「私の一歩」が横浜の子育てを変える!
1月15日に横浜市開港記念会館で子育てフォーラム「みんなで話そう!横浜での子育て〜泣いて笑って子育ての本音〜」が開催されました。主催は横浜市こども青少年局で、森ノオトをはじめとする横浜市内の子育て当事者が運営する団体代表が実行委員会をつくって運営。横浜の「協働」の新たな一ページが刻まれました。

「みんな、助けてって、誰かに頼っていいんだよ。本当に、子育て、がんばっているね」

子育て漫画が大人気の漫画家・高野優さんが、会場を訪れた約150人の聴衆に、やさしく語りかけました。高野さんのあたたかい声に包まれて、会場からはすすり泣き、嗚咽を飲み込むかのような声にもならない声が聞こえてきました。

 2017115日(日)、横浜市こども青少年局が主催し、横浜市の子育て当事者ネットワーク「みんなで話そう!横浜での子育てワイワイ会議実行委員会」が協力して実施した子育てフォーラム「みんなで話そう!横浜での子育て〜泣いて笑って子育ての本音〜」は、子育て中のお母さんお父さん、子育てを支援する人たちの熱気であふれていました。

会場となった横浜市開港記念会館。高野優さんはイラストを描きながら子どもの幼少期、反抗期、それぞれの課題を笑いに変えて話し、会場からは笑い声、すすり泣き、さまざまな声が聞かれた

 子育てとは、妊娠、出産、産後、乳幼児期、学童期、若者の自立支援や障がい児、児童虐待防止、ひとり親とDV対策など、子どもの成長と社会との関係に伴い変化してくるので、人生通しての切れ目がない支援が必要な分野です。横浜市では20154月に始まった「子ども・子育て支援新制度」に基づき、「子ども・みんなが主役!よこはまわくわくプラン」を策定し、地域全体で子どもを支援する政策を拡充してきました。

 横浜市は人口370万人の大都市ですが、18区すべてに子育て支援拠点があり、未就園児の保護者(主に母親)が子育ての相談をしたり、親子で遊べる集いの広場があります。地域に住むサポーターが子どもの送り迎えや預かりなどを助けてくれる有償のささえあい活動「子育てサポートシステム」や、就労の有無にかかわらず育児のリフレッシュにも利用できる「乳幼児一時預かり事業」、そして子どもが病気の時でも預かってくれる病児保育などもこの10年で拡充してきています。

講堂にはこれまでのワイワイ会議で集まった4コマ漫画を展示。じーっと見入る人がおおぜいいた。会場装飾は実行委員会のメンバーが担当

 高野優さんの語りかけに涙する人がこんなにも多かったのは、育児を一人で抱え込んで、目の前の楽しさや子どもの可愛らしさに感じ入る余裕がないほど、追い詰められ、我慢しているお母さんが、誰からも顧みられなかった経験を持っているからではないか、と感じました。誰かが高野さんのように、「がんばっているね」「頼っていいんだよ」と声をかけてくれたら、「ワンオペ育児」で苦しんでいるお母さんの肩の力が抜けて、ふっとラクになり、笑顔を取り戻せるかもしれない。その誰かに、私がなればいい、そう感じる第一部の基調講演でした。

第二部のファシリテーターは船本由佳さん。ワークショップデザイナーとしてのスキルを発揮し、プログラムの進行を一手に担った

 会場を移して第二部は参加者71名によるグループトーク。「子育ての本音を話して、明日からの自分を考えよう」をテーマに、子育ての課題(困っていること)、子育てに関する未来や夢を、語り合いました。

グループトークは「ワールドカフェ」の形式で。お茶を飲みながら、カフェのようにリラックスした雰囲気で、一人ひとりがじっくり語れる環境をつくる。時間で区切って席替えをして「旅をする」ように他の人と語る

「子育てしていると、自分のことでいっぱいいっぱい。周りの人に感謝できる余裕がない」

「夫は残業続き。毎日子どもと二人きりで、気づいたら一週間大人と話していなかった」

「保育園に入れる保証がなく、春からの復職が心配」

「第二子の出産時に上の子のお世話をしてほしい」

 ワークショップの最中も、子育てがつらい、苦しい……そんな声が後を絶ちません。これはもしかしたら、大都市ならではかもしれませんし、核家族化が進みコミュニティの中での「おせっかい」が希薄になった現代の特徴かもしれません。子どもは予測のつかない動きをするし、移動し始めた瞬間にトイレや吐き戻し、思い通りに歩いてくれない、大荷物とベビーカーを抱えて立ち往生なんてことも当たり前。外に出る億劫さ、煩わしさを考えると、家に引きこもっている方がラクかも……と考えてしまうのも無理からぬことです。

