森ノオト、勝手に観光協会 〜横浜の飛地を歩く編〜
森ノオトライターが勝手にセレクト!ちょっとマニアックな、横浜市のおすすめスポットをリレー方式で紹介する連載「森ノオト、勝手に観光協会!」。第四弾は、横浜の飛地です。飛地、という言葉をご存知でしょうか。飛地とは、市町村などの区域が境界を飛び越えて、隣接する区域に離れて存在する場所のことをいいます。そんな飛地が横浜北部には3カ所あります。一体どのような場所なのか、まずは現地を訪ねてみましょう

横浜北部にある3カ所の飛地をご存知でしょうか。

 

まずは横浜市青葉区寺家町の飛地です。

寺家町と隣の川崎市麻生区下麻生は、鶴見川を挟んで分かれているように見えますが、よく見ると、川を挟んだ川崎市側にも、川崎市に囲まれて横浜市の市域が存在する様子が読み取れます。

そしてさらに地図を見ていると、すずかけ台駅近くに、横浜市なのに横浜市だけを通って移動できない「実質的な飛地」と言える場所を2カ所発見しました。

 

 

横浜市青葉区寺家町〜鶴見川を挟む横浜市の飛地

東急田園都市線・青葉台駅から北上し、鶴見川に沿って寺家町が少し北側に突き出したような、川崎市と東京都町田市に挟まれた一角に、その飛地はあります。

下麻生バス停から緑道と住宅地を抜けて鶴見川沿いへ。周囲の電柱などに貼られた住所の表示を見ると、確かにこの辺り一帯は川崎市麻生区下麻生であるのがわかります。

左岸が横浜市、右岸が川崎市。そして右岸に、川崎市に囲まれるように、横浜市の市域が存在しているのが読み取れます。どうしてこのような飛地が生まれたのでしょう?© OpenStreetMap contributors License

さて、川に沿った道を歩くと、ある場所に着きました。その場所が横浜市の飛地なのですが、実際に見るとごく普通の住宅地で目に見えて市の境界が分かるものはありません。しかしスマートフォンに入っている地図アプリの位置情報は、確かに飛地の中を示しています。

思ったよりもあっけなく着いてしまったのですが、私と、同行してくれた森ノオトライターの仲間は「横浜市と川崎市の境に立っている!」と謎の高揚感に包まれていました。

 

さらに付近のゴミ集積場の掲示には「横浜市資源循環局」とあり、確かに横浜市のもの。これを見つけた時、一同の盛り上がりが最高潮に達しました!しかし「川を挟んで離れたこの場所になぜ横浜市の土地があるのか?」という飛地が生まれた答えは見つかりません。

恩廻公園の案内図。直線の鶴見川と、曲がりくねった旧河道が恩廻公園、この地下に調節池があります。展示室は公園の一画にある事務所1階です。ちなみに、恩廻公園の調節池は、一定の条件で見学も受け付けているそうなので、ぜひ見てみたい!

もう少し周りを歩いてみます。すると近くに「町田市三輪」が住所に記された道案内の看板が。このあたりの市境が入り組んでいるのでしょう。地図を見て歩くと、3市の境界と鶴見川の流れがずれていて、道の細さもあってうっかりするとあらぬ方向に進んでしまいます。

迷いつつ行き着いたのが、「恩廻公園調節池」。

 

そばにある調節池の管理棟1階には展示室があって、この場所で行われた曲がりくねる川を流れやすくした河川改修の経緯や、大雨の際に水を貯める調節池の役割についての説明がされていました。もともとこの付近の鶴見川は左右に曲がりくねり、麻生川などの他の川も合流する場所でした。

 

周囲の都市化が進み、大雨の際に一気に水が流れ込むと、洪水や浸水の危険性が高くなりました。そこで、鶴見川を広くまっすぐに改修し、旧河道の地下に水を溜める調節池が作られたのです。

しかし川はまっすぐになっても、鶴見川の形に沿って引かれていた3市の境界は、部分的に整理されたつつも、そのまま残り、川崎市に囲まれた横浜市の飛地が生まれたのだと推測できます。実はこのような、河川改修結果、川の流れと境界がずれて飛地が生まれる例は、各地で見られるのです。

寺家町の飛地と恩廻公園付近全体の地図。この地域は、神奈川県の横浜市と川崎市、東京都町田市の3市が接近している様子が分かります。河川改修前の鶴見川は、概ね3市の境界に沿って曲がりながら流れており、さらに二つの川が合流していたと調節池の展示室に説明されていました© OpenStreetMap contributors License

横浜市緑区長津田町〜国道に寸断された「飛地」〜

さて次に向かうのは、東急田園都市線のすずかけ台駅から線路と国道246号を挟んで東京科学大すずかけ台キャンパスがある付近です。

この場所2カ所、横浜市の市域としては地続きですが、国道246号に寸断されて、一般人が歩ける公道だけではどうやっても一旦町田市に入らないとたどり着けない、という「実質的な飛地」と呼べる場所が存在します。住所としては横浜市緑区長津田町に位置します。

「実質的な飛地」にあった、唯一横浜市と明記されたものが自動販売機の表記。背後の東京科学大の門は、町田市です

まず1カ所目が、すずかけ台駅から東京科学大へ向かう橋を渡った付近です。線路と並行する道と246号に挟まれてバスの駐車場などとなっている一画が、1カ所目の「実質的な飛地」です。

東京科学大の構内へ続く大学の通路があり、ここを歩けば横浜市内だけを移動できるのですが、その通路はあくまでも大学のもの。

公道だけを通ろうとすると、横浜市からはどうやっても町田市の側へ入らざるを得ません。なにか横浜市と分かるものを、と探すとライター仲間が自動販売機の表記を見つけてくれました!

