子どもたちのサードプレイスに! たまプラーザの私設図書館「ぷらに」ってどんなとこ?
2021年1月21日、たまプラーザ中央商店街の一本裏手に「たまプラーザ駅徒歩2分図書館(ぷらに)」がオープンしました。扱う本はすべて寄付されたもの。「子どもと若者が自由におしゃべりできる居場所を作りたい」ー。そんなことを漠然と思っていた中、横須賀市の私設図書館を知り「私も図書館を作ろう」と、即実行。目標と決めた寄贈の1,000冊を2カ月足らずで集めたそうです。私は小さい頃から本が大好きで、図書館も大好き。どんな本があるのか?どんなところなのか?運営者の青柳志保さんにお話を聞きに行って来ました。
(※2021年11月に移転しました。詳しくはinfomationをご覧ください)

青柳志保さんが「ぷらに」を開館するきっかけは、1年前にさかのぼります。新型コロナウイルスで公共施設の利用が制限され、学校の休校で暇になった中学校3年生の息子さんが、青柳さんの仕事先の動画配信スタジオ「スタジオシフォン」で友だちとゴロゴロしている姿を見て、今の時代には、家でもなく学校でもない、子どもが気兼ねなく、寛げるような場所が必要だと思ったそうです。

そんな時、横須賀で私設図書館「衣笠駅徒歩1分図書館」を開設した北川幸子さんの対談をスタジオシフォンで行い、その図書館に対する思いに共感し「子ども同士が自由に話せる場所をたまプラーザでも作りたいと、同図書館を真似て開館を決めました。

 

本を寄贈してくれた方に名前を書いてもらい、壁に張り出してあります。こちらの女性が青柳さん

 

ぷらに」は子どもと若者のための私設図書館で、開館日には、子どもと若者に無料で場所を開放しています。 “Give & Take” ではなく “Give & Give”というおすそ分けを優先し、幸せが循環する仕組み 「ギフトエコノミー」を実践する場として運営しています。

図書館に並べてある本は全て寄贈によるもので、持ち主が不要になった本ではなく、子どもや若者たちに「読んでほしい」と寄贈された本ばかりが並びます。その本を、すべての子どもと若者が自由に読めるように貸し出しもしています。またこの場所が子どもたちの心地よい場所「サードプレイス」になることを目指しているのです。青柳さんはこう言います。「維持するにはお金を貰ったほうがいいとみんなに言われるけれど、仕事や商売としてではなく誰もが自由に本を読んだり、寛げる空間を提供したいの。図書館を作ったのは趣味だから」と。青柳さんの趣味という言葉には、「ぷらにはあくまでもボランタリーである」という思いが込められています。

 

看板も青柳さんの手作り。「味のある感じがよいでしょう」と青柳さん

 

「今の図書館って意外と敷居が高いのではないかな?」と青柳さん。「本を読んでいる方に気を使い、私語厳禁で、お静かにが当たり前。でも、ここはおしゃべりも大歓迎」と言います。そういった運営方針からか、8割ほどの子どもたちは、交流の場として来ているそう。本を読む以外にもゲームをしている子どもいます。学校に行けない中学生の子どもたちもよく来ます。本を読んでいるわけではなくパソコンをしていたり、携帯をいじったり、たまに本を読んだり……。そんな風に思い思いに自由に過ごしていくそうです。思わず、私は青柳さんに「図書館なのにいいの?」と聞いてしまいました。

 

青柳さんからは、こんな答えが返って来ました。

「中学生の子が『ここは図書館だけどゲームやってもいいですか?』と私に聞きにくるの。『自分で考えていいと思ったらいいよ』と答えています」と青柳さん。どんなことでも、子どもに自分で考えてもらう。ここが図書館だとわかっていてやっている分には、何をやっていても気にしない、というかなり型破りな図書館です。

 

ある日、一人で来ている小学生の子が、集団でお菓子を持ってきる子を見て「あのお菓子を私も食べてもいいですか?」と青柳さんに聞いて来たことがあったそうです。「自分で聞いてみて」と青柳さんが答えると、その子はグループに向かって自己紹介を始め、あっという間に仲間になって一緒にお菓子を食べていたそうです。「同じ場所にいて、話しかけるきっかけやタイミングがあれば、子ども同士はすぐに仲良くなれる」と、青柳さんは嬉しそうに話してくれました。

 