全部で17テーブルを用意した。横浜市の子育てに関する9つの施策ごとに色分けし、保育や産前産後、障がい児支援など、テーマにそって「困っていること」「夢・希望」を出し合った

 ただ、一人で不安や悩みを抱えるのではなく、こうした場に出てきて、世代や立場の異なるさまざまな人と関わることで、自分一人だけの悩みではないこと、社会全体の課題だと気づいて、手を差し伸べてくれる人とつながることができることで、解決の糸口が見えてくるのも感じました。

「ベビーカーでお出かけしやすいまちになればいいな」

「土日は夫に子守を頼むなど、家庭内でワークシェアをできるように」

「大人が忙しすぎる。ゆとりをもって、地域の子どもを見られるように」

 フォーラムには、子育ての当事者だけでなく、地域で子育てをサポートする支援者も参加していました。みんなで話し合えば、子育ての悩みもポジティブなものに変わり、それを地域に持ち帰ることで具体的な解決策が見つかるきっかけになりそうです。

「はじめまして」の人とも深く話し合えるのがワールドカフェの魅力

 最後に、みんなで話して共有したことを踏まえて、「私の一歩」をそれぞれが書き出しました。

「今日学んだこと、感じたこと、知ったことを、出会った人に伝えていく」

「怖がらずに声をかけます。話します」

「できるだけあらゆる場所、場面に子どもを連れて参加します!」

 こうした「一歩」を眺めながら、一人ひとりが、まずは誰かと話すこと、共有すること、一人で抱え込まないことが、子育て環境をよくしていくことにつながるのではないか、と感じました。自分がSOSを出すのはもちろんですが、困っている誰かを見たら手を差し伸べること。そういう関係性が増えていけば、子育てがあたたかく、みんなのものになっていくのではないでしょうか。

参加者一人ひとりが書いた「私の一歩」。一人ひとりの一歩は小さくとも、その一歩があるからこそ、社会全体の暮らしやすさ、生きやすさにつながっていく

 子育ての不安や孤独を一人で抱えないために、それを不満や愚痴にしないために、まずは心にある様々な気持ちを立ち止まって考え、多様な人たちと共有し、まずは自分がどういう一歩を踏み出すかというアクションを考える、そのプロセスを今回のフォーラムではつくってきました。

 横浜市こども青少年局の皆さんと、月に1回ペースで打ち合わせをし、形をつくる道中では、それぞれが多忙な団体代表ということで、葛藤もあったと思います。それでも、共同代表の森祐美子さん(NPO法人こまちぷらす)、今井幸子さん(つるみままっぷを作る会)を始め、素晴らしいメンバーや、熱意あふれる横浜市の職員の方々一緒に意見を交わしながらイベントをつくっていくことは、ほかの何事にも代えがたい大きな経験でした。

 そして、15年前に同じように声をあげて、今の手厚い子育て支援の制度を市民の立場でつくってきた先輩たちの偉大さを感じた1年間でもありました。私自身は、ワイワイ会議をきっかけに、青葉区の子育て支援者とつながることができ、行政と市民が対話をしながら必要な制度をつくっていく横浜市の市民力を見せつけられ、頭が下がる思いでした。今回のフォーラムは、先輩方からのバトンを引き継ぐ意味でも、市民と行政と民間との新しい協働の形を示せたのではないかと思っています。

共同代表の森祐美子さん。NPO法人こまちぷらすの代表でもあり、横浜市の子ども・子育て市民委員として、行政とのパイプ役を一手に引き受けた

「みんなで話そう!横浜での子育てワイワイ会議」は今後、それぞれの団体でワイワイ会議を進めながら、横浜市の子育て当事者ネットワークをゆるやかにつなげていく、地道な活動にシフトしていきます。子育てを豊かなものにしていく道のりは、一人ひとりの毎日の地道な声がけ、あたたかい目線がつくっていくものだと信じて活動していきます。

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この記事を書いた人
北原まどか理事長/ローカルメディアデザイン事業部マネージャー/ライター
幼少期より取材や人をつなげるのが好きという根っからの編集者。ローカルニュース記者、環境ライターを経て2009年11月に森ノオトを創刊、3.11を機に持続可能なエネルギー社会をつくることに目覚め、エコで社会を変えるために2013年、NPO法人森ノオトを設立、理事長に。山形出身、2女の母。
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