山小屋のような建物、そしてその周りをとり囲むように張られていく青々とした芝生。昨年の春先、工事のトラックが行きかう中、少しずつその姿を現した「丘の上のパン屋」ですが、その様子はオープン以前から、同じエリアに住む私も含め近隣の住民の間で話題になっていました。そして、2018年4月、青葉区美しが丘西に、「丘の上のパン屋」がオープンしたのです。
「丘の上のパン屋」のオーナーシェフである黒沼敦詞さん(以下、黒沼さん)の奥様・黒沼美紗さんに、詳しくお話を伺いました。ここ美しが丘西は、黒沼さんのご実家がある場所であり、パン職人としての道を歩むなかで、自然とこの地でパン屋を開きたいという思いが強くなっていったとのこと。現在、お店がある付近は市街化調整区域となっており、青葉区の中でもとても緑が豊かなエリアです。
「若い頃は、この地域に対して特に意識はしていませんでした。ただ、しばらく実家を離れてみると、改めて、この恵まれた自然環境を大切にしていきたいという気持ちが生まれました。この地にパン屋をつくることで、この環境を維持することへのきっかけになれたらと思っています。何しろ、緑に囲まれた中でパンを食べると、最高においしいです!」と、黒沼さん。
黒沼さんの思いが、造園業を営まれるご実家や知人の力を借りて、家族総出でつくりあげられています。元々、畑であった場所に石畳と芝生を植え、イメージをしていた“畑小屋”の空間が少しずつ形となっていきました。そして、今もその作業は進行中で、訪れる度に新しい発見があることも楽しみのひとつです。
店名の由来ついて、もうひとつ思い出があります。以前、美しが丘西には「からくり時計のパン屋」とういパン屋がありました。しかし、オーナーがご高齢という理由もあり、地域住民に惜しまれながらも2015年に閉店しました。黒沼さんはこのパン屋のご主人のパン作りに対する思いに強く共感しており、また家族でよく通った思い出もあり、閉店前にはボランティアで数日間働いていたとのこと。現在、「丘の上のパン屋」で使用している什器やトング、大きな丸太の椅子などは「からくり時計のパン屋」から受け継いだものです。「からくり時計のパン屋」さんの思い出が詰まったパンが店頭に並ぶこともあります。
お店で使用する食材については、できる限り身体にやさしく安全なものを自分たちの目で見て選び、取り入れています。野菜や果物は青葉グリーンファームさんや実家の畑から獲れるものを使用しています。パンの食材に限らず、店内で提供されるドリンクメニュー一つとっても、強いこだわりが感じられます。珈琲は、ご近所にある「カフェブランコ」さんの「丘パン」オリジナルブレンドです。原材料に対する揺るぎない思いのある黒沼さんですが、すべてにおいて、極端な制限をするのではなく、「身体にやさしく、おいしいものを!」というポリシーが伺えます。
パン職人として歩みはじめてから15年以上経ち、地元で自分のお店を開くという夢を実現された黒沼さん。ご自身が描くこれから先の未来像について伺うと、意外な答えが返ってきました。
「まだまだやりたいことはたくさんあります。ランチを提供したり、パン教室も開催してみたい。ただ、オープンしてからのこれまでを振り返ると、改めて、“お店をもつという自分の夢を周囲の人に叶えさせていただいた”という気持ちが強くあります。とても幸せなことです。今は、この気持ちを自分ひとりで味わうというよりは、周りの人と共有していきたいと思っています。そのためにも、今、目の前にあることを一つひとつ丁寧におこなっていくことが最も大切なことだと思います」
オープンしてからもうすぐ1年が経とうとしている「丘の上のパン屋」。個人経営のまちのパン屋さんではありますが、だからこそ、つくる人の気持ちが商品に直接現れてくるのではないでしょうか。
私が住む美しが丘西エリアには、たくさんのパン屋さんがあります。それぞれがオリジナルのポリシーを持ち、個性豊かなパンをつくり出しています。また、一方で、「からくり時計のパン屋」さんのように惜しまれながらも閉店をするお店もあります。地域住民に愛されていたお店がなくなることはとても残念ではありましたが、その思いを引き継ぎながらひとつのパン屋が新たに誕生したことにとてもうれしくなりました。オーナーシェフである黒沼さんが、こうした自分の心の中に芽生えた気持ちとしっかりと向き合いながら、一歩ずつ歩んでいかれている姿がとても印象的でした。またひとつ、「我がまちのパン屋」さん登場です!
「丘の上のパン屋」
住所:横浜市青葉区美しが丘西3-8-8
営業時間:8:00-18:00
定休日:月(祝日の場合営業、火曜日休み)
TEL:045-530-9683
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