荏子田・黒須田・すすき野。「地域起業」はどれだけ「まちのこと」を想えるか。
12月7日、ぽつぽつと雨が降ったり止んだりのなかで、「田園都市で暮らす、働く 地域で活躍している人に会いに行こう! ーあおば拠点歩きー」の第3回目「荏子田・すすき野編」が行われました。今回も森ノオト編集長の北原まどかが案内役を務めました。

東急電鉄と横浜市が進める「次世代郊外まちづくり」と、青葉区でのセカンドキャリア地域起業セミナーがジョイントしてこの「あおば拠点歩き」は行われています(主催:関内イノベーションイニシアティブ株式会社)。

起業や開業となるとどうしても「駅前型」を志向しがちです。しかし、「地域起業」という視点で考えれば、暮らしの元になる「家」に最も近い、郊外住宅地での拠点がどう運営されているのかを知るのは大切なのではないかと思い、あえて駅から遠い住宅街を歩いてみよう、と提案しました。

 

今回の「荏子田・すすき野」編では、民間企業、個人商店、公共施設、市民活動の4拠点をめぐりました。

「起業」といっても、そのパターンはいろいろあっていい。稼ぐお金の規模ではなく、どれだけ地域にインパクトを与えるのか。その視点で選んだ4拠点です。

 

薪ストーブが焚かれてほんのり温かいリードの店内。安生さんを囲みながら、活発な質疑応答がおこなわれた

 

スタート地点は「リードあざみ野」です。社長の安生敏弘さんは、お父様が50年前に青葉台で立ち上げたタイル業を引き継ぎ、「ガーデン&エクステリア」の業態に発展させてきました。

安生さんの地域での立ち位置を表現するならば、「世代を縦に、地域を横に、つなぐ人」。青葉台とあざみ野の2店舗を運営していた時に、双方の商店会活動を結びつける役割を担っていました。

「青葉区は魅力的な団体や地域活動、お店がたくさんあって、横につながらなくてもそれぞれの活動が成立できる環境です。だけど、つながってみたら、助け合いとか、楽しみとか、いいことがたくさん増えた。まずは、つながってみようよ。つながってみるといいことがあるよ、ということを伝えたいですね」(安生さん)

 

商店会の活動や地域活動はボランタリーなことも多いですが、つながり始めてみるとお客さんが変わってきた、といいます。

「会社の体質としても、売り上げ重視から利益重視に変わり、利益の中身を考えるようになりました。紹介のお客さんが増えてくると、いかに誠意をもって関わっていくかが問われます。人との関わり方の密度が濃くなりました」

そう話す安生さんは、「なんでも、やってみようよ」という精神で、20代の若手スタッフの挑戦や、ママスタッフの子連れ出勤などを受け入れ、それがお店の幅を広げていると、手応えを感じています。

 

<森ノオト記事>

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緑と心と人がつながる あざみ野・青葉台「ガーデニング LEAD(リード)」

https://morinooto.jp/2015/12/24/lead/

 

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色々な想いが場をつくる。11/25LEAD「いろいろマルシェ」

https://morinooto.jp/2017/11/18/iroiromarche/

 

田中さんの等身大、だけど自分のこだわりポイントを大切にするゆるぎない姿勢は、同じ子育て中の母親として大いに参考になった。参加者のほとんどがお買い物してホクホク笑顔!

 

二つ目の訪問先は「TREFLIP BAGLES & BREADS」です。ベーグルとイングリッシュマフィンの専門店として、若い人たちに人気のお店です。

店主の「うなちゃん」こと田中真理子さんは、現在、2人の男の子を育てるお母さんでもあります。

 

「働くために子どもを保育園に預けることは考えていませんでした。(子育ての時間は有限なのに)もったいない!なるべく子どもと一緒にいたいから」

と、あくまでも子ども優先で、無理ないスタイルでお店を始めて3年になります。夫婦とも青葉区の出身で、両親も近くに住んでいることも後押しになりました。

 

