
のはらぐみが発足したのは、およそ7年前、ガーデナーの平工(ひらく)詠子さんと、同じくガーデナーの伯母(うば)はる美さんが、チカラシバやカゼクサがキラキラと風になびく、自然のままの草地の美しさに魅せられたことがきっかけです。
お二人はこの風景を守りながら、さらに魅力的になればと金沢土木事務所に企画を提案したちょうどその頃、谷津坂第一公園には公園愛護会がなく、目が行き届いていないと行政も悩んでいたことから話が進みます。まずは、提案に興味を持った人や、地域の方、近隣の愛護会の方に呼びかけて、公園を会場にして全8回の実践型の講習会が開かれました。そこで出会った人たち、取り組みを応援してくれる人たちと2020年に公園愛護会を結成しました。

6月はモナルダ、7月はコオニユリ、10月はチカラシバとシオン、1月はモナルダのシードヘッドが美しい「のはら」。季節の移ろいとともに、他にもたくさんの草花を楽しめます(写真提供:のはらぐみ)
谷津坂第一公園は、京急線の能見台駅から徒歩5分ほどの住宅街の中にあります。公園の広場の半分ほどの面積を「のはら」として残し、元から生えている草花に彩りがある多年草を加え、選択除草(増えすぎると困る植物を、選んで抜き、それ以外は残す除草のやり方)で、メリハリをつけて手入れをしています。
現在では、月1回の活動に20人ほどが集まります。どんな作業をするかは、参加する人の意見を柔軟に取り入れながら、みんなで話し合って決めることを大切にしているそうです。毎月一回週末の10時(夏季は9時)からお昼頃までの定例活動を軸に、活動の盛り上がりをつくるべく、12月か1月に、「チューリップの球根のばらまき植え」、2月に「スプリングカットバックとごほうびの焼き芋」、4月には「チューリップの花摘みアレンジ」が、恒例イベントとなっています。
2024年12月14日の球根ばらまき植えには、ご近所の、こども家庭支援センターさくらの木と、横浜市花と緑の推進リーダー会が3500球の球根を協賛し、総勢120人が参加したそうです。

こんな風に、みんなでばら撒いた球根は、落ちた場所で土に埋めていきます。枯れ草の中から球根を探し出す作業は宝探しのようで、子どもたちもとても楽しんでいたそうです(写真提供:のはらぐみ)

花が咲いたら、誰もが立ち止まってしまうような素敵な風景に。これは2023年4月の様子(写真提供:のはらぐみ)
私が訪ねたのは2月の「スプリングカットバック」の日です。スプリングカットバックとは、冬の間に残しておいた枯れ草を早春に根元近くで切り戻す作業のこと。秋冬の枯れた草や、花が咲き終わって種を付けて茶色になった花がらも、自然が作り出す美しい姿として刈り取らずに愛でて、新しい芽が出てくる時期を待って刈り込んで、刻んで土に還します。

カットバックの日は、お楽しみに焼き芋が振る舞われることもあって朝の点呼の時点で50人ほどの方が集まっていました。作業前はラジオ体操で体をほぐします

12月に植えた球根の芽を踏まないよう、「のはら」の外堀から内側へと、草を刈り、細かく刻んで大地に還す作業をするみなさん

小さな子どもたちもハサミを持ってチョキチョキ。近隣の保育園等との連携も自然とできています
多くの愛護会が「担い手不足」に悩んでいる中で、のはらぐみには、どうしてこれだけ人が集まるのでしょうか?取材前は、知識や技術を持つガーデナーの存在が大きいと思っていましたが、参加されている方々に伺うと、活動に感じている魅力はさまざま。自由な参加を支えているのは、実はリーダーを明確には決めていない感じ。最初からチームの中でコミュニケーションの量が多く、「伝えあう」ことを大事にしていることがうかがえました。
公園内にいくつもある看板にも熱量を感じます。通常、掲示板1カ所に定例活動の日や、活動報告を載せたチラシを張るというのが一般的かと思いますが、谷津坂第一公園には、入り口2カ所、倉庫、当日作業用、のはら用、花壇用、など複数カ所に、都度書き直せるアクリル板の看板や手作りの黒板があります。

