たくましく生きよ。自分たちで暮らしをつくるモリウミアス漁村留学で見えてきた、雄勝の生活と子どもたちの変化
宮城県石巻市雄勝町のモリウミアスで、中学一年生の息子が漁村留学を始めて一年。子どもたちは、海と森に囲まれて、自発的に生活に取り組み、暮らしています。モリウミアスの「自分たちで暮らしを成り立たせる仕組み」と子どもたちの変化を伝えます。

モリウミアスは、東日本大震災の被害を受けた石巻市雄勝町で、廃校となった旧桑浜小学校を改修して生まれた施設です。2015年から子ども向け体験プログラムを実施し、漁村留学では日本各地から集まった子どもたちが共同生活を送りながら地元の公立校に通っています。 前回の記事では、息子の漁村留学が始まって1カ月ほどの様子を書きました。

 

2025年度の漁村留学生たちは全員で4人。朝起きて家畜のえさやりをし、朝食をつくり、学校に行き、帰宅後は薪を取りに行ったり、夕食づくりや風呂焚きをしたりしながら暮らしています。暮らしそのものが学びになっていて、その仕組みが子どもたちを少しずつ変えているように見えます。

 

 

自分でやるしかない、を支える仕組み

モリウミアスでは、自分たちの生活のことを自分たちで進めていきます。見ていて大きいと思ったのは、暮らしが見えるように整理されていることです。

 

 

毎日夕食後には、翌日の予定を確認する時間があります。朝の役割、夜の役割、連絡事項などをみんなで確認し、次の日をどう回していくかを共有します。

 

朝の役割は、えさやり、掃除、朝ごはんづくり、テーブルの準備。夜は、主菜づくり、副菜づくり、お風呂炊き、ごはん炊き担当などに分かれます。確認の時間の担当も、天気を調べる人、進行する人、書記役などをローテーションで回していきます。

 

スケジュールボードもよくできています。1日の流れの中に、集合、朝食、出発、帰宅、薪取り、夕食、風呂、就寝、確認、といった動きが見えるようになっていて、それぞれの作業を誰が担うのかが色分けされたマグネットでわかる仕組みです。自分の担当が目で見えるので、誰かに指示されることもなく自発的に自分のペースで日々の仕事を進めていきます。

3月のとある1日のスケジュールボード。上の方にあるのが予想気温や天気。左側がタイムラインになっている。薪でご飯とお風呂を炊くため、何人分の食事を作るのか(この日は保護者が来訪するため16人分)、どういう順番で風呂に入るのか(追い焚きしないで済むように手早く全員が入る)、そのために何分前に行動を始めるのかなどは全員が把握する必要がある

週に1回は「暮らし会議」があり、次の1週間をどう過ごすかをみんなで考えます。

 

最初に確認するのが週間天気です。雨の日が続けば薪を拾いにいくタイミングも変わります。買い出しに向けて必要な食材を書き出したり、モリウミアスへの来訪者や研修企業、短期宿泊イベントの受け入れの予定を聞いて、自分たちの予定を合わせる必要があるのかどうかを確認し、気になっていることを話し合ったりもします。

向こう1週間の予定を共有する暮らし会議。毎日一緒に過ごす中で仲間と考えが合わないことなんて日常茶飯事。お互いの考えを持ち寄り、対話を重ねることで全員にとっての正解を導き出していく。この会議のほかに、年度の初めに作成した「大切にしたいこと」シート(前回記事に掲載)を見ながら月に一回の振り返り会も行う。この繰り返しで自分の頭で考え自分なりの答えや意見を持てるようになっていく(写真提供:モリウミアス)

こうした仕組みを見ていると、子どもたちが自発的に取り組める理由は、しっかりしたルールがあるからだけではありません。

 

自分たちの暮らしが、自分たちの判断や段取りで成り立っていることが実感しやすいのです。やるべきことが見え、必要なことが共有され、少しずつ自分で考えて動けるようになる。そこに、スタッフが管理者としてではなく、暮らしの一員として伴走していることも大きいのだと思います。日々のルールづくりは子ども主体で、スタッフは見守り役に回っています。

