<森ノオトを支えるプロフェッショナルたち> 自分は何のために生まれてきたのか。企業とNPOの架け橋として未来をつくりたい――理事・鎌田淳さん
森ノオトの事務所がある青葉区鴨志田町。緑豊かなこの街に暮らし、2021年から理事として森ノオトの経営やファンドレイジングを支えているのが、鎌田淳さんです。鎌田さんの一言から生まれた連載『森ノオトのある風景』では、地域の様々な人の声から森ノオトの価値を可視化しました。今回は、鎌田さんのお仕事や地域での暮らし、そして、森ノオトへの思いについてお話を伺いました。

NPOと企業の架け橋をつくり、よりよい未来をつくりたい

鎌田さんが代表を務めるコネクティブ合同会社では、企業の社会貢献活動の企画や、社会的インパクト研修、ファンドレイジングの支援などを行っています。

 

現在、鎌田さんが特に情熱を注いでいるのが、企業とNPOをつなぐ新しいマッチングサービスの提供です。

地球規模の気候変動や人権問題が進む今、民間企業にとっても、社会課題に向き合っていくことをおろそかにできない時代になりました。

しかし、本業で利益を出すことが優先課題となっている民間企業には課題解決の専門ノウハウが不足していることも多く、一方でNPOなどの非営利組織は、より大きな成果を出すための資金や経営ノウハウを必要としています。

 

「私が独立したのは2017年です。これまでの9年間は、NPOの資金調達をするためのファンドレイジングの伴走支援をしていました。その活動をする中で、企業の方に視点を向けると、企業も試行錯誤しながら、社会貢献の取り組みをやっていることが分かりました。

 

でも、企業の社会貢献の取り組みは、日本ではまだ『善意』の文脈でしか語られていないことが多いんです。

 

企業がNPOを支援したり、社会貢献をすることが、企業価値向上に接続していることを意識して戦略的に計画・実行することが重要なのじゃないかと」

 

企業が社会貢献を通じて社会価値の向上と自社の価値を向上させる 「ダブルマテリアリティ(注1)」の実現。

鎌田さんは新たなサービスの中で、単なる企業への寄付先の紹介にとどまらず、企業とNPOが手を組むことでどんなシナジーが生まれるかを提案しています。

 

「人的資本経営という言葉は企業経営の文脈でよく語られています 。人件費を単なるコストではなく 資本としてとらえ、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的に企業価値の向上につなげるという経営のあり方です。つまり、人に関する出費をコストではなく自社への投資と考える。

 

そして、その投資が財務的リターンのみならず、社会貢献活動の文脈においては、社会へのリターンにも つながるという視点で考えた時に、企業の社会課題解決への貢献という分野において 、当社のサービスが役に立つ場面はたくさんあるんだろうなと 。

 

そんな文脈の中で、企業とNPOが共創する方法を考え、シナジーが生まれるように提案していきたい。約半年間かけてAIを活用しながらサービス提供のためのツールを開発してきて、 今ようやくローンチしました。このサービスのさらなるレベル向上や売り方等について考えるのはやっぱり面白いですね」

 

さまざまな経営資源をもつ企業と、課題解決の現場にいるNPOの架け橋になる。それが鎌田さんの現在の挑戦です。

鎌田さんがご自身の会社でリリースした企業向けサービス「Connective-PAS」。 自社らしい社会貢献を実現するために、構想から実行・改善・成果の見える化まで、専門家チームが伴走する企業フィランソロピーの戦略アドバイザリーです

注1) ダブルマテリアリティ:GRI (Global Reporting Initiative)が提唱した「企業の社会的影響の重要性」に基づき、欧州委員会が2019年に提言、CSRD(企業サステナビリティ報告指令)で法制化されました。企業の重要課題(マテリアリティ)を「企業→社会」と「社会→企業」の双方向から評価するアプローチで、従来のシングルマテリアリティが「社会・環境が企業財務に与える影響」のみを重視するのに対し、ダブルマテリアリティでは「企業活動が環境や社会に与える影響」(インパクトマテリアリティ)も同等に重要視されます。

 

 

