産後ママが一番必要としていることって何?産後ドゥーラ弦切奈桜子さんのママを癒やすサポートとは
「産後ドゥーラ」とは産前産後のママに寄り添い支える人のこと。弦切奈桜子(つるきり・なおこ)さんは横浜市青葉区を中心に産後ドゥーラの活動をされています。産後ママのサポートというと、家事の手助けが思い浮かびますが、他にもっと大事なことがあるのだそう。実際に自分の産後にもお世話になった弦切さんにママたちを癒やすサポートについてお話を伺いました。(ライター養成講座2025修了レポート:坪井陽子)

弦切さんとの出会い

私は現在ママ歴14年目、4人育児の真っ最中です。自分の子育てを振り返って、あの時の自分の選択をほめてあげたいと思うことがあります。それは3人目4人目の産後に産後ドゥーラのサポートを頼んだこと。

 

1人目、2人目の産後は実家でお世話になったのですが、実家の両親は生活のペースが乱れ疲れてしまい、私もそんな両親への気遣いに加え産後の不安定なメンタルが重なり、イライラ。あまりいい思い出がありませんでした。3人目出産を前に、私の産後の希望は「自分の家でくつろいで過ごしたい」「上の子たちにはいつも通り保育園に行ってもらい、日中は赤ちゃんと穏やかに過ごしたい」でした。男性の育児休暇が今ほど浸透していなかった8年前、3人目出産に合わせて夫が取れた休暇は2週間が限度でした。

 

そんな時、通っていた助産院で産後ドゥーラの弦切さんを紹介してもらいました。産後1カ月の産褥期、サポートに来てもらった弦切さんとのおしゃべりが楽しかったこと、今でも思い出します。そして「あの時弦切さんにお願いしてよかった」「いつかは弦切さんみたいな人になりたい」と思うようになりました。これから赤ちゃんを迎えるご家庭に「産後ドゥーラ」という選択肢を知ってもらうために、子育てがひと段落した方に「産後ドゥーラ」という働き方を考えてみてもらうために、あらためて弦切さんにお話を伺いました。

サポート先のお宅で赤ちゃんを抱っこしている弦切さん。明るい笑顔でママも赤ちゃんも元気になります(写真提供:弦切奈桜子)

産後ドゥーラのお仕事とは

弦切さんは一般社団法人ドゥーラ協会認定の産後ドゥーラです。ドゥーラ協会のホームページによると「産後ドゥーラは産前産後の母親に寄り添い、支える人 (中略)産前産後の女性の特有のニーズに応え、心身の安定と産後の身体の回復、赤ちゃんの育児や新しい生活へのスムーズな導入を目的に、母親の気持ちに寄り添った、母親のためのサポートを行います。」とあります。

 

訪問によるサポートの場合、産後ドゥーラが自宅等を訪問し、「妊娠中~出産後1年半まで」の母親とその家族をサポートしています。弦切さんを含む一部の産後ドゥーラは、この時期以外のサポートも行っています。

 

自治体によっては、自治体の産後ケア・サポート事業として産後ドゥーラのサポートを受けることができます。横浜市の場合「産前産後ヘルパー派遣事業」の委託先として横浜市の定めるサポートに限定されますが、産後ドゥーラを利用することができます。

 

産後ドゥーラの資格をとるためには、妊娠・出産・子育てを支えるための知識が必要です。助産師をはじめ看護や栄養、産後ケアを専門とする講師による講座を受講し、試験・面談に合格してようやく「一般社団法人ドゥーラ協会認定産後ドゥーラ」として活動できます。

 

約4カ月にも及ぶ講座で弦切さんが一番印象的だったこと、それは、講座で最初に教わるのが「傾聴」だということでした。赤ちゃんやママの身体のことを学ぶと思っていた弦切さんにとって、とても衝撃的だったと言います。ドゥーラが一番に考えていることは、赤ちゃんではなくママなのです。

 