 

もちろん、細かい調整ごとはたくさんあります。

 

たとえば洗濯。息子はある日、「今、問題になっててね、俺が2週間に1回しか洗濯してないこと……」と白状しました。親としては聞き逃せない内容ですが、こうした暮らしのペースや感じ方の違いも、共同生活だからこそ表に出ます。

 

4人の留学生がいて、部屋は4つあるのに、男の子3人が「1人で寝るのは心細い」と同じ部屋に集まって寝ています。ほかに部屋が空いているのに、一つの部屋で3人暮らしをしているのは、なんとも子どもらしいのですが、その結果、他人の持ち物と混ざる、物が散らかる、片付かない、という課題はなかなか解決しません。

 

家事や片付けは、教えられればすぐできるようになるものばかりではありません。でも、「できていないこと」や「他者との感じ方の違い」が生活の中で見えるからこそ、子ども自身も少しずつ調整していく。その過程が、ここでは隠されずに進んでいるように感じます。

 

 

雄勝という土地の中で暮らす

こうした生活は、雄勝という土地の条件と切り離せません。

 

雄勝は、海と森と里が近い場所です。漁業が地域の大切な産業であり、学校に通う子どもたちの家庭にも漁業に関わる仕事が多いと聞きました。

 

雄勝小中学校は震災後に新しく整備された小中併合校で、海を望む場所に建ち、地域の暮らしや文化と近い距離にあります。

 

雄勝での暮らしは最寄りのコンビニまで車で40分ほど。欲しいものがすぐには手に入らないので、必要なものを予測し、頼み、待つ、という時間が発生します。息子からは、「ノートを送ってほしい」「丈夫なズボンがほしい」「体育館シューズがほしい」「バドミントンのラケットが欲しい」などと電話がかかってきました。都市部ならすぐ買えるものでも、ここではそうはいきません。

 

けれど、その不便さは単純なマイナスではないようです。

 

どんな道具が必要かを考える時間が生まれるからです。運動靴ではなく登山靴の意味、つま先の出たサンダルではなくアウトドアサンダルの方が危なくないこと、防水の上着の必要性。子どもたちは、自分の体でわかることから毎日の暮らしの中で道具の違いを実感しています。

 

雄勝小中学校もまた、この土地ならではの学びの場です。全校児童生徒は30人ほど。海のそばにありながら海抜は高く、災害時の避難場所にも指定されています。特産の硯石(すずりいし)や和太鼓など地域に伝わる文化とも接点があります。目の前の海で養殖しているギンザケの調理実習やお正月飾りづくりなど、地域の人から学ぶことも多くあります。

 

児童生徒の数は少人数ですがそれだけに全員に目が届くのでしょう。留学生の中からも、願いが叶うならこの学校に通い続けたいという声もありました。

 

震災を経た土地で、自然とともに生きる暮らしの中に学校があり、子どもたちはそこへ通っています。雄勝は、自然が豊かで美しいだけの場所ではなく、土地の歴史や産業、災害の記憶も含めて、生活を考えさせる場所なのだと思います。

東日本大震災から15年。3月11日に石巻震災遺構大川小学校でひらかれた「大川竹あかり」。1月に竹を切り出し、2月の毎週末、竹灯篭作りのワークショップが行われた。留学生たちも竹燈籠作りから参加し、地元の方やボランティアの方と語り合いながら作業を行なった(写真提供:モリウミアス)

漁村留学生たちの成長

子どもたちはスマホやテレビからは離れて過ごします。たまにかかってくる電話とクラウドに日々数枚ずつ共有される写真からしか子ども達の様子を知ることはできません。一年に3回ある「保護者滞在」の期間に保護者もモリウミアスに滞在し、子どもたちと一緒に時間を過ごすことで子どもたちの日々の暮らしを想像できるようになりました。

 