「自分は何をするために生まれてきたのか」という問いからソーシャルセクターへ

鎌田さんの現在の仕事の原点は、ご自身のキャリアの転身にあります。民間企業からNPOへ、そして独立へ。そこには、どんな思いやきっかけがあったのでしょうか。

 

新卒から民間企業2社で長く法人営業や営業企画に携わり、いわゆる「数字を追う営業マン」として走ってきた鎌田さん。転機が訪れたのは40代を過ぎた頃でした。たまたま見に行った宝塚歌劇で坂本龍馬の生き様を知り、近代日本史にのめり込んだと言います。

 

「日本を憂い、自分の命を投げ打ってでも国を変えていった若者たちの行動力と思考にハッとさせられたんです。坂本龍馬の『自分は何をするがために生まれてきたぞ』という言葉を聞いたとき、じゃあ自分が人間として生まれてきた意味って何なんだ?って。今の生き方、仕事の仕方を含めて、本当にこれをするために生まれてきたのかということを改めて考えました」

 

そんなとき、児童養護施設の若者支援を行う、あるNPOの存在を知り、働きながら週末ボランティアを2年間経験。その後、キャリアチェンジを決意し、NPOのファンドレイザーへと転職しました。

 

「転職すると、経済面などいろいろと迷いがありましたが、リスクを背負う決断を後押ししてくれたパートナーには本当に感謝をしています」

 

パートナーの言葉に加え、さらに鎌田さんの背中を押したのは、テレビで見かけた作家・浅田次郎さんの「子どもは唯一目で見える未来だ」という言葉でした。

 

「目の前の子どもたちは日本の未来なんだな、と。どういう未来を残していくのかは、今を生きる大人の責任。それが社会貢献やソーシャルセクターへの関心へと結びついたのかもしれません」

 

自身の経験を振り返りながら、これからNPOや社会貢献に関わりたいと思っている方へ、鎌田さんは温かいエールを送ってくれました。

 

「ソーシャルセクターで活動する、というこだわりを持たずとも、仕事以外の活動をする場所を持つことは、人生において視野が広がるし、本業へのフィードバックにもつながると思います。

 

NPOとの具体的な関わり方としては、まずはボランティアがいいかと。自分がこれまでどっぷり浸かっていた世界とは全く違う世界を、ちょっと覗いてみようというきっかけになります。

 

私にとっても、人脈が広がったり、仕事のやり方が変わったりと、実際的な面だけでなく、内面的にも変化がありましたね。ソーシャルセクターで何かをやりたいという目的があるなら、職員になる、自分で立ち上げる、私のように独立してお手伝いするなど、いろんなやり方がありますよ」

 

 

地域猫との出会いが、地域での暮らしに彩りを与えた

20数年前に鴨志田町に住み始め、都内へ通勤する一人の住民だった鎌田さんが、少しずつ自分の住む地域やその変化に目を向けるようになったきっかけは、働き方が変わったことが理由の一つだったといいます。

さらに、鎌田さんと地域の関わりを、最近、より豊かにしてくれたのが、一匹の「地域猫」との出会いでした。

 

鎌田さんの住む地域には野良猫がいて、時々鎌田さんご夫妻も兄弟猫にごはんをあげていたそうです。その後、お兄ちゃん猫の方が亡くなってしまい、弟猫の寂しそうな姿が気になっていました。

 

ある日、姿を見せなくなった弟猫が膀胱炎で体調不良になっていたことを知り、地域猫活動をしている方から「そろそろこの猫を飼わない?」と声をかけられたことから、鎌田さんご夫妻はその猫を引き取ることにしたのです。

「猫よりも人間が好き」という、甘えん坊な愛猫ちゃん。とってもかわいいですね。

猫ちゃんのいる暮らしについて尋ねると、鎌田さんの表情が一気に緩みました。

「いやもう本当に、お世話することの喜びというか。寝ているときに寄り添ってきて、布団に入ってきたりすると、もうかわいくて、かわいくて。いや本当に、うちの猫の写真を見ているだけで、ニヤニヤしちゃいますよ。人生が豊かになりますよね」

 

