旅する野菜が立ち寄る木の家 青果ミコト屋・鈴木鉄平さんのエコリフォーム
今や全国のイベント、マルシェに引っ張りだこの「旅する八百屋 青果ミコト屋」。自然栽培・有機栽培に特化した野菜の宅配と移動マルシェという新しいスタイル、そして鈴木鉄平さん・山代徹さんのグッドルッキングが注目を集めています。ミコト屋のベースは横浜市青葉区内にある、鉄平さんの自宅。昨年、自然素材リフォームを終えたばかりで、木の香りに満ちあふれた、ニューウェーブ八百屋らしいハイセンスな空間です。

 

 

広々としたリビングは多い時だと20人以上が集う。自然栽培野菜を使った持ち寄りパーティーは、いつも美味しい味と音で笑顔で満ちている

 

青果ミコト屋が活動をスタートしたのは2010年。横浜市青葉区内の高校の同級生だった鈴木鉄平さん・山代徹さんは、ナチュラル・ハーモニーでともに自然栽培野菜について研修を受け、その知識や経験をもとに「旅する八百屋」という新しいコンセプトの野菜・加工品の流通を始めました。2011年2月、震災の直前に初めてインタビューをした二人の表情には、まだ初々しさとあどけなさが残ります。それから2年を経て、貫禄と風格を増した二人。マルシェ業界やオーガニックの世界に限らず、アート、ファッション、音楽、スポーツ、野外シネマイベントなど、日本全国のイベントに引っ張りだこです。

「ミコト屋はずっと、右肩上がりですよ」と、主に受発注や配送などマネジメント部門を担当する徹さん。それもうなずけます! 我が家に毎月届くミコト屋の野菜はとてもきれいに包装され、一つひとつの野菜の歴史とレシピ、鉄平さんのコラムとメッセージがついてきます。そして、それを徹さんが大切に抱えて直接運んでくれて、その時々の野菜や生産者の状況を教えてくれる。

ほら、国民的アニメに出てくる「三河屋さん」を思い出しません? 勝手口から「ちわーっす」と入ってきて、お酒や味噌や醤油の注文を受け届ける、あの人。ミコト屋は野菜のことなら何でも聞ける、日々の食事を相談できる、頼もしい御用聞きです。

 

無垢材の壁板に映える古材風の長押は、鉄平さんが選び打ち付けた

 

そんなミコト屋の拠点が、市が尾駅と江田駅の中間くらいにある、鉄平さんの自宅です。青葉区が地元なので、国産の無垢材、自然素材に特化している地域工務店にリフォームを依頼しました。ミコト屋のコンセプトにもばっちりです。

リフォームのきっかけは、東日本大震災でした。鉄平さん家族と一緒に暮らすお母さんが、住まいの耐震構造を見直したいと希望し、耐震補強とともに内装リフォームもやってしまおう! と。

ちょうど鉄平さんの娘さんが3歳になるころで、裸足であるく床や、普段から目にする壁が自然のものでありたい、そんな思いも手伝って、木の温もりあふれる素敵な空間に生まれ変わりました。

 

既存の住まいと家具がほどよく調和しているキッチン。キッチンは従来のものをそのまま使い、カウンターの天板や背面の壁などはウィズで施工、一部鉄平さんが部材を集め飾り棚を自作するなど、施主と施工店のコラボによる住まいだ

 

私も時々パーティーにお呼ばれして、まるで自宅のようにくつろいでいるのですが、ともかくこの家は居心地がいい。自然素材のやわらかく温かい質感はもちろんですが、鉄平さんご一家が醸し出すLOVE & PEACEな空気感、誰でも受け入れてくれる懐の深さが、ともかく気持ちいいのです。

住まいのしつらえにも、それを感じます。家のあちこちにあるアート作品は、ミコト屋のデザインを担当するイラストレーターの「さぶ」さんの手がけたもの。「ウェルカム」の気持ちがさりげなく伝わる玄関、そしてリビングの飾り棚。つい手にとりたくなるモビールや、子どもが喜ぶおもちゃも、どこか洗練されていてファッショナブル。鉄平さんと徹さんのスタイルにも通じる、アーシーだけど泥くさくない、ジャンク感もありながらスタイリッシュ、幅広い視点が住まいにも見て取れるからおもしろいものです。