弦切さんはサポートに入る時、常に聴くことを大切にしていて「今日ママが話したかったことは何だろう?聞いてもらいたかったことを話してくれている?」と意識しているそうです。

 

また、弦切さんはママの話を聴くために、あえて自分のことも話すようにしているとも言います。「自分の話をすることで相手が心を開いてくれる。女性はしゃべる生き物でしょ、ママたちは大人の女性同士の話をしたいと思っているのよ。自分のことを話すことで話題が広がるし、話のネタがつきないのよね。それでママたちも次はこの話をしようと楽しみにしてくれるしね。楽しみがあると生活も楽しくなるでしょ」と、傾聴を教えてくれました。

 

実際私が産後サポートを受けていた時、弦切さんが帰った後はとても気持ちがすっきりとし、満たされていました。外出もできず、家族以外と話す機会の少ない産褥期において産後ドゥーラのサポートは外の世界とつながり、おしゃべりに飢えた心を癒やす大切な時間になるのです。

取材も兼ねて久しぶりに弦切さんにわが家のサポートをお願いしました。おしゃべりをしながらも手際よくお料理が進んでいきます。再現しやすいレシピが多いのも弦切さんの魅力、料理へのハードルをぐっと下げてくれます

産後ドゥーラの仕事でいいところは、「やることが決まっていない」ことだとも弦切さんは話してくれました。家事代行などは訪問した時にやることがあらかじめ決まっています。一方でドゥーラはママがその時一番やってほしいことをします。

 

例えば今日はご飯を作ってもらおうと思っていたママがいたとして、そのママが赤ちゃんの夜泣きでよく眠れていなかったとなると、ご飯を作る時間を調整して赤ちゃんの抱っこを代わってママを休ませたりします。そのため臨機応変な対応力も問われるわけです。「ドゥーラは料理のプロでも、掃除のプロでもない」と弦切さんは言います。料理や掃除もするけれど、あくまでもママを癒やすための手段なのです。

今回のわが家のサポートで出来上がった料理。弦切さんの料理は子どもたちに大人気。写真を撮る間にもどんどん手が伸びてきます

プロのドゥーラとして心がけていること

いつも明るく元気ではつらつとした印象の弦切さんですが、サポートに入るにあたり気を付けていることがあるそうです。それは、自分が「心身ともに健康でクリアな状態」であること。「赤ちゃんはとても神聖な存在だから、その状態で初めて触らせてもらうことができると思っています」と弦切さん。そのために自分のメンテナンスをとても大切にしているそうです。自分が好きなこと・楽しいと思うことを惜しみなく満喫し、仕事も詰め込みすぎない。これこそがこの仕事を10年続けられ、仕事のクオリティを保っている秘訣だそうです。

 

「ドゥーラのサポートはお互いお金が発生する間柄だからこそ緊張感があるし、頼む側もお願いしたいことを遠慮なく言えると思う。仕事には全力で取り組むけれど、時間外ではサポートのことを考えないようにすることが大事」と語ってくれました。

弦切さんのブログではサポートのことだけでなく、趣味のゴルフや外食の記録なども公開していて、ママたちにも好評だとか。サポート先のお子さんからもらったという手紙の写真は、ブログ記事から。弦切さんの人柄が伝わってきます(写真提供:弦切奈桜子)

子育てに正解はない、長い目で子育てを

今までのサポートで特に心に残っているエピソードを聞いてみました。

 

母乳育児がうまくいかなくて悩んでいるママがいたそうです。完全母乳を目指すものの、授乳がうまくいかず赤ちゃんもママも疲れ切っていました。見かねて弦切さんは「あくまでも母乳がメインだけど、デザートとしてミルクをあげてみたら?」と声をかけたそうです。「デザートなら……」とそのママもふっと心が楽になって提案を受け入れてくれました。結果として赤ちゃんもよく寝るようになり、ママも楽になることができたということでした。弦切さんは自身も「物事に正解はない、どっちもアリ」という気持ちで行動しているそうです。