「ぷらに」に来ている子どもたちは、時には家庭でも出さない顔を見せる時があるそうです。例えば、子どもたちが今流行の「ウッセーウッセー」という歌詞の歌を大合唱することもあるそうです。「ぷらには、家で一人ではなかなかできないことをしたり、友だち同士で気持ちを吐き出す場所にもなっています」と青柳さんは続けます。「子どもにとって、サードプレイスがあるということは大事なことです。それこそ、ありえないことだけどふざけてパンツを脱いだりとか、何か突拍子もない事をする子がいたならば『ここは図書館です』と言えばいい」と笑います。自由を尊重しつつ、最低限のルールがあるということを子ども達が自然に学べる場なのではないでしょうか。

そして、一人で本を読みに来ている子や、毎週決まった曜日に来る子が増えてきているということは、すでにその子たちにとっての居場所になっているからだと感じました。

 

青柳さんの小学校の時の作文集

 

取材途中に青柳さんが1冊の作文集を見せてくれました。作文集を手に、青柳さんは小学校の思い出を話してくれました。「ゲームもないし、本しか娯楽がなかった時代よね。私は外遊びが嫌いで、めちゃくちゃ内気で、本ばかり読んでいたの。そのおかげかどうかわからないけど、本を読むのも大好きだったし、作文を書くのが大好きで、ひたすら書いていたの」。その時その時の少女時代の青柳さんが感じたことや思ったことが、文集という形で、先生のコメント付きの文章として残っていました。「こんな大事なもの読んでいいの?」と私が聞くと「どうぞ」と読ませてくれました。

 

「私の心」という題名でまとめてある青柳さんの作文集は、1年生から6年生までに書いたものが全部まとめてありました。「全然記憶にはないんだけど、私の書いた文をまとめてとっておいて、小学校卒業時に文集としてまとめることをさせてくれた親にも感謝」と青柳さん。年に20本以上の文章を書くということは、小さい頃からの本好きが根底にあったのではないかと私は思いました。

 

本ばかり読んでいたという青柳さんに、今まで1番、印象に残っている本を教えてもらいました。今まで感銘を受けた本は灰谷健次郎の『太陽の子』。沖縄の言葉だと「てだのふあ」という戦争の話だと教えてくれました。「なんかね、原爆の話とかつい読んじゃうの。戦争の写真とかにも興味をそそられる。実はね、ここに来る子どもたちは、戦争にまつわる本や写真集なんかには目がいく子も多いの。やっぱり、何かで聞いたりしていて興味がある子も多いんじゃないかな?」と青柳さん。確かに、日本では戦争が起こったことは、映像や本でしか知ることができない時代になりつつあります。

 

寄贈本の『きけわだつみのこえ』。「戦争があったということも子どもたちに知ってもらいたい」と青柳さん

 

青柳さんは、「ぷらに」のスタートを振り返ります。

「最初に1,000冊を寄贈で集めようと思ったのは、自分で本を揃えるには膨大なお金がかかるし、リサイクルという訳ではないけれど、循環性も大事にしたかった。何より、本は子どもたちへのギフトでもあると思うの。だから始めに自分の持っていた100冊を寄贈という形で持ち込んだの。大事にしていても、もう読まない本もあると思ったし、思い出に残る本はここに来れば読めるから」。

202012月に自身のS N Sで発信を始めて、友人や知り合いへとあっという間に広がりました。地元のタウン誌やラジオでも取り上げられ、会ったこともない人が「ラジオを聞いた」と、段ボールにつめて本を2回に分けて送ってくれたこともありました。「思いのある本は捨てられないし、それが誰かの役に立つならば、送った方も嬉しいのだと思う」と青柳さんは話します。

 

青柳さんは、経済の循環を支え合いの経済として捉えていました。大人が本を寄贈して、その本を子どもが読む。本に詰まった「知識や夢」を子どもに与えることは、いずれ社会に帰ってくる。これが青柳さんの思うギフトエコノミーなのだそうです。

 

たくさんある寄贈本で一番嬉しかった本を教えてもらいました。「ぜーんぶよ」と言いながら、1冊の本を持って来てくれました。「これは50代の男性が通りすがりに、ここを見かけて『子どもたちのために』と、わざわざ買って持ってきてくれた本なの。『こんな時代で子どもたち元気がないから、おまじないにでもなれば』と買って来てくれたのよ」と、『つるかめつるかめ』の本を紹介してくれました。「その男性は子どもに対してすごく愛情がある方だなって思って、ジーンとなったのよ」と青柳さん。

 

次に紹介してくれたのは、中学生の男の子が持ってきてくれた本でした。「『自分が読んでいた本をもう読まなくなったから』と言って持ってきてくれた本なの。自分が読んでいた本を次の世代の子どもたちに受け継いでいくって、すごく素敵なことだと思わない?」と青柳さん。もちろん図書館開設のきっかけになった息子さんが自分の本を寄贈してくれたことも嬉しかったそうです。