保護者の側から見ても、参加の理由はそれぞれです。自立心を育てたい、他者との関係性を築いてほしい、自然の中で暮らしてほしい、スマホやお菓子との距離感を見直したい。実際に始まってみると、子どもたちが得ているものは、最初に思い描いていたものだけではないでしょう。

 

洗濯がたまることもあれば、お風呂を炊くことに失敗したこともありました。友だちと同じ部屋で寝たがる甘さもありつつも、お菓子を自分で作ってみようとチャレンジしたり、寒くないように薪ストーブを炊くことを覚えたりと暮らしているからこその関心ごとや失敗の経験から、自分で次の暮らしを考える力が少しずつ育っているのです。

5月の運動会、10月の文化祭、3月のお別れ会の日に合わせて年間3回保護者が漁村留学の建物に滞在できる日がある。この写真は5月に行われた初めての保護者滞在の写真。漁村留学生の生活を垣間見る貴重な機会。留学生たちはすでに指示を待たずに自主的に動けるようになっていて、その成長ぶりに驚いた(写真提供:モリウミアス)

雄勝や社会に伝えたいことを「マイプロ」に込める

漁村留学生たちは一年通して取り組む「マイプロ」を一人ひとり設定します。

 

息子と同じ中学1年生のゆうたくんは、東京から来た留学生です。ご家族からは自立心を育てたいこと、他者との関係を築く経験をしてほしいことを期待して、参加を決めたと聞いていました。山村留学の候補地はいくつかあったそうですが、海もあり、ほどよい不自由さがあるモリウミアスの環境に惹かれたそうです。

 

実際にここでの生活は、便利さに慣れた都市部の暮らしとはかなり違います。必要なものがすぐには手に入らず、欲しいものは考えて他人に頼むなど手に入るまでに時間がかかります。

 

食べることが好きなゆうたくんは、おいしいものを食べるために努力ができる人。道具がないから、とか、時間がかかるから、などと言ってあきらめるのではなく出汁から作るラーメンや整形して油で揚げて作るドーナツづくりなどにも挑戦していました。何事にも前向きなムードメーカーでもあります。

ゆうたくんのマイプロはモリウミアスで飼っているマスコット豚「ラバー」の環境整備。これまで屋根がなかった飼育場に、モリウミアスに訪問する大人たちの手も借りて、ラバーの小屋が完成した(写真提供:モリウミアス)

東京から来た小学5年生のゆりさんは、東京で開かれたモリウミアスのイベントで漁村留学経験者の話を聞き、自分で「行きたい」と思ったことが参加のきっかけだったそうです。

 

小学校の卒業は地元の友達と迎えたいから、行くなら5年生の今だと考えたという話には、子どもなりの動機と決断があったことを感じました。

 

保護者にとっては急な決断だったそうですが、本人の意思がはっきりしていたからこそ始まった留学でもありました。途中ホームシックにかかったこともありましたが、誰かに決めてもらって来たのではなく、自分で選んでここに来たことは、この1年を支える大きな力だったのではないかと思います。

5月に写真家の蓮井幹雄さんにカメラを教わって以来、雄勝での出来事を写真に撮影するようになったゆりさんのマイプロは「カメラで雄勝を記録すること」。自分のような子どもからみた雄勝の魅力を紹介したいと取り組んだそう(写真提供:モリウミアス)

福岡から来た小学5年生のしゆうくんも、6年生は地元で迎えたいという思いから5年生での参加を選んだ一人です。

 

ご家族がモリウミアスの代表が取材された本のインタビューに惹かれたこともきっかけだったと聞きました。

 

しゆうくんにとっての印象的な出来事は「体調不良」。体調不良の隔離生活からホームシックになってしまい、しばらくは福岡に帰りたいと元気がありませんでしたが、徐々に調子を取り戻しました。釣りも魚の捌き方も覚え、中学生になったらまた留学したいと話すほどに。福岡から雄勝へ来る。その距離の大きさだけでも、家族にとっては決断だったはずです。そんななかで1年をやりきることは、本人にも家族にも大きな経験だっただろうと思います。