本屋さんのポップのように、手書きで丁寧に書き込まれているのでつい読みたくなります。どなたでもどうぞと活動をオープンにしていることも伝わってきます
近隣にお住まいの参加者の一人は、「春先のチューリップの咲く様子に心惹かれて、時々活動に参加するようになった」とおっしゃっていましたが、看板がなければ参加にはつながらなかったことでしょう。
「チューリップのばら撒きの看板を見て、参加したら楽しかったから」と話すのは、小2の春に初めてチューリップのお手入れに参加したという、石橋結歌(ゆいか)さん。小学6年生(取材時)ながら活動歴5年、ほぼ毎回参加しているレギュラーメンバーです。友達を気軽に誘ったり、学校の総合の時間に公園で活動することを提案して採用されたり、花壇に間違って人が入らぬよう自分で看板を作ったりと、誰に言われたわけでもなく、自分ごととして公園と関わっています。参加しても、その日の作業をしたりしなかったり、時間の使い方もなんだか自由なのです。

義務感や責任感からではなく、肩の力を抜いて自然体で楽しんでいる結歌さん。かわいくて、かっこよくて、頼もしい!
のはらぐみではFacebookやInstagramでも公開のグループを立ち上げて活動の様子を発信しており、地域外の方はそれをみて参加する方が多いようです。まちづくりや、造園に関わる人、保育や福祉分野で働く人などが、興味を持って参加することも増えてきています。最近ではウェブメディアやガーデン系の雑誌、テレビでも紹介されました。

焼き芋係をしていたのは近隣の愛護会からいつも参加している方々。役割があるから仕方なくではなく「ここはいろんな人が集まってきて楽しいから」と、そっとあたたかく見守ります
のはらぐみの事務局的な立ち位置で活動を支えているのは、下の写真左から、撮影担当の三浦高明さん、愛護会副会長の田畑正敏さん、ガーデナーで会計担当の井本沙織さん、ガーデナーの平工詠子さん、「のはら」の魅力にはまってしまった西岡和美さん、イギリスから一時帰国中のガーデナー伯母はる美さん、愛護会会長の片岡八郎さんです。

ほぼ毎日のように公園に来るという会長をはじめとして「できることはなんでもやってみよう」の精神で、楽しみながら自由にチャレンジする大人たち
片岡会長は活動を通じて知った「落ち葉や刈草、枝を捨てないで活用する」を、一人の時にも自分なりに実践しはじめたそうです。最長老が若い人に影響されて変化をしていくってすごいことです。公園の中に点在する花壇の周りの柵(シガラ)には、会長さんが作ったものもあるので、訪ねた方はぜひ、見てみてくださいね。
「のはら」がある公園の環境は、毎年、どんどん良い方に変化しているそうで、「それを、自分たちの手で試して、実感できるのが良いところ」だと副会長の田畑さんは話します。「冬は虫が隠れる場所や草の種が残るので、越冬する虫がいたり、野鳥の餌になったり、子どもが遊ぶ原っぱは、草刈りを工夫して遊びやすく、刈った草はミミズのおかげでいい土になって……」と、ニコニコと本当に楽しそう。
「以前は園芸で植物をコントロールしようとしていたけど、植物は自然の中でのありのままの姿が美しいよね、少しだけ手を入れると、美しさがよりわかりやすくなるし、人にとっても心地よくなる。すべての季節を通じて移ろいゆく「のはら」の美しさ、実は“枯れ草も楽しむ感覚”は、江戸時代の日本にすでにあったそうです」と、平工さんも、ここでの実践をもとに学びを深め、進化しています。
その平工さんから、「一番のはらの変化に詳しいのでは?」と言われていたのは、来られる時は毎日のように公園に来ている西岡さん。活動の最後に、西岡さんがおっしゃった「カットバックの翌朝は鳥たちがいっぱいくるよ」という言葉で、その光景と、「のはら」と西岡さんの関係性のどちらもが、とても豊かだなと感じました。
(取材を終えて)
以前、金沢区の土木事務所にある、「公園ボランティアの会」の活動場所「フラワーセンター」を、取材したことがあります。今回の取材で、フラワーセンターはその後、理由あって、かなり縮小されたと愛護会の方々から聞きました。しかし、取材当時に出た名言「緑の事業に終着駅なし!」の精神は、のはらぐみの活動にも、しっかり引き継がれているようで、熱いな金沢区の公園!と思いながら帰宅したのでした。チューリップの咲く頃や、秋の「のはら」の美しい季節に、みなさんもぜひ参加してみてください。記事では紹介しきれない小さな工夫や魅力が、まだまだたくさんあるはずです。

谷津坂第一公園愛護会
のはらぐみ
横浜市金沢区能見台通15
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Instagram:https://www.instagram.com/noharagumi/

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