 

鉄平さんが選んだモロッコのタイルが、無垢板にはめ込んだシンプルな洗面ボウルと絶妙に調和。鏡は元々の住まいにあった姿見を縦から横にして使っている

 

ミコト屋は旅ばかりをしているわけではありません。流通事業者として日々の在庫管理や受発注など、業務は山積。農家から届く野菜は、鉄平さんの自宅に併設された事務所で仕分けをして、包装したり、箱に詰めたり。徹さんはほぼ毎日事務所に出勤して、鉄平さんとこの空間で過ごします。私的空間でありながら、住まいをみんなにおおらかにシェアする感覚も新しい。

 

広々とした玄関にはミコト屋のシンボルとも言える草鞋が。ウォークインのクロークはオープンで、靴やお子さんの遊び道具、アウトドアグッズを取り出しやすい

 

ミコト屋がいま、なぜこれほど注目を集めているのか? 二人の風貌はもちろんですが(笑)、「八百屋だから食とのコラボ、その枠から飛び出して、“いいもの”という価値観で多業種とつながっていきたい」と、常に新しい道を切り拓いているからではないでしょうか。

「オレたちの世代って、洋服にはお金をかけても、食にあまりお金をかけないじゃないですか。でも、食を大切にすることって、ライフスタイルを豊かにすることとイコール。最もハイセンスなファッションだと思います」(鉄平さん)

確かに、お化粧や洋服などに時間とお金をかけて自分を磨いている人は、見た目にも美しい。それと同じように、毎日の食事に時間とお金をかけてきちんと整えて、内側から自分を磨くことで新しい美しさも生まれます。外側からなのか、暮らし側からなのか、いずれにしても自分の「価値」を高めるためのファッションツールとして、ミコト屋は「野菜」を打ち出しているのかもしれませんね。“いいものを伝える”という価値観を共有できていれば、コラボする相手は音楽でもファッションでも、住まいでも、何でも広がるという自由な感性が持ち味です。

 

この住まいの主・鈴木鉄平さんと、パートナーの山代徹さん。2年前の写真と比べると……顔つきが違う!

 

今後の夢は、リアルな店舗をもって、いま二人が旅をしながら実現している様々なコラボの場を「地元に」つくることです。

そうした夢を模索しつつ、全国に出店や宅配が増えても、変わらないこだわりがあります。それは、地元のお客さんには二人が直接野菜を届けるということ。目利きの「流通」が、集めて選んだ(編集した)世界を味わえる定期宅配こそが、ミコト屋の醍醐味と言えます。

「俺らが直接野菜を届けることで、生産者や野菜のストーリーをそのまま伝えられるし、その場で質問や要望も受けられる。きっと、スーパーで買うよりも、野菜が身近になるんじゃないかと思います」(鉄平さん)

ミコト屋が開いてくれた、新しい食のライフスタイル、そしてファッション。わたしもファンとして毎月楽しんでいます。

そして、まるで鉄平くんの自宅のような、居心地のよい空間が、よりエッヂのきいた形で地域にオープンになっていく日が、いまからとても楽しみです。夢を一つひとつ実現し、大きくなった二人をまた改めて取材する日がいまから待ち遠しくてなりません。

 

おまけのショット……ミコト屋のバックヤード。全国から集まってきたピカピカの野菜たちは、鉄平さんの自宅兼事務所にいったん寄港して、ここからまた食べる人のもとに旅立つ

Information

青果ミコト屋

http://www.micotoya.com

野菜や生産者について、ミコト屋の思いなどのエッセイが読めるほか、イベント情報、野菜セットの注文も可能

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この記事を書いた人
北原まどか理事長/ローカルメディアデザイン事業部マネージャー/ライター
幼少期より取材や人をつなげるのが好きという根っからの編集者。ローカルニュース記者、環境ライターを経て2009年11月に森ノオトを創刊、3.11を機に持続可能なエネルギー社会をつくることに目覚め、エコで社会を変えるために2013年、NPO法人森ノオトを設立、理事長に。山形出身、2女の母。
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