 

また、「いいことも悪いことも長くは続かない」ということもサポートに入る際によく伝えているそうです。「いい子過ぎる子も大変になる時は来るし、大変な子もずっとそうとは限らない。『今その時』のことに目がいきがちだけど、状況は変わっていく。ママたちには長い目でゆったりした気持ちでいてほしいと思う。今のこれがすべてだと思わないこと」。情報にあふれ他人と比較してとかく落ち込みがちな昨今の育児環境ですが、弦切さんの自然体でニュートラルな姿勢には思わず肩の力が抜けて気持ちが楽になる、癒やしのパワーがありました。

私がサポートを受けていたときの娘の写真。弦切さんがサポートに来ている時はいつもよく寝てくれました。ママがリラックスすると赤ちゃんもリラックスするのでしょうか

幸せを感じられるゆとりをもってほしい

弦切さんがご自身の子育てを振り返って、子どもがキラキラした表情でその日にあった出来事を語ってくれた時に幸せを感じたと言います。そんな弦切さんがこれから赤ちゃんを迎える家庭に伝えたいのは、「子育ては終わってしまうから、子どものキラキラした幸せな姿を見たときに、自分も幸せを感じられるゆとりを持ってほしい」ということです。そのためには「自分一人で頑張らないこと。子どもが生まれるまでは人に頼るということがなかったかもしれない、でも、子育ては人に頼っていい。人に頼ってもいいと知ることは、今後の人生においても大きな経験となると思う」と語ってくれました。

弦切さんのおいしいごはんを夢中で食べる子どもたち。確かに余裕がないと見逃してしまいそうなキラキラした一瞬ってあると身につまされました

「人にやさしくしてもらうことで自分も人にやさしくできる。与えられることで与えることができる」弦切さんがドゥーラの道を選んだのも、子育てがひと段落した時期だったそうです。自分に余裕ができたからこそ、サポート側に回れたのですね。

 

ママを癒やすことで赤ちゃんも癒やされ、家族も癒やされ、そして癒やされたママが次のママを癒やしていく。ドゥーラの仕事で癒やしがドミノ倒しのように広がっていけば、そんな幸せなことってないですよね。

 

 

産後の生活に選択肢を持とう

赤ちゃんを迎えるにあたって、出産まではなんとなくイメージできても産後の生活についてはイメージしづらいものです。最近はパパも育児休暇を取ってママと二人で子育てをする家庭も多いようで、それはとても素敵なことだと思います。ですが、なんでも自分たちで乗り切ろうとしないでくださいね。そこはドゥーラに頼ってみませんか。他愛もないおしゃべりからふっと心の凝りがほぐれていき、話を聴いてもらえてすっきり満たされ、さりげなく励まされて勇気づけてくれる。ドゥーラはママを癒やすために居てくれます。そして子育てが落ち着いたら今度は自分がしてもらった恩を次のママたちに回していくのも素敵なことだと思います。ドゥーラのサポートに派手さはないかもしれないけれど、ママの声を聴き、温かく寄り添い、幸せにすることができる。ママを幸せにすることで赤ちゃんも家族も幸せにできる。それが産後ドゥーラのサポートなのだと感じました。「産後ドゥーラ」という選択肢を産後のママがあたりまえに選べる、そんな世の中であってほしいと願います。

Information

弦切奈桜子さん

予約状況は一般社団法人ドゥーラ協会のホームページからご確認ください。

https://www.doulajapan.com/

 

弦切さんのブログ

連絡先やご利用についてはブログをご確認ください。

https://doula-naoko.com/

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この記事を書いた人
坪井陽子ライター
横浜市戸塚区出身、森ノオトの記事にあこがれて青葉区に移住。20数年の会社員生活を経て、2024年から森ノオトに参加。地域や人に興味があり、なんにでも首を突っ込みたがる良くも悪くもおせっかい。4児の母。
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