子どもがスマホを持つ前に!メディアリテラシー新聞をつくりました
子どものメディアリテラシーをテーマに活動して3年。皆さんからの意見をもとにした親子でかわす約束ごとを例示した「スマホの親子契約書」と家族で話し合うための新聞風のペーパー「メディアリテラシー新聞」が完成しました!

森ノオトのローカルメディアデザイン事業部では2021年から子どものメディアリテラシーをテーマに活動を行っています。

 

義務教育でのスマホ・タブレットの導入により、子どもが情報端末を自在に操るのが当たり前になりつつあります。

 

IT技術を覚えることで世界が広がる一方で、炎上、なりすまし、誹謗中傷、デマの拡散など、気をつけることも増えています。

 

情報があふれる社会で、被害にあったり悪いことに参加してしまわないように、子どもと大人が一緒に学ぶ機会を増やしていきたいとプログラムを考えてきました。

 

1年目はまわしよみ新聞ワークショップとセミナーの実施を核とした学びの場をつくりました。

 

2年目は家庭で日常的に学べるようにヒントを伝える動画を作成しました。

 

3年目となる今年は子どもにメディアリテラシーを伝えるために家庭や地域(学校や学童など)でできるプログラムを考えて、経験の機会を提供することを目標に活動を行いました。

 

2023年9月から12月にかけて事例を収集し、2024年1月から3月にかけてプログラムを制作、4月から6月にテスト開催し、7月8月にまとめるというのが年間のスケジュールです。また、メディアリテラシー教育の第一人者でもある下村健一さんの講演会を7月に実施し、私たちの作った成果物の試作版もお渡ししました。

 

最終成果物として、親や地域の身近な大人が子どもと話すための仕掛け(ワークシートやカードなど)をつくりたいと考えました。

 

保護者、子ども、教育現場や居場所の大人など、様々な立場の人から意見を聞きながら、新聞風のシートとスマホのルールを定めた「親子契約書」をつくることになった一年の活動を報告します。

 

 

保護者の経験や不安を聞く

情報社会は急速に変化するため、危険や不安も日々増えていきます。

まずは保護者が何に悩んでいるのか、ヒアリングをすることにしました。

 

「ここが知りたい、子どものメディアリテラシー」と題した保護者座談会を、2023年11月にリアルで2回(横浜市内)、オンラインで2回実施しました。

 

県外からの参加希望やオンタイムでは参加できないが興味があるという声をいただいたため、ウェブのアンケートフォームもつくり、意見を集めました。

 

リアル座談会参加者5人、オンライン座談会参加者12人を含む計35人からご意見をいただきました。

 

質問は主に下の3つです。

 

1)スマホを初めて持つ子どもにアドバイスしたい注意点

2)情報の受発信時の落とし穴について、あなたが気になることや実際のエピソード

3)子どもに伝えるときに各家庭で工夫していること

 

座談会には10歳〜15歳のファーストスマホを持つ世代の子どもを持つ方をはじめ、高校生大学生の子どもがいる方、乳幼児を子育て中の方なども集まりました。

 

親自身のデジタル体験もさまざまなことから、自分自身が陥った経験や思春期の子どもに携帯電話を持たせるに至ったエピソードなどが語られ、参加者同士が互いに会話を交わしながらのヒアリングとなりました。

横浜市市民協働推進センターで開いた座談会には4人が参加。違法(パクリ)ゲームに子どもが夢中になってしまったときにどう言ったらいいのか、自分が偏った意見に流されてしまった経験談、子どもにスマホを渡す際に参考にした書籍など、生きた情報が共有された

話されたのは、スマホに対峙する時間の制限(依存、生活習慣、健康・視力)、ネットでふれる情報(悪意ある情報、フェイクニュース、広告など)、不特定多数への発信(個人情報流出、デジタルタトゥー)、ネット上の出会い、SNSコミュニケーションなどさまざまです。

 

特に、初めてスマホを持つ際、子どもと親がどのように約束をしたかという点には経験者からの具体的な意見が寄せられました。

 

口約束ではなく、具体的にルールを決めること。

儀式のように書面で契約を取り交わし、特別な約束であることを子どもに認識させるための工夫。

親が一方的に決めるルールではなく、子どももそのルール作りに参画して一緒に考えること。

 

ここでの意見から各家庭でアレンジできる「親と子が交わすスマホの契約書」のひな形を作成することになりました。

 

