
※どろん子では、先生のことをお母さんに代わる身近にいる大人として、ニックネームで呼ぶようにしているそうです。清家先生は「ひーちゃん」と呼ばれています。(ライター養成講座2025修了レポート:村田伶奈)
横浜市青葉区、田園風景の広がる寺家町にある、「NPO法人どろん子会 自然保育園どろん子」(以下どろん子)は、2歳から5歳児まで約30名の園児が通う小さな保育園です。恵まれた自然環境の中で仲間と遊びこみ、心身の健康と自己肯定感を育む保育をしています。
そこには、毎日薄着・草履で山を駆け巡る元気いっぱいの子どもたちの姿があります。そんな子どもたちが大好きなひーちゃんは、豪快な笑顔が魅力の保育士です。いつも満面の笑みで、全力で子どもたちとぶつかっていくひーちゃん。力強いその姿、話すと元気をもらえることから、“歩くパワースポット”と保護者から呼ばれています。

「よく来た~!」ひーちゃんと子どもの朝のあいさつ
パワフル保育士ひーちゃんの原点とは……
ひーちゃんの今をつくる原点は、新卒で初めて勤めた保育園の「卒園文集」だったそうです。
子どもたちの日々のつぶやきが掲載されている文集を読み、とても心を打たれたと言います。「そんなふうに子どもの言葉に耳を傾ける保育士になりたい!」と入職を決め、保育士人生が始まりました。
その保育園の園長先生は、情熱の塊のような人だったと言います。新人保育士だったひーちゃんは、「保育というのは、常に新しさが必要。目の前にいるこの子たちと毎日どう楽しんでいくかを考えることが、とても大事」だと教わったそうです。
「感性は磨いていくんだ!」という園長先生の言葉を心に刻み、先輩先生のやり方を見て必死に真似をして実践していった、とのことです。
“春夏秋冬、季節の移ろいを子どもたちが感じられるように、季節のものを飾る”
“落ち葉を掃除する時に、ただ全てを片付けてしまうのではなく、子どもたちが落ち葉の美しさを感じ取れるように意図的に残しておく。落ち葉の掃き方一つも感性だ!”
など、日々勉強だったと言います。
毎日朝から晩まで、子どもたちと保育について考える中で「子どもたちは感性の塊。瞬間を生きている存在。感受性豊かな子どものそばにいる人として、その瞬間を見逃さないようにしたい」と考えるようになったそうです。
その後は、ご縁があって今勤めているどろん子へ。「恵まれた自然環境の中で仲間と遊びこみ、心身の健康と自己肯定感を育む」というスローガンのどろん子の保育は、ひーちゃんのこれまでの経験や考え方と合致したようです。
「子どもたち同士がなんでも言い合える、けんかしてももっと仲良くなれる関係を築いてあげたい」と語るひーちゃん。子どもたちが仲間たちと夢中になって遊ぶことを大切にしていると言います。
自然が教えてくれるもの
どろん子には、園庭はないけれど、子どもたちは毎日寺家ふるさと村周辺の自然豊かな野山におさんぽに出かけます。
「自然の中にいると心が動かされますね」。そう語るひーちゃんは、小さなものを瞬間的に見つける子どもたちの目のよさや感覚のよさを見逃さないように、常にアンテナを張っているのだそうです。

「おっはよ~」朝から元気いっぱいのひーちゃんと子どもたち。これから山へおさんぽです
同行させていただいた、雨上がりの日のおさんぽでは、私も子どもたちの感性にハッと驚かされました。
急にしゃがみ込んで「ねぇ、葉っぱの中キラキラしてるよ」
木のウロにある枯葉を見て「おてがみ、とどいてるよ~」
ぬかるみに引いてある丸太を落ちないように渡りながら「これはゲームだね!なんだ、意外と簡単だったよ!」
子どもたちは、ほんの些細な瞬間にも小さなことに気づき楽しむ力を持っていました。また、子どもたちと同じ目線で眺めるひーちゃんも目が輝いていて、とても楽しそうでした。

川をのぞき込む子どもたち。「ひーちゃん!3メートルくらいのおおきなものがおよいでたんだよ!」「おお~!どこにいるかな?」

のどかな田んぼ道をどんどん進んでいきます。「自然の中に入っていくと自然が子どもたちを成長させてくれますね。大人も一緒に成長させてもらっていますね」とひーちゃんは言います