甘えん坊な愛猫との時間は、鎌田さんの地域での暮らしに、かけがえのない彩りを与えてくれたそうです。

 

「畑や緑が多くて、川もあって、開発がとても進んでいるわけじゃない。この地域のそんなところがすごく好きなんです。でも最近は、昔に比べて空き地が増えたり、新興住宅が建って挨拶もしない人が増えたり、地域の変化を感じています。何かいい方向に変わっていくといいなと思っていました」

 

 

森ノオトの理事として、これからの森ノオトに期待すること。

そんな鎌田さんが森ノオトの理事になるのには、どんなきっかけがあったのでしょうか。

 

鎌田さんが以前、横浜市内の社会起業家育成支援の会社で働いていた時に、森ノオトの創業者である北原まどかさんと出会い、「鴨志田町にお住まいなんですか?ご近所ですね」と挨拶を交わしたそうです。その後しばらくして、青葉台駅の近くでたまたま「久しぶりです!」と再会したことがきっかけで連絡を取り合うようになり、2021年に理事への就任を打診されたそうです。

 

「あのときは急に連絡があって『理事に!』と言われました。久しぶりに会って思い出したのか分からないですが。戦略的に巻き込まれたのかも(笑)!?」と当時を振り返ります。

 

「私が自分自身では大きな市民運動を立ち上げることはできなくても、森ノオトという存在を通じて、地元を愛する気持ちや地域への貢献が間接的にできればいいなと思っていますし、それが理事として森ノオトに関わる、私なりのやりがいです」といいます。

2026年度のNPO総会で、理事として挨拶をしてくださった鎌田さん

鎌田さんが森ノオトの理事として加わったことで、組織には変化が生まれました。その一つが、鎌田さんが本業で培ってきたノウハウを注いだ、ファンドレイジングや経営面でのサポートです。理事会では常に客観的で論理的な観点から、経営にアドバイスをくださいます。

 

その中で、鎌田さんの「問い」から生まれたユニークな企画が、noteで連載されている『森ノオトのある風景』です。

森ノオトと関わりのある地域のさまざまな人の声から、森ノオトの価値を可視化するnote「森ノオトのある風景」。さまざまな地域の方のいきいきとした思いが伝わります

「『ローカルメディアのあるまちとないまちでは、何が違うのだろう?』という疑問がずっとあったんです。

だからこそ、森ノオトの内側から魅力を語るのではなく、森ノオトと関わりのある地域のさまざまな人の声を通じて、その価値を客観的に可視化していくのがいいんじゃないかと提案しました」

 

この発案からスタートした企画は、さまざまな地域の方々の生の声を拾い上げ、「まちのプラットフォーム」としての森ノオトの存在意義をあらためて伝える大切な場となっています。

 

そんな鎌田さんが、これからの森ノオト、そしてローカルメディアに期待するのは、地域コミュニティを「緩やかに紡ぎつづける」役割です。

鎌田さんは、森ノオトが単なる情報発信メディアにとどまらず、鴨志田町をはじめとしたさまざまな地域のつながりを紡ぎ続け、これからの社会においても支え合える、持続可能な未来の地域社会を育む場になってほしいと願っています。

 

「自分は何をするために生まれてきたのか」という問いを胸に、ビジネスとソーシャルの境界線を軽やかに行き来しながら、そして、企業とNPO、人と地域、みどりや生き物たちも、よりよく共生し合える未来へ。

 

鎌田さんの冷静かつあたたかい経営への眼差しは、これからも森ノオト、そしてこのまちの未来を照らし続けていくのだなと感じました。

Information

コネクティブ合同会社

https://www.cnectv.com/

 

Connective-PAS

https://www.cnectv.com/connective-pas

 

E-mail: a-kamata@cnectv.com

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この記事を書いた人
濱田明日美スタッフ/ライター
子育てを通じ地域との関わりが増え、地域のヒト、モノ、コトとつながり豊かに暮らす心地よさを実感。ライターとして「食べることは生きること」をモットーに、それを構成する地域の環境、文化、人について中心に書き記しながら、よりよく豊かに生きることについて探究したいと考えている。
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