おいしいは楽しい!有機栽培のつなぎ手 青葉グリーンファーム 内藤泉さん
横浜市青葉区のたまプラーザ、あざみ野付近4カ所で農家から直接仕入れた有機栽培の新鮮な野菜や果物を販売している内藤泉さん。自身も作り手でありながら生産者と消費者をていねいにつないでいます。また農業塾の主催、学校菜園のサポートなどを通して自分の食べるものを自らつくる楽しさを後押しし、有機栽培を巡る多くの接点を提供されています。(ライター養成講座2025修了レポート:小林慶子)

昨年、思いがけず見つけたあざみ野付近の直売所で、みずみずしい作物とそれを売る内藤さんたちの熱意に触れました。元気な体をつくる野菜や果物を求めて通っているうちに農業塾のことも知り、土に触れたくなった私。

 

今回、活動の原動力を教えてもらうために、わくわくしながら畑に向かいました。気持ちの良いお天気のなか、笑顔で現れた内藤さんに、見晴らしの良い畑の東屋で足元の大地を感じながらお話を伺って来ました。

 

 

有機栽培と販売のはじまり

それは内藤さんが以前のお仕事を通して出会った、有機栽培で作った作物のおいしさや、生産者による味の違いに気づいたことから始まりました。

その味に大きな衝撃を受け「本当においしい野菜を食べたい!食べてもらいたい!」との強い思いが湧き起こり、作るすべを学ぶために横浜から滋賀県の優れた作り手のところにまで足繁く通われました。ついには仕事を辞め一念発起して農業を生業にし始めたのは15年前のことです。

 

そうして採れた作物をたまプラーザ付近で売りはじめたところ好評だったので、同じく有機栽培に取り組む生産者から直接仕入れ、消費者とつなぐ活動も始めたそうです。作物を新鮮なうちに消費者に届ける販売方法は小規模農家の思いとも合致し、現在委託を受ける農家は神奈川県下48件にも及びます。

県内でも三浦と津久井(相模原市)とでは気温が2〜3度も違うそうで、同じ作物でも時期をずらして生産してもらうことで、安定した品数を販売できるようになったと言います。こうした仕組みは時間をかけてつちかった信頼の賜物で、農家の得意を見つけて新規の栽培依頼をすることもしばしばあるとのことです。

 

「農家が手をかけてしっかり有機栽培で育てた作物に対して、ちゃんとその良さを伝えられる売り方をしないといけないよね」。

作り手や作物に真摯に向き合う言葉の通り、直売所では手に取る方に丁寧に説明されている姿が見られます。

販売協力先の一つ、「丘の上のパン屋」さん(美しが丘西)では毎週水曜日に新鮮な野菜や果物が並べられます

農業塾って何をするの?

東急田園都市線・たまプラーザ駅やあざみの駅から車で10分程度、各直売所からも程近い保木地区で内藤さんは農業塾を開催しています。はじまりは直売所で築いた関係性からの自然な流れでした。販売が忙しくなり、内藤さんご自身の耕作が困難になってきた6年前にさかのぼります。直売所でなじみとなった方に有機栽培を教え、畑の管理を持ちかけたのです。

 

3人で始めた活動はどんどん広がり、人数が増えていったので今では農業塾となり100人近くが手がける田畑はおおよそ1町(約1ha)にまで拡張しています。参加者の多くは直売所を入り口に集まった、農業経験の浅い20代から70代までの年齢も背景もバラバラな顔ぶれです。基本3人(世帯)毎に割り当てられた区画の畑を管理し、協力しながらそれぞれの負担を少なくしています。

 

種や苗など必要なものは内藤さんが用意し、その都度土作りや育て方の指導も行われます。内藤さんの土づくりには鶏糞、馬糞などの有機肥料に加えにんじん酵母で作った肥料も使います。それぞれの特性を活かし、微生物の発酵・分解の力を借りて土は柔らかくふかふかに。通気性や水はけ、水持ちが良くなり作物に養分が行き渡りやすくなります。肥料の選択や使い方の指導は、育てる作物と、内藤さんの長年の経験からの感覚によるものです。

米糠などににんじん酵母を加え、微生物の力を借りて肥料をつくります。発酵するにつれ湯気が立つほど温かくなり、さらに分解が進むと温度が下がり3カ月ぐらいで完成!

土曜日を中心に開催される内藤さんによるレクチャー以外は、班内で調整してそれぞれのできる時間に手分けして作業するのが基本。1年かけて10品目以上の作物を作っていきます。

 

「有機栽培の一端でも知ってもらえたらいいな」

と、参加者に多くは求めない内藤さん。それでも気をつけることを伺うと

「作物だけじゃなく、その下にある土の中にまで意識を向けてほしいな。ちゃんと育つ環境を微生物が整えてくれているのだから」。

 

そうしてこうも続けます。

 

「せっかく畑まで来てストレスなんて溜めてほしくない。みんなが思いやりを持って楽しんでできる一つのグループ、一つの世界としてここにある。そういう意識の人が集まってくれるとうれしい」