多様な意見があり簡単に分類できないのですが、あえて参加者の意見を大きく分けてみると、スマホの使い方(家庭内でどういうルールにするか)、閉じられた関係(友人)でのコミュニケーション、対不特定多数のメディアリテラシーの3つがあると考えました。

 

対友人関係のコミュニケーションの心配は、ネットの世界だけでなく、リアルな世界でも言えることです。

 

私たちの事業で取り組むのは、不特定多数に対するメディアリテラシーについての不安を解消することだと考え、そこに注力することを決めました。

 

なりすまし、陰謀論、ネットいじめ、事実かどうかではなくおもしろいから拡散するという現象、生成AIと著作権、コタツ記事など、問題なのはわかるけれど何が問題なのかを明確に子どもに伝えられないという事例がたくさんあります。

 

座談会でも大人に知識が少なく、自信を持って教えられないという声がありました。

 

情報は日々変わるので、全てを網羅するのは難しいと割り切り、2024年現在のメディアリテラシー関連用語を抜き出し、家庭で1週間に一つ話すための用語集のような、各家庭にお題を提供する「かわら版」を作成するという成果物の方向性を定めました。

 

 

子どもたちの反応を確かめる

とりあげる用語の選定のために、最近ニュースなどで目についたメディアリテラシー事例を16ほどあげ、その中から子どもたちの反応を見て内容を調整していこうとなりました。

 

横浜市内の学童施設や子どもの放課後の居場所活動をしている団体や小学校など、4カ所でワークショップをさせてもらいました。

小学5年生は、国語・社会・道徳など複数の科目で「情報」について学ぶ年代。キーワードについて、知っていて説明できる、説明できないが言葉は知っている、知らないの3段階で挙手してもらった

なかでも横浜市立立野小学校(中区)では、小学5年生91人を対象とした「情報」の授業を2時間担当し、メディアリテラシー用語解説とグループトーク、キャリア教育の要素を盛り込んだ講義を実施させていただくことになりました。

 

1時間目はメディアリテラシーのキーワードとして「肖像権」「ネットいじめ」「災害時のデマ」を紹介し、それぞれの項目で「何が問題なのか」「どうすればいいのか」気がついたことをグループで話しあって発表してもらいました。

 

2時間目は「アナウンサーの仕事と災害時の情報発信」と題して、私船本が放送局の仕事についてや自分自身の経験を話しました。

ワークショップの資料の一部。この中から3つを選んで解説を行った。言葉がおもしろい「コタツ記事」「寿司テロ」に子どもたちが注目する傾向も見られ、言葉のキャッチーさも用語理解に欠かせない要素であることがわかった

生徒たちがみな手元のタブレットで資料をみたりメモを取ったりしており、タブレットを文房具の一つとして使いこなしている様子に時代の変化を感じました。キーボード入力する子もいれば、手書きで書く子、音声入力をする子などさまざまです。タブレットの中で思考をまとめていくのがスタンダードになっていくのだなと感じました。

資料はペーパーレス。タブレット内で配布された設問をみながらグループで話す様子。講座前と講座後に取ったアンケートもGoogleフォームで回答してもらった

授業の中では災害に関する情報の受発信について詳しく取り上げました。

 

いまの小学5年生は2013年〜14年生まれ。東日本大震災の後に生まれた世代です。また熊本地震(2016年)の記憶もなく、今年2024年1月の能登半島地震が多くの子どもにとって「自分の記憶に残る形で震災を映像越しに生で見た」はじめての経験になるのです。

 

東日本の時にネットでの情報支援が役に立ったという話や、熊本地震の時にデマが飛び交った話なども、彼らにとっては記憶にない昔のことです。しかし、災害のたびに流れる定番のデマが存在するため、過去にどんな情報の混乱があったのかを知ることが、将来、災害時のデマに対応する時に生きてきます。

 

今回は能登半島地震の時にどんな情報が飛び交ったかを伝えました。閲覧数稼ぎを目的とした赤の他人により被災地からの救援依頼投稿が無数にコピーされたり、まるで能登の海のようにみせかけて別の津波の映像が投稿され、本物の救援情報が埋もれてしまったという出来事がありました。災害時にネットを閲覧する人が増えることを悪用した行動が多く起きたことを伝えました。

 

