色よし、味濃く、甘み広がる。「恋豆」に情熱を注ぐ農家・白井浩弥さん
6月初旬から9月上旬まで、横浜市内の3軒の農家が生産しているブランド枝豆「恋豆」がJA横浜の直売所「ハマッ子」を中心に販売されています。茹でたての恋豆を頬張れば、甘みと濃い香りが口一杯に広がり、まるで恋しちゃうほどその味わいに夢中になってしまいます。青葉区大場町で恋豆を栽培する農家の白井浩弥(しらい・ひろみつ)さんに、恋豆のおいしさの秘密を聞いてきました。

枝豆を選別機にかける。粒が小さいものや1粒のものを「はじき」として選り分け、さらに白井さん自らが手選別で色・形がいいもののみを出荷する

私が白井さんのお宅を訪れたのは8月初旬の10時過ぎ。採れたての枝豆の選別作業をしているときでした。形の悪いもの、1粒しか入っていない枝豆をはじき、鮮やかな緑色の鞘の中に2粒、3粒の豆が入ったもののみを選り分けていきます。機械選別と手選別、両方で選りすぐったべっぴんさんの枝豆は、ピンク色の鮮やかな「恋豆」ロゴが目を引くパッケージに袋詰め。

「朝にも出荷したばかりなんだけど、人気ですぐになくなっちゃうから、また届けてくれって言われていて。このあとJAにもう一度持っていきますよ」と白井さん。

こちらは袋詰め機。作業の効率化は欠かせない

とにかく採れたてをすぐにJAに持っていき、その日のうちに茹でて食べてほしい。その気持ちで毎日、収穫から脱莢(だっきょう)、洗浄、選別、袋詰めまで、全ての作業を一人でこなしています。

「朝採れの恋豆は特別においしいから。もう、他の枝豆は食べられなくなっちゃうんじゃないかな」と、茶目っ気たっぷりに笑います。

 

 

「五目栽培」から主力栽培に転換

白井さんは青葉区で代々続く農家で、夏の恋豆を主力に、秋冬はキャベツ、レタス、白菜、ブロッコリー、ほうれん草、小松菜と、お米を生産しています。以前は、多くの都市農業者がそうであるように、少量多品目栽培をしていましたが、今から3年前、恋豆を主力に据える経営方針に転換しました。

今日収穫した恋豆は、6月4日に種播きしたもの。「今年はカメムシが大量発生してね。カメムシは作物に針を刺して豆の汁を吸うから、厄介なんだ」と頭を悩ませる。病害虫の消毒は早朝、風向きに配慮して行う

「”五目栽培”(少量多品目栽培)は儲からないよ。農業が持続可能であるためには、まずは農家が稼げなくちゃね。ここ横浜は、生産地と消費地が近いのが強み。枝豆は鮮度が命なので、収穫してすぐに直売所に出荷できる利点を活かして、夏場は恋豆を中心に栽培することにしたんだ」と白井さんは語ります。

洗浄機、選別機などの機械化にも積極的に投資を行い、作業効率をとことん高めて、収穫から出荷までをスピーディーにこなします。

 

 

いい土をとことん生かす「畑のカレンダー」

こちらは丘の上の畑。高温にならないよう、白いマルチで土をカバーする

白井さんが栽培する恋豆は、6月初旬から7月中旬までは「神風香(かみふうか)」という早生品種で、茶豆風の香りとしっかりした食感が魅力。8月以降は「香り枝豆」との異名を持ち茶豆風の食感の「陽恵(ようけい)」を栽培します。

 

2024年は、2月24日に最初の神風香の種を播き、土をマルチ(畑の畝を覆うフィルム製の資材)で保温しながら95日後、6月初旬から収穫が始まります。だんだん地面の温度が上がってきて、播種から収穫までの期間が短くなります。

 

「3年やっていると、一週間でどれだけ恋豆が売れるかだいたいわかるので、収穫時期から逆算して種を播くようにしている」と明かしてくれました。白井さんの頭の中のカレンダーと、畑の暦は一致しているようです。

恋豆収穫後の畑にキャベツの苗を植えた。畑の横にトラックを横付けして、トラックに積んだ水タンクから水撒きをする

恋豆の畑は3カ所、9反ほどの面積で培しており、恋豆の収穫が終わった畑から、秋冬野菜の栽培が始まっていました。

「この苗はキャベツ。8月1日に植えたばっかりで、日中葉っぱを丸めて蒸散できるように、水やりをしっかりしないと。ホント、水やりは大変だね」と言います。

ちなみに水は、鶴見川沿いにある田んぼの脇を流れる水を汲み上げて、毎日トラックのタンクに詰めて運んでくるそうです。いかに農家さんが重労働であるかがわかります。

青いブルーシートで覆われているのが、菌床の堆肥。菌床とは、キノコ栽培のためにおがくずを固めた培地のこと。使用済みの菌床を譲り受け、微生物の力を借りて発酵させ、ふかふかの土を作る堆肥ができる。野菜残さも堆肥にする。右側のトラックには水のタンクが積んである

