものです。「追分市民の森」は、横浜市旭区にあり、山林を所有する地元の方による「追分市民の森愛護会」が熱心に活動を行っています。しかし、面積30ヘクタール以上と非常に広いため、手が回らないエリアがたくさんあるのが実情です。
ガーデンキュレーター協会では、人の手が入ってこそ守られてきた「里地里山」もガーデンと捉えています。ガーデンキュレーターと地元の方が協力して、環境にあった順応型の管理をしていけたら、今後の市民の森の管理運営の一つのモデルになるのではないか?という課題意識が、今回、追分市民の森での現場実習につながりました。これが実現したのは、市民の森の愛護会の活動をサポートし、Q-GARDENの顧問でもある、上原健さんがいたからでした。
上の写真の湿地帯をさらに奥へと進んだ先、通称「トンボ池」と呼ばれるエリアの管理方針を、ガーデンキュレーターの視点で決めて現場で実習するというのが、キャンプのプログラムでした。2日目には朝から作業着で集まり、追分市民の森愛護会メンバーの方も参加して、講師・スタッフを含めて20名ほどで作業が行われました。
追分市民の森愛護会の会長の、関水金作さんによると「愛護会の活動メンバーは全部で15、6人いて、毎週土曜日の10時から15時くらいまで、来れる人がやっているよ」とのこと。活動場所は、主に、かつて田んぼだった谷戸のエリアです。季節ごとにお花を植えて花畑にしたり、近隣の笹野台小学校の4年生と、ゴミ拾いや枝拾い、テーブルの清掃活動をしたりをするなど、地域との関係づくりも工夫してされているとのことでした。トンボ池での作業の様子を眺めて、「人数がこれだけいると作業が進むね!」と、喜んでいました。
ところで、ガーデンキュレーター協会で学べるのは、現場での実習だけではありません。研究者として造園業に関わる、筑波大学芸術系名誉教授鈴木雅和先生による講義で、頭もフル回転。1月のキャンプの際には、地理情報システムを使い、梅園を実際に再生した取り組みについて主に伺いました。今回は、インターネット上の既存のサービスを賢く利用して、現場にいく前に、周辺情報をしっかり掴む基本を教わったり、「もしガーデンキュレーターがAIを使ったら?」というテーマで、最新版の生成AIのChatGPT4.0を使い、実際に動かしながら使い方を学ぶことができました。
ガーデンキュレーター協会では、造園や植物に造詣と経験の深い専属のガーデンキュレーターを全国に派遣すること、また、ガーデンキューレーターを育成することを目的としています。
「ガーデンキュレーター即戦力キャンプ」のような研修的な学びの場を今後も定期的に行いながら、協会に登録するガーデンキュレーターを増やして仕事をつくり、全国的なネットワーク化を目指しています。キュレーターの仕事に興味のある造園関係者や、この協会の取り組みに賛同する個人や企業の方、キュレーターに仕事を依頼したい方など、まずはHPを覗いてみてください。
ガーデンキュレーター協会
ホームページ:https://g-curator.org/
〒235-0003
横浜市磯子区坂下町9-10-302
tel:045-750-0858(Q-GARDEN内)
e-mai:info@g-curator.org
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