 

本棚も青柳さんの友人が作ってくれました。本だけではなく、こういった手作りの寄贈も「ぷらに」ならではのようです

 

子どものための図書館であったはずが、今は月1回「大人の日」(子どもは入れず、大人だけが、本を読む日)を設けるようになりました。なぜなら、この図書館を知った大人たちが居場所やつながりを求めてやってくるようになったからだそうです。あくまでも図書館なので、利用する人たちに、ここはおしゃべりをしたり、歌を歌ったりするような発散の場ではないことは伝えますが、来館者にとって、この図書館の存在が、誰かに会えたり、少しでも人と話をすることで気持ちを出す場所になっているようです。

大人の日を設けることで、自分が子どもに読んでほしい本をわざわざ買って持ってきてくれることもあると言います。

 

ぷらには、開けている時は、お手洗いだけの利用も可能としています。赤ちゃん連れのお母さんや子連れのお母さんがいらっしゃるそうです

 

開館後、青柳さんの中でも少しずつ変化も起きているそうです。「本当は子どもだけにしたかった」と言いながらも、子ども以外の年代向けにもやりたいことも増えてきたそうです。「大人向けに、『読んだ本を語る会』もできたらいいよね。知らない本に出会えたり、同じ本を読んで共感する会も楽しそう。子どもたちだけではなく、大人にもそんな空間が必要だと思うようになってきた」と語りました。

 

つながりを求めているのは子どもだけではないと思います。

私は子どもを産んだ時、出産間近のギリギリまで仕事をしていました。その結果なのか、一人目育児は孤独でした。

近所に知り合いは一人もいない。親もいない。夫が帰ってくるまで誰とも話ができない毎日を過ごしていました。そんな時、毎日のように通ったのが近所の図書館でした。もともと図書館が好きだったことが根底にあったのだと思います。短い時間でも人との触れ合いが欲しかったように思います。無意識に図書館を選んだのは子どもの頃から馴染みがあったからだと思います。

もちろん、「ぷらに」と違ってお喋りも歌を歌うこともできませんでしたが、私にとっては子どもと2人きりの閉塞した空間から抜け出す貴重な場所でした。子どもも大人も、誰かとつながっていたい気持ちがあると私は思うのです。

当時の私の生活の中に「ぷらに」があったら、と、羨しくなります。

 

少し前のデータですが、2018年に横浜市で初めて行われた4064歳を対象にした「市民生活実態調査」では4064歳の市民のうち約12,000人が引きこもり状態にあると推計されました。また、同時期の1539歳を対象とした「横浜市子ども・若者実態調査」では引きこもりと推計される人数は約15,000人という結果があります。コロナ禍の今、人とのつながりがますます希薄になることが心配です。子どもだけでなく大人にとっても、「ぷらに」のようなサードプレイスが必要になる時が来ているのかもしれません。

 

落ち着いて本が読みたい子どものために、照明などの雰囲気も大切にしています

 

図書館を維持することを目的とするなら料金を設定するべきという見方もある中、「趣味」と言い切り、「ぷらにが子どもたちにとって居心地の良い場所であり、安心できる場所であることを願って、将来、あんなところ行ってたなぁ、と思い出してもらえたら嬉しい」と青柳さんは語ります。「あそこでこの本読んだね」、とか「こんなことあったよね」とか、家や学校ではない、自分の居心地の良い居場所があったことは子どもたちの心の健康にとても大切だと私も思います。

青柳さんの朗らかで、よい意味での放任が心地良い空間を作っているのを感じました。

 

寄贈本は2021年5月12日時点で2,668冊。今も不要な本ではなく読んでほしい本を受け付けています。

Information

住所: 横浜市青葉区美しが丘1-5-3美しが丘ビル205 office chiffon内

※2021年11月に移転しました。

 

・ぷらには一人で来られる子ども(小学生から25歳まで)と障がいのある子ども、不登校の子どものための私設図書館です。開館日に無料で開放していますのでプラッと本を読みにきてください。 (通常営業日は大人は入館、見学ができません。子どもだけの居場所作りにご協力ください)

・動画配信スタジオの「スタジオシフォン」と併設で不定期開館。開館日はFacebookで確認してください。

 

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この記事を書いた人
塚原敬子ライター
2000年に青葉区に引っ越してから早20年、長男は藤が丘で産まれました。 その頃、これからは介護だ!と介護福祉士やアロマ、ヨガの資格を取りました。「健康は自分で作るもの」がモットー。月や星、石や植物が大好きで山や海での拾い物多し。
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