今、お気に入りの飲食店で友人と食事をしたり、飲み会での交流は、感染症拡大防止の観点から、非常に難しい状況です。飲食店は時短営業や休業が広がるなかで、個人経営のお店は生活を守るために、テイクアウトやデリバリーでなんとか店を存続していこうと動き始めています。
横浜市青葉区内の飲食店情報をまとめた「テイクアウト青葉区!」の動きが始まったのは、2020年4月に入ってすぐのことです。あざみ野商店会の理事で市議会議員でもある藤崎浩太郎さんが、4月1日に商店会の役員に提案書を共有し、役員4社(そばくろ、肉の長野屋、LEADあざみ野、サント薬局)で商店会加盟店の情報を集めて、Googleサイトで「テイクアウトあざみ野!」をリリースしたのが4月2日。その翌日には、テイクアウトあざみ野に登録を呼びかけるチラシを作成し、あざみ野商店会名義で非加盟店も含めたお店に声をかけていきました。
「まずはプロトタイピング(試作)として形をつくり、こんなイメージで進めていきたいと伝えていけば、他のお店にも話がしやすいし、他地域でも広がっていくと思ったんです」と、藤崎さんは提案の翌日というスピード感でサイトを立ち上げた理由を話します。デザイナーやプログラマーを入れず、サイトの作成と更新作業は藤崎さん自らがおこなっています。
藤崎さんは4月3日に「テイクアウトあざみ野!」の動きを市が尾商栄会の佐藤康行さん(眠りのお部屋)に伝え、佐藤さんが藤が丘商店会の外山高嗣さんに声をかける形で、翌日の4月4日には「テイクアウト市が尾&藤が丘」を、あざみ野のフォーマットを踏襲する形でリリース。
4日からは青葉区商店街連合会の会長・小松礼次郎さんのいるたまプラーザでも「テイクアウトたまプラーザ」の制作が始まり、6日にリリース。奈良北商店会と、商店会はないものの地域のつながりの濃い鴨志田エリアの情報をまとめた「テイクアウト奈良&鴨志田」も7日にリリースされました。いずれも、「テイクアウトあざみ野!」のフォーマットをもとに、同じ形でつくられたものです。
一方、青葉台ではすでに、ベーカリーカフェCOPPETの奥山誠さんが青葉区のテイクアウト情報交換のfacebookイベントを立ち上げており、同時並行でethnicaの田原雅さんが「Takeout Aobadai」をつくり始めていました。たまプラーザ、あざみ野、市が尾&藤が丘、青葉台、奈良&鴨志田のテイクアウト情報をまとめた「テイクアウト青葉区!」がすべてまとまったのは、4月9日です。あざみ野で動き始めたのが4月1日で、なぜここまでの短期間で青葉区全域のテイクアウト情報をまとめていったのか。その理由を藤崎さんは次のように語ります。
「タウンニュース(青葉区に本社がある地域新聞社)の4月9日発行号で、テイクアウトあざみ野!の取材を受けていたんです。タウンニュースが発行されるまでの間に、青葉区の全域に広がっていれば、一気に認知が広がります。その頃には緊急事態宣言が発されて大幅な外出自粛が求められることが予想されたので、細かいデザインやシステム設計を考えすぎてリリースが遅れるよりも、まずは青葉区でテイクアウト情報のメインストリームをつくっていきたいと考えました」
地域の飲食店の苦境に対して、商店会に何ができるのか。横浜市内の商店会の中でもいち早く加盟店舗の支援に乗り出したのは、藤が丘商店会でした。4月3日には、約80ある全加盟店に10万円の支援金を商店会から拠出を決めました。「藤が丘商店会では、歴代の会長たちが、有事の時のためにとコツコツとお金を貯めてくださっていた。今、とても大変な思いをしているお店に対して、10万円は焼け石に水かもしれません。だけど、これが私たちにできる精一杯。こういう時にちょっとでも、地域とつながっていてよかった、という励みになるならば、こういう時のために蓄えていたお金なのだから、ここぞ!と思って」と、外山会長。
ナチュラーレ・ボーノの植木真さんは、「藤が丘商店会は、普段は予算の使い方にはとてもシビアで、汁祭りや汗祭りなど、商店会のイベントは持ち出しのことが多いんです(笑)。だけど、いざという時に、スピード感を持ってドーンと動けることは、本当にすごいと思う」と、商店会の動きを絶賛しました。
4月28日には、横浜市長が定例記者会で、横浜市内に約300ある商店会に対して、加盟店舗数×10万円の交付金の支援に13億1,000万円の予算をつけると発表。前例なきことが起こっている緊急時に、いかにスピード感をもって挑戦し、実績をつくっていくのかが問われています。私は青葉区内の動きを目の当たりにしながら、他で苦しんでいる人たちに支援の制度を広げていくことにつながっているのではないかと感じました。そして、青葉区の商店会に関わる人たちの迅速な動きを見て、これは一朝一夕ではできないことで、日頃からのつながりと協働の実績の賜物なのだ、と確信しています。
