自分の暮らすまちへの感情が変わる。実践型ワークショップ「DELightプロジェクト」で見えた新たなまちづくりの可能性
東急株式会社が「生活者起点のまちづくり」を掲げ、2022年から進めているnexus(ネクサス)構想。 若者たちがまちと気軽に関わるきっかけづくりを目指した実践型ワークショップ「DELightプロジェクト-ちょっといいミライをこのまちで-」が、横浜市青葉区のたまプラーザ・あざみ野エリア周辺で開催されました。そこに住む人と意見を交わしながらイベントを企画し、実践して感じたこととは?参加者の4名を中心にお話を伺いました。

2023年春、東急田園都市線・たまプラーザ駅、あざみ野駅周辺エリアで、若年層が参加するまちづくりワークショップ「DELight(ディライト)プロジェクト」が開催されました。

 

期間は3月から4月にかけての約2カ月間。公募を経て、大学生を中心に、出身や居住地、専攻の異なる14名が参加しました。19日間のワークショップで住民やまちづくりのプレイヤーと意見を交わしながら、「住民・来訪者、だれもが楽しくなる、生活者目線の場づくりを考えよう」をテーマにまちづくりのイベントを練り上げました。約1カ月間の準備期間を経て、4月22日には COMMON FIELD(コモンフィールド、東急百貨店たまプラーザ店屋上)で2チームが、たまプラーザを題材にした謎解きとすごろくのイベントを実行し、300名以上の来場者を迎えにぎわいました。

 

数日、もしくは数回に分けて開催されるワークショップはよく耳にするけれど、ここまで長い期間、切れ目なく関われるものは珍しい!若者がまちの“中”まで踏み込んでいけるであろうこの企画は、ほかでは得られないまちづくりへの新しい気づきがあるのでは?と、私は胸を高鳴らせながらインタビューの場に足を運びました。

COMMON FIELDでの最終日のイベントにて。このワークショップのプロジェクト名は、「Draw=描く」、「Execute=実行する」、「Light=(未来を)照らす」の頭文字から。若者が思い描くまちの未来を実行することで、「Delight=まちを楽しませる」経験を通じてまちづくりの達成感や面白さを感じてもらいたいという思いが込められています(写真提供:東急㈱ )

ワークショップを通じて、参加者の「たまプラーザ」というまちの捉え方はどう変わっていったのでしょうか。まちづくりについて、どのような手応えを感じたのでしょうか。参加した根岸薫海(ゆきみ)さん、江原凜さん、山﨑愛さん、関口航太朗さんと、nexusスタッフの金井純平さん(東急)、運営協力の柴田大輔さん(はじまり商店街)にお話を聞きました。

 

 

イベントを“実践”できることが参加の決め手に

——「DELightプロジェクト」に参加しようと思ったきっかけを教えてください。

 

根岸さん:実家がたまプラーザ(以下たまプラ)で、20年間ほど暮らしてきました。一人暮らしを機にたまプラを離れることになったのですが、別れることに心残りを感じていたんです。そんな時にこの企画を知って興味を持ち、後悔しないようにと応募しました。

それと私は社会人経験があって、勤務先だった茅ヶ崎の人がみんな地元愛があるのに驚いて。「たまプラの人はどうなんだろう」と思い、それを確かめたい気持ちもありました。

 

江原さん:私は今大学2年生で、都市計画を学んでいます。これから大学のカリキュラムでのまちづくりの実践の前に、習ってきたことを生かしたいと考えていました。

まちづくりのプロからノウハウを学びたいという気持ちと、横浜のことをもっと知りたいという思いもあって応募しました。

左から江原さん、根岸さん、柴田さん。江原さんは京都府出身

山﨑さん:私は大学で都市学を学んでいます。今3年生でゼミに入っているのですが、実践的な提案などを学内にとどまらずアウトプットしたいと思っていました。

たまプラは、私が15年間住んでいる新百合ヶ丘とまちの雰囲気が似ていると感じていて、新百合で暮らしてきたことを今回の企画に生かせると思ったし、学んだことを地元に還元できるとも思って参加しました。

 

関口さん:今大学3年生で、就活の最中です。まちづくりの仕事に関心があったのと、計画して終わるのではなく、イベントの実施までやらせてもらえる点に興味が湧き応募しました。