畑の土はふかふか、サラサラで、とてもきれい。鉄町でキノコの菌床栽培をしている青葉ファームランドから菌床を分けてもらい、微生物発酵して堆肥を作り、土に混ぜ込んでいます。

 

「恋豆は、土壌分析や堆肥づくりまで、徹底的に土づくりにこだわって栽培しています。本気の仲間たちと、とことん研究しながらつくっているから、おいしさは格別ですよ」とニヤリ。

 

その土で作るブロッコリーや白菜、ほうれん草などの葉物野菜も自慢の逸品です。

 

「農家は休みなしだからね。たまに行くゴルフで気分転換しているけれど、家に戻ったらまた、あれもやらなきゃ、これもやらなきゃと忙しいよ」と、常に畑の管理で頭がいっぱいです。

 

「われわれは、プロフェッショナル・ファーマーズとして、いいものをつくっている」との誇りを胸に、今日も白井さんは畑に出かけます。

 

 

イベントやSNSにも注力

JA横浜田奈支店の直売所「ハマッ子 四季菜館」で販売されていた恋豆。目を引くのぼりとポップで、瞬く間に売れていく

白井さんは 、美大を卒業した娘さんがデザインを手がけた恋豆Tシャツを着たり、イベントでステッカーを配るなど、恋豆の魅力発信にも余念がありません。@831shirai のアカウントでInstagramの発信にも力を入れています。

 

「7月には二子玉川ライズのイベントに出店したんだけど、東京で恋豆を売るんだ、多摩川を渡るんだ、っていう3年越しの夢が叶った。インスタで発信したら、恋豆を目がけて来てくれたお客さんがいてね。あの味が忘れられないからって朝一番にお客さんたちが並んでくれた」と顔がほころびます。3年目にして恋豆が浸透した手応えを感じています。

 

私もJA横浜の直売所「ハマッ子」に買い物に行った時に、小学生が「あ、恋豆!この豆、とてもおいしいんだよ」と話していたのを目の当たりにしました。わが家でも恋豆を買ってその日の食卓に出すと、家族が「これ、恋豆でしょう。味が違うもん」と言って、次々に口に入れすぐになくなります。消費者の心をすっかりつかんだ恋豆です。

取材したその場で収穫した恋豆を茹でて出してくださった。めちゃくちゃ甘い!「茹でたものを冷やして食べるよりも、茹でたてが一番おいしい」と白井さん

「農業は、好きでやっているから楽しいよ。農業は儲からない、って言う人もいるけれども、青葉区は立地がいいでしょう?お客さんが近くにいるんだから。本気でやっているから稼げるし、食べてもらって“おいしい”ってまた買いに来てくれたら、それはとてもうれしいよね」

市が尾にあるトンカツ屋の「とん平」さんが、恋豆アイスクリームを開発したそう。近日中にJAの直売所で販売されるとか(写真:白井さん提供)

私たち消費者は、近くで採れた新鮮な野菜を食べて幸せになり、その反応が農家さんの喜びとやりがいにつながる。

私は、青葉区の緑豊かな環境が好きで、このまちで子育てがしたくて20年来青葉区に住んでいます。都市の中にある貴重な緑地でもある農地。都市農業の農家さんが背負っている「緑の保全」という責任の重さを分かち合うことはできないけれど、「おいしかった」「また食べたい」という気持ちをのせて、感謝を伝えることはできるはずです。

今はSNSといった便利なツールがあって、農家さんの苦労や工夫、がんばりを知ることができます。白井さんのInstagramをフォローすれば、白井さん自身がJAの直売所やイベントに立つ日や、恋豆の最新情報もわかるので、ぜひチェックしてみてくださいね。

タフな仕事もイキイキと楽しそうに取り組む白井さん。高校時代は柔道の選手だったそう

Information

白井さんのInstagram

https://www.instagram.com/831shirai/

 

恋豆は6月初旬から9月上旬まで、JA横浜の直売所「ハマッ子」5店舗で販売しています。

「ハマッ子」直売所たまプラーザ店

「ハマッ子」直売所横浜青葉インター店

「ハマッ子」直売所四季菜館

「ハマッ子」直売所センター北店

「ハマッ子」直売所メルカートかながわ店

https://ja-yokohama.or.jp/tenpo/hamakko#hamakko

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この記事を書いた人
北原まどか理事長/ローカルメディアデザイン事業部マネージャー/ライター
幼少期より取材や人をつなげるのが好きという根っからの編集者。ローカルニュース記者、環境ライターを経て2009年11月に森ノオトを創刊、3.11を機に持続可能なエネルギー社会をつくることに目覚め、エコで社会を変えるために2013年、NPO法人森ノオトを設立、理事長に。山形出身、2女の母。
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