1カ所目の「実質的な飛地」の地図。「厚木街道」と表記された国道246号を境に、概ね左側が町田市、右側が横浜市。東急田園都市線と国道246号の間に、らくだのこぶ状の、246号からはみ出すような横浜市の市域が存在します。こぶ状の場所と横浜市の市域を行き来するには、東京科学大の敷地を通らなければならず、公道だけで横浜市同士を移動できない「飛地」となっています© OpenStreetMap contributors License

2カ所目は、先ほどの東京科学大近くから国道246号を200メートルほど北上した付近です。「東工大入口」交差点から「つくし野」交差点の間を、線路側に山の上へ回り込む細い道がありますが、その道と国道246号に挟まれた部分が、やはり地続きなのに直接行き来できない、実質的な飛地です。

もう一つの「実質的な飛地」馬の背、今では細い尾根ですが、もともとは横浜市側から山が続き、馬の背という地名もあたり一帯を示す字名でした。なお現地では、「馬の瀬」という表記も見られます

東工大入口の交差点から細い道を上ると、風景がすずかけ台駅や周囲の住宅地、そして遠くの山々が見渡せる小高い丘に出ました。この丘は「馬の背」と呼ばれ、この地域では景色の良い場所として名が知られているようです。

周囲の地形を見ると、恐らくかつては横浜市側から山が連なっていたところに246号のバイパスができて、この馬の背の部分だけが切り離されたのでしょうか。

もう一つの「実質的な飛地」馬の背付近の地図。こちらも国道246号を挟んで行き来できない様子が読み取れます。この地図上では、横浜市と町田市の市境は国道に面した建物に沿って描かれていますが、横浜市の都市計画図などで確認すると、実際には市境は車道の中心側に寄って引かれています。地図上では「東工大入口」の交差点で横断すれば行き来できるように見えますが、どうしても町田市の市域を踏まないと移動できません。© OpenStreetMap contributors License

ライター仲間が、境目を示すものはないか、辺りを探し回ったのですが、何も見つかりません。しかし横浜市の「ハマ」をかたどった市章が入る排水口の蓋が、この場所を横浜市だと証明してくれました。

馬の背の一画にある、電柱と排水溝の蓋。電柱にある黄色い注意書きは町田市の名義、排水口の蓋は横浜市の市章入り

国道246号は、もともと東京の赤坂と伊勢原市の大山を結ぶ大山街道と呼ばれる、古くからの道でした。その道を自動車社会になってバイパスを整備した際に、古くからの道と横浜市の市域が切り離される形で、2カ所の実質的な飛地が生まれました。

 

こうして見ると、曲がりくねった川を河川改修で真っ直ぐにして生まれた寺家町の飛地と、古くからの街道沿いを直進するバイパス整備で生まれた長津田町の2カ所の実質的な飛地は、川と道路という違いがあるにせよ、同じようなプロセスで生まれたのがとても興味深いところです。

 

実は横浜市には、もう1カ所飛地があります。藤沢市と鎌倉市の境付近の戸塚区影取町に位置しています。こちらは現地を訪ねると、各市のマンホール蓋や境界標で境界線がわかります。機会があればこちらも訪ねてみてください。

馬の背は、広い青空や行き交う電車を眺めて一息つける、そんな場所でした。遠くに見える山並みは、丹沢や高尾でしょうか

以上、横浜市に存在する飛地のご紹介でした。

正直なところ、これが果たして観光と言えるのかライター自身もわからないのですが、身近にある何気ない場所をよく見ると、その地域の過去の出来事や背景が隠れています。

飛地をきっかけに、身近な場所に隠された秘密を見つけてみませんか?

今回の観光のお土産は、東京科学大学の生協で販売されていた、ロゴ入りドリップコーヒーと羊羹、そして恩廻公園調節池の遊水地カード。どちらも現地でのみ入手可能です!

Information

恩廻公園調節池
https://www.pref.kanagawa.jp/docs/w5k/cnt/f507/p6371.html

横浜市行政地図情報提供システム
横浜市が作成した地区を閲覧できるサイト、「マッピー」を選ぶと、飛地の詳細な位置や形も分かります
https://wwwm.city.yokohama.lg.jp/yokohama/Portal

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この記事を書いた人
一柳亮太ライター
川崎市中原区生まれ、横浜市泉区在住。地域の昔といま、暮らしの様子が浮かび上がって見える存在に興味あります。高所恐怖症なのに高い所から眺めるのが好き。会社員生活のかたわらで、少しでも多くの場所を訪ねて、知っている町を増やすことが今の目標です。
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