子どもたちが身近に感じるためには、常に新しいニュースを事例に上げていくことが必要です。

 

また、キャリア教育的な視点からの話もあった方がよいという学校側からの提案をうけて、今回、わたしが放送局で働いていた時の話を話しました。

 

わたしは、阪神淡路大震災で情報の大切さを知り、放送局就職を志しました。

そして新卒で就職してから、子どもが生まれるまでの14年間、放送局で働き、主にニュース番組を担当していました。

 

放送局にはどんな仕事があり、ニュース番組を放送するまでにはどういう準備をしているのか、なぜアナウンサーになりたいと思ったのか、アナウンサーの役割についてなどについて話しました。

 

今は一般の人でも動画を作成しYouTubeなどで公開することができます。子どもにとってはテレビも動画サイトも、情報を受け取るツールとしてはいまや同列にあります。

 

報道の現場では、多くのスタッフがいろんな方向から情報をキャッチして、このニュースはこれでいいのか、この情報を流す意味はどこにあるのかを考えて発信しています。

多様な視点を想像し、配慮すべきところに配慮し、判断できる知識を持った経験者たち、情報のプロたちが集まって取捨選択をして情報を流しています。

アナウンサーは表に出る裏方。記者やディレクター、カメラマンが集めてきた情報を最後に顔を出して正確にわかりやすく伝える責任がある。ニュースを理解する知識、正確な表現力、現場経験があることによる信頼感などが欠かせない

生徒たちからは「災害時にはデマに気をつけたい」「ニュースがそんなにたくさんの人が関わって作られていると初めて知った」「アナウンサーになってみたい」という感想が寄せられました。

 

気軽に情報を流せる時代にあって、ニュースのプロである報道機関が毎日手間と時間をかけて責任感を持って情報を出していることは伝わりにくく、子どもたちに裏付けが取れたニュースとそうでない情報があることを伝えることには価値があると感じました。

 

メディアの裏側の努力や蓄積を伝えることも、情報の取捨選択力を鍛えるメディアリテラシー教育には大切なのだと実感しました。

 

 

メディアリテラシー新聞の完成

2024年現在のインターネット上で起こるさまざまなトラブルについてのキーワードをピックアップした全10号の「メディアリテラシー新聞」が完成しました。

「コタツ記事」をテーマにした「メディアリテラシー新聞」。具体的な事例、用語解説、問題点、関連用語の紹介、どうしたらいいのかなどの項目に分かれている

 「コタツ記事」「著作権」「肖像権」「生成AI」「フィルターバブル」「ネットいじめ」「寿司テロ」「災害とデマ」「インプレ稼ぎ」「フェイクニュース」の10のキーワードをテーマにしています。

 

この新聞風ペーパーでは、キーワードごとに具体的な事例や、起こりうるリスクについて解説しています。自分ならどうするのか、人を傷つけないように、自分も傷つかないようにするにはどうしたらいいのかを考えるきっかけにしてもらいたいです。

 

情報受発信の落とし穴を家族で確認したいとき、大人もちゃんとわかっているのか不安なときに参考情報として使えるようにつくりました。

 

情報を受発信する際、「ん?」と違和感を感じることがあると思います。大切なのはその違和感を身近な人に話してみて、違和感の正体について考えることです。一人で判断しないことが大切です。

 

メディアリテラシー新聞を使って週に一回1テーマを話し合うとしたら、10週間分あります。10週間繰り返せば、わからないことを家族で話し合うことが習慣になるのではないかという期待とともに、メディアリテラシー新聞をこの一年の事業成果として発表します。

 

誰もがダウンロードして使うことができます。

皆さんもぜひ使ってみてください

Information

親子のスマホ契約書、メディアリテラシー新聞は以下のサイトからダウンロードできます
https://localmedia.morinooto.jp/

「メディアリテラシー新聞」と「スマホの使用契約書」をアップしました

 

この事業は2023年度ドコモ市民活動助成の一環で実施しました。

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この記事を書いた人
船本由佳ライター
大阪出身の元TVアナウンサー。横浜市中区のコミュニティスペース「ライフデザインラボ」所長。2011年、同い年の夫と「私」をひらくをテーマに公開結婚式「OPEN WEDDING!!」で結婚後、自宅併設の空き地をひらく「みんなの空き地プロジェクト」開始。司会者・ワークショップデザイナー。
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