 

金井さん:このプログラムは、イベントの実行を最重要視していました。東急から何かレクチャーするというよりは、柴田さんのような実際のまちづくりのプレーヤーを巻き込み、何でもお膳立てするのではなく、どうしたら学生が自律的に進めていけるかを意識していました。

左から関口さん、山﨑さん。関口さんは生まれも育ちも東京都板橋区で、大学では歴史学を専攻しているそう

人間くさくて、複雑なまち。ワークショップを通じて変わった、たまプラの捉え方

——企画に参加する前、たまプラというまちにはどんな印象がありましたか?

 

山﨑さん:たまプラは上品なベッドタウンといった感じで、近寄り難い印象もありました。田園都市線自体が、おしゃれでハイブランドなイメージがあります。

 

関口さん:私は通学で田園都市線を使っているはずなんですけど、たまプラの印象があまりありませんでした。参加にあたってネットでたまプラのことを調べて、駅前が盛えているんだなあと。

関口さんと山﨑さんのチームはたまプラの坂の多さに着目した謎解き型のまち巡りを企画。謎解きのルートは住民のみなさんが毎日見ているだろうまち並みです。何気ない坂や階段も謎解きで歩いてみると新たな発見が?!写真は美しが丘小学校下にある100段階段(写真提供:東急㈱)

 

まち巡りに使うマップやクリアファイルも自分たちでデザインして制作。印刷ミスのアクシデントもあったようで、そんな“想定外”に対応する経験も、イベントを実践したからこそ(写真提供:東急㈱ )

江原さん:私も参加すると決めてたまプラを調べて、駅がきれいだな〜くらいのイメージしかありませんでした。ネットの情報はたまプラをやけに毛嫌いしている意見もあったりして、何をそんなに嫌がっているんだろう?と……(笑)。地名も珍しい感じがして、ある意味第一印象が濃かったです。

 

根岸さん:私はずっと住んでいたから思い出補正があるかも……。駅前が便利だけど緑もいっぱいあって、治安もいい。桜もすごいし、きれい、最高!!って感じです。

 

 

——フィールドワークで実際にまちを歩いたり、まちづくりのプレイヤーに話を聞く中で、たまプラというまちの印象にどんな変化がありましたか?

 

根岸さん:フィールドワークをするまでは、割と単純な考えでたまプラを捉えていたけれど、その感覚が少し変わりました。たくさんの住民と話す中で、まちづくりに情熱がある人もいれば、ドライな関係がよいと考えている人もいるんだろうなと感じて。中身を見ると自分が今まで見えていたものよりもっと人間くさくて複雑なまちだったことに気づいたんです。

 

江原さん:私も実際に住んでいる人に話を聞いていく中で、考えが変わった部分がありました。ネットから見る「お高くとまっている」というイメージは偏見だと気付いて。まちのことを一生懸命に考えている人がいっぱいいたことには驚いたし、自分の住んできた地域では感じなかったことでした。

江原さんと根岸さんのチームは、たまプラーザのまちについて知れるすごろくを企画。会場のCOMMON FIELDの芝生には、たまプラで活躍する団体やお店、学校の紹介ボードとミニカードを設置して、歩きながらまちを知れる工夫もこらしました(写真提供:東急㈱ )

 

イベントを通して、住民からまちの歴史を聞く場面もあったそう!子どもからシニアまで多世代とかかわり、まちへの理解が深まっていったよう(写真提供:東急㈱ )

関口さん:私も住民やまちづくりのプレイヤーの方と話して、真剣にまちづくりの活動をしている人が想像していたよりもたくさんいることに気づきました。若い世代が中心となって開催しているイベントも意外とあって、自分たちみたいに外の人間がイベントの提案をしても受け入れてくれる環境があると感じました。

 

山﨑さん:たまプラの人は暮らしの余裕を、“暮らしを楽しむ”ことに生かしているように思います。毎週イベントが開催されたりしていて、住む機能だけでなく、遊ぶ機能も備わっている。行って帰るだけじゃなくて、そこに暮らすこと自体を楽しんでいるのかなと感じました。

 