と、その表情はにこやかです。

実際に目の前で行われるデモンストレーションにより理解が深まります

取材前の3月某日、私もスナップエンドウ作りのレクチャーに参加しました。土づくり、肥料の入れ方、種まき方法、支柱の立て方、うどんこ病対策……。デモンストレーションとともに話はどんどん広がります。集まった10数名の塾生らは真剣に内藤さんの話へ耳を傾けその豊富な情報をキャッチ。この日は小さな子どもたちもやって来ました。その後三々五々に担当する畑へと散って行き、それぞれのペースで実践開始。作業の合間には井戸端会議ならぬ畑端会議も花が咲き、皆様の楽しむ様子が印象的でした。

内藤さんの話はいつも情報満載。積極的に質問をする塾生ら

農地再生 よみがえる荒地

内藤さんは、農業塾をやることで農地の再生にも意識を向けています。

 

「使われなくなって久しい農地は土が固くなり、草は遠慮なく茂り、10年も経てば木も生えてくる。地域の方々から信頼されて託された土地を有効活用し大地を再生させる。農業塾をやる意味はここにもあるね」

と、力を込めます。

 

「有機栽培の畑は微生物のおかげで土がふかふかになり水を貯めるプールになる。雨が一度に川へ流れ込むのを防ぐ大事な役目もあるからどんどん増えていくといいな。それをやるみんなが大地に貢献できるし、うれしいことだよね」。

見つめる先を語ってくれました。

 

草木を取り除き耕していくのは根気のいる作業です。内藤さんに賛同する方たちがそれぞれの得意を生かして作業を手伝い、また新しく塾生を迎えます。荒地の再生には最低3年かかると言われます。ここから新しい畑とのお付き合いのスタートです。

今春拡大する農地。一面を覆っていた葛のつるを取り除き土地を耕し、畑として蘇らせます

田んぼも生まれ変わる

有志と共に4年前から取り組み始めた田んぼの様子も見せていただきました。それは畑のある場所から歩いて10分ぐらい下ったあたりの谷にあり、鶴見川の支流である早渕川の源流地域に位置します。およそ30〜40年ぐらい昔の田んぼの再生です。

 

「まずは生い茂る葦を刈り、全体の状態を確認。姿を失っていた川を掘り下げ水の流れを作り、そこに流れ込むよう溝をつけて水を抜いていくことから始まりました。水が引いて土が固くなりようやく畦ができる」。

その過程の説明からもご苦労がにじみ伝わってきました。こうして再生された田んぼは現在も進化中。長年放置された田んぼには木も生え、隣接する荒れた山林から伸びきった枝や巻きついた蔓なども状況を困難に。そこで森林再生に詳しい仲間が加わり山林整備が行われ、田んぼの作付け部分が広がりました。

姿を現した川。今、まさに再生されている姿は心地良いせせらぎと共になんとも言えない美しさを放っています

 

「手を入れてあげると土地は生まれかわる。マンパワーは本当にすごい!」と、しみじみ語る内藤さん

子どもからはじめる楽しい!おいしい!

内藤さんは、教育の場でも子どもたちの農の体験に携わっています。

直売所を訪れた小学校教員から相談を受けて学校菜園のお手伝いが始まったのは4年前。

 

「はじめは馬糞など触れない子ばかり。今では当たり前のように混ぜる作業を楽しんでいるけどね。自らやりたいと思い行動することが大事。彼らが、成長する中で有機栽培へ興味を深めていってくれたら大成功だね」

と、目を細めていました。

 

子どもたちにおいしい野菜の味を知ってほしいと、内藤さんは農業塾にも子ども連れ大歓迎なのだそうです。

土に親しみ楽しそうな子どもたち。そんな様子を見せてもらう大人たちも笑顔に

本当に良いものは残っていくはず

これからの展望、活動についても聞いてみました。

 

「食糧事情はこれからさらに厳しくなっていくだろうから質の良いものを自分で作れる人が増えていけばうれしいな。また、そういう意識の農家を増やしたり消費者とつなげたりするのは自分の役目と思っている。でも心配なんてしてない。本当に良いものならば残っていくはずだから」

 

そして最後に一言、

「僕は楽しいからやっている、ただそれだけ」。

と話す内藤さんの言葉が印象的でした。

 

どこまでも謙虚で自然体。気負いない内藤さんに集まる作物も人の輪もおのずとゆるんで温かいものになっていると私は感じました。

 

内藤さんが思いを込めてつなぐ作物と出会いに、お近くの直売所からぜひ覗いてみてください。

馬酔木(アセビ)は煮出して石けんを加えると芋虫などに対する自然農薬にも。内藤さんの経験から生まれる知識は豊かで学びは尽きません

Information

青葉グリーンファーム

URL :https://www.aobagreenfarm.com/

 

内藤泉さん

電話:   090-8434-9656

e-mail:  nituizmi@gmail.com

 

軒下マルシェ(直売所)

水曜日:キャボロカフェ前(青葉区美しが丘2-19-2)

木曜日:丘の上のパン屋前(青葉区美しが丘西3-8-8)

土曜日:ローソンLTF青葉元石川町店前の道路を挟んで向かい側付近

日曜日:オステリアパーチェ(リード)前(青葉区荏子田3-7-1)

およそ10時から14時頃まで

 

内藤さんが有機栽培に出会い活動を始められた頃の内容は2012年森ノオトで取材していますのでこちらも併せてご覧ください。

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