しゆうくんのマイプロは「お菓子づくり」。クッキーやかぼちゃプリン、ミルフィーユやティラミスを作った。作ったクッキーをチャリティイベント「恩送りマルシェ」で販売して収益を能登に寄付したり、スイーツをモリウミアスの新しい施設「モリウミアス マリン&フード」のイベントでふるまったりした(写真提供:モリウミアス)

そして、わが家の息子さつきです。自然や生き物、ものづくりが好きで、火や刃物を使う作業にも関心が強く、よっぽどモリウミアスでの暮らしが気に入ったのか、年間通して数回しか電話もかかってきませんでした。

 

彼が取り組んだマイプロは「釣りをした魚を魚拓にとること」。

 

大きな魚、珍しい魚を釣って、それをさらに魚拓にして残します。雄勝の海の豊かさなどを伝えたいと取り組みました。モリウミアスでは年間通して、カゴ漁や釣りに取り組みます。

 

地元の漁師さんに何回も船に乗せてもらって沖に出て釣りをさせてもらったり、漁を見学させてもらったり手伝ったりしました。元は「漁師になりたい」と言って漁村留学に飛び込んだ息子ですが、漁村でいろんな大人と会話をした今は漁師を含めていろんな仕事に関心を持っています。

釣れたのが60センチ台のヒラメ。何度か墨を塗り直し、ウロコやヒレなどが美しく写し取れるやり方を習得した。3月のお別れ会では「さつきの美術館」と称して、海岸などで拾った鳥の羽や流木、石などと共にヒラメとタチウオの魚拓を張り出して地元の方に見てもらった。(写真提供:モリウミアス)

 

2月、シカ猟をしたことも大きな経験だった。山に増え始めた鹿を罠でとってさばいて食べる、皮をなめすという行為は、生き物が食べ物になること、暮らしの中ではいつも命をいただいていることをまさに実感する体験だった。写真はワイン醸造スタッフが研究の一心で鹿を捌いているところ。キッチン担当のスタッフが赤ちゃんと一緒に見守っている。子どもたちも鹿を捌き、料理して食べた(写真提供:モリウミアス)

 

3月に地域の方を招いて開いた「お別れ会」。4人はそれぞれのマイプロを発表し、雄勝への感謝の気持ちを述べた。発表のあとはみんなで握ったおにぎりやゆうたくんが作ったラザニアなどを振る舞った

3月のある日、漁村留学の4人は地域の方を招いてお別れ会(解散式)を行いました。

 

1年間という区切りの中でつくられたこの暮らしは、そこでいったん終わります。でも、海と森の近くで、自分たちの手で暮らしをつくっていた日々と、正解がない中でみんなで考えて行動してきた経験や支えあう心は、これから続くこの不確実な世界で自らの人生をたくましく生きるための指標となり、支えになるのだと思います。

Information

モリウミアスについて

https://moriumius.jp/

モリウミアス漁村留学について

https://moriumius.jp/stayin/

 

モリウミアス マリン&フードが新規オープン

2025年10月、元雄勝中学校があった場所に「渚の交番 石巻 MORIUMIUS MARINE&FOOD」がオープンしました。ぶどう畑、ワイナリー、食品加工場に、カフェとショップが併設されており、気軽に訪れることができる施設です。

渚の交番 石巻 MORIUMIUS MARINE&FOOD

宮城県石巻市雄勝町雄勝字寺4-40

一般社団法人MORIUMIUS FARM

https://moriumiusfarm.jp/

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この記事を書いた人
船本由佳スタッフ/ライター
大阪出身の元TVアナウンサー。横浜市中区のコミュニティスペース「ライフデザインラボ」所長。2011年、同い年の夫と「私」をひらくをテーマに公開結婚式「OPEN WEDDING!!」で結婚後、自宅併設の空き地をひらく「みんなの空き地プロジェクト」開始。司会者・ワークショップデザイナー。
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