金井さん:たまプラは東急が土地区画整備してできたエリアで、比較的歴史も浅い。そして住んでいる人たちはシビックプライドを持ってまちづくりをしている。そこに外から来た若者が入って、まちの人がどうリアクションするか、期待も不安もありつつでしたね。

今回様子を見ていて、今活躍しているまちづくりのプレーヤーたちも、若い人に話すことで自分のやっているプロジェクトの意義を再確認できる場だと考えると、こういう企画はまちの人にもいい機会だったのではないかと思います。

 

 

1回のイベントでまちづくりは終わらない。人と関わりまちづくりに挑戦して見えたこと

——今回参加したことで、自分の中にどんな変化がありましたか?

 

関口さん:自分の住むまちへの感情が変わりました。まちづくり活動をしている方に話を聞きに行った時、「自分が育ててもらったまちに何ができるか意識した方がいいよ」と言ってもらって。そのようなことを言われたのは初めてでした。

前から自分が育ったまちは嫌いではなかったけど、何が必要かという現状や、まちの発展に自分に何ができるのかという視点で見るようになりました。

 

江原さん:私はたまプラに対して先入観を持って入ってしまったのがよくなかったなあと思っています。他の人の言っていることに影響されるのではなく、自分の感覚や住んでいる人との関わりでイメージを作っていきたいと感じました。

私の出身の京都府に対する“固定概念”もよく耳にするけど、それが今回私が持っていた先入観と合致したんです。私もそれを聞いていつも「もっと色んな側面があるのに」とモヤモヤしていたなと。

イベント参加後は、今まで降りたことのなかった駅にも降りてその地域のイベントに参加してみるようになったという江原さん

江原さん:やる前は「イベントで何か変わるのではないか」という期待感が少しあったんですけど、終わってみるとあっけなくて。でもだからこそまちにずっと関わっている方々の努力とか思いが強く感じられて、まちづくりを続けていくってすごいなと思いました。

 

柴田さん:イベント後の振り返りでも「イベント1回はまちづくりではない」っていう意見が出てましたよね。みんなにとってもそれが腑に落ちたんだろうなと。これからのDELightプロジェクトの在り方にもつながっていくんだろうなと印象に残りましたね。

 

金井さん:そういう難しさを経験してもらえたのもよかったですね。私たちの悩みも分かってもらえた(笑)。

 

山﨑さん:私も一日でできることの小ささを感じました。イベント開催を振り返っても、色々なサポートがあるにもかかわらず必死で、自分たちだけでは無理だったと思います。まちづくりは一人でするものではなくて、周りとじっくり信頼関係を構築していくことが大切だと実感しました。自分がやりたいことをただぶつけるのではなくて、相手の立場だったら何を求めるかを考えないといけない。イベントは多くの人が関わるから一筋縄ではいかないけど、みんな集まってやることに意味があると思います。

企画案は住民の方を招いたヒアリングタイムでブラッシュアップされた後、まちの人たちへのインタビューや実地調査を重ね、東急社員や地元有識者へのプレゼンへと進みました。交わされた要望やアドバイスを受け、イベント開催の日を迎えました。そこに住む人と話したことでの気付きの大きさは4人に共通していた様子

金井さん:いろんなワークショップをやられている柴田さんに聞きたいんですけど、若い人がやるからこそのよさはありましたか?

 

柴田さん:学生だからこそのアイデアの自由さがよかったですね。まず議論の最初に予算やスケジュールの話が出てこない(笑)。事前課題でまちへの「ラブレター」を書いたおかげか、好きっていう視点から始まりましたね。この課題、社会人になるとなかなか案が出てこない。社会人は好きっていう視点を忘れちゃってる。

ただ一つ残念だったのは、みんながまちの人と話すにつれて、段々大人の意見に寄ってきちゃったこと。まちの意見をちょうどよく取り入れながら、みんなの自由さを表現して欲しかったけど……。でもみんながまちと対話した証拠でもあると思います。

 

金井さん:これはまちづくり自体の難しさですよね。住民の声を無視してもダメだし、寄り添いすぎても奇抜さが抜けていく。

 