青葉区では、東日本大震災以降、青葉台では「AFF☆青葉台でFace to Face」という異業種交流イベントや、たまプラーザの次世代郊外まちづくり、商店会の各地区での「ちょい呑み」や「呑み市」「青葉台クルーズ」などの食べ歩きイベントが盛んにおこなわれてきました。この10年で商店会の中心メンバーに30代、40代の若手が入るなど、世代交代が進み、FacebookなどのSNSを通じた交流から、実際に夏祭りでの協力やイベントの共同開催にも発展してきました。
今、人と人がリアルに会えないなかでも、日ごろからの交流と、共に行動してきたなかでの信頼関係があれば、SNS等を通じて地域社会を動かすことができる。その良い例を「テイクアウト青葉区!」が示しているのではないでしょうか。
同じころ、ITによる飲食店支援に動き出していたのが、たまプラーザで活動している藤本孝さんです。藤本さんは長年、広告業界でITによる社会課題解決に取り組んでおり、退職後はシェアカルやたまプラ一座、リビングラボなどの地域活動を通して、経験を生かしてきました。市民がIT技術やプログラミングの知見を生かして、地域に貢献したり、地域課題を解決していく動きを「シビックテック」と言いますが、藤本さんはまさにシビックテックの第一人者と言えます。
藤本さんはまた、プログラミングやITに長けた市民が地域の課題解決に対して主体的に動いていく市民団体「Code for Kawasaki」のメンバーでもあり、シビックテックが新型コロナウィルス感染拡大に対してどう動いていくのかについて注視していたと言います。ちょうど、Code for Japanの仲間たちが東京都のコロナウィルス対策サイトをつくり、その技術をオープンソースにし、各地のメンバーが地域特性に応じた情報サイトを展開し始めていました。
そのころ、藤本さんは「青葉区でも商店会でテイクアウト情報の動きが始まっていて、一方で、SNSでのハッシュタグや、先払いチケットでの飲食店応援が広がるなかで、様々な支援が乱立し始めていた。どこかにこれらの情報が集約されたポータルサイトをつくるべきでは」と思い、自身が執行役員を務める株式会社ニューロマジックで「地域飲食店応援ポータルサイトKATTE」をリリースしたのが4月17日のことです。
「KATTEのリリースには10日くらいかかっています。表面上はシンプルな構造ですが、運用を1社でしかおこなえないような独自技術にするのではなく、各地でシビックテックに関わる人たちが運用できるよう、slackなどの既存の仕組みをカスタマイズしていくのに注力しました」と藤本さんは打ち明けます。
KATTEには、各地のテイクアウト情報やアプリのまとめと、各地の「#エール飯」のようなハッシュタグキャンペーン、「おいしい!」を予約する先払い系予約サービスなど、「今すぐ使える」サービスが網羅されています。さらに、今後、飲食店がITを活用してテイクアウトやデリバリー、ネットショップ等を始めていく際に有効な支援サービスの情報がまとまっています。
今、個人経営の飲食店が一気にテイクアウトを始めたため、取りに行く時の待ち時間がかかる、宅配が効率よく回れない、人との接触を避けたいのに金銭授受でどうしても手を媒介する、などの課題が生じています。ITを活用した予約システムとキャッシュレス決済によって、こうした課題を解決でき、窮地に立たされている飲食店が新たな活路を見出す可能性があります。
「例えば森ノオトならば、アフターコロナの時代に、地産地消でオーガニック、ごみの出ないテイクアウトを増やしていきたいとなれば、そのための実験をウィズコロナの時代に挑戦していくことができるはずです。コロナが収束した後にどういう社会をつくりたいのかを見据えて、まずは今、小さな範囲で回してみて実績をつくって、メディアとして発信していけば、一つの基準ができるはずですよ」(藤本さん)
移動の制限、外出の自粛、学校の休校など、私たちは今、これまでにない社会構造の変化に直面しています。
「これから先の社会をどうしていくのか?」
この問いに対して、スピーディーに動き出した地域の仲間たち。
テイクアウトから始まった新たな時代の動きを、使って、感じて、伝えることから始めませんか。
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