
いちごで有名な栃木が出身の私は、いちごが大好き!いちごの季節に帰省すると、必ず近くの道の駅で毎回大量に買い込んでそのまま食べたりスムージーにしたり、いちごを最大限に楽しみます。
青葉区鉄町にいちご専門の農家「ハーベストガーデン」があると聞き、代表の金子翔(しょう)さんにお話を伺いに行ってきました。
ハーベストガーデンは「紅ほっぺ」「よつぼし」「ベリーポップすず」の3品種をハウスで栽培しており、いちご狩りと直売を行っています。自分の手で摘み取ったピカピカつやつやのいちごはおいしくない訳がありません。こんな近くに手軽に収穫体験が出来る場所があるなんて、うれしくなります。露地栽培(屋外の畑での栽培)でのいちご狩りの経験しかない私は、ハウスでのいちご狩りに興味津々です。

ハーベストガーデンの広さは12ha。取材日は冬曇りの肌寒い日でしたが、ハウスの中は春、かわいいいちごが並びます

実っていた真っ赤な甘いいちご。通常より時間をかけて赤く熟させることで、甘みが増すのだそうです
いちごに魅せられ転職
もともと川崎市のJAで営業職として働いていた金子さんは、自分と同じ歳のいちご農家さんと知り合い、関わっていくうちに「楽しそう」「自分でいちごを育ててみたい」と思うようになったそうです。
そしてついに2022年、青葉区鉄町にある、奥様のご実家の農家の田んぼを埋めていちご農園を始めたのです。
農業経験がゼロだったという金子さん、脱サラでいちご農家を始めることに、不安はなかったのでしょうか?私のそんな問いに、
「もともと農大卒業で農業に興味があったんです。30〜40代が中心メンバーの“神奈川いちごの会”に入り研修会などで情報交換を行いながらお互いに切磋琢磨できることや、JAの営業時代の同僚や農家さんに教えを乞うことができたことも大きい」と金子さんはおっしゃいます。
農業の中でも、なぜいちごを選んだのでしょうか?と伺うと、「(いちごは)子どもも好きだし、何より収穫体験ができるから」との言葉。
「今の子どもやお母さんたちは、スーパーで並んでいるいちごしか知らない人も多いのではないでしょうか。いちごは、花が咲いて、蜂が受粉して、果実の赤ちゃんができて、それが赤くなっていく。それは、こういうところで摘み取りをすることで実感することができる。収穫体験はとても大事」と金子さんは話してくれました。
また、ハウスで栽培することで、従来の露路栽培よりも長く収穫を行うことができることから、商売として成り立つ可能性や手応えをいちごに感じ、転職を決めたのだそうです。
人にやさしい栽培方法
ハーベストガーデンのいちごの栽培方法は、地面から離れ高い位置で栽培する「高設栽培」と言われるものです。自然な立ち姿勢のまま作業を行うことができ、生産者さんの身体の負担を軽減するとともに、いちご狩りにも向いています。
いちごの栽培は、9月に小さな苗を植えるところから始まります。金子さん曰く「最初の1カ月が勝負!」。1カ月のうちにいちごの苗がどれだけしっかりと地中に根を張れるかで、収穫量が断然違うのだそう。その間は、おいしく甘いいちごを実らせるため、余分な芽を摘んだり、摘花をしたり害虫がつかないようにすることはもちろん、温度管理や水やりに注意を払います。本来いちごの旬は春ですが、12月になると温かいハウスの中のいちごは春だと思って花を咲かせ実をつけるのです。

いちごの苗(写真提供:金子翔さん)
ハウスの中でしっかりと温度管理をすることで、春の状態を保つのだそう。12月下旬からいちごは次々に花を咲かせ果実となっていき、GWの終わりくらいまで収穫の回数は6〜7回ほどになるそうです。
農薬を減らす「天敵農法」を採用
ハーベストガーデンでは農薬も使いますが主に“天敵農法”を導入しているそう。その名の通り、天敵である虫を使って害虫に対処する農法です。害虫である「ハダニ」には益虫の「チリカブリダニ」を使います。面白いことにチリカブリダニは餌がなくなるといなくなってしまうそう。本来自然環境には天敵がたくさんいるのにハウスの狭い空間では天敵がいないので、害虫に対する益虫を使用し、農薬にはできるだけ頼らない「自然の循環」を活用しているのです。