山﨑さん:最初坂で流しそうめんとかスライダーをしたいって意見もありました(笑)。でも現実的に考えたらどうなのって。そこら辺の擦り合わせは確かに難しかったです。

イベントの企画を進めるにあたってはメンバー同士でもめる場面もあったそう。「今後まちで何かしたい時に声をかけ合える関係性になれたのは、DELightプロジェクトで大変な思いをしたからこそって思います」と根岸さん

関口さん:僕の大学はコロナの影響で入学当初は授業のほとんどがオンラインでした。サークルも新歓が制限されて、入るタイミングを失っちゃって。ここに来て、大学を超えて人と関わる機会が生まれたのはよかったです。

 

柴田さん:コロナやデジタルツールの普及などもあって、若い人が地域に入っていく機会がどんどん失われている。若い人の社会参画をスタンダードにしていってほしいなと思います。こういう企画が日本全土に増えるといいですね。

 

 

——この企画に参加してみて、今後もまちづくりに関わっていきたいと感じましたか?

 

関口さん:就活を進めていくなかで、まちづくりの業界は一つの選択肢として見ていきたいと思えました。一方で何十年と長い時間が必要なまちづくりの大変さも分かったので、よく考えていきたいです。

 

江原さん:私は、まちづくりには住民としても仕事としても関わっていきたいと思っています。

今の日本の現状を見ていても、地域一つひとつの場所、そこにいる住民が何ができるかを考えていくのが大事だと感じます。これから大学で学んで、どこかの地域に入ってそこの魅力を上げていける人になりたいです。

 

根岸さん:プロジェクトの中で関わった地域の高校生が、「将来はたまプラのために何かできるように進学や就職を決めていきたい」と話していたんです。これからはそんな人たちが、まちづくりの場で動きやすい環境を整えていくような関わり方をしていきたいと思いました。

 

山﨑さん:まちの本質的な魅力を上げていくには、日々のイベントなどの地道な積み重ねが重要だと思います。

今回のプロジェクトを通じて印象に残っているのはまちの人や子どもたちとの関わりで、自分がまちづくりに対するやりがいを感じるのはそこなんだと思いました。どのような形であれ、まちや人と近い距離感でまちづくりに関わっていきたいです。

 

金井さん:企画を通してみなさん、予想以上にまちにコミットしてくれましたね。きっかけがあれば関心を持ってくれるのが今の若い世代だと思ったし、そのポテンシャルを発揮できる場所がないともったいないなと感じました。地域の中と外の間をうまく東急が取り持って、いろんな人がまちに関われる余白を作るのは重要だとも思いました。

一日イベントは短いという意見もあったし、もっとコミットしやすい環境づくりをしたいですね。過渡期の企画なので、悩みながら進めていますが、今後もみなさんにはぜひ関わってほしいなと思っています!

取材はたまプラーザから歩いて5分ほどの「さんかくBACE」にて。インタビューはイベント開催後約3カ月のタイミングで実施されました

(おわりに)

たまプラーザに地縁がある人もない人も、ワークショップを通じてどんどんとまちの解像度を高めていく様子を私はワクワクしながら聞いていました。

まちの中まで関わり、外からは見えなかったまちの一人ひとりの思いを肌で感じる。そこには難しさと同時に、「まちづくり」の大きな魅力、喜びが詰まっているのかもしれない。時間をかけたからこそ得られたこの気づきは、これからそれぞれの暮らすまちや活動の場へと巡って、ゆっくりとまちづくりの担い手を育んでいく……そんな可能性を感じました。

試行錯誤しながら、新しいまちづくりの形を模索するDELightプロジェクト。まちの中と外、世代を超えたまちづくりへの挑戦は、まだ始まったばかりです。

 

インタビュー:梶田亜由美

執筆:佐藤沙織

撮影:齋藤由美子

Information

実践型まちづくりワークショップ「DELight(ディライト)プロジェクト

実践型まちづくりワークショップ 「DELightプロジェクト-ちょっといいミライをこのまちで-」を始動 !|ニュースリリース

 

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この記事を書いた人
佐藤沙織ライター
横浜市泉区生まれ、西区在住。そこに住む人の等身大の言葉でつくられた森ノオトの記事に魅せられてライターへ。身近な人の気持ちや様子をそっと書き残していけたら。読書と犬が好き。趣味のゴルフは毎回大乱闘。
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