とてもセンスのいい内装は友人が手掛け、雑貨や木工、絵本屋の友人など、小さなお店で他業種が自然とコラボしています。「コラボをする条件は特にないんですが、一つだけこだわるならば、私の友達であること、ですかね」と、田中さんは言い切ります。

実際にトレフリップのベーグルも焼き菓子も、とてもおいしいのですが、「万人に好きと言ってもらうことを目指しているのではなく、私がおいしいと思うものをつくりたい」という言葉も、「自分らしさ」を追求している田中さんらしいな、と思いました。

自然体で等身大。「トレフリップが好き」と思える人たちに支持されて、今日もうなちゃんは元気いっぱいの笑顔を振りまいていました。

 

<森ノオト記事>

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こっそり人に教えたくなる!ニューウェーブベーグル専門店

https://morinooto.jp/2017/06/06/treflip/

 

すすき野地域ケアプラザで説明を聞く参加者たち。ご近所のすすき野団地で実施される「まちの保健室」の活動で、スタッフ自らが外に出向くことも

 

トレフリップから歩いて5分。すすき野地域ケアプラザは青葉区で最も新しいケアプラザです。所長の小藪基司さんは「福祉はこれまで行政がやるもの、と思われていました。これからの時代は、市民が主体となって福祉を立ち上げたり、市民の希望を応援するのが、私たちの仕事です」と話します。

すすき野地域ケアプラザは、高齢者の通所型デイサービスはおこなっておらず、地域活動交流や地域包括支援センター、支え合う仕組みづくりの支援、介護予防や居宅介護支援の事業をおこなっています。

「地域ケアプラザはいつでも開いている施設です。場を使ってもらうことで地域の方々を応援したり、ちょっとのきっかけで人のつながりを生み出したり、赤ちゃんからお年寄りまで福祉の相談を受けることができます」と、小藪さん。

 

この日の参加者に、すすき野団地管理組合の小柴健一理事長もいました。小柴さんは「月に一度、団地の集会所で団地の保健室という取り組みをしています。すすき野地域ケアプラザはすすき野団地からは近いけれども、高齢者の行動範囲はどんどん小さくなり、歩いても200メートルという方もいて、だからこそケアプラザの方が出向いてくださる。本当にお世話になっています」と、近隣住民ならではのエピソードを聞かせてくれました。

 

ちょっとした「歴史トーク」を披露する北原。地元の歴史はまちづくりを紐解く上でも大切な要素

 

すすき野地域ケアプラザの向かいに、御嶽神社という小さな神社があります。黒須田エリアには、御嶽山(東京都青梅市)を信仰する「御嶽講」が続いてきた地域で、御嶽神社は「結」「講」といった昔ながらの地縁組織のつながりを象徴する場所でもあります。

 

まだ残るバラの香りと、美しく咲き誇る姿に、思わずスマホのカメラを向ける参加者たち

 

今年度で閉校になるすすき野小学校や、すすき野団地を横目に見ながら歩く先、この日最後の目的地は荏子田太陽公園、太陽ローズハウスです。

 

荏子田太陽公園愛護会会長の増田健一さんに、公園内にある「太陽ローズガーデン」を案内していただきました。シーズンは終わったものの一部残ったバラの強い芳香に包まれて、「公園でこんなことができるの?」と参加者一同驚いた様子です。

「バラの小径」の階段を上り、遊具のある広場を抜けると、そこには板張りの可愛らしい建物「太陽ローズハウス」がありました。「公園の中に建物ってつくれるの?!」と、ここで、また参加者は驚いていた様子です。

 

荏子田太陽公園に「太陽ローズガーデン」「太陽ローズハウス」がどうやって誕生したのかについて、増田さんからレクチャーを受けました。

20年前には鬱蒼と藪が生い茂り「ちかん注意」と立て看板が掲げられていた公園を、危険な場所ではなく、地域の憩いの場にしよう。地域にバラの愛好家がいたことから、バラをテーマにした公園づくりが始まりました。