金子さん。小さい頃は富山県のお母さんの実家の田んぼで蛙を捕まえたり、夏に蝉取りをしたり。自然の中で生き物に触れる経験が楽しかったといい「今はそういう経験ができる場も少ないですよね」と話します
いちごの葉をかき分け根本を見せて説明をする姿は、楽しそうでいきいきとしています。「完全無農薬は無理がある。でも、誰も好きで農薬を使いたいわけではない。自分の身体にも良くないですから」と、金子さん。自分で有機の培養液を作ったり、お手製の農薬を試作したこともあるそう!自分で考え、やってみる姿勢、農薬や害虫に関する技術的な知識や探究心に、聞いているこちらも引き込まれました。
花が咲いた後の受粉は、養蜂所からやってきた蜂の力を借ります。担当するのは「クロマルハナバチ」という日本の在来種。大人しい性格ながら、なかなかの働き者で、30分に300もの花を訪れることから受粉には欠かせない存在とのこと。夜はちゃんと巣に戻ってくるので、翌日いちご狩りがある時には巣から出さないそうです。たまにはぐれ蜂もいるけれど、「大人しい性格の蜂なのでそっとしておいてね」と金子さん。

クロマルハナバチ(写真提供:金子翔さん)
人気のいちご狩り体験
家族連れやお子さんにとても人気のあるいちご狩り体験。ハーベストガーデンでは、はさみを使って摘み取ります。体験前には、“いちごを無理に引っ張らない” などの注意事項も伝えてくれます。たまに園内で駆け回ってしまう小さいお子さんもいるそうですが、ある程度は大目に見ます。そういうところは「ゆるいかも」とはにかんだような笑顔です。
ご自身も6歳と2歳のお子さんがいらっしゃるそうで、お子さんに優しい目を向ける金子さん。子育て経験のある私はうれしくなります。

ハーベストガーデンの入り口では直売を行う時もあります。この時はInstagramを見たお客様がいらっしゃいました。ご近所のファンも多いそう
おいしいいちごの見分け方
金子さんにおいしいいちごの見分け方を教えてもらいました。
まず「つやがあること。そして種が半分くらい赤くなっているときがちょうどいい」甘いかどうかはそこで見分けるのがコツだとか。「全部(種が)赤くなると熟しすぎ」とのこと。また、いちごの甘さは寒さに当たらないと出ないものだそう。
ハーベストガーデンのいちごが一番おいしいのは完熟の状態。「完熟を摘んでその日のうちに食べるのが一番おいしい!」と、育てたいちごへの自信も感じます。
いちごは日数をおいても甘さが増すことはないので、すぐ食べるのがベストとのことですが、食べきれず保存するなら、冷蔵庫の野菜室での保管がいいそうです。

園内での直売の様子。自園のいちごを使ったシロップとジャムも販売しています
身近ないちご狩りで自然を感じて
金子さんの将来の夢は、夏まつりで削りいちごなどを出したり、キッチンカーでスムージーを出したりしたいそう。暑い夏に冷たく甘いいちごのスムージーは考えただけでも魅力的です。
いちごの成長の過程やご自身の夢を語る金子さんを見ていると、私もなんだかワクワクしてきました。何かに夢中になれることはとても素敵なことです。 “身体に負担をかけない高設栽培や天敵農法を採用し楽しみながら利益を得る”そこに魅力を感じ実践している金子さんに倣って、今後、農業に魅力を感じる若い人がたくさん出てくるような期待が持てます。

いちご狩りという収穫体験を通して、果実がどんなふうに実っていくかを知り、食や自然の仕組みにふれることができます
私の実家の庭には果物がなる木が何本か植えられていました。花が咲いて実がなって、熟した頃に果実をもいで食べる。熟すのが待ち遠しかったことやおいしかった記憶が、今でも楽しかった思い出として残っています。
幼い頃の体験は大人になってからも影響するもの。自分で収穫したものを食べた体験は食育という観点でも大事なことだと思います。これからの季節、ハーベストガーデンにいちご狩りに行ってみませんか?

ハーベストガーデン

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