「ほら、見て~」園舎のすぐ近くに落ちていた、葉脈だけになった落ち葉を見せてくれました
楽しい大人でいたい!生きることが楽しいという見本でありたい
毎日娘とどろん子へ登園する私の楽しみは、笑顔で迎えてくれるひーちゃんとお話しすることです。日々の子どもの様子をにこやかに、時に大爆笑で聞いてくれます。どんな些細なことでも共有でき、共感してもらえることは保護者にとってとてもありがたいことです。
園の中でいつも大爆笑で“楽しい”を体現しているひーちゃんですが、それは常に子どもたちのためだということを今回のお話を聞く中で感じました。
「私自身、感性・“いきいきしさ” を常に持っていたい。子どもたちに、『生きることが楽しい!』という姿を見せたい。そのために楽しい大人でいたいんです」と力強く語っていました。
『いきいきしさ』とは、児童心理学者・倉橋惣三さんの文章に出てくる言葉です。こちらの文章がひーちゃんの保育士としての道標となっているようです。
「子どもの友となるに、一番必要なものはいきいきしさである。必要というよりも、いきいきしさ無くして子どもの傍にあるは罪悪である。子どもの最も求めている生命を与えず、子どもの生命そのものを鈍らせずにおかないからである。
あなたの目、あなたの声。あなたの動作、それが常にいきいきしていなければならないのは素より、あなたの感じ方、考え方、欲し方のすべてが、常にいきいきしているものでなければならない。どんなに美しい感情、正しい思想、強い性格でも、いきいきしさを欠いては、子どもの傍に何の意味をも有しない。
鈍いものは死滅に近いものである。一刻一刻に子どもの心を蝕み害わずにいない。いきいきしさの抜けた鈍い心、子どもの傍では、このくらい存在の余地を許されないものはない。」
(倉橋惣三(2008)『倉橋惣三文庫③ 津守真・森上史朗 編 育ての心(上)』フレーベル館 より引用)
また、「毎日子どもたちとふざけて楽しんでいますけど、いつでも子どもたちにとって頼れる存在でありたいです。子どもたちが困った時は助けてあげられる。大人はちゃんと大人でいないといけないと思っています」と語るその顔は、真剣そのものでした。

おさんぽの途中でも自然とひーちゃんにくっついてくる子どもたち。周りの先生は「ひーちゃんは、子どもたちの気持ちを掴むのが上手ですね。子どもたちに信頼されていて人気者ですよ!」と語ります
お母さんたちに寄り添える存在になりたい
ひーちゃんは、3歳と5歳の子育て真っ最中のお母さんでもあります。忙しい毎日の中、家ではわが子に対して、保育と同じようにはいかないことが今の課題だと言います。
「自分が母になって思うのは、お母さんあっての子どもだな、ということです。子どもたちを笑顔にするには、お母さんに寄り添うことが大事ですね」とひーちゃんは言います。
そのために、年に数回開かれる懇談会では、あえて父母の話を聞くようにしているそうです。
「お父さんお母さんが、何を考え何を大事にしているのか。それをみんなで分かち合うことが大事だと考えています。大人だから、子どもだからではなく、みんな楽しい、みんな愛すべき人たちです。人間である楽しさをみんなで共有しましょう。こういうことができるのも少人数制の小さな保育園ならではですね」と和やかに語っていました。
みんな家族のように支え合って生きていけることは、保護者である私にとっても心の支えとなっています。
今回、取材をさせていただいた中で、本の引用が語られていました。読書家であるひーちゃんは、本を読むことや言葉が大好きだそうです。本にでてくる言葉を一つひとつ自分のものとして噛み締め、実践している姿をひしひしと感じ取ることができました。
また、ひーちゃん自身が毎日楽しんで保育することはもちろん、“こうなりたい!こうなろう!”という強い意志とそれを実践する力が、今のパワフルひーちゃんを形作っているのだと改めて実感しました。
力強く、楽しく生きるひーちゃんを見て育った子どもたちは、どろん子を卒園しても楽しむことに長けた素晴らしい人生になるのではと感じました。

NPO法人どろん子会 自然保育園どろん子
住所:横浜市青葉区寺家町112
TEL:045–961–6682
*見学も随時受け付けています。お電話でお問い合わせ下さい(平日13時~17時)
森ノオトでどろん子を2017年に取材した記事はこちら

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