229230株のバラを植え、マイローズという寄付の仕組みや、さまざまな助成金を用いて、花壇や環境の整備を続けた結果、シーズンには5000人もの来場者が訪れるほどのバラの名所になりました。

そんな、公園を訪れた人のためにトイレをつくりたい。街区公園にトイレが建てられないなら、コミュニティの拠点となる建物をつくってそこにトイレを設置しよう、という逆転の発想で、横浜市建築局の「よこはま市民まち普請事業」の助成金500万円を獲得し、さらに550万円以上の寄付を住民から集めて、太陽ローズハウスが今年331日に誕生しました。

 

「ここまでのことを地域住民の共感を得て成し遂げられる増田さんの原動力は?」との質問に、増田さんは「誠意と熱意をもってあたれば、何かしらの反応は得られます。寄付を集めるのに1回こっきりのお願いじゃダメ。何度も足を運び、地域の財産になるんだから、と伝えます」とおっしゃいました。

 

ヨコハマ市民まち普請事業によって整備し、今年3月に竣工した太陽ローズハウス。ハウスの周りに敷かれた芝生は、今年10月に日本中を沸かせたラグビーの国際大会で使われた芝を移植したそう


 

<森ノオト記事>

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ボランティアの笑顔が支える 荏子田·太陽ローズガーデン

https://morinooto.jp/2018/05/17/taiyourose/

 

▼▼

バラでつながり、庭と公園をまちの財産としてひらく!https://morinooto.jp/2019/05/18/opengardenreport/

この日が最終回となった「あおば拠点歩き」。参加者からは次のような感想をいただきました。

「個人発信から、仲間を得ていき、団体になっていく、そんなつながりの広がりを見せてもらいました。この熱は必ずつながるという実感を持てました」

「子どもの(未来の)ために、地域のために、という熱意が人を動かすということがわかった」

「自分が住んでいるエリアで、生活圏内を歩いたが、その場に直接出向いて話を聞かないとわからないこともあるんだと気づいた。私自身、もっと発信して、いろんな人に地域の情報を届けたいと思った」

「毎年バラを見にいくのを楽しみにしていたが、かなりの努力とエネルギーを注いでいることがわかった。自分もがんばろうという元気をもらった」

 

「まちのために」という、誠実で熱い思いは伝播する。増田さんの情熱は、参加者の心を動かしていた

 

関内イノベーションイニシアティブが呼びかける「地域起業」「社会起業」を、青葉区で表現するならばどういうところだろう。ローカルメディアを青葉区で10年運営してきた森ノオトならではの視点で、訪れる拠点を選んできました。

個人の思いに共鳴する。仲間をつくる。世代をつなぐ。熱意と誠意で地域の応援をとりつけてくる。そして、実現したい未来を引き寄せる。そんな青葉区のキーマンたちに、美しが丘西、藤が丘、荏子田・すすき野というエリアで出会いました。

参加者の皆さんの心に響いたエッセンスを、森ノオト読者にもお届けしたいと思い、記事にしました。ぜひシリーズで、ご覧いただけるとうれしいです。

 
 

LINK

あおば拠点歩き「美しが丘西」編(201976日開催)レポート

あおば拠点歩き「藤が丘」編(20191026日開催)レポート

Information

<あおば拠点歩き 藤が丘編>

主催:関内イノベーションイニシアティブ株式会社

告知

https://massmass.jp/project/walk03/

次世代郊外まちづくりHPでのレポート

Coming soon!

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この記事を書いた人
北原まどか理事長/ローカルメディアデザイン事業部マネージャー/ライター
幼少期より取材や人をつなげるのが好きという根っからの編集者。ローカルニュース記者、環境ライターを経て2009年11月に森ノオトを創刊、3.11を機に持続可能なエネルギー社会をつくることに目覚め、エコで社会を変えるために2013年、NPO法人森ノオトを設立、理事長に。山形出身、2女の母。
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